大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・140『おばちゃん、メシ、まだあ!?』

2023-01-10 15:05:32 | 小説4

・140

『おばちゃん、メシ、まだあ!?』お岩  

 

 

 鬼日本炸掉了洛陽号(鬼の日本が洛陽号を爆破した)!

 

 過激な九文字が漢明国のネットに溢れかえり、上海や南京では『把铁槌子背叛者的鬼日本上加在(裏切り者の鬼日本に鉄槌を加えよ)!!』と叫ぶ群衆デモが頻発した。

 カンパニーは、A鉱区の落盤事故以来の体制で消火作業にあたり、並行して負傷者の救助と犠牲者の収容に当ったさ。

 洛陽号は、ドッグの水を抜いて検査の準備を始めたところだった。

 なんせ、満州戦争生き残りの殊勲艦。日本で言えば横須賀に動態保存されている『こんごう』に匹敵する。

『こんごう』に匹敵すると言ったのは岩田総理だ。

 事件の第一報を十分後に知った総理は、すぐに記者会見を開き「洛陽号の喪失は、漢明国民にとっては『こんごう』の喪失に匹敵するでありましょう」と沈痛な表情で述べた。

 いち早く同情しておくことで、漢明の反感をそらしたい気持だったのだろうけど、逆効果だった。

―― 『こんごう』に例えるとは何事か! 例えるならば『三笠』であろうが! あえて記念艦としては三流の『こんごう』例えるのは、我が漢明国を見下している証拠だ! ――

 大統領府の曹鉄忠報道官はノドチンコむき出しにして吠えやがった。

―― なによりも、十分後の記者会見。なぜ、こんなに早い!? 我らの劉宏大統領が知ったのは十五分後、大統領は第一報に接し「詳細に調査せよ、軽々に責任論にしてはならない」と軍当局に指示されたのだ! ――

 岩田総理は、いち早く声明を出すことで事態を重く受け止めている姿勢を表明したんだ。

『こんごう』に例えたのは『こんごう』が、記念艦でありながら現役艦として軍籍にあるからだ。『こんごう』ほどに古くは無いが洛陽号も現役の宇宙船、比較するには穏当だ。

 早すぎる声明発表。これは、もう言いがかりだ。

 どうやら、漢明は、これをネタに日本に仕掛けてくる腹だ。

 救助活動をしながらの調査でも、爆発の原因は洛陽の内部にある。ポンコツとは言え、現役の巡洋艦、漢明の許可なしに艦内に日本人が立ち入ることはない。

 ドッグの排水が終わった直後、こちらの制止も聞かずにドッグや艦内に立ち入ったのは漢明の技術者たちだ。弁当を売りながら一部始終を見ていたから間違いはない。

 技術者達の大半は爆発で吹き飛んでしまったが、あの中に仕掛けた奴がいる。今度の洛陽号騒動は仕組まれたものだ。

 

「おばちゃん、メシ、まだあ!?」

 

「あ、ごめんごめん(^_^;)」

 ハンベの3D画像を畳んで調理に専念する。ドッグの復旧作業はようやく始まったばかり、三交代制、上がりの作業員たちが押し寄せ始めている。ハナのやつ、そろそろ戻って来いよ……。

 思っていると、そのハナが飛び込んできた。

「さっさと着替えて手伝っとくれ!」

「それどころじゃねえよ!」

 巫女服のまま顔の半分を口にして吠えるハナ。

「沖に漢明の大艦隊がやってきやがった!」

「なんだって!?」

 

 ウゥゥゥゥゥゥゥゥ! ウゥゥゥゥゥゥゥゥ! ウゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 

 同時にけたたましくアラートが鳴り始めた!

 

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王

 

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RE・乃木坂学院高校演劇部物語・80『乃木坂さん』

2023-01-10 07:34:54 | 青春高校

RE.乃木坂学院高校演劇部物語    

80『乃木坂さん』 

 

 

 バルコニーに面したところに椅子とテーブル……その上には琥珀色の紅茶が湯気を立てている。

 

「いい香り……」

「春のゴーストブレンド」

 ヒラヒラと、桜の花びらがカップの中に落ちてきた。

「あら……」

「僕の演出」

「フフフ……気が利いてますね」

 長閑に二人で笑った。

「名前とか聞いていいですか。わたし……」

「仲まどか君だよね……僕の名前は勘弁して」

「どうしてですか……?」

 彼は、一見無造作におかれた椅子たちに目をやった。

「僕は、たくさんの仲間達の代表だと思っている。あちらの椅子、みんな仲間が座っているんだ。数が足りないから、立ってるやつもいる」

「え……あなたのことしか分からない」

「そう、こんなにはっきり分かり合えるなんてめったにないんだ……みんな羨ましがってる。ここにいるのは、みんな戦争で死んだ人達。僕もそうだけどね」

「そうなんだ……」

「とりあえずは、乃木坂でいいよ。この成りだから、ここの生徒だったってことは隠しようがないからね」

「じゃ、乃木坂さん」

「ハハ、みんな笑ってる。喜んでくれてるよ」

「……こ、こんにちは。みなさん」

 わたしは、空席の椅子たちに向かって挨拶した……なんの反応もない。

「構わなくっていいって、でも挨拶してくれて嬉しそうだよ。僕たちはね、年に二三回『戦没者の霊』で一括りにして呼ばれる。あれって、切ないんだよ。みんな生きてたころは、それぞれ名前のある個人だったんだからね。だから、たとえ乃木坂でも固有名詞で呼ばれるのはとても嬉しい」

 そう言うと、乃木坂さんはポッと頬を染めて、とびきりの笑顔になった。

 何年も何十年も、とてつもない孤独と切なさの牢獄に閉じこめられて、そこから、やっとぬけだせて笑顔になった……そんな感じがした。

 爛漫な春の風情と、花びら一つ入った紅茶の香りが、それを際だたせる。

 その切なさが、ぐっと胸にきて、鼻の奥がツンとしてきた。
 
「乃木坂さん……」

「ありがとう……なんだよ。君が泣くことないだろ」

「アハハ、人の名前呼んで、こんなに喜んでもらったの初めて!」

「いい人だまどか君は」

「あの……焼き芋落っことしそうになったとき、受け止めて窓辺に置いてくれたの乃木坂さん?」

「え……」

「ほら、スマホ出そうとして、ポケットに手を入れたら勢いでスカートのホック取れちゃって……」

「え……そうだっけ(,,꒪꒫꒪,,)」

「え……見えちゃったんだ!」

 恥ずかしいより、笑っちゃった。幽霊さんでも赤くなるんだ……!

「ぼ、僕は、まだ運のいいほうなんだ」

「え、スカート……?」

「ち、違うよ(#'∀'#)。ぼくはね、まだきちんとした人間の形してるだろ?」

「うん、言わなきゃ幽霊だって分からない」

「中にはね、元の姿を保てないないほど痛めつけられた人もいるんだよ」

「……ゾンビみたいな?」

「アハハ、そんなの幽霊の僕が見ても怖いよ。そんなんじゃないんだ……あまりに激しい空襲の火で焼かれるとね、骨どころか魂まで焼けてしまうんだ」

「それって……」

「幽霊になってもね、キューピーのお人形ぐらいに縮んじゃって……目も鼻も口も無くなって、幽霊同士でも意思の疎通が難しくなって……むろん焼き芋を受け止めることなんかできない……」

 乃木坂さんは、遠くを見る目になった。

「乃木坂さんは、そういう人を知ってるんだね……それも、ごく近しい人……でしょ」

「……勘もいいんだ、君は」

 

☆ 主な登場人物

  • 仲 まどか       乃木坂学院高校一年生 演劇部
  • 坂東はるか       真田山学院高校二年生 演劇部 まどかの幼なじみ
  • 芹沢 潤香       乃木坂学院高校三年生 演劇部
  • 芹沢 紀香       潤香の姉
  • 貴崎 マリ       乃木坂学院高校 演劇部顧問
  • 貴崎 サキ       貴崎マリの妹
  • 大久保忠知       青山学園一年生 まどかの男友達
  • 武藤 里沙       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 南  夏鈴       乃木坂学院高校一年生 演劇部 まどかと同級生
  • 山崎先輩        乃木坂学院高校二年生 演劇部部長
  • 峰岸先輩        乃木坂学院高校三年生 演劇部前部長
  • 高橋 誠司       城中地区予選の審査員 貴崎マリの先輩
  • 柚木先生        乃木坂学院高校 演劇部副顧問
  • まどかの家族      父 母(恭子) 兄 祖父 祖母
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