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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

魔法少女マヂカ・159『宇都宮 十四餃子飯店・2』

2020-06-09 12:21:23 | 小説

魔法少女マヂカ・159

『宇都宮 十四餃子飯店・2』語り手:マヂカ     

 

 

 店の外に出ると、屋並みの向こうにトップデッキから上が無い首なし東京タワーがノシノシ歩いてくるのが見えた。

「街に入れてはならん! 一中隊二中隊は前へ! 三中隊は敵の左翼、四中隊は右翼に回って牽制!」

 十四餃子飯店の大将は野戦服の大隊長の姿で軍刀を振り回して、各中隊に下命している。

 中隊長は、さっきまでいっしょに餃子を食べていた客たちだ。

 鉄兜の兵隊はと見ると、顔にまで迷彩を施したギョウザたちだ。

「なるほど、やっぱり焼き餃子なんだね!」

 友里が感心する。顔の迷彩は、美味しそうな茶褐色の焼け焦げだ。

「大隊長、後続の兵たちは焼き上がり次第前線に向かわせます!」

「おう、早く頼むぞ! あいつが来るまでは持ちこたえねばならないからな!」

「了解!」

 大将の息子が店の中から元気な返事。続いて鍋に水を打つ『ジャーー!』とい美味しそうな音がする。

「君たちはお客だ、お客を危険な目に遭わせるわけにはいかない。城山の方に避難したまえ。城山には再建された櫓がある。そこで、戦闘が終わる待つんだ」

「分かった」

 いっしょに戦うと言う選択肢もあるのだが、客の身では連携をとるのも難しい。大将の指示に従って街路を北に進む。犬に戻ったツンが先駆けして、曲がり角に来ては立ち止まって、こちらの様子を気にしている。西郷さんの躾なのだろうが、行き届いている。

「あ、お城だ!」

「おお!」

 宇都宮城は明治になって破却されたので、戦前に立ち寄った時は堀の一部しか残っていなかったが、隅櫓と白壁が復元されている。ひょっとしたら亜空間の中に生まれた幻かもしれないが、霊魔の東京タワーも亜空間の産物。しばらく身を寄せるには不足は無いだろう。

「立派な御殿がある!」

 堀の内は、かつての本丸であるので、位置的に本丸御殿があるのは当たり前だ。

「……一息つこう」

 御殿には立派な玄関が付いていて、框に腰かけて靴を脱ぐ。

「ツン、上がりたければ人の姿になれ」

「わん!」

 女子中学生になると、式台に上がって待ってくれる。

 三人揃ったところで奥を目指すと、二回畳廊下を曲がったところに、檜の香りが際立つ、新築間もないところにたどり着く。

 おあつらえ向きに障子が開いていて、青畳のいい匂いがする。

「ここで、待って居ようよ」

「ああ、そうだな」

 次の間を過ぎると三十畳ほどの広間。格子の嵌った窓からは、城山の北方に同じような丘が見えた。

「あ、あそこ!」

 友里が指差した山の頂上に東京タワーに似た鉄塔が見えた。

 むろん戦前には無かったもので、わたしも見当がつかない。

「とりあえず、宇都宮タワー……ググってみよう……あ、本当に宇都宮タワーっていうんだ」

 スマホの画面を窺うと、高さ89メートルと表記された鉄塔の写真がある。東京タワーにソックリだ。

 よく見ると、展望台は一つだけだが、東京タワーのトップデッキは、いたって小振りなので、遠目にはトップデッキを持たない宇都宮タワーに似ている。

 ゴゴ……ゴゴ……

「なに、地震?」

「わんわん!」

 ツンが天井を指さす……なんと、天井がゆっくりと降りてくるではないか!?

「思い出した! 宇都宮の釣り天井だ!」

「釣り天井!?」

「わん!」

「くそ、結界ができていて出られないぞ……」

 その昔、本多正純が日光参拝帰りの二代将軍秀忠を亡き者にしようと作ったからくりの釣り天井だ。

 思い出した、十四餃子飯店の大将は隅櫓に籠れと言っていたんだ。新築の御殿はフェイクだ!

 天井は、速度を増しながら頭の高さに達しようとしていた……。

 

 

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小説学校時代・09『コミニケーション論』

2020-06-09 06:24:33 | エッセー

 09

『コミニケーション論』    


 

 どうにも授業にならない時があります。

 プールの後。

 試験範囲まで行ってしまった後。

 時間割変更で二時間連続で授業をしなくてはならなくなった時など。

「ほんなら、あとは、静かに自習しておきなさい」

 そう言って、先生は引き上げてしまい、生徒は穏やかに自習していた……私たちが生徒だった半世紀前の話。
 今は、時間いっぱい教室に張りついて監督していなくてはなりません。

 いきおい、つまらないことを注意しなければなりません。

「静かにしなさい!」「脱走するんやない!」「飯くうな!」「トランプするな!」「競馬新聞はしまえ!」「マージャン始めるんやない!」などなど……。

 注意される方も不愉快だし、する方も面白いはずもない。

 以前にも書きましが、対教師暴力などのトラブルの多くは自習時間中に起こりました。
 だから、不器用なわたしは、授業内容をコントロールして、自分の授業時間では極力自習にならないように努めました。

 しかし、先に挙げたように自習監督があたったり、プールの後の6時間目など、どうしても実態としては自習にならざるを得ない時があります。

 押し出しの強い先生は、制圧して静かにさせておられました。

 押し出しが強くないわたしは、いろんな話をしてやりました。いわゆる余談というやつで、生徒は一般的に余談を聞くのは好きです。
 両手の指ほどに余談のネタは持っていましたが、持ち上がりで三年生にもなってしまえばネタ切れになりまする。

 そこで編み出したのが占いです。

 主に手相をやりました。いちばん生徒の食いつきが良いのです。
 手相の基本は、大学の心理学で習った怪しげなものです。あとは二三冊の手相の本を読んでインプットしておいたものです。

 最初に黒板に大きな手のひらを描いて、手相の基本である生命線・運命線・頭脳線・感情線などを確認し、それぞれの線の意味を教えます。
 たとえば、頭脳線と感情線のバランス。頭脳線が際立っていれば「考えてから行動するタイプ」。感情線が際立っていれば「直感で行動するタイプ」という具合。
 生徒の集中力は教科授業の10倍くらいに良くなります。
 ふつう教師のオタメゴカシ(「やれば出来る!」というような)は一年の一学期ぐらいしか効果がありません。
 しかし手相とか占いの結果であれば「おまえは20代で運が開ける」とか「人知れず見てくれている人がいる」とか「あんたは、他人に使われるより自営業が向いてる」など、素直に聞いてくれます。
 
 そして、簡単にスキンシップがとれる。

 長くなりそうなので、この項、次号につづきます。 

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メタモルフォーゼ・18『進二……だれ、それ?』

2020-06-09 06:11:12 | 小説6

メタモルフォーゼ・18

『進二……だれ、それ?』    

 


 カオルさんのお葬式の帰り道、思い出してしまった!

 年末には、お父さんとお兄ちゃんが帰ってくる。あたしが女子になったこと、まだ知らない。
 あたしは、もう99%美優になってしまっていて、バカみたいだけどメタモルフォーゼしてから、ちっとも思い至らなかった。

「どうしよう、お母さん。年末には、お父さんもお兄ちゃんも帰ってくるよ」

「そうねえ、二人とも盆と正月だけになっちゃったもんね、楽しみねえ。でも男なんか三日でヤになっちゃうだろうな」
「いや、だから……」
「いまや、美優もKGR46のメンバーなんだからさ。胸張ってりゃいいのよ」
「だって、お母さん……進二は?」

「進二……だれ、それ?」

「あ、あの……」

 あたしは一人称として「オレ」とは言えなくなってしまっていたので、自分の顔を指した。
「美優……知ってたの。あなたが男の子だったら、その名前になってたこと。うちは女が三人続いたから、最後は男で締めくくろうって思ってたんだけどね。麗美は小さくて分かってなかったけど、留美と美麗は『おちんちんが無いよ!』ってむくれてたのよ」
「あたし、最初っから美優……」
「そうよ、それよりゴマメ炒るの手伝って。お母さんお煮染めしなきゃなんないから」
「ダメよ、紅白の練習とかあるし」
「え、美優、紅白出るの!?」
 仕事納めから帰ってきた留美ネエが、耳ざとく玄関で叫んだ。
「うん、三列目だけど……あ、もう行かなくっちゃ!」

 深夜にレッスンから帰ってきて、自分の持ち物を探してみた。

 そこには進二であったころの痕跡は一つも無かった。CDに収まっているはずの進二時代の写真も無かった。

「どういうこと、これ……」
「そういうこと……」

 レミネエが寝言とオナラを同時にカマした。

 二十九日からは、それどころじゃ無くなってきた。レコ大(レコード大賞)と紅白への追い込みが激烈になってきた。
 レコ大は大賞こそAKBに持って行かれたけど、KGRも「最優秀歌唱賞」を獲得。その晩タクシーで家に帰ると……。
「美優、おめでとう! しばらく見ないうちに、ほんとにアイドルらしくなったなあ!」
 お父さんが、赤い顔でハグしてきた。お酒臭さがたまんなかったけど……。
「ごめん、あした紅白。ちょっと寝かせて……」
「おお、そうしろそうしろ」
 進一兄ちゃんが、これまた酒臭い顔で寄ってくる。
「悪いけど、お風呂まで付いてこないでくれる!」
「明日起きたら、サインとかしてくれる?」
 あたしは無言でお風呂に入り、鼻の下までお湯に漬かって考えた。

 いや、考えるのを止めた。

 どうやら、あたしを取り巻く環境ごとメタモルフォーゼしてしまったようだ……。

 

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あたしのあした17『……あとで連絡する』

2020-06-09 06:01:46 | ノベル2

17
『……あとで連絡する』
      

 

 

 そこが智満子の家だとは思わなかった。

「まるでホワイトハウスだ……」

 望月君のため息も大げさじゃない。
 冷静に見れば、白亜の三階建てということがホワイトハウスなんだけど、規模は御本家の2/3くらい。
 でも、周囲の百坪余りの家々(それでも大したものなんだけど)を睥睨して、インパクトはまさにホワイトハウス。

「どうぞお上がりください」

 応対に出てきた女の人は、お手伝いさんと言うよりは女執事といった感じ。
 車寄せの付いた玄関に入ると六畳ほどのエントランス。で、その脇に大小二つの応接室みたいなのがあって、小さい方に通された。
 小さいと言っても八畳以上あって、街中の小さな喫茶店くらいある。
「お掛けになってお待ちください。ほどなくお嬢様が来られます」
「「「は、はい!」」」
 望月君と福田君とあたしの声が揃う。

――あ、お嬢様、お出かけですか?――

 エントランスに出たばかりの女執事さんの声がして、あたしたちは注目した。
 女執事さんがドアを閉めてしまったので一瞬だったけど、パンツルックが良く似合う、どことなく智満子に似た女の人が見えた。

――アルバイトよ、手島さん。智満子のお友だち?――
――ええ、智満子お嬢様を励まそうと来てくださいました――
――そう、いいお友だちね。じゃ行ってきます――
――行ってらっしゃいませ――

 ドアが開閉する音がして、お嬢様と手島さんの気配が消えた。

「智満子のお姉さんみたいだな」
「智満子の三倍は美人だ!」
「そんなこと言うもんじゃないわよ」

 そう言ってみたけど、たしかに凄そうなお姉さんだ。単にイカシタ美人と言うだけじゃなくて目の輝きが若いころのヒラリークリントン……みたいだと思ったのは、ここがホワイトハウスみたいだからかもしれない。

――待て、智満子!――
――放せ、瑠衣子!――


 その声がしたあと、ドタバタと騒がしくなって、そして応接のテラス側が開き、お姉さんに引っ張られて智満子が脱走を阻止された猫みたくなって入って来た。
「こんなことで逃げてたら、また中学の頃に戻ってしまうわよ。さ、お友だちに御挨拶!」
「……三人とも、わざわざありがとう」
「じゃ、みなさん。あとはよろしく」
 お姉さんはウインク一つして出て行った。

「あ、えと……まずは望月君から。ほれ」
 俯いている望月君の脇をつついた。
「あの……横田さんのことね……笑ったのベッキーじゃないんだ。えと……」
「福田君の声色なんでしょ……ベッキーしばいた時のリアクションで分かったわよ」
「ご、ごめん、横田さん」
「ぼ、ぼくも分かってながら知らんふりしてた。ごめんなさい」
「あのう……だから、横田さん」
「悪いけど、今日は帰って。今日のあたしはいっぱいいっぱいなの……あとで連絡する。田中さんとは明日話すから」

 それだけ言うと、智満子は応接室を出て行ってしまった。

 思わず出たため息が望月君に気取られた様子がないことだけが収穫だった。

 一分にも満たない時間、目を合わすこともなく終わってしまった。

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新・ここは世田谷豪徳寺・36《💀 髑髏ものがたり・5》

2020-06-09 05:48:25 | 小説3

ここ世田谷豪徳寺36(惣一編)
≪💀 髑髏ものがたり・5≫    



 髑髏の身元判明への道は意外に早く開けた。

 窮したオレは艦長にメールを打った。5分とおかずに艦長本人から電話があった。
――ニューギニア戦線で、戦死された陸軍中尉さんなんだね?――
「はい、戦死後首を切られて……」
 全部を説明する前に艦長は的確な指示をくれた。

 そして、オレは防衛医科大の支倉教授を訪ねることになった。

「まずお骨を拝見しましょう」
 支倉教授は、合掌した後骨箱から頭蓋骨を取り出した。
「……これは酷いねえ。動物の骨格標本を採る時のように煮沸されている。頭骨の形状からアジア東部。日本人だとしたら、関東から東北南部の特徴が顕著、歯の状態から二十代の男性と思われるね……右上顎の第二臼歯に治療痕。これは日本の歯科医師の治療だと思う」
「分かるんですか?」
「長年遺骨を見てきた。初見判断でもこれくらいは分かる。よし、直ぐにDNA鑑定と複顔をやってみよう」
 技官がやってきて、わずかに骨を削りDNA鑑定にかかった。
「DNAは時間がかかるんでしょうね」
「ダイレクトPCRでやるから、すぐに結果が出るよ。お顔は……」
 教授が、パソコンのキーボードをいくつか押すと、数分でモニターに複顔した顔が現れた。
「阿部寛に似てますね……」
「推定身長……175~8だな」
 複顔は一度骨に戻り、全身の骨格が付けられ、さらに肉付けされていった。日本人離れした偉丈夫に見えた。
「関東から東北には、ときたまいるんですよ。分かりやすく言うと縄文系の特質ですな」
 教授は細々とした数値や特徴を言ってくれたが、専門的すぎて良く分からなかった。
「いろいろ調べさせてるんで時間つぶしに説明したが、余計だったかな……おお、なにか分かったようだな」
 教授は、廊下の足音だけで朗報だと分かったようだ。
「防衛省の戦史資料室からファックスです」
 若い技官がプリントアウトしたものを手渡した。
「ラム河谷の戦闘は第79連隊か。中尉は28人……5人は復員しているから、23人から絞り込めばいいんだな」
 教授は、79連隊関連の資料を検索した。3個大隊の集合写真が出てきた。
「これは、検索が早いよ……」
 集合写真なので、どの将兵も階級章がはっきり見える、その中から中尉を絞り込めば……28人の中尉のバストアップがモニターにHD処理をされた鮮明な画像で出てきた。

「「あ、これだ!」」

 教授と自分の声が重なった。

 偶然なのだろうけど、阿部忠という陸軍中尉だった……。

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