宇宙戦艦三笠
レベルマックスのワープが終わると後方に中国の航空母艦遼寧が感知できた。
こちらがワープ完了直後の静止状態なので、微速で三笠の後を追っている形になっている。
「遼寧に連絡――救助の必要有や否や?――」
副長の樟葉が、俺が言い終わる頃には連絡をし終えていた。ワープの間に見た夢のせいか、二人の呼吸はとても合ってきた。
遼寧は、元ロシアの航空母艦だったので、見かけはいかつく堂々としている。ブリッジを中心とする上部構造物は、クリンゴンかガミラスのそれを思わせるほどにマガマガしい対空、対艦兵器が各種のむき出しのレーダーと共に取り囲んでいて、いかにも頼もしい。艦首はバルバスバウ(球状艦首)とよくバランスの取れたジャンプ台式の滑走甲板。アメリカの空母に比べると小ぶりではあるが、見かけは立派な航空母艦だ。
それが、時速300キロという、宇宙船としては静止しているのに等しい鈍足で漂流している。
「修一、矛盾する返事が複数きたわよ」
樟葉が見せたタブレットには8通の返事があった。「本艦に異常無し、お気遣い無用」という木で鼻を括ったようなものから、「救援を乞う。本艦は操舵不能、漂流しつつあり」という悲壮なものまであった。
「放っておこうよ」
トシはニベもなかったが、美奈穂もクレアも、様子を見に行った方がいいという顔をしていた。
―― ただいまより貴艦に接舷する ――
そう返事をすると、これに反対する反応は返ってこなかった。
遼寧には樟葉とクレアが向かった。樟葉は口数は少ないが冷静な判断ができる。クレアの分析能力は三笠のマザーコンピューターの次に優秀だというミカさんの判断だ。
遼寧の艦内は荒れていた。
三笠と違ってクルーは多いようで、数百の人の気配がした。
「ようこそ、艦内をまとめている紅紀文です。艦内の序列では3位ですが、とりあえず艦長代理と思ってください」
「船は停止同然のようですが、機関に故障でもあったんですか(。í _ ì。)?」
クレアが、白々しい心配顔で聞いた。
アナライザーを兼ねているクレアには分かっていた。この遼寧はウクライナから、スクラップとして中国が買ったもので、エンジンさえ付いていなかった。
空母は、飛行機を発進させるため、30ノット以上の速度が必要で、元々は強力なガスタービンエンジンが4基ついていたが、スクラップと言うことで、エンジンは外されていたのだ。中国はやむなく商船用の蒸気タービンエンジン4基を付けたが、速度は20ノットしか出なかった。20ノットでは、対空、対艦兵器を満載した戦闘機を発艦させることができなかった。その他電子部品にも不備があり、日本製の民生品で間に合わせていて、まあ、実物大の航空母艦の模型に等しかった。
「もおおお、やって、らんないのよね(;`O´)!」
ウサ耳をブンブンさせて、バニーガールコスのロシア娘が割り込んできた。
「遼寧の船霊さまよ」
クレアが樟葉に耳打ちした。
「あ、ウレシコワ……!」
紅紀文が慌てた。
「ズドラーストヴィーチェ」
おざなりな挨拶だけすると、ウレシコワは紅紀文の横顔五センチまで顔を寄せて息巻いた。
「だいたいね、あたしは香港でカジノになる予定だったのよ! だからウクライナ出るころから覚悟決めて、こんなナリして頑張ろうと決心してきたのにぃ、今になって空母に戻るなんてありえないわよっ!」
「いや、だから艦内委員会にも諮って、今後のことは……」
「それに、よりにもよって、日本の三笠に救援頼むなんてどういう神経してんの!? ニェット! あたし、絶対やだからね!」
なるほど、日本海海戦でボロ負けしたロシアとしては、日本の救援は受けにくいだろう。まして、こちらは当時の連合艦隊旗艦の三笠だ。
船霊のウレシコワを挟んで、遼寧の代表者たちが集まって、もめはじめた。
ウレシコワは、特別に背が高いわけではないが、網タイツに5センチのヒールを履いて40センチはあろうかというウサ耳を付けている。数十人の幹部乗員に取り巻かれても、耳がピョンピョン動いて、コミカルに目立つ(^_^;)。
「ああ、これはまとまらないわねぇ……」
結局、盛大にため息をついただけで、樟葉とクレアはそのまま三笠に帰ってきた。
「あれ……でも遼寧、動き出してるぜ」
二人が三笠に帰ると、トシがメインスクリーンの遼寧を指さした。
「最低動けるようにはしてやれって、ミカさんのお願いでしたから」
クレアが、きまり悪そうに言った……。
☆ 主な登場人物
修一(東郷修一) 横須賀国際高校二年 艦長
樟葉(秋野樟葉) 横須賀国際高校二年 航海長
天音(山本天音) 横須賀国際高校二年 砲術長
トシ(秋山昭利) 横須賀国際高校一年 機関長
ミカさん(神さま) 戦艦三笠の船霊
メイドさんたち シロメ クロメ チャメ ミケメ
テキサスジェーン 戦艦テキサスの船霊
クレア ボイジャーが擬人化したもの
ウレシコワ 遼寧=ワリヤーグの船霊