ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ウィーン国立歌劇場 イオアン・ホーレンダー総監督が語る

2008-04-09 | その他
昨日、ウィーン国立歌劇場の総支配人であるホーレンダー氏のセミナーがあり、なかなか興味深い話が聞けました。  

■日時:2008年4月8日(火)19:00開演
■会場:浜離宮朝日ホール
■テーマ
  ウィーン国立歌劇場 イオアン・ホーレンダー総監督が語る
  「音楽の都ウィーンと歌劇場の全て」
■レクチャー: イオアン・ホーレンダー(ウィーン国立歌劇場総監督)
■モデレーター:奥田佳道(音楽評論家)
■通訳:松田暁子


途中、貴重な映像も交えながら、ホーレンダーさんの話を中心に、奥田さんが司会兼解説者となってセミナーは進められました。
以下、印象に残っていることを書きます。

■ウィーン国立歌劇場のこと
1920年まではウィーン宮廷歌劇場と呼ばれていた。
第2次世界大戦で焼かれたが、1955年11月5日、カール・ベームの指揮による「フィデリオ」で活動を再開した。
50年後の2005年に行なわれた「ウィーン国立歌劇場 再建50周年記念ガラ・コンサート」は、その意味でも大変想い出深い。
過去の総監督で重要な功績を残したのは、マーラーとカラヤンだと思う。
7月8月のシーズンを除いて、ウィーン国立歌劇場では毎日異なるプロで公演を続けており、平均60万人もの聴衆が観に来てくれる。
演目数も、今年度の場合48作品を数える。
その毎日公演を可能にしてくれるのが、合唱団とオーケストラ。
オーケストラは勿論有名なウィーンフィルだが、合唱団もリハーサルなしに見事に演奏できる素晴らしい存在。

■子供のためのプログラムのこと
歌劇場の屋上のテラスで開催。
入場料は3ユーロ(500円程度)で、対象は6~12歳の子供。
大人は入場できない。
年間20~30回上演され、のべ8000人~9000人の子供が来場する。
予算は年間5000万ユーロ。
演目は、「魔笛」と「ニーベルンクの指輪」の2演目。
このうち、「ニーベルンクの指輪」は日本の新国立劇場での公演がヒントになっている。(「ジークフリートの冒険」のこと?)
子供は騙せない。面白くなければ騒いだりすぐにトイレに行ったりするし、いったん席を離れたら絶対戻ってこないもの。
両親にも友人にも話すだろうし、また是非観たいと思わせることが大切。
子供達には、まず歌劇場の屋上だから全体が見渡せるので、「歌劇場って、こんなに広いんだ」と実感させる。そして、この大きな歌劇場で、毎日素晴らしいオペラが上演されていることを理解させる。
そして、大きくなったときに、自然にオペラを観たいと思わせるようにしたい。

■総監督とオペラ経営
どうしてオーストリア人でもないのに、ウィーン国立歌劇場という最高の歌劇場の総監督という名誉ある職に、4回も契約を更新してもらえたのか。
それは、「クオリティを大事にしてきたから」というひとことに尽きる。
「良いものを提供すれば、必ず買ってくれる人がいる」ということ。
この事実は、歌劇場経営だけではなく、レストラン経営でも、新聞社の経営でも同じことだ。
赤字・黒字の話に少し触れると、オペラというのは、いくら劇場収入以外の部分(DVDの販売等)で頑張ったところで、絶対収入よりも支出が上回るもの。
金銭的に儲かるものではない。極めて精神的なものだということを、まず理解してほしい。
その上で、どこにお金を使って、どこにお金を使わないかをはっきりさせること。
とくに「どこにお金を使わないか」という節約の部分が最も重要。

■海外公演について
2008年10月には来日公演があるが、同じ日にウィーン国立歌劇場でもフィガロが上演されることになっている。
質を落とさずにマルチで上演できる秘訣は、たとえばオケでいうと143人という多目の人数を抱えていること。
それでも、ワーグナーをやるときは、さすがにマルチで上演することはできないが、(ワーグナーに比べると小規模な)モーツァルト&モーツァルト、モーツァルト&ベートーヴェン等の組み合わせであれば可能だ。
また、歌劇場が海外公演に出ているときに、ウィーンでは(オケは小規模で済む)バレエを上演していることもある。
このような工夫をしながら、上演を続けている。

■演出について
簡単に説明できないので、できればあまり答えたくないテーマ。
オペラという世界では、上演に値する新しい作品を次々に取り入れることは難しい。
だから、(マンネリ化を防ぐ意味からも)今まであるものを、少しずつ変える形で上演してきている。
ただし、作曲家の意図が変わってしまうようなことは、良くない。
それは「オペラ上演における病気」だとさえ思う。オペラで重要なのは、次の3つ。
①指揮、②歌手、③演出
この3つは均等に大切なのであって、どの項目も決して突出してはならない。
演出という点で考えると、たとえばアイーダ。
ラダメスは必ずしも象に乗って登場する必要はないが、だからといって、ヘリコプターで登場しなくてもいいでしょう。

■好きなオペラ、嫌いなオペラ
正直に申しあげると、バロックオペラは、あまり評価していない。
ただ、ワーグナーの「神々の黄昏」と「セビリアの理髪師」を比較するなんて、土台無理な話。それぞれに、全く異なる個性があって、それぞれに素晴らしいのだから。

■最高のオペラ上演とは
まず、何よりも音楽が素晴らしいこと。
そして、内的に満たされているものが素晴らしいと思う。
ただ、ロッシーニとリヒャルト・シュトラウスのオペラを比べて、こちらが上と言ってみたところであまり意味はない。
私(ホーレンダー氏)も、常に聴衆の一人として上演を観ているので、皆さんも、是非歌劇場に足を運んでください。

ざっと以上のような話でした。
熱心にメモを取ったわけではないので、きっと誤りや書き漏らしたことがあると思いますが、その点は平にご容赦を。
それから、この日のホーレンダー総監督の話をきいていて、びんびん感じたことがあります。
それは、ホーレンダーさんが、現シェフであり大切なテニス仲間でもある小澤征爾さんのことを、どれだけ高く評価し信頼しているかということ。
日本という国も文化も、きっと小澤さんという人間を通して理解しているのでしょうね。
2010年からは、シェフがウェルザー・メスト、総監督がマイヤーという新体制になりますが、彼らの手腕に大いに期待しているとも語っておられました。
2010年に、ホーレンダーさんと小澤さんが、同じタイミングで国立歌劇場を去ることになったのも、確かに何か運命的な気がしますね。

コメント (4)    この記事についてブログを書く
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4 コメント

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Unknown (yokochan)
2008-04-12 13:46:12
こんにちは。こんな興味深いセミナーがあったのですね。さすが、romaniさん。
引越し公演中も本国では稼動しているのですね。
伝統と層の厚さにいまさらながら驚きです!
貴重なお話しをご案内いただきありがとうございました。
返信する
>yokochanさま (romani)
2008-04-13 00:18:56
こんばんは。

思いがけず、このようなセミナーを聴くことができました。
とくに演出についてのコメントは、まさに我が意を得たりという思いでした。
しかし、音楽の話もさることながら、名門オペラ劇場の運営ポリシーとその厳しさは、一般的な企業経営においても大いに参考になる話でした。
それと、本文にも書きましたが、小澤さんとの絆の強さやお互いのレスペクトの念は、同じ日本人としてなんだかとても嬉しく思いました。
もう少し大々的に宣伝してもよかったかもしれません。

P.S
今日のプティボンのコンサート、ご一緒させていただけて、とても楽しかったです。
ありがとうございました。

返信する
興味深く (おさかな♪)
2008-09-18 08:23:00
楽しく読ませていただきました♪
返信する
>おさかな♪さま (romani)
2008-09-19 08:07:14
おはようございます。

このセミナー、なかなか面白かったですよ。
この手の興味深い話が入場無料で聞けるのですから、探せば宝の山があるかもしれません。
10月の「コシ・ファン・トュッテ」が、いよいよ楽しみになってきました。
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