大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・33『猿飛佐助の陰謀』

2023-01-03 16:01:17 | 小説3

くノ一その一今のうち

33『猿飛佐助の陰謀』 

 

 

「なかなかの連係プレイだったが、ここまでだ」

 

 王子の姿をしたそいつは聞き覚えのある声で終了を告げた。

 燃え盛る車を間に挟んでいるので、城の中の者に気取られることはない。

 さっさと退散すべき状況なんだけど、動けば、僅かでも遅れた者がこいつと戦わなければならない。戦えば城内の者が駆けつけてきて厄介なことになる。

 話を聞くほかに手立てはない。

「わたしは豊臣本流の木下家に仕える猿飛佐助だ」

 佐助が王子に化けていた。なんのためだ?

「木下家は海外に力を伸ばしている。日和見の鈴木と違って世界の豊臣家を目指しているからだ。豊太閤の遺徳を帯してこその豊臣家再興、その意志と力を知ってもらうために、このドラマに付き合ってもらった。この草原の国は、いずれ木下の援助のもとに復興を遂げるだろう。復興を遂げた草原の国は、やがては木下、いや復興豊臣家の藩屏として豊臣の大陸進出の先駆けとなる。鈴木も豊臣の裔であることに変わりはない。我が木下家の行く末を黙って見ていてもらおう。黙って見ている限りには、鈴木に手出しすることはない。それではな。百地三太夫、嫁持ち。そして、風魔流二十一代目風魔その。これは木下家の最後の警告である。しかと伝えたぞ!」

 ドゴーーーン!!

 再び車が爆発した。

 佐助も我々も、車の断片が飛び散るのと同じ速度で、その場を離れた。

 

 来た時と同じC130輸送機に乗っている。

 

「あのう……もう帰るんだから、その擬装は解きません?」

 社長も嫁持ちさんも、まだわたしの姿のままだ、さすがに気持ちが悪い。

 しかし、そう言ったのは嫁持ちさんだ。わたしは同じことを言おうとして息を吸い込んだところなんだ。

「まだ早い……」

 そう言って、社長は綺麗な指で(わたしソックリなんだから、指は綺麗)わたしの背中に手を回した。

 首の後ろに手が回って、わたしソックリの顔が目の前に迫ってきた。

 自分自身にキスされるなんて、ちょっと悪夢なんですけど!

 クチャ

 幽けき音がした。

「ラクダに乗っているときにつけられたんだろう」

 社長の指先にはゴマ粒が潰れたほどの破片がくっ付いていた。

「そう言う社長の脇の下にも……」

「ちょっと、くすぐったいんですけど!」

「いや、だから、社長の方にも……」

「嫁持ちさんの方にも……」

 アハハハ キャハハハ ワハハハ

 三人のわたしが絡んでのクリック試合になってしまった。

―― 三人とも虫がつけられた ――

―― やっぱり佐助、油断がなりません ――

―― しかし ――

―― なんですか ――

―― 今のところ、誰がソノッチだか、奴には分かっていないということでもある ――

―― どうやら、それだけ脅威には感じているということですね ――

―― でも、社長、え、嫁持ちさん? ――

―― 嫁持ちは、わたし ――

―― じゃあ、わたしは? ――

 

 なんだか訳がわからなくなって、疲れ果てたころ立川基地に着いた。

 

 帰ってネットで確認すると、草原の国で、一時幽閉されていた王子が軍部と繋がった長老派を駆逐したと出ていた。

「ところで、王子、そのひょうたんは?」

 国営放送の記者は勝利宣言した王子のテーブルの上の1/12サイズのフィギュアほどのひょうたんを指さした。

「ああ、日本の友人からもらった七味唐辛子だよ。ケバブに合うよ」

 サラリと、そう答えた。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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せやさかい・377『テイ兄ちゃんの偵察に付き合う』

2023-01-03 11:59:28 | ノベル

・377

『テイ兄ちゃんの偵察に付き合う』さくら    

 

 

 元日の昼まで東近江市のお寺におって、夕方に堺に帰ってきた。

 

 除夜の鐘撞いた後も、交代でお風呂に入ってしゃべくりまくって、いつ寝たんやら起きたんやら(^_^;)。

 お雑煮をいただいて「こんなお雑煮初めて!」と感動したのはメグリン。

「古閑さんは、どんなお雑煮だったの?」

 詩ちゃんが興味深そうに聞く。

「お雑煮って、すまし汁に角餅でした」

「古閑さん、もともとは関東の人なのね?」

「はい、父も母も東京です」

 メグリンは、お父さんが幹部自衛官で、子どもの頃から引っ越しばっかり。行く先々で、うまいこと馴染んできたけど、お雑煮なんかは、やっぱり親の出身地のスタイルになるねんやろね。

 うちも、四年前、大和川の向こうから引っ越してきて戸惑うこともあった。せやけど、お母さんの実家やさかい、お雑煮が同じやったんで感動したのを憶えてる。

 お母さんは、ズボラやったんで、冷凍ものとかレンチンのものが多かったけど、お雑煮だけは自分でこしらえてくれた。大和川渡っただけで、これだけ食べ物がちゃうんか思たけど、最初のお正月でお母さんが作るのんと同じお雑煮が出てきて感動した。

―― やっぱり、うちのルーツは、ここやねんわ ――そない思て安心したのを昨日のことのように思い出す。

 

 他にも、日本で最初のお正月のソニーのことやら、大晦日に電話してきた真鈴先輩のことやら、盛り上がった話題はあるねんけど、話は、お正月も三日目のことになります。

 

「ほんまは偵察やねんやろ?」

 留美ちゃんと並んだ後部座席からテイ兄ちゃんをいじる。

「あほ、新年の挨拶や」

「うふふ(*´艸`*)」

 留美ちゃんが、優しく笑う。

「檀家周りのついでに顔見ただけやからな。ちゃんと、お祝いの言葉を言う意味でもやなあ……」

「まあ、ええやん。うちらも、マスターのお嫁さんと喋るのは初めてやさかい~(ㅎ.ㅎ)」

「あんまり、余計なことは喋るなよ」

「アハハ、自信ないなあ」

 

 今日は、いつも自転車停めさせてもろてる『スナックはんぜい』に新年のご挨拶……という、うちと留美ちゃんは刺身のツマで、ほんまはテイ兄ちゃんがマスターの新妻を偵察するカモフラージュ。

 

 うちらも、自転車を停めさせてもろた駐車場でチラ見しただけやさかい、興味津々ではあります。

「あ、そっちの階段から上がってぇ!」

 駐車場に入ると、二階の窓から顔を出したマスターが店の裏を指さす。

「え、ここもマスターの家だったんだ!」

 留美ちゃんも驚く。

 店の裏側には塀を隔ててお屋敷があったんやけど、なんと、そのお屋敷がマスターの家やおまへんか!

「まあ、半分道楽みたいな店やさかいなあ、嫁さんも……」

 羨ましそうなテイ兄ちゃんの後をついて本宅へ。

 

 開けましておめでとうございま~す(^▽^)

 

 定番の挨拶を交わしてリビングに通される。

「家内の瑞穂です、きちんとご挨拶するのは初めてですね。よろしくお願いいたします」

「は、はい。御主人の大学時代からの友だちで、酒井諦一です、こちらこそよろしく(^_^;)」

「昨年は過分なお祝いを頂戴して、ほんとうにありがとうございました。酒井さん榊原さんも、駐車場でお辞儀しただけで失礼しました」

「いえいえ、うちらこそ駐車場使わせてもろて、ほんまにありがとうございます」

「いえ、こちらこそ」

「まあ、硬い挨拶はこれくらいにして、まあ、座ろうや」

「あ、そうですねアキラさん。どうぞ、こちらへ」

 てっきりソファーに座るんかと思たら、リビングをクニっと曲がったとこが襖になってて、瑞穂さんが開けてくれると、大きなコタツの上にお正月の用意が並んでた。

「ほんのあいさつ代わり」

 テイ兄ちゃんの目配せに合わせて、風呂敷包みを解いて出す。

「まあ、ありがとうございます。まあ……お酒もお饅頭もいいものですねえ、わたしも、ここのお饅頭は好物なんですよ。こんなに頂いて、恐縮です」

「気にせんでいいよ、諦一が持ってくるのは、みんな檀家さんからもらったもんやから」

「アキラさん、そんなこと言っちゃダメですっ」

 なんか可愛い。きれいな奥さんやけど「メ」っちゅう顔すると、なんとも可愛い!

「まあ、適当にやってくれ、まずは乾杯だ」

「そうですね、みんなでやりましょう」

「はい、喜んで!」

 瑞穂さんの明るい声に、うちも我が家のノリでしゃしゃり出る。留美ちゃんも瑞穂さんも、お酒やらソフトドリンクを注いだり、お重のおせちを取り分けたり。

「あ、どうぞ奥さんも」

「あ、わたしはウーロン茶で(^_^;)」

「あ、はい」

 女の人がソフトドリンク、ようあることなんで、そのままウーロン茶を注いでおしまいやねんけど、亭主のマスターが、すごいことを言うた。

「あ、瑞穂はまだ未成年だから(n*´ω`*n)」

 

 み、未成年!?

 

 テイ兄ちゃんの頬っぺたが痙攣したぞ。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・73『施設一覧の図面を広げた』

2023-01-03 07:15:29 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

73『施設一覧の図面を広げた』 

 

 


 思いあまって、柚木先生に相談に行った。


「……わたしも、ペーペーだからね。普通教室じゃ、だめなの?」

「はい、机と椅子を全部出しても、舞台の半分もありませんから」

 里沙が、図面を出して説明。

 手書きだけどセンチの単位まで書き込まれていて、さすがに里沙。

 事実上の部長であるわたしも負けているわけにはいかない。なじみの技能員のおじさんにコピーしてもらった学校の施設一覧を出そうと、カバンを揺すり上げる。

「よっ、ウワ!」

 ドサ

 ダッフルコートが落ちかけて力を入れたらトートバッグが落ちてしまった。

「なにこれ?」

 夏鈴がはみ出たあれを見咎める。

 はみ出たあれこれは、直ぐにバッグに押し戻したんだけど胡蝶蘭の折り紙が間に合わなかった。

「ヘタッピーな折り方だね」

「どれどれ……これ折ったのは……男の人。とにらんだ」

 柚木先生まで覗き込んできた。

「こ、これは兄貴が折ったんです。お誕生祝いに。兄貴にはいろいろ貸しがあるから。アハハ、こんなもので誤魔化されちゃった」

 みんなの視線が集まる。

「そんなことより、稽古場稽古場」

 わたしは、机の上に施設一覧の図面を広げた。

「さすが、井上さん(技能員のおじさん)部屋毎の机の配置まで書いてある」

 先生が感心した。

「あ、ここ良いんじゃないかなあ!?」

 里沙が一点を指差した。そこには同窓会館談話室とあって、ピアノと若干の椅子が書かれているだけ。広さも間尺もリハーサル室に近い。

「「「「ここだ!」」」」


 四人の声が揃った。


「……はあ、そうですか。いや、ありがとうございました。いいえ、交渉相手が分かっただけでも参考になりました」

「おじさん、なんて言ってました?」

「同窓会館の管理は。同窓会長の権限だって」

 柚木先生は、さっそく技能員のおじさんに内線電話を掛けてくれた。

「同窓会長って……?」

「たしか、都議会議員のえらいさん……」

 先生は、パソコンを開いて確認してくれた。三人も仲良くモニターを見つめる。

「去年の春に亡くなってる……てことは……」

 先生は、同窓会の会則を調べ始めた。

「次年度の総会において、会長が選出されるまでは、理事長がこれを代行するものとする……」

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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