大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・004『橋を渡る』

2023-01-25 16:03:28 | 小説

(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記

004『橋を渡る』   

 

 

 一歩踏み込むと、周囲の景色が無くなって、今渡っている戻り橋と、左右に伸びている寿川の流れが見えるだけだ。

 VRゲームのチュートリアルみたい。R3のスティックを押し込むと、リングが現れて、そこにジャンプできるみたいな。

 でも、リングは現れないし、手にリモコン持ってるわけじゃないので、そのまま歩く。

 ゴーーーーーー

 すごい勢いで川が流れる。ちょっとビビる。

 全力で放流してるダムの、その真ん前を歩いてるみたいだ。

 それに、川の流れが逆だ。川下から川上に流れている…………そうか、これは時間が逆廻しになってるってエフェクトなんだ。

 エフェクトならビビることはない。

 渡り切ると橋は消えて、コンクリのところにGのしるしがあるのを確認して、川沿いを南に進む。

 

 道は令和のころと大きな違いはない。

 歩道の幅が狭くて黄色のブロックが無い。

 交差点に来ると、信号機がイカツイ。白地に緑の縞模様、でもって赤青黄の信号が暗い。信号と言うよりは、お化け屋敷のランプみたく毒々しい。

 ゲ!

 青に変わって踏み出したら、ガクンと体が沈み込んでカエルみたいな声が出てしまう。

 なんで、段差が!?

 交差点の歩道って、車道との段差なんか無いものでしょ! 段差なんかあったら、自転車とか車いすとか通れないじゃん!

 だれか笑った。

 わたしと同じ制服の生徒が、二人連れで笑いをこらえながら追い越していく。

 そうか、中学の制服は変わってないんだ。少しホッとする。

 コンビニが無かったり、ソフトバンクが見当たらなかったりするんだけど、街の様子は、そんなに変わっていない。

 っていうか、自分が利用する店とか以外は変わってても分からないのかもしれないけどね。

 

 駅が…………変わってるぅ……っていうか高架じゃないんですけど。

 

 いつもなら、エスカレーターで改札のフロアーまで上がるんだけど、入ってすぐのところが広くて、古い券売機が並んでて、なぜか黒板がある。

『伝言板』と書いてあって、反対側の端っこには『六時間経ったものは消します』とある。

―― 先に行く K ―― 

―― 明日も待ってる めぐみ ――

―― 喫茶ルイで10時まで待ってる T ――

―― 晩ご飯買って来て 裕子、母 ――

 リアル伝言板、興味深い。あ、読んでる場合じゃない。

 切符を買う。

 スイカで行ければいいんだけど、さすがに1970年では使えない。

 

 え、30円!

 

 ちょっと得した気分、さっきお祖母ちゃんと行った時は150円だった。それが、たったの30円!

 さっそく財布を開ける(例のガマグチ)。

 おお!

 ちゃんと昔のお金になってる。千円札はヒゲのオッサン。

 青くて顔色の悪いお札は五百円。五百円のくせにお札とは生意気な! で、この人相の悪いオヤジは岩倉……具視(グシ)?

 コインは令和と同じだから、ちょっと安心。

 チャリンチャリンチャリン。十円玉三つ投入。

 ンガーー!

 なんだ、この音!?

 微妙に遅い、でも出てきた。

 あ!?

 なんちゅうこと! インクが手に付くんですけど!

 見ると、後から買った女の人は、器用に切符の端を指で挟んで持ってった。

 ひょっとして、券売機の中で印刷してんの? ありえないんですけど!

 ティッシュで拭くのもムカつくので、切符の裏にこすりつける。

 あれ? 切符の裏が真っ白。ふつう、黒とかこげ茶色じゃない? なんか、こすり付けたインクが目立つし。

 

 カチャカチャ カチャカチャ

 

 改札に向かうと、制帽を目深にかぶった駅員のニイチャン、鋏をチャカチャカいわせて機嫌悪そう。

 切符でインク拭いたの見てたのかなあ……。

 プイ

 目にもとまらぬ早業で切符をふんだくると―― オレ見てたからなぁ ――的な不機嫌さで切り込み入れて、呆気に取られて閉じたままの指の隙間に切符を滑り込ませる。

 で、無言だよ。

 ふつう、この距離でお客さんに接したら「ありがとうございます」の一言ぐらいあるよね。せめて「はい」ぐらい言ってよね。

 

 プリプリしてホームに上がると、やっぱり黄色の点字ブロックは無い。で、ホームゲートも無い!

 乗客のみなさんは、ホームの際際のところに立って、怖くないんだろうか(^_^;)

 電車がやって来て着メロが無いのは、微妙に違和感。まあ、駅員さんが元気にホイッスル。すぐそばだったので、ちょっと耳に響く。

 電車は、令和とそんなに変わらない。シートが地味かなあと思ったぐらい。

『発車しま~す、ドア付近のお客さまはお気をつけくださ~い』

 車掌さんが生声で言ってくれるのは好感。

 でも、車掌さんて、なんで、女っぽい喋り方するんだろう。

 ガックン!

 のわ!

 いきなりONになりました的に発車して、こけそうになる。

 そのあとも、増速するたびにガクンガクン。

 ちょっと、ひどくない、この運転!?

 たった二駅だけど、新鮮な発見やら驚きやらあって、五分後には無事に宮之森駅に着いた。

 

 

☆彡 主な登場人物

  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

 

 

 

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せやさかい・383『exactly(イグザクトリー)』

2023-01-25 10:07:50 | ノベル

・383

『exactly(イグザクトリー)』頼子    

 

 

 殿下、よいのですか?

 

 わたしと同じ制服のソフィーが、トーストに塗ろうとしたバターナイフの手を停めた。

 睨めっこしていたスマホをなにも操作することなく食卓に置いたからだ。

 ソフィーに隠し立ては出来ない。スマホを置くというささいな動作で、全てを知られてしまう。

「知ってしまったら、ただでは済まないでしょ、あの子たち」

 ガリ

 少々焦がし過ぎのトーストが、ちょっと大げさな音をさせる。

 クフフ

 そんなささいなことで、笑えそうになるのは、自分の中に、まだ中学以来の少女が棲んでいるからだろう。

 ガサツなさくらなら、パンくずを噴き出して爆笑していたかもしれない。

 それが、同じ制服着たソフィーはニコリともしないで、中断したバター塗りを再開する。

「今日の試験科目はなんですか?」

 了解したようで話題を変えてくる。

「数三と現文」

「抜かりはないですね?」

「もちろん、最後のテストだからね」

「exactly(イグザクトリー)」

 ウ、英語で返してきやがった。

 

 それからは、主従ともに、静かに朝食をいただく。

 

 今日から定期考査が始まる。

 大学に進む予定は無いから、おそらく人生最後の定期考査。

 そして、この学年末テストが終わったら、その足で日本を離れる。

 できれば、卒業式までは日本に居たかった。

 でも、新米王女のささやかなセンチメンタルを許さないほどにヨーロッパは揺れているんだ。

 むろん、原因は、あの諜報部あがりのオッサンが始めた戦争。

 ヤマセンブルグが公に戦争に加わっているわけじゃないけど、戦争のお蔭で電気やガスがめちゃくちゃ値上がり。

 ウクライナからの避難民やロシアからの亡命者。他のEUの国々と比べたら大した人数では無いけど、人口比率で言えばイギリスと同じくらいは引き受けているだろうね。僅かだけども志願してかの地に行った人たちに戦死者も出ている。そういう諸々の不安は国民にも影響を及ぼしている。

 それに、エリザベス女王が亡くなってからは、お祖母ちゃん、微妙に鬱状態。

 国と言うのは、日本人が思うほど強固なものじゃない。あの大英帝国でさえ、北アイルランドやスコットランドの分裂という火種を抱えているんだ。

 去年、日本国籍を捨てて正式な王女になった。

 三日間、国中がお祭り騒ぎして喜んでくれた。でも、日本にいちゃあダメなんだ。国に戻って同じ空気を吸っていないと王女としての務めが果たせない。

 さくら達に言ったら、きっと大騒ぎになる。

 如来寺とかで、ぜったいお別れの会とか壮行会とかやるに決まってる。

 そんなのに出ちゃったら、平静でいられるわけないよ。

 そんなアンビバレンツ分かってるから、ソフィーは一瞬だけバターナイフの手を停めたんだ。

 よくできたガードだよ。きっと、妹のソニー共々わたしの股肱の臣てのになるんだろうね。

 

「殿下、そろそろ車を出します」

 

 いつの間にか、ジョン・スミスがやってきて宣言する。

「え、もう?」

「はい、雪は降りませんでしたが、ちょっと交通渋滞しかけています」

「そうなの?」

 目が覚めたら、予報に反してお天気だったし大丈夫だと思っていた。

「他府県からの出入りがありますからね、大阪で雪が降らなくても影響は出ます」

「あ、そうね。わたしが迂闊でした。三分で食べるわ」

「いいえ、八分なら大丈夫です」

「いざとなったらヘリを飛ばします」

「ヘリコプター!?」

 方頬で笑って、懐から出したのはヘリコプターとかの操縦免許!

「バイク通学は禁止ですが、ヘリは禁止されていません」

「アハハハ……」

「冗談です。早く食べましょう」

「う、うん」

 

 そのあと、急いで玄関のアプローチにいくと、係りの人たちが小型ヘリをガレージに仕舞うところだった。

  

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・95『思い切りブットイ注射をされた』

2023-01-25 06:38:26 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

95『思い切りブットイ注射をされた』 

 

 


 学校に欠席連絡を入れた。

 ひいじいちゃんの忌引きで休んで以来。

 あ、それと例のインフルエンザ。
 

 コンクールの明くる日だって、乃木坂をダッシュして間に合ったんだ。


 とりあえず、十一時ぐらいまで横になった。ようやく起きあがれるようになったので、薮医院に行った。いつもなら歩いても十分とかからないんだけど、二十分近くかかってしまった。

「さっき、忠友が来たとこだぜ」

「え、忠クンも……?」

「ああ、とりあえず点滴してやったら、少しは元気になって帰っていったけど、学校は休めと言っておいた」

「忠クンも、わたしみたいに……?」

「見かけはな。しかし、あれは精神的なもんだ。体験入隊で自分の想いと現実のギャップを思い知ったんだろうなあ……それに、不寝番やらされて何かあったみたいだな」

「あ……」

「まどか、なにか知ってんのか。忠の野郎、何も言いやがらねえ」

「あのぅ……」

「ん?」

「えと……」

「じれってえなあ、今時のガキは!」

「イテ……!」

 思い切りブットイ注射をされた(>_<;)。

 まさか、それに自白剤が入っていたわけではないだろうけど、気持ちが軽くなってきた。

 ガキンチョのころから、ここに来ると注射が仕上げで、それが終わると気が楽になり、たいていの病気は吹っ飛んでしまった。まあ、条件反射かもね。

「……なるほどな、乃木坂君てのから、そんな話しを聞かされたんだ」

「先生、素直に信じちゃうんですか?」

「ああ、昔はあったもんだよ。親父が体壊して、しばらく船を下りてるうちに、ミッドウェーで船が撃沈されっちまってさ。その晩、親父がここで何人かと話していたよ。むろん俺には親父の声しか聞こえなかったけどな……三月十日の大空襲もひどかったぁ。十万人が焼け死んじゃったけど、ほとんどは身元も分からないまま戦没者の霊で一括りさ。そりゃあ思いを残して残ってるやつも大勢いるだろうさ。幸か不幸か、俺は、そんなのが見えねえ体質なんだけどよ。信じるよ、そういうことは」

「先生はさ、その空襲の時はどうしていたんですか?」

「さあ……ただ逃げ回っていたことしか覚えてねえなぁ……人間てのはな、めっぽう怖ろしい目に遭っちまうと記憶がとんじまうものなんだ、そうしねえと神経がもたねえからな。で、いろいろ逃げ回って、てめえの家は焼け残っちまうんだもんな。皮肉なもんさ……そうだ、これを預かってくれねえか」

 先生はレントゲン写真を入れる黒い袋から表装された一枚の写真を取りだした。写真には早咲きの梅を前と後ろにして一人の女学生が写っていた。

「駅前で写真屋をやってた進ちゃんて同級生と逃げ回ってよ。そいつが最後まで後生大事にもってた写真なんだ。いっしょに手紙が入ってたんだけど、無くなっちまって、その写真の主がなあ……胸の名札がちょうど梅の花と重なって苗字の三水偏きゃ分かんねえ。制服は第十二高女ってことは分かるんだけどな。まあ、なんとかは藁をも掴むってことで、一度その乃木坂君に見てもらえないかい」

 先生は、もう休診にしてしまった。

 わたしのシンドサが伝ってしまったようだ。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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