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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・157『壬生 オモチャの城・3』

2020-06-01 14:47:05 | 小説

魔法少女マヂカ・157

『壬生 オモチャの城・3』語り手:マヂカ     

 

 

 

 ペチャペチャと舐められる感触で意識が戻った。

 

 わ!?

 不覚にも驚いてしまった。

 視野いっぱいの獣の顔だ。顔の半分は涎の垂れた舌で、危うく、その舌に絡めとられそうになったところを、体を捻って立ち上がった。

 ん……!?

 目の前に居るのは友里とツンだ。

「よかったあ、やっと気がついた!」

 ワン!

「おまえたち……」

「一人でお城に入って行ったかと思うと、突然の大爆発で、ほら、周りを見て」

「周り……これは?」

 それは、東京ドーム二杯分はあろうかというほどのレゴブロックの山だ。赤と白が大半で、僅かに透明と黒が混ざっている。数億個、いや数十兆個もあるかもしれない。

「こいつは……ひょっとして、東京タワーは、このレゴブロックで出来ていたのか?」

「よく分からないけど、そんな感じ。崩れたブロックの山からうめき声が聞こえたんで、ツンといっしょに山をかき分けたんだよ」

「そうか……春日部では鉄塔の妖が出てきたんで、東京タワーも鉄製のの本物だと思ったんだ。鉄だという先入観があったから、山のような鉄骨が崩れてきたら、もうお終いと思ってしまったんだ。プラスチックのレゴだと分かっていたら、簡単に撥ね退けていたのに。思い込みとは恐ろしいものだなあ」

「こんなのもあるよ」

 友里が指の先ほどの小さな戦車を摘まみ上げる。

「これは……食玩か?」

「しょくがん?」

「ああ、ガムやキャラメルのおまけに付いているやつだ。有名なのはグリコのおまけだとかだ……ああ、こいつが戦車の正体か」

「戦車が出てきたの?」

「幻だ、思い込みで、こんな食玩を本物と思い込んでしまったんだ」

「そうなんだ……でも、東京タワーで良かったわね」

「なぜだ?」

「東京タワーって、鉄骨のトラス構造で隙間とか多いから、崩れやすかったんだと思うよ」

「ああ、そうだな。鉄製の本物だったら厄介……厄介と思い込んできりきり舞いをしていたんだな」

「そうだよ、ブロックというのは隙間なく結合させると、けっこう頑丈なものになるんだよ」

 そう言いながら、友里はブロックを小気味よく結合している。

「子どものころ、そうやって遊んだのか?」

「そうだよ、こうやって、こうやって……こうこうこうこうこう……」

「友里……」

「こうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこう……」

「分かった、もういい……」

「こうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこうこう……」

「友里、止めろ!」

 手で払おうとすると、友里の体が、ポリゴンのように、いや、ブロックで作ったオブジェのようにカクカクとして、他のブロックといっしょに結合していく。

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ

 爆ぜるような音をさせ、加速度的に結合していくブロックは友里とツンも呑み込んで、わたしの四方八方を取り囲んでいこうとする! 友里もツンもブロックの妖か!?

 グオーーーーッ!!

 風切丸を抜きながら、閉じようとしている結合の頂点を突き破る!

 バチバチバチバチバチバチバチバチーーーン!

 あと二三センチという結合の間隙を突き破り、振り返りもしないで、灌木林の向こうに着地する。

 着地すると、灌木林の向こうはマージャンパイをミキサーでかき混ぜるような音が続いている。どうやら、灌木林が結界のようで、こちら側には来る気配がない。

 橋の欄干の根元に、友里とツンが伸びている。

 危ないところだった。

 しばらく観察して、ブロックの妖でなければ起こして出発することにする。

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あたしのあした09『プール入れませ~ん』

2020-06-01 06:21:33 | ノベル2

09

『プール入れませ~ん』      


 九月も下旬になろうかというのに、まだプールで泳いでいる者がいる。

 水泳の授業をサボリまくっていた者たちだ。
 理由のほとんどは「生理中」だ。ひどいときは半分近くがプールサイドで見学している。
「なんで、こんなに生理中が多いんだ!」
 体育の水野先生が吠えた。水野先生はオッカナイから、みんな俯く。
「いいか、規定の回数泳がなかったら単位認定しないからな!」
 そう言いながら、先生はプールサイドの見学組を睨み据える。
「だって、ほんとなんだもん……なんなら使用済みのナプキン見せましょうか?」
 横田智満子が大胆なことを言う。さすがの水野先生も言う言葉が無い。
 こういう要領を心得ているから、智満子はボスでいられた。
 で、けっきょくは、九月のこんな時期になって補講で泳がされている。浅はかなんだけど、当人たちはトレンドだと思っている。
 
 その智満子は、おとつい完膚なきまでに凹ませてやったので、この三日間学校を休んでいる。

 で、サボリ女子たちは大人しくプールの補講を受けているんだけど。こんな事件が起こった。

 あたしは、授業の後れを取り戻すために図書室で勉強していた。

「ごめんなさい、今日は、これで図書室は閉館です。直ぐに荷物を片付けて退出してください」
 司書の猪瀬さんが済まなさそうに宣言した。
「あのう……なんで閉館なんですか? 五時十五分までは開館じゃないんですか?」
 調子が乗って来たところだったので、思わず質問してしまった。
「ごめんなさいね、子どもが熱を出したので、保育所にお迎えにいかなきゃならないのよ」
 猪瀬さんは、眉をヘタレ八の字にして手を合わせた。
 だったら、他の図書部の先生が部屋番してくれればいいのに、と思ったけど。言ったら、猪瀬さんが困りそうなので、大人しく図書室を出た。

  キャーーーーー!! 

 覗き魔ああああああああ!!!

 下足室を出ると、プールの更衣室の方から悲鳴が聞こえた。
 とっさに更衣室の方へ駆け出すと、プールに隣接している通用門(普段は閉じられている)を乗り越えて逃げていく男の後姿が見えた。

 ブロン ブロロロローーーーー!!

 通用門の外に停めてあったのだろう、バイクが急発進して遠ざかっていく音がした。
 そして、問題は、これだけでは済まなかった。
 覗き魔は数枚の下着を盗んでいたのだ。
「あんちくしょー! 許せない!」
 補講女子たちは、そう息巻く……と思ったら。

「「「「「怖くって、プール入れませ~ん( ノД`)シクシク…」」」」」

 合法的なサボリの口実にしてしまった。

 水野先生は渋い顔をしたが、サボリ女子の後押しをするように、覗き魔は隠し撮りした動画をアップロードしていた。

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メタモルフォーゼ・10『フォーチュンクッキー』

2020-06-01 06:10:30 | 小説6

メタモルフォーゼ

10『フォーチュンクッキー』       

 

『ダウンロード』という芝居は、メタモルフォーゼ(変身)するところが面白い!

 そう、思って稽古を重ねてきたが、どうやら違うところに魅力があると感じだした。ノラというアンドロイドは、いろんな人格をダウンロ-ドしては、オーナーによって派遣され、大昔のコギャルになったり、清楚なミッションスクールの女生徒になったり、五歳の幼児三人の早変わりをしたりして、オーナーと持ちつ持たれつの毎日。
 そんな日々の中で「自分の本来のパーソナリティーはなんだろう?」と、その自己発見の要求が内面でどんどん膨らんでいくところに本当の面白さがあると思うようになってきた。

 You tubeで、九州の高校が演っているのを見て思った。

 ダウンロードされたキャラを精密にやっていく間に、時々「本当の自分」を気にする瞬間がある。
「キッチン作ってよ。あたし自分で料理するから!」
 という欲求で現される。そこにこだわってみて、誇張していくと、俄然芝居が面白くなってきた。
 コンクールの三日前ぐらいになると、信じられないけど、稽古場にギャラリーが出来るようになった。いわゆる入部希望の見学ではなく、美優の稽古そのものを目当てに来る純粋な見学者なのである。
 クラブを辞めたヨッコ達には、少し抵抗があったけど、ヨッコ達は、良くも悪くもクラブに戻る気はなく、他のギャラリーと同じように楽しんでいる。他にも、ミキや、その仲間。ヒマのある帰宅部の子なんかが見に来るようになり、最後の二日間はゲネプロ(本番通りの稽古)をやっているようなものだった。

 最終日の稽古には、受売(うずめ)神社の巫女さんと神主さんまで来た。
「神さまのお告げでした」
 巫女さんは、口の重い父親の神主に代わってケロリと言った。
 そして、芸事成就の祝詞まであげてくださった。

 祝賀会やろう!

 ミキの提案で、稽古場が宴会場になった。あらかじめいろいろ用意していたようで、ソフトドリンクやらスナック菓子。コンビニのプチケーキまで並んだ。なんだか、もうコンクールで優勝したような気分。一番人気は受売神社の巫女さん手作りのフォーチュンクッキー!
「え、神社がこんなの……いいんですか?」
 意外にヨッコが心配顔。
「これは、元々日本のものなのよ。辻占煎餅(つじうらせんべい)という名前で神社で売ってたの。それが万博でアメリカに伝わって、チャイナタウンの中華料理屋で出すようになったのよ」

「へー」と、みんな。

「神社でも出せば、ヒットすると思いますよ」
 ユミが、提案した。
「うん、でも保健所がウルサクって。中にお神籤が入るでしょ。それで許可がね」
 世の中ウルサイモンだと思った。
 巫女さんが、頭数を数え人数分だけ紙皿に盛った。
「さあ、みんなとって!」
 あちこちで「大吉だ!」「中吉よ!」などの声が上がった。ちなみに、あたしは末吉『変化は試練なり、確実に前に進むが肝要。末には望み叶うべし』と、あった。

 素朴な疑問が湧いた。あたしの望みってなんだろ?

 コンクールは中央大会も含めて二週間で終わる。そのあと、当たり前なら「進二に戻りたい」なんだろうけど、そう単純にはならない。
 あたしは、死んだ優美の思いを受け継いでいるのかもしれず。下鳥先生の言うように乖離性同一性障害かも知れず、そうなると、統合すべき人格がいるのだけども、いまは美優でいることが自然だ。体だって完全に女子になってしまい、それに順応している。
 そして、頭の片隅にあるのが受売神社の神さまのご託宣。

 ま、末吉なんで、目の前のことをやろう。

 最後は、みんなで『恋するフォーチュンクッキー』を適当なフリでやってお開き。
「すごい、ミユ、カンコピだったわよ!」
 AKBファンのホマが感動した。
「そのままセンターが勤まる!」

 あたしはサッシーか……。

「おれ、凶だった……」
 秋元先生がバツが悪そうに言った。
「凶って、百に一つぐらいしかないんですよ」
 巫女さんが感心していた。

 備えあれば憂いなし、道は開ける……と、むすんであった。

 

 つづく

 

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新・ここは世田谷豪徳寺・28《尾てい骨骨折・5》

2020-06-01 05:58:48 | 小説3

ここは世田谷豪徳寺28(さくら編)
≪尾てい骨骨折・5≫    



 

 校長先生の家で晩御飯を勧められた。

 地下のスタジオから戻ると息子さんご夫婦も帰っておられて準備も整っていたので、断るのも失礼かとお誘いに乗った。
 家にはスマホでお母さんに連絡。
「かえって気を遣わせてしまったみたいね」
「いいえ、友達のマクサや恵里奈とはしょっちゅうですから」

 お料理は気取らない多国籍料理だ。

「いいえ、冷蔵庫のありあわせの無国籍料理。共働きの三世帯でしょ、時間もまちまちだし、長年やってるうちに、こうなっちゃった」
 感じとしては煮物と炒め物にサラダ。それが微妙にエスニック。これも各自の好みを聞いているうちに四捨五入して「手抜き」という絶対数で割ると、こういうものになると奥さんの弁。ちなみに息子さんと娘さんは大学生で、あたし同様、朝家を出たら糸の切れた凧のようだ。
「わたしたちの時代じゃ許されなかったけどね」
 そう言いながら、お祖母ちゃんが遅れて地下から上がってこられた。
「あ、そうだ。サクラさんに名刺渡しとこう」

 相変わらず、この「サクラ」は、あたしのことか、ひい祖母ちゃんのことか分からない。

――よろずクリエーター 白波園子――と書かれていた。

「この『よろずクリエーター』って、なんですか?」
 無邪気に聞くと、みんながホタホタと笑った。
「ようは、なんでもやりたがり屋。好きなことをやってはブログ書いたりYouTubeに投稿したり……お母さん、さっきの佐倉さんの投稿なんかしてないでしょうね!?」
 校長先生が顔色を変えた。
「もちろんアップしたわよ。だって、あたしと桜の仲なんだもん。ねえ、桜!」
 これは完全にひい祖母ちゃんと間違われている。
「ちょっと、確認」
 校長先生はテレビを点けると、入力をパソコンにした。
「『ゴンドラの唄 桜』で出てくるわよ」

 校長先生が、そう打ち込むと、まるで本物のスタジオで歌手が歌っているように、カメラ3台の画像が切り替わりながら、あたしの歌を流していた!
「いい出来ね。ネット仲間でテレビのメカニックさんがいてね。昨日来てもらって、こういう仕様にしてもらったの。ホホホ」
「佐倉さん、ごめんね、すぐ削除してもらうから」
「なによ、こんなにいい出来になったのにい」
「お母さん、肖像権の問題とか著作権の問題だとか……」
「著作権は切れてるからOK。写っているのは桜だし、ねえ」
「え、ああ、いいですよ。あたしYouTubeなんて載ったことないし、良く撮れてるし、記念になっていいです」

 そう答えたのが運命の分かれ道だった。

「ちょっと、さくらのアクセスすごいわよ!」
 帰るなりさつきネエに言われた。
 パソコンには、校長先生の家で観たのと同じ画面が写り、その下のアクセス回数は1000を超えていた。コメントも10個ほど来ていた。
 懐かしー! 若いのに上手! 大正ロマン!などなど、ご年配と思われる人たちのコメントばっか。
「これ、いつものさくらの鼻歌のレベルじゃないわよさ。なんか特訓した?」
「ううん、お姉ちゃんがのど飴ぶちこんだぐらいよ……」
 そこまで言って気づいた。
 こうなったのは、秋分の日の夜。尾てい骨骨折やって、なんだか無性に眠くなるようになった。で、そのあくる日にひい祖母ちゃんが夢に出てきて、それからだ……お彼岸ミステリー!
「ハハ、まさかね」

 まあ、一晩だけのジババのアイドルになるのもいっか……。

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