大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 021『巨木の森』

2024-05-22 11:27:58 | 自己紹介
勇者路歴程

021『巨木の森』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者



 おそらく神社めいたところだと思った。

 ヤガミヒメは日本有数の偉い神さまである大国主の最初の妻なのだから、彼女も神さまに違いない。神さまは神社に居るもので、神社とは森の中にあるものだ。

「ひょっとしたら、糺の森くらいあるかもしれません」

 ビクニも興奮気味に呟く。

 ここに来るまでに糺の森に似たところを抜けてきた(011『視界が開けると糺の森に似て』)ので想像してしまう。

「はい、おそらくはおっしゃる通りなのですが……」

 ちょっと奥歯に物が挟まったように言う白兎。

「まだ遠いのかい?」

 森ならば、遠くからでも見えるだろうが、ヤマガミヒメの森は草原の道の先に兆しも見えない。

「あ、ひょっとして結界とか張って外からは見えなくなっている?」

「あ、いえ、もうそろそろ……」

 白兎が言葉を濁すと、草原と青空の狭間に、最初は数本、進むにしたがって糺の森どころではない数と大きさの巨木の森が現れた!

 ウワアアア……( ゚Д゚)( ゚Д゚)

 ビクニと二人間抜けな歓声をあげてしまった。

 高校の英語で『アメリカの巨木』というのを習った。そこに出ていたジャイアントセコイアの森に似ている。
 高さは50メートル以上、人が一クラス分くらい手を繋いで、やっと取り囲めるくらいに太いのが雑草のように生い茂っている。たいていの木は根元が分かれて、トンネルになったり洞窟になったりしている。

 これだけの巨木の森なんだ、描画するだけでテラバイト級のポリゴンが必要だろう……いや、オープンワールドのゲームじゃないんだろうけど、そう思うと納得できてしまうほどにすごい。

「ご存知とは思うのですが、ヤマガミヒメは大国主さまとの間にお子様がおられました」

「あ……ああ、たしか正妻のイワナガヒメにいびられて出ていくときに置いていっちゃうんだ」

「はい、まだ赤ん坊だったお子を木の股に置いていかれたんです」

「うう……なんか要保護者遺棄です。せめて赤ちゃんポストに託すとか」

 ビクニは、この辺のところは知っているはずなのに、静岡あやねの姿をしているとブリッコになってしまう。

「はい、それで、お子は『キマタノカミ』とよばれるんですが、いずれは、また木の股から戻って来るとお考えになり、これだけの木を植えてお待ちになっているんです」

「それにしても大きすぎません? 多すぎだし」

「そうだねえ、大きい木の又は大魔神でも通れそうだよ」

「ヒメさまは愛しておられるのですよ、大国主命さまのこともキマタノカミさまのことも。それで、このことはヒメさまも気になさっておられますので、お触れにならないでくださいますようお願いいたします」

「そうか、わかりましたよ。ねえ、ビクニ」

「はい、心得ました」

「それでは」

 白兎に先導されて巨木の森を行く。

 巨木の中を抜けたり脇を通ったり……二分も歩くと、どこを通ってきたのか分からなくなってしまう。

「大丈夫です、所どころに標草(しるべぐさ)があります」

「しるべぐさ?」

「この草です」

 示してくれたのは、どの木の根方にも茂っている雑草で、とても道しるべになるとは思えない。

「あ、こんな感じです」

 兎が振り返って一歩後退すると、いま通ったばかりの木の標草が黄色い矢印型の花を咲かせる。木のトンネルの向こうにも花が咲いて、それをたどって戻ればいいようだ。

「もう少しです、先に進みます」

「うん」

 そうやって、森の中を10分あまり。

 少し小振りの木を潜ると、神社の本殿のような高床式の家の前に出た。

 

☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ
 
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)038・これから鑑識作業に入ります

2024-05-22 07:03:54 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
038・これから鑑識作業に入ります                      
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 去年の夏、プール更衣室に侵入者があって、補講中の女子の制服やら下着が盗まれる事件があった。


 しばらくセキュリテイーが厳しくなったが、三月もたつと、もとのユルユルに戻った惣堀高校。
 ユルユルでも、それ以降問題が起こらなかったのは、訪れる関係者や地域の人たちのモラルの高さがあったからだろう。

 そのモラルが一瞬で無くなってしまった。

 部室棟の解体修理のための物品整理で、演劇部の部室から運び出されたトランクに、ミイラ化した死体が入っていたのだ。
 それも昔の制服をまとった女生徒だというのだから、大騒ぎだ。
 スマホとSNSの時代なので、発見の二分後には写真や動画で流出してしまい、パトカーが到着した時には、野次馬やマスコミが流入してきた。

「だめだ、鍵がかかっている」

 警官がトランクを検分した時には鍵がかかってしまっていた。

「さっきは開いていたんですが」

 生活指導の先生がトランクを閉じた時に、はずみで鍵がかかってしまったのだ。

「鑑識が来るまで手はつけられないなあ」

 警官は規制線のテープを張り、先生たちは中庭にまで溢れた野次馬を校外に押し戻し始めた。

「しかし、この臭い、死体に間違いはないなあ」

 警官たちはハンカチで鼻を覆いながら所轄に連絡を入れている。

「演劇部の人たちに来てもらいました」

 美晴は、演劇部の四人を示した。

「発見者の話から聞くから、ここで待機してくれる」

 そう言うと、警官は藤棚の下で待機している発見者たちの方に足を向け、啓介たちはピリッと緊張する。

 ミリーは緊張している自分に驚いた。シカゴではよく警官が声を上げていたし、犯人と格闘したり逮捕したり、腰の拳銃を撃っているのさえ、日本で言えば交通整理やネズミ捕りに立っている警察を見かけるより多い頻度で見てきた。

 考えてみたら、日本に来て警察官が声を出しているところに出くわしたことが無い。自分の感覚が日本人化しているのが、ちょっと新鮮だった。

 やがて濃紺の鑑識車両が野次馬をかき分けて正門から入って来た。

「これから鑑識に入りますので、校舎の二階以上にいる人たちに退去してもらえませんか」

 近ごろの警察は鑑識作業を見せない。先生たちに指示すると、半分の鑑識さんたちはブルーシートを目隠し用に張りだした。

「えー、あんなに校舎の中に居てたんやねえ」

 ミリーが呑気そうに言うので、啓介は振り向き、須磨は車いすの千歳ごと向いた。

「あれ、薬局のおじさんじゃない?」

 校舎の出入り口から追い出される野次馬たちの中に懐かしい禿げ頭を発見した。

「他にも商店街が居るなあ」

「いつもはお行儀いいのにね」

「でも、みんなかわいい」

 たしかに、追い出される商店街の人たちは、いけないところに隠れていたかくれんぼうのように照れながら出てくる。

「あ、おじさんも気が付いたみたい」

 頭を掻きながら、薬局が小さく手を振った。


「では、これから鑑識作業に入ります」


 鑑識の主任が告げると、現場の空気がピリッと引き締まった。

 カチャリ

 ブルーシートの中で密かな音がした。トランクが開いたのだ。

 ウウッ(>.<")

 腐敗臭がマックスになってきた。

「これは……」

 鑑識主任の呟きが現場の緊張を一気に引き上げた。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局     
 

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