大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・35『まあやの独笑(๑˃▽˂๑)』

2023-01-13 13:08:04 | 小説3

くノ一その一今のうち

35『まあやの独笑(๑˃▽˂๑)』 

 

 

 お休みとれたら行こうね!

 

 両手を胸の前でグーにしてマナジリをあげるまあや。

 このポーズは『吠えよ剣』でよくやるポーズだ。

 てっきり演技かと思っていたら、どうやらまあや自身の癖のようで、おかしい( *´艸`)。

「なにがおかしいのよ!?」

「ごめんごめん、まあやって、さな子のまんまなんだなって」

「ああ……それも落ち込むぅ」

「なんで?」

「だって、まあやは地のままやってるだけってことでしょ」

「いいじゃない。地のままって言っても、ちゃんと演じられてるよ」

「そーかなあ」

「そうだよ、事件とかが解決して、みんなで笑うってところから始まるシーンあるでしょ」

「あ、うん。お決まりの大団円。ファンの人たちは、あのシーンになると安心するんだって」

「最初見た時はビックリしたよ。キューが出てカメラが回ったとたんに、みんな笑いだすんだもん」

「ああ、あれは、ベテランの役者さんたちが空気を作ってくれてるからだよ。素でやれって言われたら、できないよ」

「そうか……でも、他にも泣いたり怒ったり、ちゃんと演技出来てると思うよ」

「うん……でもさ、いつか『吠えよ剣』も終わっちゃうじゃない。そうしたら、いまみたいに自分の延長みたいな演技じゃダメだと思う」

「そうか……で、どこに行くって?」

「もー、山梨よ、さな子さんのお墓!」

「あ、そうか、とんぼ返りじゃ、ちょっときついよね」

 

 まあやさ~ん、本番五分前です。

 

 ADさんのお迎えで、そろってスタジオへ。

「さな子のひとり笑いから入りまーす」

「え、一人でですか!」

「うん独笑、周作の『さな子の笑顔は救いだなあ』って台詞に続くんで、最初の笑い出しは一人で」

「は、はい(^_^;)」

 独笑とはうまくいったもんだ。でも、大丈夫かなあ、一人で笑うことってほとんどないって、ついさっき言ってた。

 心配なのはわたしばかりじゃない。カメラの後ろに周作さんと、準レギュラーの蕎麦屋のおじさんが見守ってる。

 でも、心配は無用だった。

 キューが出たとたんに、周作さんと蕎麦屋のおじさんが、とびきりの変顔(☉౪ ⊙)(╯⊙ ⊱⊙╰ )!

 アハハハハ(๑˃▽˂๑)!

 一発できまった!

 

 そして、山梨行きも決まった。

 

 ロケハンをやっていた監督が、山梨で絶好のロケ地を探り当てたということで五日間の山梨ロケが決まったのだ。

 サービスエリアでコーヒーを買っていると、横のおじさんが呟いた。忍び語りで……。

―― このロケは、お前にとっても仕事だ ――

 え?

―― 安心しろ、ここ一番の時は、俺が変顔してやる ――

 横を向くとおっさんの変顔(΄◞ิ౪◟ิ‵)。

 でも、笑えなかった。

 だって、そのおっさんは服部半三課長代理だったんだよ!

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍)
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・83『潤香先輩回復!』

2023-01-13 06:24:04 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

83『潤香先輩回復!』 

 

 

 それまでは心に刺さったトゲのように見えていた。

 それが今日は、晴れがましい記念碑のように青空を背に立っている。

 それってのはスカイツリーのこと。潤香先輩の病室から、いつも見えてんの。

 そのスカイツリーを窓枠を額縁の絵のような背景にして……ウフフ。

 ジャーン! 潤香先輩の笑顔がありました!!

 お見舞いに行く途中、地下鉄、駅横の宝くじ売り場の前で着メロが鳴った。
 
『今! たった今! 潤香の意識がもどったのよ!』

 普段は、明るくても、大人の落ち着きを崩すことなく話す紀香お姉さんが、まるで入試に受かった中学生みたいにはしゃいだ声で言った。


「やったー!」「やった、やったあ!」「ウキー!」

 三人は、はしゃぎまくり。宝くじを買おうとしていたオジサンが誤解した。

「そうか、当たったんか。おネエチャン、もう五十枚追加!」

 で、宝くじ売り場の売り上げを五十二枚伸ばして、わたしたちは病院に向かったわけ。

 え……二枚多いって? それはね、里沙の発案とオジサンの刺激でもって、わたし達で二枚買ったのだ♪


「まどか……里沙……夏鈴……ありがとね……」

 小さな声だったけど、潤香先輩はハッキリ言った。涙が出そうだった。

「ジャーン! 潤香先輩、回復祝いです。宝くじ、どっちにします!?」

「いいお祝いだ。君たちは気が利くね」

 お父さんが喜んでくださった。訳を話すと、その場にいたお母さんもマリ先生もいっしょになって大笑いになちゃった。潤香先輩も顔だけで笑って、あっさりと右側のを取った。

「そんなに、あっさり取っていいんですか?」

 夏鈴がつまらなさそうに言う。

「このことだったんだ。あの人が最期に――右だよ、右――って言ってた」

「あの人って……」

「潤香ったら、変なのよ。意識が戻るやいなや――悪いのは、わたし。マリ先生もまどかも悪くない。無理に笑いを堪えたわたしが悪いの――って」

 紀香さんがおかしそうに言った。

「それって、靴を履こうとしたときの……」

 わたしは、乃木坂さんの言葉を思い出した。

「どうして……」

 潤香先輩が目で、そう言った。みんなも不思議な顔で、わたしを見ている。

「いや、稽古中に先輩のマネして、カッコヨク靴を履こうとしてひっくり返って、ハデに道具を倒しちゃったことがあるんで……そのときのことかなって……」

「フフ、半分当たって、半分外れてる……」

「そうなのよ――倒れる寸前に靴を履こうとして、まどかのことを思い出してね。それで笑いそうになったのを堪えようとして――こうなっちゃったって」

 紀香さんは、笑うと微妙に鼻が膨らむ。そんな些細なことに気づけたのは、やっぱ、潤香先輩が、良くなった余裕からなのだ。

「それがね、不思議なの。潤香ったら、クラブがあんなふうになっちゃったことや、マリ先生が学校を辞めたこともみんな知っていたのよ」

「そうそう、わたしの顔を最初に見たときも『先生、次のお仕事はいかがですか?』って」

「潤香は、ひょっとして、意識不明の間に超能力がついたんじゃないかな……どうする母さん、テレビとか取材に来たら!?」

 お父さんが無邪気に言って、お母さんが突っこんだ。

「ちょっと不思議だけど、わたしたちが喋っていたことが、無意識のうちに潤香の頭に入ったのかもしれませんよ。そんなことが、たまにあるってお医者さんも言ってらしたもの」

「そうか、奇跡の少女の父にはなれんか」

「潤香はね、夢の中で何度も男の人が出てきて教えてくれたって……そうなのよね潤香」

 紀香さんが妹の顔を、イタズラっぽく見た。

「ほんとだってば……顔は分からないけど。乃木高の昔の制服を着ていた……」

「学校の玄関に飾ってある、旧制中学のころのやつですか?」

「……鋭いね。あそこ、昔から今までのが四種類もあるのに」

「あ……わたし、あれが一番好きだから」

 多分……それは、乃木坂さんだろうと思った。

「さあ、テレビ局も来ないなら、そろそろ行くよ。出張間に合わなくなるからな」

「いけない。まだなんの準備もしてないわよ。潤香の意識が戻ったって聞いてそのまま来ちゃったから」

「じゃ、母さん急ごう。飛行機に間に合わなくなる」

「あ、わたし、そこまで見送りに行くわ。みなさん、しばらく潤香のことよろしく」

 程よい挨拶を交わして、紀香さんとご両親は病室を出ていかれました。

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • 乃木坂さん       談話室の幽霊
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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