大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

せやさかい・384『あ、あれ……涙が溢れてきた』

2023-01-26 11:59:08 | ノベル

・384

『あ、あれ……涙が溢れてきた』頼子    

 

 

 もし、ヤマセンブルグの王位継承者になんか生まれなかったら。

 

 寒さが続くせいか、ジッとしていると、そんなことを考えてしまう。

 英語のテスト、十分で終わって五分で見直して、三十五分も余ってしまった。

 答案用紙を裏がえし、神妙にしていると、つい考えてしまう。

 最初は危うく思い出し笑いをしてしまうところだった。

 思い出したのは、さくらが送ってきた写真。

 

 春アニメのモデルに東京の江戸川アニメに呼ばれたさくら。

 宗武監督の春アニメ『犬が西向きゃ尾は東』の主人公がさくらのイメージにぴったりだから、真鈴が引っ張って行って見本にされた。

 画鋲を買いにいかされ「押しピンください」と大阪弁をかます。さくらは不器用な子で標準語では会話できないし、できないことを屁とも思っていない。そういうところが良いらしい。

「押しピン」を「虫ピン」と聞き違えた店主とのトンチンカンなやりとり。その隠し撮りしたのを、スタッフや声優の花園あやめで研究。半日おしゃべりしたのと合わせて、監督のイメージが固まって、キャラの設定変更。

 そのキャラ設定の絵が送られてきて、めちゃくちゃ面白い。

 つくづく宗武監督はすごいと思う。

 監督は、去年の春アニメ一番人気だった『恋するマネキン』も手掛けていた。

 何を隠そう、最終回に出てくる女神ノルンの声は、わたしがやっている。百武真鈴に熱烈に誘われたせいなんだけど、めちゃくちゃ楽しかった。真鈴は声優だけじゃなくてプロデューサーの才能があるのかもしれない。

 その百武真鈴が、新作『犬が西向きゃ尾は東』の企画を聞いて、こんな女の子としてさくらのイメージを語った。

 アンテナのいい宗武監督は、その線で絵コンテを書き進めたけど、やっぱり掴み切れないので実物を呼んだんだ。

 それが、とても生き生きしていて、一部のエピソードや演出はさくらのイメージに合わせて書き直されたと真鈴の話。

「どうよ、やってみたくなったぁ?」

 意地悪そうな目で真鈴は粉を振る。

 予感はする。

 真鈴とさくらといっしょに声優ができたら、人生楽しいだろうなあと、背中に電気が走るみたいに心が疼くよ。

 だから―― 日本一の三枚目! ――とかのメールを打ちたかった。

 でも、そのメール送ったら、あの愛すべきバカは、必ず返事を寄こす。

 返事が来たら、それに返事を書いて、また返事が返って来て、ついには如来寺にまで行ってしまう。

 如来寺のみなさんは、みんな暖かいから、つい長居をしてしまう。あの元文芸部の部室は居心地が良すぎる。

 試験が終わったら、その日のうちのヤマセンブルグに飛ばなきゃならない。

 だから、メールは送らなかった。

 楽しかったよ、さくらたちとの四年間。

 

 あ、あれ……涙が溢れてきた。

 

 ちょ、ヤバイよ。

 試験中、ハンカチ出すのも躊躇われる。

 仕方がないので、眠いふりして右の人差し指で涙を拭う。

 拭ったことが――泣いてるんだ――という気持ちを増幅してしまって、ますます涙があふれてくる。

 もう、制服の袖で拭う。

 ヤバイ、ソフィーがこっち見てる。監督の先生も見てる。

 仕方ないので、うつ伏せて寝たふりした。

 ウ、ウ、ウ……

 だめだ、なんだかこみ上げてきて嗚咽してしまいそう。

「先生、頼子さんを保健室に連れて行きます」

 ゲ、ソフィーのやつ!

 

 保健室どころか、そのまま帰ることになって、領事館に着いたら東京の大使館から専門のドクターまで来ていたよ。

 

 ☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
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銀河太平記・143『人事を尽くして……』

2023-01-26 09:27:00 | 小説4

・143

『人事を尽くして……』お岩  

 

 

 一度ならず二度までも!

 

 漢明は洛陽号を自爆させて西之島のせいにした。それに飽き足らず、こんどは輸送船を自爆させちまった!

 むろん、漢明艦隊は大慌てを装い、黒煙を吐く輸送船を囲みながら、はるか沖合まで避難した。

 漢明艦隊は一切の報復攻撃も挑発行動もしてこなかった。漢明艦隊はあくまでも洛陽号爆発の真相を探るために来た調査船と、その護衛であるという姿勢を崩さい。つまり、どこまでも被害者のポーズ。

 その代わり、その漢明艦隊の手ぬるさに業を煮やした第二軍区の即応師団が暴発したように見せかけて、主力の機動艦隊五隻を発向させた。

「ご丁寧に、即応師団の暴発という形をとってるよ」

「でしょうね、指鉄砲で輸送船が爆発するわけありませんから」

 それでも、及川市長はなだめるように右手をポケットに突っ込み、左手首のハンベに語り掛ける。

「直ぐに戻ります、おそらく空港に敵が強行着陸してくるでしょうが、抵抗はしないで。市民には、外に出ないように繰り返し広報してください。取りあえず、第一級防災体制を維持。都と国には繰り返し救援依頼を続けてください!」

 パシ!

 音を立ててハンベのカバーを閉めると、一礼して岩頭の社長のところに駆けていった。

 気持ちは分かるよ。市長一人で、この漢明の理不尽には立ち向かえないもんね。

 戦争状態になったら、実質的な指導者を立てなければならない。それには、能力的にも人望的にも血統的にも島のみんなが従えて、気持ちが一つになる人物を選ばなければならない。このお岩が考えても、あんたしかいないさ、社長。

 

「お岩さん」

 

 ゴミ収集の打合せをし終えたような気楽さで社長が寄って来る。

「すぐに動かなくっていいの?」

「もう、手は打ってあります。万全というわけにはいきませんけどね」

「で、どうすんの?」

「まずは、ロボットさんたちが頼りです。そのために並列化を解いてもらいました。漢明との折衝は主席にお願いしてあります。まあ、出番はちょっと先になりますけどね。島内の通信は酋長のマヌエリトがやってくれます。全てアナログでね、島のあちこちでナバホ語の囁きが聞けると思いますよ」

「ナバホ語……ハンベの翻訳機能には対応してないんじゃないのかい?」

「だからこそ、いいんです。漢明も理解できません。漢明は自国の少数民族も数段下に見ています。ましてナバホインディアンなどは眼中に有りませんからね。それから、島にはガラクタがいっぱいありますからね、デジタル、アナログの両面からゲリラ的な武器や戦法をメグミさんにお願いしています」

「それなら大丈夫……と言ってあげたいけど、みんな小手先だろ、大丈夫?」

「アハハ、容赦ないなあお岩さんは」

「それと」

「なんですか?」

「社長は、いつも丁寧な物言いするけど。ちょっと丁寧過ぎない? このお岩にまで敬語使ってるよ」

「実は……」

「実は?」

「めちゃくちゃ緊張してるんです(#`□´#)!」

「……じゃあ、神社もすぐそこだし、お参りして行こうか、一応社長のご先祖が御祭神なんだし」

「そ、そうですね、それがいい!」

 

 シゲジイの神主とハナの巫女さんじゃ効き目は怪しいけど、二礼二拍手一礼する。

 

「そうだ!」

「お、なにかご託宣かい!?」

「落盤事故のときの御遺骨、まだ食堂でしょ?」

「うん、寂しくないようにね」

「避難させましょう、あ、ここの御神体も!」

「それはもう、用意してある」

 振り返るとシゲジイが白木の箱を捧げ持った。

 シゲジイの後ろ、鳥居のところには、島の住民百人余りが、寄り添って手を合わせていた。

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・96『昼から学校に行った』

2023-01-26 05:35:27 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

96『昼から学校に行った』 

 

 

 薮先生に話すと元気が出て、昼から学校に行った。

 生活指導室で入室許可書をもらうと、市民派の先生に嫌みを言われた。

「自衛隊の体験入隊なんかに行くからだ……な、なんだよ(; ゚゚)」

 わたしは、恐い顔で先生を睨みつけていることに気がついた。

 教室に行くと、さんざ冷やかされた。

 インフルエンザを除いて無遅刻無欠席のわたしが欠席の連絡。それが、午後から元気に登校したものだから、恋煩いが一転オトコの心をゲットしたとか、親が危篤だったのが一転良くなったとか、自衛隊で食べ過ぎてお腹痛になったのが出すモノ出したら元気になった(これは夏鈴がたてたウワサ)とかね。


「まどか、今日から道具作りやるよ!」


 里沙が、鼻を膨らませて言った。

「え……『I WANT YOU』に道具なんか無いでしょ?」

「予算よ、予算。来月中に執行しないと生徒会に没収されんの。だからさ、まだ公演まで余裕のあるうちに、平台とか箱馬とか作っちゃおうと思ったわけ」

「むろん、稽古もやるわよ。その前にテンション上げるのにいいと思ったのよ( •̀∀•́ )!」

 腹痛デマ宣伝の犯人が息巻く。

「自衛隊の五千メートル走とか壕掘りとか、今思うと、けっこう敢闘精神湧いてくんのよね。で、どうせやるなら将来の役にも立って、予算の消化にもなる道具作りが一番と思ったわけ!」

 放課後、里沙も夏鈴も掃除当番なんで、わたしは一足先に稽古場の談話室に行った。


「やあ、今日は早いんだね。まどか君一人?」

 バルコニー脇の椅子に座った乃木坂さんは、もう幽霊って感じがしない。

「あの二人は掃除当番。そろう前に見てもらいたいものがあるの」

 わたしは例の写真を見せた。乃木坂さんは面白そうに表紙と和紙の薄紙をめくった。

 乃木坂さんの顔が一瞬赤くなったような気がした……でも。

「……僕と同じ時代の子だね」

「ひょっとして……!?」

「……別人だよ。この子も可愛い子だけど、世の中いろんな可愛さがあるんだね。当たり前だけど」

「……そうだよね。あの爆撃じゃ十万人も亡くなったんだもんね。ごめん、変なの見せて」

「ううん、いいよ。同じ時代の子だもの、知らない子でも懐かしい……あ、里沙君と夏鈴君が来る」

「なにやってんのよ(*’へ’*)、道具つくるんだから材木運び。もう材木屋さんのトラック来てるからさ!」

 ドアを開けるなり、夏鈴が眉毛をつりあげた。

「さっき、言ったとこ……」

 里沙がフリーズした。夏鈴も視線が、わたしから外れている。


「その人……」「だれなのよ……」


 里沙と夏鈴に乃木坂さんが初めて見えた瞬間だった……。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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