大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・乃木坂学院高校演劇部物語・81『桜幻想』

2023-01-11 07:55:45 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

81『桜幻想』 

 

 

「恋人……?」

「そんなんじゃないよ……でも、その子はね、死ぬときに――お母さん――と言って……でも、そう言いながら、僕のことも思ってくれたんだ。僕も同じころに死んだから。その思いは伝わったよ。生きてたころは……なにを言わせるんだよ、幽霊に!」

「ごめんなさい、立ち入ったこと聞いて(^_^;)」

「その子は、将門様のところへ行った。ほら、千代田区のビルの間にあるだろ」

「ああ、将門の首塚。小学校のとき社会見学で、ついでに寄ったわ」

「ハハ、将門様がついでかぁ」

「ごめんなさい」

「いいよいいよ、世の中が平和な証拠だ。将門様はね、そういう霊たちを集めて面倒を見てくださるんだ」

「その子は、まだ将門さんのところに?」

「ううん、十年ちょっと前にね、僕とまどか君みたいに相性のいい女の子と出会ってね、その子がとっても心根のいい子だから、やっと元の姿を取り戻して……去年の暮れにやっと往ったよ」

「いく……?」

「あの世って言ったら分かるかな。往復の往と書く……で、往く前に挨拶に来てくれたんだ。七十何年かぶりの再会だった……」

 ひとしきり、桜の花びらが風に舞った。

 乃木坂さんがため息をついた……すると、乃木坂さんの後ろに、セーラー服にお下げの女の子の姿が浮かんだ。モンペに防災ずきんみたいなのぶらさげて、胸に大きな名札みたいなの縫いつけて、穏やかに乃木坂さんを見下ろしている。わたしの視線に気がついて、乃木坂さんが振り返った。

「あ…………」

 乃木坂さんが棒立ちになった。女の子が寄り添って、潤んで、熱い眼差しになった!

「抱きしめてあげなさいよ。抱きしめて! 乃木坂さん! わたしに遠慮することなんかいらないんだからさ! こんな時にフライングしなきゃ男じゃないわよ!」

 乃木坂さんは切なそうに見つめるだけ……その子は、その間、しだいに影が薄くなっていく……

 あ、と思った。

 その子は急に桜の花びらの固まりになって、次の瞬間、花吹雪になり、粉みじんになって飛んでいってしまい、その花びらさえも雪が溶けるように消えていってしまった。

 でも、確かに人だった。温もりと、乃木坂さんを思う気持ちで溢れていた。

「せめて、せめて……名前ぐらい呼んであげればよかったのに!」

「あれは……あれは、桜が作った幻だよ。幻に……」

「想いがあってのことじゃないの……!」

 ブン

 わたしの平手打ちは虚しく空を切り、勢い余って転んでしまった。

「意気地なし……あんなの、あんなのって無いよ……」

 泣いているわたしを、乃木坂さんが抱き起こしてくれた。

「わたしのことは触(さわ)れんの……?」

「焼き芋だって受け止められるただろ」

「わたしって、焼き芋並なの!?」

「その気にならなきゃ、なにも触れないけどね」

 椅子の背もたれを掴んだその手は、背もたれを突き抜けてしまった。まるでCGのバグだ。

「ほらね……でも、平手打ちしてくれてありがとう」

「ご、ごめんなさい。つ、ついね……」

「ううん、ああいう人間的な思いが僕たちの救いなんだよ。お礼を言うのは僕の方さ。あの……あの、もう少し、君達の側に居てもいいかなあ。今日こうやって君を呼んだのは、そのためなんだ。君の前で姿を隠しておくのが、だんだん難しくなってきて。でも、なんの前触れもなく現れたらびっくりするだろう」

「うん、びっくりする!」

「だよね」

「でも。里沙とか夏鈴とかには秘密にしとくから」

「じゃ、いいのかい!?」

「うん、三人じゃ寂しかったから。そうだ、見ていて気になることとか言ってくれる。演出とかいないから」

「任しとけ、これでも生きてる頃は演劇部……しまった」

「卒業者名簿見て、正体あばいちゃおうかな」

「そりゃ無理だよ。卒業前に死んじゃったから。それに学籍簿も空襲で焼けちゃってるしね」

「残念……あ!」

 わたしの中で、なにかが閃いた。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母

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