オフステージ(こちら空堀高校演劇部)138
一時間絞られた上に反省文を書かされて、やっと「帰っていい」と許可が出た。
「ジャンケンしろ」
え、なんで?
田淵も同じ表情をしている。生指部長の大久保先生が『そんなこともわからんのか?』という顔をして付け加える。
「一緒に出たら、またケンカするかもしれんだろうが」
「「あ、ああ」」
声が揃って、それじゃと向き合う。
「「最初はグー! ジャンケンホイ!」」
出したのは互いにパー。
「「あいこで、しょ」」
今度はチョキ同士。
「「あいこで、しょ!」」
今度はグー同士。
「「あいこで、しょっ!」」
今度もグー同士。
「おまえら、ほんとは仲良し同士なんとちゃうんか?」
「「それはない!」」
そのあと、二回やってやっとケリが付いた。
田淵が先に出て、一分後にタコ部屋を出ることを許される。
出て、驚いた。帰り支度をした生徒たちがゾロゾロ降りてくるのだ。
おいおい、まだ五時間目が終わったとこだろーが……あ、そうだ、PTA総会があるとかで、六時間目はカットだった。
教室経由で部室に行こうと思ったが、昼飯がまだだ。回れ右をして食堂に向かう。売れ残りのパンかうどんでも食って部室に行こう。
ご飯系は売り切れなのでラーメンの大盛りをトレーに載せて奥の席に着く。
箸立てに手を伸ばすと、放課後の悲しさ、割り箸が一つもない。
ンガー
怪獣みたいな唸り声をあげて配膳カウンターまで割り箸を取りに行く。
「はい、割り箸」
おばちゃんがニッコリ笑って割り箸をくれる。愛想のいいおばちゃんだ。
なぜか、おばちゃんの視線を感じながら席に戻る……え、向かいに美人の女子が座っている。
あ、評判の野球部マネージャー、三年の川島さんだ。
目が合うと、川島さんは招き猫のような仕草をして、前に座れと微笑みを返してくる。
言われなくても座る、そこにはオレの大盛りラーメンがあるんだからな……て、川島さんの前にも大盛りラーメンがアンパン付きで置いてある。他のテーブルから調達したのか、ちゃんと割り箸は添えてある。
「さっきは、うちの田淵君が迷惑かけたわね、ごめんなさい」
姫カットの前髪をハラリとさせて頭を下げる。
「え、あ、いや……」
演劇部で女子の免疫はできているはずなのに、いきなりのことにおたついてしまう。
「あ、やっぱ、野球部はマネージャーでもしっかり食べるんですね(*´ω`*)」
「え? いやだ、わたしじゃないわよ。田淵君、こっち!」
田淵も――ひっかけられた!――という顔をして観葉植物の横に立っていた。