くノ一その一今のうち
お休みとれたら行こうね!
両手を胸の前でグーにしてマナジリをあげるまあや。
このポーズは『吠えよ剣』でよくやるポーズだ。
てっきり演技かと思っていたら、どうやらまあや自身の癖のようで、おかしい( *´艸`)。
「なにがおかしいのよ!?」
「ごめんごめん、まあやって、さな子のまんまなんだなって」
「ああ……それも落ち込むぅ」
「なんで?」
「だって、まあやは地のままやってるだけってことでしょ」
「いいじゃない。地のままって言っても、ちゃんと演じられてるよ」
「そーかなあ」
「そうだよ、事件とかが解決して、みんなで笑うってところから始まるシーンあるでしょ」
「あ、うん。お決まりの大団円。ファンの人たちは、あのシーンになると安心するんだって」
「最初見た時はビックリしたよ。キューが出てカメラが回ったとたんに、みんな笑いだすんだもん」
「ああ、あれは、ベテランの役者さんたちが空気を作ってくれてるからだよ。素でやれって言われたら、できないよ」
「そうか……でも、他にも泣いたり怒ったり、ちゃんと演技出来てると思うよ」
「うん……でもさ、いつか『吠えよ剣』も終わっちゃうじゃない。そうしたら、いまみたいに自分の延長みたいな演技じゃダメだと思う」
「そうか……で、どこに行くって?」
「もー、山梨よ、さな子さんのお墓!」
「あ、そうか、とんぼ返りじゃ、ちょっときついよね」
まあやさ~ん、本番五分前です。
ADさんのお迎えで、そろってスタジオへ。
「さな子のひとり笑いから入りまーす」
「え、一人でですか!」
「うん独笑、周作の『さな子の笑顔は救いだなあ』って台詞に続くんで、最初の笑い出しは一人で」
「は、はい(^_^;)」
独笑とはうまくいったもんだ。でも、大丈夫かなあ、一人で笑うことってほとんどないって、ついさっき言ってた。
心配なのはわたしばかりじゃない。カメラの後ろに周作さんと、準レギュラーの蕎麦屋のおじさんが見守ってる。
でも、心配は無用だった。
キューが出たとたんに、周作さんと蕎麦屋のおじさんが、とびきりの変顔(☉౪ ⊙)(╯⊙ ⊱⊙╰ )!
アハハハハ(๑˃▽˂๑)!
一発できまった!
そして、山梨行きも決まった。
ロケハンをやっていた監督が、山梨で絶好のロケ地を探り当てたということで五日間の山梨ロケが決まったのだ。
サービスエリアでコーヒーを買っていると、横のおじさんが呟いた。忍び語りで……。
―― このロケは、お前にとっても仕事だ ――
え?
―― 安心しろ、ここ一番の時は、俺が変顔してやる ――
横を向くとおっさんの変顔(΄◞ิ౪◟ิ‵)。
でも、笑えなかった。
だって、そのおっさんは服部半三課長代理だったんだよ!
☆彡 主な登場人物
- 風間 その 高校三年生 世襲名・そのいち
- 風間 その子 風間そのの祖母(下忍)
- 百地三太夫 百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
- 鈴木 まあや アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
- 忍冬堂 百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
- 徳川社長 徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
- 服部課長代理 服部半三(中忍)
- 十五代目猿飛佐助 もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者