大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

宇宙戦艦三笠19[空母遼寧の船霊ウレシコワ・1]

2023-01-11 18:23:28 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

19[空母遼寧の船霊ウレシコワ・1]   

 

 

 レベルマックスのワープが終わると後方に中国の航空母艦遼寧が感知できた。

 こちらがワープ完了直後の静止状態なので、微速で三笠の後を追っている形になっている。

「遼寧に連絡――救助の必要有や否や?――」

 副長の樟葉が、俺が言い終わる頃には連絡をし終えていた。ワープの間に見た夢のせいか、二人の呼吸はとても合ってきた。

 遼寧は、元ロシアの航空母艦だったので、見かけはいかつく堂々としている。ブリッジを中心とする上部構造物は、クリンゴンかガミラスのそれを思わせるほどにマガマガしい対空、対艦兵器が各種のむき出しのレーダーと共に取り囲んでいて、いかにも頼もしい。艦首はバルバスバウ(球状艦首)とよくバランスの取れたジャンプ台式の滑走甲板。アメリカの空母に比べると小ぶりではあるが、見かけは立派な航空母艦だ。

 それが、時速300キロという、宇宙船としては静止しているのに等しい鈍足で漂流している。

「修一、矛盾する返事が複数きたわよ」

 樟葉が見せたタブレットには8通の返事があった。「本艦に異常無し、お気遣い無用」という木で鼻を括ったようなものから、「救援を乞う。本艦は操舵不能、漂流しつつあり」という悲壮なものまであった。

「放っておこうよ」

 トシはニベもなかったが、美奈穂もクレアも、様子を見に行った方がいいという顔をしていた。

―― ただいまより貴艦に接舷する ――

 そう返事をすると、これに反対する反応は返ってこなかった。

 遼寧には樟葉とクレアが向かった。樟葉は口数は少ないが冷静な判断ができる。クレアの分析能力は三笠のマザーコンピューターの次に優秀だというミカさんの判断だ。


 遼寧の艦内は荒れていた。

 三笠と違ってクルーは多いようで、数百の人の気配がした。

「ようこそ、艦内をまとめている紅紀文です。艦内の序列では3位ですが、とりあえず艦長代理と思ってください」

「船は停止同然のようですが、機関に故障でもあったんですか(。í _ ì。)?」

 クレアが、白々しい心配顔で聞いた。

 アナライザーを兼ねているクレアには分かっていた。この遼寧はウクライナから、スクラップとして中国が買ったもので、エンジンさえ付いていなかった。

 空母は、飛行機を発進させるため、30ノット以上の速度が必要で、元々は強力なガスタービンエンジンが4基ついていたが、スクラップと言うことで、エンジンは外されていたのだ。中国はやむなく商船用の蒸気タービンエンジン4基を付けたが、速度は20ノットしか出なかった。20ノットでは、対空、対艦兵器を満載した戦闘機を発艦させることができなかった。その他電子部品にも不備があり、日本製の民生品で間に合わせていて、まあ、実物大の航空母艦の模型に等しかった。

「もおおお、やって、らんないのよね(;`O´)!」

 ウサ耳をブンブンさせて、バニーガールコスのロシア娘が割り込んできた。

「遼寧の船霊さまよ」

 クレアが樟葉に耳打ちした。

「あ、ウレシコワ……!」

 紅紀文が慌てた。

「ズドラーストヴィーチェ」

 おざなりな挨拶だけすると、ウレシコワは紅紀文の横顔五センチまで顔を寄せて息巻いた。

「だいたいね、あたしは香港でカジノになる予定だったのよ! だからウクライナ出るころから覚悟決めて、こんなナリして頑張ろうと決心してきたのにぃ、今になって空母に戻るなんてありえないわよっ!」

「いや、だから艦内委員会にも諮って、今後のことは……」

「それに、よりにもよって、日本の三笠に救援頼むなんてどういう神経してんの!? ニェット! あたし、絶対やだからね!」

 なるほど、日本海海戦でボロ負けしたロシアとしては、日本の救援は受けにくいだろう。まして、こちらは当時の連合艦隊旗艦の三笠だ。

 船霊のウレシコワを挟んで、遼寧の代表者たちが集まって、もめはじめた。

 ウレシコワは、特別に背が高いわけではないが、網タイツに5センチのヒールを履いて40センチはあろうかというウサ耳を付けている。数十人の幹部乗員に取り巻かれても、耳がピョンピョン動いて、コミカルに目立つ(^_^;)。

「ああ、これはまとまらないわねぇ……」


 結局、盛大にため息をついただけで、樟葉とクレアはそのまま三笠に帰ってきた。


「あれ……でも遼寧、動き出してるぜ」

 二人が三笠に帰ると、トシがメインスクリーンの遼寧を指さした。

「最低動けるようにはしてやれって、ミカさんのお願いでしたから」

 クレアが、きまり悪そうに言った……。


☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ  
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊

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巡(めぐり)型落ち魔法少女の通学日記・001『合格者説明会』

2023-01-11 12:51:29 | 小説

(めぐり) 型落ち魔法少女の通学日記

001『合格者説明会』   

 

 

 受験番号順に座った合格者に『合格者書類』とプリントされた紙袋が配られる。

 

 前に座っている子は117番の袋をもらった。

「ハイ」とだけ声が掛かって渡された袋はズシリと重く、119番の番号が打ってある。

 ……118番の子は落ちたんだ。

 張り出された合格者発表は自分の番号しか見てなかったから気づかなかった。

 落ちた子もいるんだ―― 気を引き締めなくちゃ ――と、十五歳の時司巡(ときつかさめぐり)は気を引き締める。

 

 フフ

 

 そんなわたしを横に座った若作りが笑う。

 若作りはお祖母ちゃん。

 今年で古希を迎えようかというお祖母ちゃんは、四年前まで魔法少女をやっていた。

 定年は六十歳で、その後は再任用で五年間勤めていた。

 何を隠そう、お祖母ちゃんは、この宮之森高校の卒業生。卒業して五十年以上も経つんだから知り合いがいるわけでもない。だけど、どう見ても三十前後にしか見えないくらいに若作り。

 若作りの理由は、学校への届け出は『母』になっているから。

 お母さんはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の職員でNASAに出向している。MSAT(Mars stay acclimatization training=火星順応滞在訓練)というので、四年間の疑似火星環境のドーム暮らしで、わたしが高校を卒業するまで出てこれない。

 それで、詮索されるのも面倒くさいので、自分が母親ということにしてしまった。いちおう魔法少女なんで、細胞レベルで化けているから、人目には本当に若く見えている。実際を知っているわたしは、ちょっと複雑。

 

 なにもお祖母ちゃんが出た学校だから受けたんじゃない。わたしに合ったレベルだったし、なにより、校舎と制服が気に入った。

 校舎の半分以上は昭和三十年に出来たもので三階までしかない。校舎の中にエレベーターとかは趣味じゃない。

 程よい規模というのがいいんだ。そのぶん、敷地は広めでゆったりしてるしね。

 家に例えたら、百坪くらいの敷地の平屋建て。SAOのキリト君の家みたいな、そんな感じ。

 

 創立以来の制服は、男子が普通の詰襟。女子は、昭和の雰囲気のツーピース。

 一見地味。紺の上着とスカート。

 上着を脱ぐと、一見ジャンパースカート。

 だけど、腰から上のパーツはボタン付で取り外しがきいて、外せば冬寄りの合服、ジャンスカだけになれば夏寄りの合服。スカートとブラウスだけにすれば夏服と無駄が無い。

 それに胸元。

 今どきのリボンじゃなくてボータイなんだ。スッキリしている。

 リボンというのは、通学服としては装飾過剰だと思う。それに、付属の紐はブラのストラップと同じだからね、無神経だと思うよ。

 そういう機能美とスッキリ感が好きなんだ。

 

 あらあ

 

 若作りが声を上げた、人より地声が大きいので、ちょっと恥ずかしい。

「どうしたの?」

 ちょっと咎めるような口調になる。

「今年度から、制服改定だって!」

「え!?」

 見せられたパンフには、新制服を着た男女がにこやかな笑顔で写っている。

 男子のは襟の角が丸くなったグレーの詰襟。

 女子はグレーのツーピース。上着の丈が短くなって、ボタンは横に二個。

 スカート右前の襞にMIYANOMORIのロゴが入って、オシャレのつもりなんだろうけど、趣味じゃない! 

 それに、胸元はアニメの学校かというくらいにデッカイリボンだよ!

 肩には大仰にパットが入っていて、シルエットが硬くて、グレーの生地と相まって、まるで歩く墓石!

 ボトムは、プリーツ、フレア、パンツと無駄に選択制だし!

 ハハ

 お祖母ちゃんは軽く笑って、孫のわき腹を小突く。

 

 ピーーーーン

 

 ハウリングの嫌な音が響いたかと思うと、演壇に無駄に髪の毛の豊かなオッサンが現れて「みなさん、合格おめでとうございます!」と白い歯をむき出して挨拶して、クソな笑顔で説明を始めた。

 

 こんな学校イヤだあ!!

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・81『桜幻想』

2023-01-11 07:55:45 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

81『桜幻想』 

 

 

「恋人……?」

「そんなんじゃないよ……でも、その子はね、死ぬときに――お母さん――と言って……でも、そう言いながら、僕のことも思ってくれたんだ。僕も同じころに死んだから。その思いは伝わったよ。生きてたころは……なにを言わせるんだよ、幽霊に!」

「ごめんなさい、立ち入ったこと聞いて(^_^;)」

「その子は、将門様のところへ行った。ほら、千代田区のビルの間にあるだろ」

「ああ、将門の首塚。小学校のとき社会見学で、ついでに寄ったわ」

「ハハ、将門様がついでかぁ」

「ごめんなさい」

「いいよいいよ、世の中が平和な証拠だ。将門様はね、そういう霊たちを集めて面倒を見てくださるんだ」

「その子は、まだ将門さんのところに?」

「ううん、十年ちょっと前にね、僕とまどか君みたいに相性のいい女の子と出会ってね、その子がとっても心根のいい子だから、やっと元の姿を取り戻して……去年の暮れにやっと往ったよ」

「いく……?」

「あの世って言ったら分かるかな。往復の往と書く……で、往く前に挨拶に来てくれたんだ。七十何年かぶりの再会だった……」

 ひとしきり、桜の花びらが風に舞った。

 乃木坂さんがため息をついた……すると、乃木坂さんの後ろに、セーラー服にお下げの女の子の姿が浮かんだ。モンペに防災ずきんみたいなのぶらさげて、胸に大きな名札みたいなの縫いつけて、穏やかに乃木坂さんを見下ろしている。わたしの視線に気がついて、乃木坂さんが振り返った。

「あ…………」

 乃木坂さんが棒立ちになった。女の子が寄り添って、潤んで、熱い眼差しになった!

「抱きしめてあげなさいよ。抱きしめて! 乃木坂さん! わたしに遠慮することなんかいらないんだからさ! こんな時にフライングしなきゃ男じゃないわよ!」

 乃木坂さんは切なそうに見つめるだけ……その子は、その間、しだいに影が薄くなっていく……

 あ、と思った。

 その子は急に桜の花びらの固まりになって、次の瞬間、花吹雪になり、粉みじんになって飛んでいってしまい、その花びらさえも雪が溶けるように消えていってしまった。

 でも、確かに人だった。温もりと、乃木坂さんを思う気持ちで溢れていた。

「せめて、せめて……名前ぐらい呼んであげればよかったのに!」

「あれは……あれは、桜が作った幻だよ。幻に……」

「想いがあってのことじゃないの……!」

 ブン

 わたしの平手打ちは虚しく空を切り、勢い余って転んでしまった。

「意気地なし……あんなの、あんなのって無いよ……」

 泣いているわたしを、乃木坂さんが抱き起こしてくれた。

「わたしのことは触(さわ)れんの……?」

「焼き芋だって受け止められるただろ」

「わたしって、焼き芋並なの!?」

「その気にならなきゃ、なにも触れないけどね」

 椅子の背もたれを掴んだその手は、背もたれを突き抜けてしまった。まるでCGのバグだ。

「ほらね……でも、平手打ちしてくれてありがとう」

「ご、ごめんなさい。つ、ついね……」

「ううん、ああいう人間的な思いが僕たちの救いなんだよ。お礼を言うのは僕の方さ。あの……あの、もう少し、君達の側に居てもいいかなあ。今日こうやって君を呼んだのは、そのためなんだ。君の前で姿を隠しておくのが、だんだん難しくなってきて。でも、なんの前触れもなく現れたらびっくりするだろう」

「うん、びっくりする!」

「だよね」

「でも。里沙とか夏鈴とかには秘密にしとくから」

「じゃ、いいのかい!?」

「うん、三人じゃ寂しかったから。そうだ、見ていて気になることとか言ってくれる。演出とかいないから」

「任しとけ、これでも生きてる頃は演劇部……しまった」

「卒業者名簿見て、正体あばいちゃおうかな」

「そりゃ無理だよ。卒業前に死んじゃったから。それに学籍簿も空襲で焼けちゃってるしね」

「残念……あ!」

 わたしの中で、なにかが閃いた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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