ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

今年一年を振り返って

2008-12-31 | その他
今年一年を振り返ると、例年にもましていろいろなことがありました。
しかし、幸いにも、仕事でもプライベートでも、総じて素晴らしい体験をさせてもらったと感じています。
大晦日ですから、なかでもとくに印象に残ったことを・・・。

<音楽編>
音楽の楽しみ方としては、大きく3とおりあるのではないでしょうか。
①CDや映像を通して、音楽を楽しむ
②生のコンサートやオペラを会場で楽しむ
③自分で歌や楽器の演奏をすることによって音楽を楽しむ
私の場合、10年くらいまえから①のウェイトが高くなってきたので、ここ数年は、可能な限り②の「生の演奏に接すること」にこだわるようにしてきました。
そして、今年は、③の所謂「プレイ」にも頑張ってみようと決意した年でもありました。

その「プレイ」の体験で最も印象深かったのが、5月の韓国ギター演奏旅行です。
旅行記を何回か書きかけて未だ完成しておりませんが(汗)、韓国内での4回のコンサートはいずれも思い出深いものでした。
とりわけ、ある大きな病院のホールで行ったコンサートでは、多くの人が入院服(パジャマのようなもの)を来て、熱心に聴いてくれました。
点滴を受けながら聴いてくれた人、まだ小さいのに難病で何年も病院に入院している子供たち、ほとんど目の見えなくなった老人の方、包帯姿も痛々しく車椅子で聴いてくれた人、本当にいろいろな人が聴いてくれました。
最後に韓国の民謡をアレンジして演奏したときには、いつの間にかホール全体が大合唱に包まれたのです。
まさに、音楽の持つ力、音楽によって実現した心と心の会話の尊さを実感した瞬間でもありました。
きっと、一生忘れないでしょう。

次に②のコンサート、オペラ編。
順不同でベスト5をあげますと、
■ムーティ&ウィーン国立歌劇場:「コシ・ファン・トュッテ」
■アルゲリッチ&カプソン兄弟:ショスタコーヴィチ ピアノ三重奏曲第2番ほか
■ムーティ&ウィーンフィル:チャイコフスキー交響曲第5番ほか
■アンサンブル ウィーン=ベルリン:草津におけるコンサート
■グリモー&P・ヤルヴィ:ベートーヴェン「皇帝」ほか
あと、妖精プティボンが歌った魅惑のステージ、ラトル&ベルリンフィルのブラームスの2番、ハーゲンカルテットのラヴェル、スクロバチェフスキ&読響のマチネにおける名演等、ベスト5以外にもたくさんの素晴らしいコンサートに出会いました。

①のCD&映像では、毎日何らかの形で聴き続けていることもあり、なかなか絞りきれません。
ただ、一番鮮烈な印象を受けたという点で、
■アラール:サン=サーンス バソンソナタ
この演奏には本当に感銘を受けました。

<ワイン・お酒>
私の「3種の神器」のひとつである(というよりも、生来大好きな)お酒部門でも素敵な出会いがありました。
とくに印象深かったお酒は、次の4銘柄です。(とくにコメントはしません)
■エグリ・ウーリエ(シャンパーニュ)
■アンリ・ジロー(シャンパーニュ)
■フィリップ・パカレ(ボジョレー)
■赤兎馬(芋焼酎)

<その他>
世界的な金融危機を背景に、年初想像もしなかったような厳しい状況になっています。
一金融マンとして、日をあらためてこの問題については書きたいと思いますが、ひとつだけ願っていることがあります。
それは、「誠実に、そして真摯に現実に立ち向かおうとしている人たちを、決して失望させてはいけない」ということです。
その意味からも、今こそ政治に大きな期待を寄せています。

また、一方で、こんな時代だからこそ、音楽を含む芸術の力を信じたい。
あの9.11同時多発テロが発生した翌日、現地でコンサートが開かれ、満員の聴衆で埋まったという事実。美術館もしかり。また、第2次世界大戦終了直後のドイツでも、戦火に蹂躙されたベルリンの街で早速コンサートが開催され、人々の心を癒したそうです。
来年は、正直厳しい年になりそうですが、常にみんなが希望をもって暮らせるような世の中になってくれること祈るばかりです。



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ダニエル・ハーディング/新日本フィル: 中国四川省大地震 クリスマスチャリティコンサート

2008-12-28 | コンサートの感想
私にとって、今年最後となるコンサートを聴いてきました。
前回のブログでも書きましたが、幸運にもハーディングのチャリティコンサートのペアチケットをいただいたので、妻と一緒に東京芸術劇場へ出かけました。
中国四川省大地震へのチャリティということで、今回のコンサートは25日:横浜、27日:東京と2回行われています。

この日、オーケストラは両翼対抗配置。
大きな拍手に迎えられて登場したハーディングは、指揮棒を持たないスタイルでした。
マズアやブリュッヘン、アーノンクールといったマエストロは昔から指揮棒を使わないで指揮をしていましたが、最近は小澤さん、ラトルなどのビッグネームも指揮棒を持たないことが多いですし、ちょっとした流行なのかもしれません。

<日時>2008年12月27日(土) 14:00 開演
<会場>東京芸術劇場
<曲目>
■ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」op.92
■エルガー:「愛のあいさつ」 op.12
■ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲
■ドヴォルザーク:スラブ舞曲 op.72 第7番
■ドヴォルザーク:交響曲第9番ホ短調「新世界より」op.95
<演奏>
■指 揮:ダニエル・ハーディング
■管弦楽:新日本フィルハーモニー交響楽団

プログラムの前半は、小品4曲。
ちょっと雑多な印象を受けますが、ひょっとすると、謝肉祭から運命の力までを3楽章構成のシンフォニー、スラブ舞曲をアンコールという感じに捉えたのかもしれません。
ハーディングをステージで聴いたのは初めてですが、オーケストラが実によく鳴ります。
全体の見通しがよく、躍動感にあふれた音楽は、やはり若き巨匠の風格十分。
「運命の力」序曲では、特徴的な3つの音を、速めのテンポで且つ少々無機的に鳴らします。他の部分が密度の濃い表現だったので、この違いは鮮明でした。
これは、「運命は避けられないもの。しかし、希望は捨てないで」というメッセージのようにも聞こえました。

後半は、メインの「新世界」。
第1楽章では、フルートとオーボエが吹く第2主題でアーティキュレーションの明確さを求め、それを頑固なまでに全体に徹底させていました。
第2楽章は、イングリッシュが素晴らしく美しい表情で吹ききった後、管楽器がやや危ない部分がありましたが、印象に残ったのは、ラスト近くで人数を絞った弦楽器が奏でる箇所。
あの名旋律が息も絶え絶えになりながら最弱音で奏でられ、やがて本当に止まってしまいます。しかし、目はしっかり明いている。
そして、再び絞り出すように静かに歌いだします。
実に感動的な瞬間でした。
また、フィナーレの最後も素晴らしかったなぁ。
クライマックスを築いたあと、ラストはテンポをぐんと落として、深い呼吸でエンディングを迎えました。
ハーディングは、きっと「今回の大地震は、本当に心が痛む大きな災害でした。しかし、慌てることはありません。目線を下げないで、ゆっくり、ゆっくり元気を取り戻してください。」とドヴォルザークの音楽を通して語ったに違いありません。
というよりも、エールを贈ったのだと思います。
音楽の持つ不思議な力を、強く感じたコンサートでした。

そんな貴重な経験をさせてもらった後、夜は桜桃ご夫妻と一年ぶりの忘年会。
飲むほどに、食するほどに、楽しい時間を過ごさせていただきました。
私にとっても、忘れられない一日になりました。

<最後にハーディングの言葉を・・・>
このコンサートを今年5月の四川大地震で被災された方々に捧げたいと思います。
大変な惨事をもたらした大地震の記憶は、世界中の人々の心に永遠に残ることでしょう。
私は今日のコンサートの音楽を地震の被災者に捧げ、その被災から立ち直られようとされる方々のお役に少しでも立てることを心から願っています。
(ダニエル・ハーディング)
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ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲ハ長調 WoO.36-3

2008-12-26 | CDの試聴記
名古屋、大阪、東京、広島と連続して開催された年金セミナーも終わり、ようやくほっと一息。
気がつくと、今年も残すところあと僅かです。

12月と言えば、今までも思いがけないサプライズがありました。
リヒテルの平均律(インスブルックライブ)を偶然店頭で入手したのがちょうど4年前、昨年はガブリリュクの天才ぶりを目の当たりにして大きなため息をつきました。
今年はというと、「これ、お客さまからいただいたんですが、良かったら使われます?」といって、今年総務部へ異動した女性がわざわざ持ってきてくれたのが、何と「タイガースカレンダー」。
おお、これは本当に嬉しいプレゼント!
サンキュウを連呼して、拝受したのは言うまでもありません。
そして、もうひとつ。
ダニエル・ハーディングが新日フィルを振る「クリスマス特別演奏会」と題したペアチケットが当たったのです。
滅多にこの手のプレゼントには応募しないのですが、たまたまネットで見つけて申し込んだところ、当選してしまいました。
何という幸運!
今をときめくハーディングが、新日フィルからどんな音楽を引き出してくれるか、今から楽しみです。

ところで話は変わりますが、16日のアルゲリッチたちのコンサートの記事を読み返してみて、一曲だけ感想を書き忘れていたことに気付きました。
それが、このベートーヴェンのピアノ四重奏曲ハ長調です。
当初、変ホ長調のピアノカルテットの予定だったのですが、急遽このハ長調の作品に変更になりました。

ベートーヴェンのピアノ四重奏曲ときいて、「ああ、あの曲ね」とイメージできる方は意外と少ないのではないでしょうか。
私もそんなひとりですが、なかなかどうして、素敵な曲です。
ベートーヴェン15歳のときの作品ですが、若々しさと屈託のない明るさが何とも心地よいのです。
アルゲリッチたちの演奏は、少年ベートーヴェンの音楽が持つ魅力を見事に描き切っていました。
とくにアルゲリッチのピアノの素晴らしさは、まさに「天馬空を行く」ような歯切れよさを持っていて、私は聴きながら、彼女が弾き振りしたハイドンのニ長調のコンチェルトを思い出していました。
ちなみに、同じキャスティングによる2005年のライブ録音も残されていますが、こちらも同じスタイルの名演だと思います。

それから、この「ルガーノフェスティバル2005」と題された3枚組のCDに収められた演奏は魅力的なものばかりで、いずれも私のお勧めです。
たとえば、ベートーヴェンのカルテットの次に収録されているモーツァルトのピアノソナタ第15番K.545。
この誰でも知っている有名なソナタをグリーグが4手のピアノようにアレンジしたものですが、ひょっとすると不真面目だと立腹される方もいらっしゃるでしょうか。

私は、モーツァルトのソナタの編曲譜というよりも、モーツァルトのK.545の名による即興曲ととらえるべきだと思います。
楽譜を離れてステージで即興で合わせるとしたら、「きっとこんな風に弾きたい」というイメージに仕上がっているから。
となると、肩の力を抜いて自由に、しかしアプローチは大真面目なスタイルというのが理想?
その意味でも、アルゲリッチとアンデルジェフスキの演奏は、やっぱり素晴らしい。
しかし、ここまで書きながら、もしグルダとアルゲリッチが弾いたらどうなるんだろうと考えてしまいました。
きっと、「音を楽しむ」という意味において、最上の喜びを与えてくれたことでしょう。
この師弟コンビの演奏、今となっては叶わぬ夢ですが、ぜひとも一度でいいから聴いてみたかった・・・。

<曲目と演奏>
(1枚目の内容)
■メンデルスゾーン:ピアノ三重奏曲第2番
 ニコラス・アンゲリッシュ(ピアノ)
 ルノー・カプソン(ヴァイオリン)
 ゴーティエ・カプソン(チェロ)

■ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲ハ長調 WoO.36-3
 マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
 ルノー・カプソン(ヴァイオリン)
 リダ・チェン(ヴィオラ)
 ゴーティエ・カプソン(チェロ)

■モーツァルト/グリーグ編:ピアノ・ソナタ第15番ハ長調 K.545
 マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
 ピョートル・アンデルジェフスキ(ピアノ)
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マルタ・アルゲリッチ 室内楽の夕べ  at すみだトリフォニーホール

2008-12-19 | コンサートの感想
師走も半分以上が過ぎました。
さすがに忙しいです。
時間が・・・、嗚呼時間が足りない。

そんな中、「忙中閑あり」ではありませんが、16日にアルゲリッチとカプソン兄弟たちの室内楽を聴いてきました。
アルゲリッチのピアノを生で聴くのは、かれこれ10年ぶりかしら。
その時オーチャードホールで聴いたラヴェルのコンチェルトは、今でもよく覚えています。
バックは南米アルゼンチンのオーケストラで、粗っぽいことこの上ないサポートでしたが、アルゲリッチのピアノはさすがに凄かった。
そんなアルゲリッチを中心とする室内楽ですから、今回は何としても聴きたかったのです。

マルタ・アルゲリッチ(p) 室内楽の夕べ
<日時>2008年12月16日(火)19:00開演
<会場>すみだトリフォニーホール
<曲目>
■シューマン:バイオリン・ソナタ第2番ニ短調op.121
■ベートーヴェン:ピアノ四重奏曲ハ長調WoO.36-3
■シューマン:幻想小曲集op.73
■ショスタコーヴィチ:ピアノ三重奏曲第2番ホ短調op.67
(アンコール)
■シューマン:ピアノ四重奏曲変ホ長調 op.47から 第3楽章
<演奏>
■マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
■ルノー・カプソン(バイオリン)
■リダ・チェン(ヴィオラ)
■ゴーディエ・カプソン(チェロ)

前半は、シューマンのバイオリンソナタ第2番で始まりました。
緊張感もあるし、音色もきれいなんだけど、何か違う。聴きながらずっとそう考えていました。
息の長いフレージングを使いながら歌として表現しようとするアルゲリッチに対して、ルノー・カプソンのフレージングが概して短めなのです。またルノー・カプソンは、「弱音でスタートしてフレーズの途中で急激にフォルテへ、逆にフォルテからがくんと音量を落として、最弱音をノン・ヴィブラートで囁くように奏でる」、こんな表現を多用していました。
この手の表現は、繰り返されると、「またか・・・」と感じてしまうものです。
私にとっては、少々欲求不満気味のオープニングでした。

劇的に変わったのが、後半のステージ。
まず、チェロとピアノで弾かれたシューマンの幻想小曲集が素晴らしかった。
語りたいことを山ほど持ちながら、一方で人一倍傷つきやすかったシューマン。
そんな彼の心の叫びを、ゴーティエ・カプソンは、ものの見事に表現してくれました。
こんな感動的なチェロを聴いたのは、ブルネロ以来じゃないかしら。
けだし秀演と申し上げておきましょう。

そして、紛れもなくこの日の白眉だったのが、ショスターコーヴィチのピアノトリオ第2番。
冒頭チェロのフラジオレットから、すでに素晴らしい緊張感です。
チェロ、バイオリン、ピアノという順にテーマが引き継がれていく頃には、もう完全に深遠な世界に浸りきっていました。
それにしても、第3楽章ラルゴの冒頭でアルゲリッチが放ったあのピアノの一撃。
私は生涯忘れないでしょう。
何という音。何という響き。
一音でホール全体を震撼させ、何かとてつもない世界に引き込んでしまいました。
そのあと登場するバイオリンもチェロも、もはや楽器が奏でる音楽ではありませんでした。
ただ、あるのは心の叫び。
日本語で表現するとしたら、「慟哭」以外にないでしょう。
そして、ラストのラスト。
この日の演奏を聴いて、なぜこの曲が最弱音で、しかも長調のアルペッジョという形でエンディングを迎えるのか、少しだけわかったような気がします。

こんな深い感動を味わった後でしたから、できればアンコールはやめてほしいと、正直思いました。
でもアンコールはあったのです。
しかも、嬉しいことに、曲は私が泣きたくなるほど好きなシューマンのピアノ四重奏曲の第3楽章。
何という幸運!
当日風邪で熱っぽかった私の体の隅々に、シューマンの最高に美しい音楽がみるみる沁み渡っていきました。
聴きながら、「生きていて良かった。このコンサートを聴けてほんとに良かった」
大袈裟ではなく、心からそう思いました。
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