ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

バッハ:「コーヒーカンタータ」 BWV211 by  マティス(S)&ベルリン室内管弦楽団 

2012-06-30 | CDの試聴記
私はプロフィールに書かせてもらっている通り、珈琲が大好きだ。
休日になると、自分で淹れた珈琲を1日5杯以上飲むことも珍しくない。

お気に入りの豆を選び、きっちり分量だけ挽いて、丁寧にドリップで淹れる。
その間にカップを温めることも忘れてはいけない。
お湯の温度もきわめて重要で、熱すぎたら香りが飛んでしまうし、ぬる過ぎると全て台無し。
お作法はシンプルだけど、どこかで少しでも手を抜くと、とたんに味に跳ね返ってくる。
とても怖いのです。
だから珈琲を淹れるときは、いつも真剣。
でも、そうやって注意深く淹れた珈琲は、やはり格別の味がする。
ただ、ちょっと飲み過ぎかなと思って、内心いささか心配していた。

そんな折、週刊新潮の最新号にこんな記事を見つけた。
概要は、ざっと次の通り。
「米国立癌研究所の研究によると、死亡率が、珈琲を飲まない男性と比較して、珈琲を毎日1杯飲む男性は6%、2~3杯飲む男性は10%、4~5杯飲む男性は12%とそれぞれ低下した。また日本の研究でも、女性ではシミが少なくなり、大腸ガンになるリスクも低下することが明らかになった。この理由について、お茶の水女子大学大学院の近藤教授は、『メカニズムはよく分かっていないが、おそらく珈琲に含まれるポリフェノールが、活性酸素を除去することによって、老化や病気を予防しているのではないか』と分析する。」

これは朗報。
さあ、これで気兼ねなく珈琲を飲めるぞ。
というわけで、いま、本日5杯目の珈琲を飲んでいる。
今飲んでいる銘柄は、友人にもらった「ニカラグア・カサブランカ」。
独特の酸味があって、実に美味しい。
複数の銘柄を、そのときの好みで選んで飲めるというのは、珈琲好きにとって最高の贅沢かもしれない。
そして、美味しい珈琲を飲むと、やっぱりいい音楽を聴きたくなる。
あまりにベタだけど、今聴いているのは、バッハのコーヒー・カンタータ。

エディット・マティスがペーター・シュライヤー率いるベルリン室内管弦楽団と組んだ演奏で、アメリンクがコレギウムアウレウム合奏団と組んだディスク(HM)と共に、私の2大愛聴盤である。
ここでも、マティスが本当に素晴らしい。
瑞々しく、どこまでもピュアで、才気煥発な娘さんを見事に表現してくれている。
とくに第8曲のアリアは抜群。
設定を少し変えると、すぐにでも「フィガロの結婚」のスザンナになりそうだ。
そして、このカンタータの4曲目のアリアで、娘のリースヒェンが歌う歌詞に私は全面的に共感を覚える。
皆さん、そう思われませんか?

「ああ、なんてコーヒーはおいしいんでしょう。
 千回のキスよりもすてきで、
 マスカットワインよりも甘い、
    コーヒーが無くてはいけないわ、
    そしてわたしをよろこばせようというのなら、
    コーヒーを入れて下さい。」
(訳:高崎市物産振興協会のブログ「物産日記」より)

バッハ:カンタータ『そっと黙って、おしゃべりめさるな』BWV.211
(コーヒー・カンタータ)
<演奏>
■エディット・マティス(リースヒェン)
■テオ・アダム(シュレンドリアン)
■ペ-ター・シュライヤー(語り手)
■ペーター・シュライヤー指揮
■ベルリン室内管弦楽団


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庄司紗矢香&大野和士/都響(6/19) @東京文化会館

2012-06-24 | コンサートの感想
嵐の中のコンサート。
今思い出しても、本当に感動的なコンサートだった。
このコンサートがあることも私はよく知らなかったので、誘ってくださったminaminaさんには、ただただ感謝です。

冒頭のシェーンベルクは、とにかく弦の響きが美しい。
単に音が澄んで美しいというよりも、各セクションが絡み合う中で色彩感に富んだ美しさを醸し出している。
弦に定評がある都響だけど、これほどの魅力をもっているとは思わなかった。
大野さんの音楽作りも、精妙でかつ官能的。

2曲目は、庄司さんをソリストに迎えてのシマノフスキのコンチェルト。
シマノフスキと言えば、何年か前に横浜で聴いたツィメルマンの「ポーランド民謡の主題による変奏曲」が凄い演奏だった。
とにかく濃密で、聴きながら何度となく強い陶酔感に浸ったことをよく覚えている。
この日のヴァイオリンコンチェルトも、そのときのツィメルマンに劣らず凄い演奏だった。
何と言っても庄司さんのヴァイオリンが素晴らしい。
彼女のヴァイオリンは、無色透明とは対極にある意思の強さを感じさせることが特徴だが、この日の彼女のヴァイオリンは妖しいまでの輝きを放ち、そして自在に舞っていた。
まるでリヒャルト・シュトラウスのオペラを聴いているかのような瞬間もあって、すこぶる楽しませてもらった。
大野さんのサポートも絶妙。
優しく包み込む一方で、必要があれば対峙することも厭わない。
だからこそ、音楽が平板にならず、起伏に富んだ濃厚なものになっていた。

休憩を挟んで、後半はバルトークのオケコン。
前半の出来からして大きな期待をもって聴き始めたが、文字通り圧倒的な演奏だった。
この完成度の高さは、驚異的だ。
あの部分が、この部分が・・・なんて次元を超えている。
日本のオケもここまできたのかと、深い感慨を覚えた。

ここまでオケの力、ソリストの魅力を引き出せたのも、やはり大野さんの力だろう。
音楽を塊でとらえないで、一度バラバラにしたものを再構築し、色彩豊かに表現してくれる。
そして、何よりも素晴らしいのは、音楽が常に生気をもっていること。
その結果、音楽は斬新で、抜群の鮮度で聴衆に提供される。
大野さんが外国で高い評価を得ている理由も、よく理解できた。

このコンビ、いやソリストとして庄司さんにも入ってもらってトリオの形で、是非また聴かせてほしい。
楽しみがまた一つ増えた。



<日時>2012年6月19日(火)19:00開演
<会場>東京文化会館
<曲目>
■シェーンベルク:浄められた夜
■シマノフスキ:ヴァイオリン協奏曲第1番
■バルトーク:管弦楽のための協奏曲
<演奏>
■指揮:大野和士
■ヴァイオリン:庄司紗矢香
■東京都交響楽団


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ヒラリー・ハーン&P・ヤルヴィ(6/7) @サントリーホール ブルックナー:交響曲第8番他

2012-06-10 | コンサートの感想
村上春樹のべストセラー小説「IQ84」が文庫化されたので、遅まきながら読んでいる。
ようやくBook3の前篇まで読み終えた。
残すところ、あと1巻だ。
今すぐにでも読みたいけど、じっと我慢して明日からの愉しみに残しておこう。

さて、昨日に続いてパーヴォ&フランクフルト放送響のコンサートの感想を。
二日目となる7日のメインは、ブルックナーの8番。
私はこのシンフォニーが心底大好きなんだけど、実演ではなかなか震えるような感動に出会わない。
私がこのブルックナー畢生の大作で大事にしたいポイントは大きく3つある。
ひとつは、ブルックナーの生命線ともいえるオルガンのような響きが感じられるか、
二つめは第一楽章冒頭の「タターン」というモティーフが全曲を通して貫かれているか、
そして最も大切にしたいのは全体のバランス。
バランスと書いてしまうと、各楽器間の音量のことだけのように思われるかもしれないが、勿論それだけではない。
私が大切にしたいのは、全4楽章を通した音楽の設計だ。全体の見通しという方が適切かもしれない。
部分部分に感情移入し過ぎて前後のつながりが不自然になってもらっては困るし、何よりも音が団子になってほしくない。
だからと言ってドライな演奏は大嫌い。絶対に血の通った温かい音楽であってほしい。
こんな気難しい注文をつけるので、なかなか心を揺さぶられる演奏に出会わないのかもしれない。

さて前置きが長くなってしまったが、この日のパーヴォたちの演奏は、先述の3条件を当然のことのようにクリアしていた。
横浜公演では不調を伝えられたブラスも、この日は快調。木管もとても上手い。
弦もウィーンフィルやコンセルトヘボウのような際立った個性こそないものの、その力強く暖かい音色はいかにもブルックナーに相応しかった。
加えてマーラーの感想でも書いたように、音楽を大きなうねりの中で見事に構築していくパーヴォのシェフとしての腕前は、ブルックナーでも健在。
これだけ揃えば、「今回はさぞかし大感動だったでしょう」と言われそうだけど、実は心震えるようなブルックナーとまでは行かなかった。
何故なんだろう。
ラストの余韻が残っているにも関わらず、全てをぶち壊すような拍手があったことも一因かもしれない。
でもそれだけじゃないような気がする。正直自分でもまだ分からない。
私自身の音楽の感じ方の問題かもしれないので、もう少し考えてみたい。
ただ、ホールを埋めつくした聴衆の反応も、前日のマーラーの時とは異なり、いささか醒めていたように思われた。

一方、前半のヒラリー・ハーンは、文句なく素晴らしかった。
この人のコンサートで裏切られたことは、ただの一度もないのだけど、この日もひたすら感動的な演奏を聴かせてくれた。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲が、これほど儚くも美しく感じたことはなかった。
どんなフレーズも、いかなるパッセージも、彼女の手にかかるときわめて自然にかつ誠実に響く。
この自然さこそがヒラリーの最高の美質だと私は確信しているが、それが最高の形で結実したのが、アンコールで聴かせてくれた2曲のバッハだった。
このバッハを聴いて、心動かされなかった人はいないと思う。
音の美しさ、サントリーホールの隅々にまで響きわたる遠達性という点において、彼女のヴァイオリンは既に比類ないレベルに達している。
加えて、ウェットな質感を保ちながら自然に淡々と弾かれるスタイルの中で、バッハの神々しさが一層はっきりと見えてくるといったら言い過ぎだろうか。
高貴にしてピュア、しかも自然な形で奏でられる彼女のヴァイオリンを聴けることは、私にとって最高の贈り物だ。
ヒラリーさん、今年も素晴らしい演奏を聴かせてくれて本当にありがとう。

終演後、先輩と聴きに来られていたminaminaさんと軽く一杯。
感動的な演奏の後で飲むビールは、やはり最高です。
お付き合いいただき、ありがとうございました。

<日時>2012年6月7日(木)19時開演
<会場> サントリーホール
<曲目> 
■メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲 ホ短調
■ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調 
(アンコール)
■バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番より「グラーヴェ」
■バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第2番より「アレグロ」
<演奏>
■ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
■パーヴォ・ヤルヴィ指揮
■フランクフルト放送交響楽団
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アリス・紗良・オット&P・ヤルヴィ(6/6) @サントリーホール マーラー:交響曲第5番他

2012-06-09 | コンサートの感想
今週は、2日続けてパーヴォ・ヤルヴィ率いるフランクフルト放送響の来日公演を聴いた。
2日続けて平日のコンサートというのは、仕事のやりくりという点でもさすがに大変。
でも一昨年のブルックナーの7番があまりによかったので、「夢よもう一度」という気持ちでチケットを入手した。
一日目はマーラーの5番、二日目はブルックナーの8番という大曲をメインに据えたプログラムは、ボリューム満点。
しかも、メインの曲の前に、それぞれアリス・紗良・オット、ヒラリー・ハーンという若き人気ソリストを立てたコンチェルトがあったので、文字通りのフルコースを味わうことに・・・。

まず第一日目の感想から。
この日前半のソリストは、アリス・紗良・オット。
彼女のピアノは、目指すものが非常にはっきりしている。
その実現のためには絶対妥協しないし、「自分の今の技量の範囲内でベストを」なんて発想は、そもそも彼女の辞書に存在しない。
自分の信じた道を、ひたすら突っ走る。(ひたすら歩くのではない!)
そして、その目指すものが、聴衆にもちゃんと伝わる。
これは簡単そうで、実は大変難しいことだ。
そんな彼女の資質が最もよく表れていたのが、アンコールで弾いた「ラ・カンパネラ」。
この曲で見せてくれたテンペラメントは、若い頃のアルゲリッチに似ていなくもない。
さすがに音楽のスケール感や凄みという点では大先輩に及ばないが、私は、彼女の潔さ、気風のよさが大いに気に入った。
リストのコンチェルトのほうは、さすがに少し主張を抑えていたようにも感じるが、それでもヤルヴィとフランクフルト放送響の温かいサポートの中で十分に羽ばたいていたと思う。
ただ、この日アリスは例によって裸足だったようだが、私の座っている席からはよく見えなくて、その点だけが残念(笑)

そして休憩を挟んで、後半はいよいよメインのマーラー。
チューニングが始まろうとしているのに、管楽器のメンバーの何人かがいない。
おいっ、大丈夫か?
そんな心配をしはじめた途端、遅れたメンバーが慌ててステージに登場。
間に合って良かった。

「パパパパーン (休) パパパパーン (休) パパパパーン・・・」
この第1楽章冒頭の有名なフレーズを、首席トランペット奏者が緊張感を保ちながら見事に吹いてくれた。
とくに素晴らしかったのが、パパパ・パーンという音型に挟まれた四分休符。
どこに感心しているんだと言われそうだけど、これほど弾力性をもった音楽的な休符の表現は聴いたことがない。
故吉田秀和氏が名著「世界の指揮者」の中でお書きになっていた、ライナー&シカゴ響の「運命」のスケルツォを、目の当たりにしたような感じがした。
この首席奏者の腕前も勿論だが、パーヴォ・ヤルヴィのリズム感の良さとオーラが成せる技だと思う。
そして第2楽章を聴く頃には、私はもうすっかり彼らのマーラーの音楽に酔っていた。
中でも印象に残っているのが、展開部の最初の方でティンパニの最弱音のトレモロをバックにチェロがユニゾンで奏でる部分。
このトリスタンとイゾルデを思い出させるような哀愁に満ちた旋律を、彼らは何と温かく表現してくれたことか。
ラストのハープ~チェロ&コンバス~ティンパニと受け継がれる最弱音の音もきわめて鮮烈。

第3楽章では、コントラバスの横に移動して、その場所で立ったまま吹いたホルンのソロが絶品。
トュッティのホルン、トランペット、トロンボーン等の金管も輝かしく、管楽器は繊細でかつ華麗。
既にフィナーレの高揚感を先取りしているような、実に見事な演奏だった。
アダージェットは、弱音の美しさが際立っていた。
また、これだけ息の長いディミヌエンドが上手く表現できるオケも珍しいだろう。
そして前述した休符の雄弁さは、この楽章でも健在だった。
ということは、やはりパーヴォの力か・・・。

呼吸することもためらわれるような最弱音・沈黙から、「目を覚ませ」とばかりに、ホルンがファゴットがそしてオーボエが、それぞれのモティーフを奏でてフィナーレが始まった。
この楽章でも、パーヴォの設計の見事さに驚かされる。
オーケストラが完璧に鳴り切った爽快感、すべての音が聞こえてくるかのようなバランスのよさが心地よい。
それでいて、サウンドは決して冷たくない。
聴いている自分がふっと浮き上がって、気がつくと音楽の大きなうねりの中に身を委ねていた。
こんなマーラーを体験したのは、ひょっとするとアバド&ルツェルンの来日公演以来かもしれない。

終演後、楽員全員が舞台から退場するまで、いや退場しても聴衆からの大きな拍手は鳴りやまなかった。
そして、鳴りやまない拍手に応えるようにマエストロが再登場すると、ブラーヴォの声とともに一段と大きな拍手が起こる。
決して誰かが煽ったわけではなく、自然発生的にそんな状況になったところが何とも素晴らしい。
それほど、感動的なマーラーだった。

P.S
アンコールは、ブラームスのハンガリアンダンスの5番と6番。
中でもヴィブラートを極力排した6番の表現が面白かった。
まるでドイツカンマーフィルの大編成版みたい。
パーヴォは、本当にどんなアプローチも出来る人です!

<日時>2012年6月6日(水)19:00開演
<会場>サントリーホール
<曲目>
■リスト:ピアノ協奏曲第1番 変ホ長調
■マーラー:交響曲第5番 嬰ハ短調
(アンコール)
■リスト:「ラ・カンパネラ」
■ブラームス:ワルツ第3番
■ブラームス:ハンガリー舞曲第5番、第6番
<演奏>
■アリス=紗良・オット(Pf)
■パーヴォ・ヤルヴィ指揮
■フランクフルト放送交響楽団
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