大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・141『漢明艦隊現る!』

2023-01-17 14:44:14 | 小説4

・141

『漢明艦隊現る!』お岩  

 

 

 氷室神社の前を過ぎると男どものざわめきが聞こえた。

 

 潮騒に紛れて言葉まではわからないが、空気は剣呑だ。

「ちょっと、通しとくれ!」

 隙間を縫って前に出る、出たつもりなんだけど、力余って押しのけちまったんだろう、文句やら悲鳴が上がる。

 うわ! グホ! てめえ! なにすんだ! ウギャ! ノワア!

 拳をあげる奴もいるけど、食堂のお岩だと気づくと、たいていの奴は口をつぐむ。新参者二人ほど無意識に蹴倒して「グホッ!」「ゲボ!」とカエルみたいな声をあげて視界から消える。

――ごめん――と心で謝って、前に出る。

 

 ウワアアア!

 

 男以上の声が出てしまった。

 南の海上には、三十隻を超える漢明の艦隊が溢れていた。

 戦艦・3 空母・2 巡洋艦・4 強襲揚陸艦・2 他に駆逐艦、輸送艦、病院船や工作艦まで出張っていやがる。

「まるでノルマンディーの撮影だよ、お岩さん」

 氷室社長が穏やかに言う。

「あはは、ノ、ノルマンディーは大げさでしょ(^_^;)」

 新参者が声を震わせる。

 社長は「撮影みたい」と言ったんだ。

 冷静な人だ、お見通しなんだ。数だけは島を攻略するに十分な規模だけど、闘気が感じられない。

 まるで、監督の「よーい! スタート!」の掛け声を待っているエキストラ艦隊だ。

「微妙に領海外だし、哨戒機を飛ばす様子もないみたいだ」

「そうだろうね、二十世紀じゃないんだから、その気になれば三十分もあれば漢明から師団規模の部隊を送れるだろうしね」

「まあ、まだまだ興奮した島民や観光客の人たちが押し寄せてくるだろうね。興奮すればお腹も減る。食堂は大賑わいになると思うよ」

「そうだね、ハナ、今日は巫女服にタスキ掛けで頑張っとくれよ!」

「ラジャー!」

 元気に返事して、早手回しにタスキを掛けるハナ。でも、その場を動こうとはせずに、腕組みして漢明艦隊を睨み据える。やっぱり、目に見える脅威は侮れない。

「ハナ、さっさとやりな!」

「イエス、マム('◇')ゞ!」

 やっと行った。

「あの艦隊はともかく、この二三日で漢明は仕掛けてくるだろう、腹積もりはあるのかい、社長?」

「ロボットのみなさんに、並列化を解いてもらうよう指示したよ」

「オフラインで戦わせるのかい?」

 ロボットたちの優れている点は、ラインで並列化されていることだ。一個体が獲得したスキルや情報は、同時に同じネットで繋がれているロボットたちと共有される。

 23世紀の今日、ロボットのPCやサーバーにはアンチウィルス機能が搭載されていて、たいていのウィルスやフェイクはろ過されるかワクチンが反射的に作られて無効化される。しかし、所詮はテクノロジー、万一ということがある。

「洛陽号の爆発直後から東西(東=ナバホ村 西=フートン)とも話を付けてあるよ。及川市長には政府との連絡と折衝を任せて、挙島体制にはしてあるしね」

 性格でもあるんだろうけど、社長は名言やら押し付けた物言いをしない。平時ならともかく、緊急時には……と思わないでは無いけど、あの落盤事故(078『落盤事故』)も原則を崩さずに乗り越えてきた。不安や不満を口にすべきじゃないさ。

 背後で人垣が開く気配。

 振り向くと村長のマヌエリトと周温雷主席がやって来るところだ。

「同志、漢明の様子は?」

「ああ、状況はね……」

 社長が丁寧に話を繰り返す、時間はかかるが、これが島の東西南の結束に繋がっている。

 気短なわたしはイラつかないこともないんだが、辛抱辛抱。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

  

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・87『我らが助教大空真央』

2023-01-17 06:14:07 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

87『我らが助教大空真央』 

 

 

 突き当たりの部屋は、稽古場にしている談話室ぐらいの大きさがあって、なんだか健康診断の時のように机と椅子が並んでいた……実際、血圧と問診の健康診断。それから、制服が配られた。大空さんは一瞬でわたし達の体格を見極め、ピッタリのを渡してくれた。

「では、これから誓約書に署名捺印をしてもらいます。未成年の人は保護者の承諾書を提出してください」

 中隊長さんが言った……え……マリ先生が承諾書を出してる!

 夏鈴が吹きだしかけて、中隊長さんに睨まれた。

「では、それぞれの部屋に戻って、着替え。十五分後に先ほどの営庭に集合。かかれ!」

 で、着替えて入り口のところに行くと。わたし達のはあったけど、企業グループさん達の靴が一つもない。一瞬先を越されたかと思ったら、少し遅れてやってきた企業グル-プさんが慌てていた。

「おれ達の靴がない!」

 さっさと外へ出たわたし達は笑っちゃった。企業グループさん達の靴がみんな外に放り出されていた。一瞬乃木坂さんのイタズラかと思ったら、乃木坂さん、笑ってチガウチガウをしている。

「最初のハッタリ。ちゃんと脱いでいないやつをああしておいて娑婆っ気を抜く」

 そう言った西田さんの服装は、前のまま。

「助教のやつがサイズを間違えやがった。どうせ、体験者用の六五式。同じやつだからね、これで助教に貸し一つ」

「あの、マリ先生、承諾書出してましたけど……」

「ここじゃ、十七歳ってことになってんだ、君たちもそのつもりでね。それから歩きながら喋れるのは、この先の営庭までだからね」

 西田さんは、ウィンクすると、駆け足で行っちゃった。

 営庭に出ると、西田さんが中隊長さんと話しをしていた。敬礼を交わして別れたけど、ここから見ると西田さんのほうが偉く見えてしまう。


「西田さんのトラックが珍しいんで、夕方まで見せて欲しいんだって。で、西田さんが、分解しないことを条件に承諾したとこ」

 乃木坂さんが教えてくれた。西田さんが得意そうに鼻の下をこすった。

「やだー、マリのこの靴マメができそう」

 後ろで、マリ先生がブリッコをしておりました……(^_^;)。

 それから、基本動作の訓練に入った。

 基本動作って、ほんと基本。気をつけ! 休め! 右向け右! 左向け左! 敬礼!


 敬礼ってば、こんなことがあった。


「教官。貴官の敬礼は二度浅いように思われる。正対して親指が見えてはいかんと礼式にあったと思うのですが。それとも昭和三十九年に定められた自衛隊礼式に変更でもありましたかな……いや、除隊して三十余年、この世界にも疎くなりましたからな」

 と、西田のおじさんは……またもカマシました。
 
 それから、行進の練習。自衛隊では歩くとき、必ず一列。左足から出て、手はグーにして、真っ直ぐに伸ばして肩の高さまで上げる。

 かけ声は、一、二、一、二、ソーレッ! でね、一は「オッチ」って発音する。

「前に進め! オッチ、ニ、オッチ、ニ!」

 でもね、我らが助教大空真央さんのは、こう聞こえる。

「エッチネ、エッチネ!」

 思わず笑いそうになったけど、こういう場合でも自衛隊は笑ってはいけないのであります……はい。

 それから行進練習と駆け足練習をやって、昼休み。

 カツ丼におみそ汁。カツ丼は普通のお店の特盛りにワラジみたいなトンカツ。

 食事は、大きな食堂に分隊ごとに集まる。うちは大空助教が話しの中心になった。

「こんな言い方、なんですけど、大空さんはなんで自衛隊に志願したんですか?」

「そうですよ、こんなにカワイイのに」

 里沙と夏鈴が遠慮の無い質問をした……他の女性隊員がいたら怒られそうだ(汗)

「わたしの家は、おじいちゃんの代から自衛隊だったから、自然にね」

 特盛りのカツ丼をペロリと平らげて、大空さんが答えた。


「大空さん。あんた、ひょっとしてカラーガードじゃないかい?」

「あ、はい。分かりました……?」

「うん。動きがキビキビしているだけじゃなくて、イカシテおる。あれは儀仗隊かカラーガードだど思った」

「さすが、大先輩。二年前からカラーガードをやってます。よかったら今夜記録のDVDお見せしましょうか」

 カラーガードって……?

「ぜひ、お願いします。われわれが現役だったころは、まだ無かったもんでね。一度見たいと思っておりました」

「西田さんは、どうして、除隊されたんですか。自己紹介の時、八年の勤務で曹長までなられたと伺いましたが?」

「いや……演習中に、米軍機を撃墜してしまいましてね」

「「「「え……(;゜Д゜)!?」」」」

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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