ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ワルターのブルックナー交響曲第4番「ロマンティック」

2005-04-30 | CDの試聴記
オリジナル・ジャケット・コレクション
ワルターのマーラー&ブルックナー:交響曲集(13CD)から、ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」を聴きました。

<曲目>
ブルックナー:交響曲第4番『ロマンティック』

<演奏>
ブルーノ・ワルター指揮 コロンビア交響楽団
(1960年2月録音)

ワルターのブルックナーといえば、学生時代にワルター狂の友人から9番のLPを借りて、何度も聴いてみたのですが、どうもしっくりこなかった。
特に第二楽章が、「巨人の歩み」みたいに聴こえて、私の感性と全く合わなかったのです。
この部分はさすがにシューリヒトとジュリーニの旧盤が最高です。
そんな体験があるものですから、ワルターのブルックナーは1枚もLPもCDも買わずじまいで今まで来ました。でも、いつの日か、もう一度じっくり聴いてみないといけないとも思っていました。そんな折、このアルバムが最新のリマスタリングで音質も向上しているとの評判を聴き、前回ご紹介したセルのベートーベン全集と併せて購入したものです。

この「ロマンティック」は初めて聴きましたが、予想以上に音はいいです。
また、60年以降のワルターといえば微温的でどちらかというと女性的な印象を持っていたのですが、いい意味で裏切られました。むしろ雄弁なブルックナーだと思います。
第1楽章冒頭、例のブルックナー開始のトレモロに合わせてホルンがテーマを吹くんですが、この弦楽器のトレモロが雄弁なんです。下降しながらこれだけ大胆にクレッシェンドさせる演奏は他に聴いたことがありません。そのため、非常に彫りの深い表現になっています。そのあとも、ブラスは常に力強く咆哮し、最後のコーダも大きなクライマックスを築いて終わります。
第2楽章は、ワルターの「歌」が大いに活かされた演奏で、まさに森の中を散策しているような気持ちにさせられます。
第3楽章は、一転して力強い狩りの歌が聴けます。ただ、ブラスが少し粗いのが残念。(強奏させすぎか?)
第4楽章は、力強さと優しさを兼ね備えた見事な演奏だと思います。特に2分50秒くらいから現れる主題の扱い、および8分30秒くらいから転調しつつ各楽章のテーマが出てくるところの表現は、本当に美しいです。

というわけで、まだトラウマの9番は聴いていないですが、ワルターのブルックナーに対するアレルギーは消えそうです。ただ、今回の「ロマンティック」にも残念な点があります。
それは、音質が予想外によかったせいもあるのですが、弦楽器の音の薄さと金管楽器の粗さが露呈してしまっていることです。録音専用のオーケストラの宿命かもしれませんね。

この曲の私のベストは、今もってクーベリック&バイエルン放送交響楽団の演奏です。
この演奏については、また日を改めて述べたいと思います。
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バッハ カンタータ第106番「神の時こそ いと良き時」 BWV106

2005-04-29 | CDの試聴記
バッハのカンタータ第106番「神の時こそ いと良き時」を聴きました。

<演奏>
リヒター指揮 ミュンヘンバッハ管弦楽団、同合唱団
テッパー(アルト)、ヘフリガー(テノール)、アダム(バス)

このカンタータは、バッハの初期カンタータの中の傑作として知られており、伯父さんの葬儀の為に作曲されたとされています。私が聴いたバッハのカンタータの中で、最も美しい音楽です。
この曲との出会いは、社会人になってまもない頃、コレギウムアウレウム合奏団のLP(ハルモニアムンディ盤)を聴いたときでした。(随分前になりますね・・・)
冒頭、リコーダーとヴィオラ・ダ・ガンバで演奏されるソナティーナの何という静けさ、天国的な美しさ。最初の出会いから、心が洗われる想いがしました。

今日聴いたのは、リヒターの演奏です。
久しぶりに聴きましたが、やはり真摯で祈りに満ちた素晴らしい演奏ですね。
ソナティーナは、ゆったり歩くようなテンポで演奏されますが、本当に心が浄化されていくような気持ちになります。
「死への恐ろしさ」から「死への安らかな憧れ」の分岐点になる第2曲dにおける3声の合唱フーガの見事なこと。ソプラノが「さあ、イエスよ来てください」と呼びかける部分との対比も実に見事です。リヒターの凄さが良く分かります。
終曲のアーメンのフーガの部分では、無宗教の私ですが「死への安らかな憧れ」を感じ、何かじーんと来ました。

実はこの曲を今日聴こうと思ったのは、先日の尼崎で発生したJR福知山線の脱線事故で亡くなられた方の数が106人に達したと知り、何かこのカンタータとの不思議な結びつきを感じたためです。
想像もできないようなことが突然現実に起こってしまったわけですが、犠牲になられた方、その家族の方々にとっては、やりきれない気持ちでいっぱいだと思います。
本当ならいたはずのところに、ぽっかり穴があくわけですから、ご遺族の本当の悲しみはこれからかもしれません。何とか気持ちを強く持って、亡くなられた方の分も生きていただきたいと思います。
でも、阪神淡路大震災で多くの方が犠牲になられたちょうど10年後に、またこのような事故が起こるなんて・・・。
現在関東に住んではいますが、関西人の私としては神様を恨みたくなります。


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スクロヴァチェフスキ&読売日響 バルトーク「管弦楽のための協奏曲」他

2005-04-27 | コンサートの感想
4月今シーズン最初の芸劇マチネーに行ってきました。

<日時>平成17年4月24日(日)
<曲目>
プロコフィエフ: <ロメオとジュリエット>第2組曲 op.64
バルトーク: 管弦楽のための協奏曲

指揮:スタニスラフ・スクロヴァチェフスキ

4月17日と18日に同じメンバーで演奏されたブルックナーの7番が、大変な名演だったという噂を聞いていましたので、大いに期待して聴きにいきました。
プロコフィエフは、バレエ用の音楽からの抜粋版ではなく、オーケストラのための組曲第2番です。
情感豊かな演奏で、特に木管の響きが美しかった。よくオーケストラが鳴っています。
後半のバルトークは、プロコフィエフ以上の出来栄えで終演後もさかんにブラボーがかかっていました。
第一楽章はブラスにさらなる輝きが欲しいと感じましたが、中間に置かれた第三楽章のエレジーが良かった。バルトークがいうところの「死の歌」なのか、それとも故郷ハンガリーへの望郷の念なのか分かりませんが、とにかく深く音楽が息づいていて大変感動しました。
終楽章は、ドラマティックな表現で圧倒的なフィナーレを聴かせてくれました。ブラスもここでは大いに輝いていました。このような曲になると、スクロヴァチェフスキの職人芸(決して悪い意味ではありません)が見事に功を奏しますね。
でも、このスクロヴァチェフスキさん、とても80歳を越えたマエストロには見えません。
指揮台にすくっと立って本当に的確に指揮をなさる。椅子に座っての指揮なんて想像もできません。そういえば、スクロヴァチェフスキさんの指揮棒ってとても短いんです。ゲルギエフの爪楊枝には負けますが、お箸を少し長くしたくらいでしょうか。でも、それで大オーケストラをあれだけ見事にコントロールできるのですから、本当のプロなんですね。
それと、指揮姿だけではなく音楽そのものが全然年寄臭くないことが、スクロヴァチェフスキの音楽の最大の魅力ですね。もちろん熟成した音楽なんですが、常にエネルギーと強い生命力を感じます。
読売日響との相性もとても良いと思いますので、年末の第九が今から楽しみです。
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セル&クリーブランドのベートーベン「英雄」

2005-04-25 | CDの試聴記
オリジナル・ジャケット・コレクション
セル&クリーヴランド管弦楽団のベートーヴェン:交響曲全集(10CD)が、HMVのネット通販の「クラシック 本日の特価」として先日販売されていたので早速GETしました。

国内盤ではひととおり持っていたのですが、
「LP発売時のオリジナル・カップリング&ジャケット・デザインと、最新のリマスタリング(20ビットDSD&SBM)」
というキャッチフレーズに惹かれて、買ってしまいました。

今日はまず第3番「英雄」です。

<曲目>
 ベートーベン:交響曲第3番変ホ長調 op.55『英雄』

<演奏>
 ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団
 (1957年2月22,23日、セヴェランス・ホール)

セルの録音では音質のことがよく話題になりますが、私は今回のアルバム、いい音に仕上がっていると思います。
LPよりもまた国内盤のCDよりも、ずっと良い音です。
SACDのほうがもっと素晴らしいのかもしれませんが、CDとして不足のない音質だと断言できます。
特長は、全体に響きが豊かになったこと、それでいて細かな音も1957年当時のものとしてはよく録れていることでしょうか。
特に前者については、エピックレーベル特有の乾いた音が、今までセルの音楽にどれだけ偏見を与えてきたかを考えると、本当によかったと思います。

肝心の演奏ですが、第1楽章冒頭の決然とした和音の響きと、続く主題の表現(とくにテーマを支える弦のきざみの見事さ)が、既にこの演奏のレベルの高さを物語っています。
「格調高い演奏」というほかありません。
第2楽章は哀しみをじっとこらえながら、感傷的にならずに立体的に音楽が構築されます。
第3楽章は理想的なスケルツォ。しかしセルのエロイカの真骨頂はフィナーレにあります。
まずテンポの素晴らしさ。猛スピードで始まりますが慌てた感じは全くしません。つづくバリエーションは本当に神業です。セルの変奏曲の扱いの上手さは、ブラームスの4番のパッサカリアやハイドンバリエーションでも実証済ですが、ここでもその名人ぶりがいかんなく発揮されています。
最初の変奏における対旋律を弾くチェロの見事なこと。続く複雑な変奏もまさに完璧です。
そして極めつけはコーダで、この猛烈なテンポとアクセントの見事さ、リズムの切れ味はどんなに賞賛してもしすぎることはありません。クリーブランドのオケの腕利き達が、セルの棒に必死にくらいついていくのが手に取るように分かります。

久しぶりにこの演奏を聴きましたが、手にびっしり汗をかいていました。
音質が向上したことで、セルの素晴らしい音楽がよりストレートに伝わってきます。
残りの曲が楽しみになってきました。


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「楽の匠 クラシックの仕事人たち」大山真人著 (音楽之友社)

2005-04-17 | 書籍の感想
ON BOOKS21 という音楽之友社から出ている新書の中の1冊です。
この本では、楽器製作家や衣装コーディネーター、写譜屋、FM放送局プロデューサー等クラシック音楽を支えるもうひとつのプロフェッショナル達を13人紹介しています。
紹介されている13人がいずれも魅力的に語られていて、非常に興味深く読みました。

なかでも、クラシックギター制作家である今井勇一さんの話は、クラシックギターが私にとって唯一演奏できる楽器ということもあり、氏のギター作りにかける情熱とポリシーに感動しました。
(実は、私のHNは愛器の名前からとっています。この話はまた後日ゆっくりと・・・)

もうひとつ挙げると、コレペティ(正式にはコレペティテュア)の田島亘祥さんの話。
私は、「コレペティ=オペラ等の練習ピアニスト」と思い込んでいましたが、田島さんの話を読んで驚くほど奥が深い仕事だと知りました。
練習ピアニストとしての役割以外に、歌手のレッスンや、立ち稽古の相手や指揮者代行、それからプロンプターも守備範囲なんだそうです。
こうなると、もう陰の指揮者であり陰の演出家ですよね。オペラの成否を決するキーマンといって差し支えありません。
田島さんからレッスンを受けた歌手にとってみれば、本番の舞台でプロンプターとしての田島さんの顔をみるだけで、どれだけ安心なことか・・・。
オペラの現場って、本当にいろいろな積み重ねで出来上がっているんですね。

そのほか、フィガロの結婚等におけるダ・ポンテの台本(台詞)とモーツァルトの音楽(音と音形)との間に不思議な関連性があるという話、また田島さんが感銘を受けたというリヒテルの名言が印象に残りました。
前者については、あまり詳しく内容を書いてしまうと楽しみが半減してしまうので、読んでのお楽しみということに・・・。
後者のリヒテルの名言とは、次のとおりです。
(NHKのプロジェクトXで紹介されたものだそうです。私も見たはずですが、全く覚えていません。)
------------------------------------
どのようなピアノを作ればいいかというヤマハの調律師から聞かれて、リヒテルは次のように答えたそうです。
「ピアノは空(天)に向かい、ピアニシモは神に向かい、フォルテは宇宙に向かって」
------------------------------------
こんなピアノを作って欲しいという意味なんでしょうね。
素晴らしい言葉だと思います。

ご紹介できなくて残念ですが、あとの11人の話も本当に含蓄があって面白いので、機会があれば是非読んでいただきたいと思います。
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フンメル:チェロソナタ他(バルトロメイ)

2005-04-10 | CDの試聴記
ウィーンフィルの首席チェリストであるバルトロメイのCDを聴きました。
フィルハーモニカーの至芸と題されたNAXOSシリーズの一環です。

<曲目>
 フンメル:チェロ・ソナタ op104
 ハイドン:ピアノ三重奏曲 Hob.xv:15
 ショパン:チェロ・ソナタ op65

<演奏>
 フランツ・バルトロメイ(チェロ)
 乾まどか(ピアノ)、モニカ・グーカ(フルート)

バルトロメイって、本当に美しい音のチェリストですね。
さすが、ウィーンフィルの首席だけのことはあります。
最初のフンメルのチェロソナタは初めて聴く曲でしたが、隠された名曲とでもいうのでしょうか、
しっとりしたとても素敵な曲です。
第1楽章、第2楽章もとても美しいのですが、何と言っても第3楽章が印象的です。哀愁に満ちた冒頭のピアノのメロディからすっかり引き込まれてしまいます。その後に続くチェロの豊かな歌、転調を繰り返しながら続けられるチェロとピアノの対話がまた素晴らしい。
どことなくドボルザークのバイオリンソナタの第3楽章と雰囲気が似ているような気がします。フンメルのほうがもちろんロマンティックですが・・・。
(ドボルザークのバイオリンソナタは、スーク/ホレチェク(スプラフォン原盤)の優れた演奏があります。これも機会があれば是非聴いてください)

ハイドンの三重奏曲は、愉悦感に富んだ楽しい演奏です。
最後のショパンのチェロソナタはいわずと知れた名曲で、既に数多くの大家・名手による名演奏が残されていますが、このバルトロメイ盤も負けていません。豊かだけど清潔な歌い回しが私の心に沁みます。
また、このアルバムでピアノ伴奏をしている日本人ピアニストの乾まどかさんの好サポートも、忘れてはいけませんね。

こんな素敵なアルバムが、最新録音で800円台で手に入るのだから、いい時代なのかもしれません。是非多くの人に聴いていただきたいと思います。
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クレンペラーの「バッハ:ブランデンブルク協奏曲」

2005-04-09 | CDの試聴記
クレンペラーのバッハを聴きました。

<曲目>
バッハ:ブランデンブルク協奏曲(全曲)

<演奏>
クレンペラー指揮
フィルハーモニア管弦楽団

実はこんな予想をして、この演奏を聴き始めました。
「誰にも媚びることのない悠然としたテンポ。中声部の動きを強調した演奏だが色気が足りない。
一言で言うとごつごつした演奏。」

実際に聴いてみてびっくり。なんと瑞々しいこと!テンポは確かに遅いけど、決してごつごつしたものではない。豊かなファンタジーにとんだ演奏といって差し支えありません。
すっかりやられました。
録音も1960年のものにしては、本当に素晴らしい。
以下、簡単に各曲の印象をコメントします。

第1番は、クレンペラーのイメージに良く合うだろうと想像していましたが、そのとおりでした。
ただ、テンポは遅いのですが重さはさほど感じません。普段のあの重厚なイメージとはちょっと違う感じです。とにかく音楽が伸びやかに語られていく様が心地よい。
第2番は、管楽器に名手を配したフィルハーモニア管弦楽団のよさも加わり、とにかくアーティキュレーションの妙が見事です。スタッカートがこれだけ音楽的に表現されることはあまりないと思います。
第3番は、少しテンポが遅いかなあ。でもその分バッハの音楽のつくりが良く分かります。
第4番は、文句なく素晴らしい。リコーダーの表情が天国的な優しさを感じさせます。
第5番は、暖かい演奏だけど肝心のチェンバロがもう一つです。
最後の第6番は、4番と並んで最も良かった。よく歌っているし、どこか気品があって音楽そのものが瑞々しい。

古楽器の演奏や、リヒターの求心力のある緊張感にとんだバッハもいいけど、今回のクレンペラーのブランデンブルクもとても素晴らしいですよ。
クレンペラーにこんなおおらかさと瑞々しさがあったとは、正直驚きです。
私はこの演奏好きです。
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マーラー「復活」ライブ盤 聴き比べ(クレンペラー、テンシュテット)

2005-04-03 | CDの試聴記
マーラー「復活」の2つのアルバムを聴きました。
1枚はクレンペラーのライブ演奏(1963年)で最近テスタメントから発売されたものです。
もう1枚はテンシュテットのライブ演奏(1980年)です。

クレンペラー、テンシュテットごとにそれぞれ演奏の比較をしようかとも思ったのですが、それはまた別の機会にすることにして、今回はまったくタイプの違う指揮者の「ライブ演奏」の比較をすることにしました。

<演奏>
マーラー:交響曲第2番ハ短調『復活』

●クレンペラー(指揮)
 フィルハーモニア管弦楽団 
 フィルハーモニア合唱団
 ヘザー・ハーパー(S)
 ジャネット・ベイカー(Ms)
 1963年12月19日 (ロンドンにおけるライブ ステレオ)

●テンシュテット(指揮)
 北ドイツ放送交響楽団
 北ドイツ放送合唱団
 エディット・マティス(s)
 ドリス・ゾッフェル(Ms)

 1980年9月29日(ハンブルクにおけるライブ ステレオ)


まずクレンペラー盤。
大河を頑丈な大型船で進むがごとく、全ての見通しがよく、その安心感がなんとも心地よい。
テンポは全般に遅めで、第一楽章の冒頭はそっけないくらい淡々とはじまります。
アインザッツが全般にやや不揃いなのが残念ですが、第二楽章から第四楽章と聴き進んでいくうちに、バス・内声部を重視するクレンペラーの特徴がこの安心感を醸しだしていることがわかってきます。とくに、第二楽章のゆったりしたテンポで演奏される田舎踊り?が、非常にユニークでおもしろい。
続くフィナーレは、コーラス・ソロともやや平面的ですが、太い筆跡の楷書で書いた書のように、確かな安心感に感動を覚えます。ああ聴いて良かったと。

一方のテンシュテットのライブ盤。
これはMEMORIESというレーベルから発売されているもので、いわゆる正規盤ではありませんが、愛好家の中では有名な演奏(伝説の演奏)だそうです。
ひとことで言うと、緊張と弛緩の振幅が激しく彫りの深い演奏で、この点クレンペラーと対極にある演奏ともいえます。
いわゆる安定感とか心の平和ではなく、音楽の持つ生々しさ・心の叫びというものがあからさまに聴き手に訴えかけてきます。録音の素晴らしさも特筆もの。
某評論家風に言うと「切れば血が出るような響き」というのでしょうか、私が今まで聴いてきたこの曲の演奏の中でも、こんな凄い演奏はほかにありません。
まったく別格の演奏です。
全5楽章どの部分をとっても、不出来な部分はまったくありません。
テンポは相当ゆれるし、表情もかなり克明につけていくのですが、音楽の本質と合致しているため、決して上滑りすることはない。

第一楽章冒頭からものすごい気迫で迫ってきて、もうその時点で心を捉えて離しません。
息をつく暇もなく一気に25分間聴かされてしまいました。
レントラー風の第二楽章も続く第三楽章も実に見事な演奏。第四楽章の「原光」はゾッフェルのしっとりした歌唱が胸をうちます。
でもこの演奏で最も感動的なのは、フィナーレです。
最後の審判が告知される部分の恐ろしさ、その後黙示録のラッパが鳴らされたあと、許されて 「復活する、そうだ、おまえは復活するのだ」の部分の意味深さ。
実はフィナーレを聴いている途中から、私は感動で身震いが止まらなかった。こんな経験はさすがに初めてです。オーケストラもソリストもコーラスもまたバンダに至るまで、テンシュテットと心から一体になってこの一世一代の名演を支えているのです。とくにコーラス、なかでもバスの凛とした美しさは本当に見事です。また私の大好きなソプラノであるマティスの名唱も感涙ものです。

テンシュテットはこんな凄い演奏をしたので、きっと寿命を縮めてしまったんだろうなあ。
私の中で、緊張と弛緩を特徴とするマーラーといえばもちろんバーンスタインなのですが、このテンシュテットのライブ盤はその上をいきます。バーンスタインより、もっとシリアスで内的求心力があると思うからです。
こんなマーラーの演奏ができる指揮者が、もし他にいるとしたら・・・?
それはフルトヴェングラーしかいないでしょう。(ありえないことですが・・・)

でも、今回、本当に凄い演奏を聴いてしまいました。
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