ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

東京カルテットのハイドン:弦楽四重奏曲ハ長調op.20-2

2008-02-26 | CDの試聴記
五十肩の激痛に襲われてクリニックに駆け込んでから、一週間が経ちました。
お陰さまで、痛みは随分とれてきました。
ただ、腕を動かすと一瞬「うっ!」となります。
とくに肩を横へ回すような動きをすると、正直きついですね。
そろそろリハビリを始めないといけない時期かもしれませんが、まだまだ怖いです。
もう少しだけ、大人しくしていようっと・・・。

さて、前回に続いて東京カルテットのディスクをご紹介します。
このディスクは、前回採りあげた1973年の東京公演から6年後に行なわれたライブ録音です。
セカンドヴァイオリンが、名倉淑子さんから池田菊衛さんに替わっています。

本当は、ヤナーチェクやこの日のメインであるベートーヴェンについて書くべきかもしれませんが、とにかく私を惹きつけたのはハイドンでした。
その中でも、ずばり第2楽章アダージョ。
これは素晴らしい。東京カルテットの素晴らしさが凝縮されているといっても過言ではありません。
冒頭、大きな跳躍を伴って奏でられるハ短調のユニゾンが悲劇的な雰囲気を予感させます。
そして、そのユニゾンに導かれるように、16分音符の刻みの中をチェロが静かに歌う旋律が実に魅力的です。涙を隠そうとはせず、まっすぐ前を見つめているような音楽。2分20秒くらいに、5度上で再びチェロが同じ旋律を歌いだすと、もうその美しさに心洗われる思いがします。
一方、中間部のカンタービレで長調に転じると、既にそこには涙の痕跡はみえません。
明るく伸びやかな歌がまことに美しく、その変化があまりに鮮烈なので、少々戸惑いを覚えるほどです。
あまりにも見事な6分間でした。

切れ目なしに続くメヌエットの愛らしさや、トリオのチャーミングなチェロの語り口もたまらなく魅力的だし、終曲フーガは、すべてのパートがソット・ヴォーチェ(ささやくように)と指示された珍しいスタイルだけど、その弱音の中でもきらりと光る構成力の確かさは、さすが東京カルテットと言いたくなります。

ハイドンの作品20の6曲からなる弦楽四重奏曲は、出版された楽譜の真ん中に太陽のような絵が描かれていたことから「太陽四重奏曲」とも呼ばれています。
私はハーゲンカルテットの演奏が好きで、これまでよく聴いてきましたが、この東京カルテットの演奏はさらにその上を行きますね。
「透明感があって温かい」という私の理想の演奏スタイルなのです。
この日、彼らの演奏をホールで聴けた人が本当に羨ましい!
そう思わせてくれる素敵なハイドンです。

<曲目>
■ハイドン:弦楽四重奏曲 ハ長調op.20-2「太陽四重奏曲第2番」
■ヤナーチェク:弦楽四重奏曲 第1番「クロイツェル・ソナタ」
■ベートーヴェン:弦楽四重奏曲 第8番 ホ短調 op.59-2「ラズモフスキー第2番」
<演奏>
■東京クヮルテット
原田 幸一郎(第1ヴァイオリン)、池田 菊衛(第2ヴァイオリン)
磯村 和英(ヴィオラ)、原田 禎夫(チェロ)
<録音>
■1979年12月13日 石橋メモリアルホールにおけるライヴ
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「五十肩」と「東京カルテットのシューマン」

2008-02-20 | CDの試聴記
突然やってきました。
「五十肩」という名の疫病神が・・・。
先週くらいから、右の首から右肩にかけて嫌な張りがあるなぁと思っていたのですが、とうとう一昨日、首や肩だけではなく右腕全体まで痛みが広がってきました。
夜も早く床についたのですが、どんな姿勢をとっても我慢できないくらいの痛みが襲ってきます。
ほとんど眠れないまま、朝を迎ることになりました。
さすがにこれでは仕事どころではありません。昨日は一日休暇をとることにして、近くのクリニックに駆け込みました。
痛み出した状況とレントゲン写真の結果から、ドクターの診立ては肩関節周囲炎。
いわゆる五十肩です。その中でも「石灰沈着性腱炎」という症状で、レントゲン写真で白く映っている箇所が溜まった石灰(リン酸カルシウム結晶)で、痛むんだそうです。
「これは痛かったでしょうね。かなり前から徐々に炎症が起こっていたと思います。思い当たる節はありませんか」とはドクターの言。
そういえば半年以上前から首がずっと重かったかなぁ。その頃から、じわりじわりと疫病神がお近づきあそばしたのでしょうか・・・。
クリニックでは、痛み止めの座薬を入れてもらって、肩に直接ステロイドを注射、そして飲み薬と膏薬を処方してもらいました。
とくに注射が効いたんでしょうね。昨日一日でかなり回復し、今日は何とか会社に行くことができました。
しかし、まだまだ痛みは残っているし、心配の種は尽きません。
皆様もどうか気をつけて下さいね。ほんとに突然やってきますから。

右肩・右腕が痛みと懸命に戦っている中で、改めて頼もしく感じたのが左腕&左手の存在。普段右腕の補助みたいなことしかさせていませんが、この日ばかりは、寝た姿勢から起き上がるときも、ドアや襖の開け閉め、コップにお茶を入れて飲むのも、精一杯左手がやってくれました。
しかし、やはり右手のようにうまく行きません。
歯磨きの下手さと言ったら、もう赤ん坊レベル。(笑)
でも、その左手の不器用さが、かえって愛しく思ったのも事実です。

さて、そんな痛みと戦っている最中に、ふと思い立って先日通信販売で買ったばかりのディスクを聴きました。
東京カルテットの1973年の東京ライヴです。
モーツァルトもいいけど、もう私を金縛り状態にしてくれたのがシューマンの3番。
冒頭の「ラーレ」は、ロベルト・シューマンの愛妻クララのことだといわれています。そうです、「(ク)ラーレ」と呼びかけているんだと。
そして、東京カルテット演じるこの「ラーレ」が、ため息が出るほど魅力的なのです。
どうしたらこんな表情が出せるんだろう。
こんな音は、いまだかつて聴いたことがありません。
そのあと、シューマンは、この楽章の中で「ラーレ」「ラーレ」と連呼するわけですが、もう何とも微笑ましい限り。
また、第3楽章のアダージョ・モルトがこれまた魅力的。
中間部で「タター、タター、タター」とオスティナートが入ってくるのですが、その入りの表情・音量・リズム感とも、もう絶妙。
このカルテットのセンスの高さを感じさせずにはいられません。
こんなに瑞々しいのに胸にもたれるようなことは決してない。清潔な様式感の中で歌わせてくれるので、聴き手は何度でも繰り返し聴きたいと思うのでしょうね。
是非、この若き東京カルテットの「ラーレ」を聴いてみてください。

そういえばこのシューマンの3番、一昨年聴いたロータスカルテットの実演CDも、とても素敵な演奏だったなぁ。
意外に日本人に合った作品なのかもしれません。

<曲目>
■モーツァルト:弦楽四重奏曲 第19番 ハ長調 KV465《不協和音》
■シューマン:弦楽四重奏曲 第3番 イ長調 op.41-3
<演奏>
■東京クヮルテット
原田 幸一郎(第1ヴァイオリン)、名倉 淑子(第2ヴァイオリン)
磯村 和英(ヴィオラ)、原田 禎夫(チェロ)
<録音>1973年5月7日 東京文化会館におけるライヴ


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ラヴェル 「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」

2008-02-15 | CDの試聴記
ラヴェルの室内楽といえば、皆様はどんな曲を連想されますか。
あの独創性に富んだヴァイオリンソナタ?それとも同じヴァイオリンならツィガーヌですか?
詩情豊かなピアノトリオも素晴らしいし、弦楽四重奏曲だって同ジャンル中屈指の名曲で、絶対忘れちゃいけない。
つまり、いずれをとっても粒ぞろいの名品ぞろいなのです。
そんな中で、唯一私が苦手にしていたのが、この「ヴァイオリンとチェロのためのソナタ」でした。

初めてこの曲を聴いたときは、ふざけてると思いました。
もっと言うと、「聴き手を馬鹿にしてる」と。
しかし、そうなんです。
最初からハーモニーだとか、調和がとれた曲なんだとか思うからいけない。
この曲、極論すると、それぞれが気ままに思い思いのフレーズを弾き、リズムを刻んでいるんです。
それでいて、お互いふと気づくと、微妙にうまく絡んでる。
それで、しばらくは合わせてる。しかし、まためいめいが好きな方向に走り出す。
しかし、最後まで決してばらばらにはならない。
ある法則のもとで、何とか崩れずに絶妙にバランスしている。
そんな感じなんです。

そこまで割り切って聴くと、この曲の面白さが分かってきます。
とりわけ第2楽章が面白い。
二人の奏者は役者になりきって大真面目に、しかも余裕綽綽でやってもらわないといけません。
そして、ときたま顔を上げてにやっと笑ってから、再び大真面目な表情で弾き切ってほしいのです。

私が聴いた範囲で最もイメージに近かったのが、このジャリ&トゥルニュ盤。
これは素晴らしい。
力まないということが、どれほど大切か教えてくれます。
真摯な演奏なんだけど、決して力まないので、音楽そのものが独りで語りだすのです。
今は輸入盤でしか入手出来ないようですが、他のカップリングも名曲名演ぞろいで、私のイチオシです。

<演奏>
ジェラール・ジャリ(Vn)
ミシェル・トゥルニュ(Vc)
<録音>1971年2月

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ホーネック 読売日響のマーラー:「復活」

2008-02-13 | コンサートの感想
2月24日の読響マチネが用事で行けないので、この名曲コンサートに振り替えてもらいました。
昨年のドレスデンシュターツ・カペレの「復活」が聴けなかったので、これも何かの縁だったかも知れません。

<日時>2008年2月12日(火) 午後7時開演
<会場>東京芸術劇場
<曲目>
マーラー/交響曲第2番〈復活〉
<演奏>
■ソプラノ:薗田真木子
■アルト:マルティナ・グマインダー
■指 揮:マンフレッド・ホーネック
■管弦楽:読売日本交響楽団
■合 唱:国立音楽大学合唱団

開演前のステージを見渡すと、さすがマーラー。
ステージが本当に狭く感じるくらい、たくさんの椅子と譜面台が並べられています。オケのメンバー・合唱団が入ってくると、もっと凄い・・・。
まさに「壮観」のひとことです。
この日はステージ側にヴィオラ、2ndヴァイオリンの隣にチェロという配置。
音の響きという点では、「復活」の場合、逆のほうがしっくり行くような気もしますがいかがでしょうか?

そんなことを考えているうちに、この日のマエストロであるマンフレッド・ホーネックが登場。
コンマスである藤原さん・鈴木さんと握手を交わした後、凄まじい気迫と共に「復活」が始まりました。
以前も書きましたが、ホーネックの棒さばきは、故カルロス・クライバーを彷彿させるところがあります。身のこなし、曲線を多く用いた図形の描き方等、本人もしっかり意識しているのかもしれませんね。

ただ、この日の読響は、いつものアンサンブルの精緻さが感じられません。
ピッチもいささか不安定。気合がから回りしているのかなぁ。
いかにもホーネックの音楽にぴったりだと思われた第2楽章も、好演の域を出ません。
「原光」では、初めて聴くマルティナ・グマインダーの声を楽しみにしていたのですが、真摯な歌い方に好感を持ったものの、突き抜けてくる何かが不足しているような・・・。
という具合に、第4楽章までは、ややブルーな気持ちになりかけていました。
このまま終わったらどうしよう。
しかし、フィナーレは良かった。実に良かったのです。

まず、ホーネックの曲の組み立て・設計が良かった。
ひとことで言うとメリハリのついた演奏で、とくに弱音の扱いが鮮烈。
コーラスもソリストも口をほとんど開けないで、緊張感のあるピアニシモを作り出していました。
このため、聴きようによってはハミングのようにも聞こえるし、遠くで「巡礼の合唱」をきいているようにも感じました。
弱音がデリカシーにとんだ美しさを持っていたからこそ、何度か登場するクライマックスそしてエンディングが、まさに圧倒的な印象を与えてくれたのでしょう。
また、薗田真木子さんのソプラノは良かったですねぇ。声の威力に頼るのではなく、隅々までコントロールされた歌唱に私は惹きつけられました。

ところで、この日は色々なアクシデントが起こっていました。
4楽章の途中で、私の近くの聴衆が、体調不良か自然の摂理か分かりませんが途中退席してしまいましたし、フィナーレでは、第1ヴァイオリンの弦が大きな音ともにブチッと切れたりしたようです。
でも、そんな中、バンダはばっちり決まっていたし、オルガンも壮麗な響きでホールを包んでくれました。
「終わりよければ・・・」じゃないですが、感動的なラストが聴けてよかった!
心からそう思いました。
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「母べえ」

2008-02-10 | その他
今日、お天気も回復したこともあり、妻と「母べえ」を観てきました。



この映画は、スリリングな結末が待っているわけでも、華麗なアクションがあるわけでも、ましてや官能的なシーンがあるわけでもありません。
しかし、観終わったあと、じわーっとこみ上げてくるこの温かさ・感動は、一体なんなのだろう。
この映画では、第2次世界大戦前後という日本にとって暗く辛い時代背景の中で、家族という小さいけどまさに原点ともいうべき単位の「心の絆」が描かれています。
そして、その「心の絆」の要になっている「母」の存在。
そのことを、いやというほど思い知らされました。



しかし、「母べえ」役を演じた吉永小百合さんの素晴らしさを、どんな言葉で表現したらいいんだろう。
母として、妻として、そして一人の女性として、健気に精一杯生き抜こうとしている「母べえ」を、こんなに魅力的に演じることのできる人は吉永さんしかいないでしょう。
彼女の存在なくして、この映画は絶対成立しなかったと思います。
2人の娘役もそれぞれ好演だったし、檀れいさんも鶴瓶さんも良かった。
でも、吉永さんと並んで素晴らしかったのが、夫の教え子である山ちゃんを演じた浅野忠信さん。
不器用だけど、人間味溢れる山ちゃんにみんな惹かれたことでしょう。

それから、映画で流れていた音楽にもひとこと。
この映画では、ピアノと佐藤しのぶさんの声だけが使われていましたが、それが実に素晴らしい効果をあげていました。
とくに、メインテーマとして流れていたバッハのコラール前奏曲「主よ、われ汝に呼ばわる(BWV639)」 の敬虔な雰囲気は、この映画をいっそう感銘深いものにしてくれたと思います。

是非多くの方に観ていただきたい映画ですね。

(配役)
■吉永小百合  野上佳代
■浅野忠信   山崎徹
■檀れい    野上久子
■志田未来   野上初子
■佐藤未来   野上照美
■笑福亭鶴瓶  藤岡仙吉
■坂東三津五郎 野上滋


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新国立劇場 R・シュトラウス:歌劇『サロメ』

2008-02-09 | オペラの感想
今日も本当に寒いです。
外を見ると、ちらほらと雪が・・・。
先週に続いての雪ですね。

さて、少し遅くなりましたが、6日に観た新国立のサロメの感想を。



<日時>2008年2月6日(水) 19:30開演
<会場>新国立劇場
<出演>
■サロメ:ナターリア・ウシャコワ
■ヘロデ:ヴォルフガング・シュミット
■ヘロディアス:小山 由美
■ヨハナーン:ジョン・ヴェーグナー
■ナラボート:水口 聡
<演奏>
■指 揮:トーマス・レスナー
■管弦楽:東京交響楽団
<演出>アウグスト・エファーディング

今回のサロメには当初行く予定はなかったのですが、急に思い立ってチケットを入手しました。
席は1階7列目。とても良い席です。
いつの間にか指揮者が登場し、拍手のないままサロメが始まりました。
舞台には、大きな古井戸があります。
そして、この舞台設定が、シンプルだけど極めて強い印象を与えてくれました。
古井戸の地下に捕らわれているヨカナーンの存在こそが、王女サロメを虜にし、結果的に2人に「死」という運命を導くわけですから、サロメの心理を表現する上で、古井戸は大きな意味を持っています。
エファーディングの演出は奇をてらったところがなく、しかも聴衆にしっかりとリヒャルト・シュトラウスのメッセージを伝えてくれました。
せっかくの名演奏が、凝った演出のためにぶち壊しになった(少なくとも、今でも私はそう思っています!)昨年11月のドレスデン国立歌劇場の来日公演とは大違いです。

今回のサロメ役は、ナターリア・ウシャコワ。
サロメを演じるのは初めてだそうですが、とても魅力的なサロメでした。
決して強い声の持ち主ではありませんが、表現力がとても豊か。
さすがに、ウィーン国立歌劇場のヴィオレッタで評判になっただけのことはあります。
ヨカナーンと対面するまでの少女のような純真さ、ヨカナーンと出会ってからの一途な表情、「7つのヴェールの踊り」で見せた妖艶な雰囲気、いずれも私は大いに共感を覚えました。
サロメは決して狂った女ではありません。ヨカナーンとの出会いによって、「愛情」「ひたむきさ」があまりにエスカレートした挙げ句、「ヨカナーンを自分だけのものにしたい」という感情に全てを支配されてしまったのではないかと思います。
そう考えると、「7つのヴェールの踊り」にしても、ただ官能的なだけではダメで、常にヨカナーンへの熱い思いを伝えてほしいと思うのですが、この日のウシャコワにはそれがありました。
「7つのヴェールの踊り」の最初の部分でシルエットだけで見せる場面がありましたが、それが息をのむほど美しく、だからこそ実際に姿を現して踊る時の妖艶さが、一層鮮烈に感じられるのです。
また、最後にヨカナーンの生首を目の前にする場面。
布で覆われているヨカナーンをみたときの「自分の最も欲しかったものがついに手に入った」という喜びの表情、布をとったときに一瞬見せる恐怖の表情、そして再び首に近づき「ついに、私だけのものになった」と抱きしめるときの恍惚の表情。
もう、それは歌手というよりも女優の表情でした。
ウシャコワが彫りの深い美貌の持ち主だけに、その表現力はいっそう際立っていたと思います。

あと歌手で素晴らしかったのは、ヨカナーン役のジョン・ヴェーグナー。
古井戸から地上に姿を現し、眩しそうに光を避けるような表情をしたあと、歌い出した時の声に、私は忽ち痺れました。
とにかく説得力のある歌唱で、もう圧倒的な存在感。
これならサロメが夢中になるはずです。
また、ヘロデ役のヴォルフガング・シュミットも、ヘロディアス役の小山由美さんも、それぞれ味のある演技と歌唱で楽しませてくれました。
ヴォルフガング・シュミットは、ドレスデンの来日公演でもヘロデ王を歌っていましたが、この日のほうがさらに良かったかもしれません。
最後にオーケストラ。
昨秋のドレスデン・シュターツカペレと比べるとさすがに分が悪いけど、なかなかの好演でした。ヨカナーンが再び古井戸の中に戻ったあとの場面など、色彩豊かな表現力で、リヒャルト・シュトラウスの音楽の素晴らしさを満喫させてくれました。

結論。素晴らしいサロメ!
観れてよかった。
昨秋、大枚はたきながら何とも歯痒い思いをしたフラストレーションは、この日で完全に払拭されました。





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マリインスキー劇場 ボロディン:『イーゴリ公』

2008-02-05 | オペラの感想
マリインスキーの「イーゴリ公」を観てきました。
モニター券をゲットできた上に、席は3階Lの1列目。
この席の素晴らしさは、一度経験すると病みつきになります。

「イーゴリ公」というオペラは、有名な「だったん人の踊り」を除いてあまり知られていません。
日本での上演も、極めて少ないのではないかしら。
確かに派手さや泣かせる部分は少ない上に、もともと未完のオペラということもあって、ドラマの展開としては少々退屈な部分もありますね。でも、音楽だけをとってみればとても美しいし、私は「さすがボロディン!」と言いたくなります。
先程「未完のオペラ」と書きましたが、リムスキー=コルサコフとグラズノフによって完成され陽の目をみたので、その版が一般的です。しかし、この日の版は最終的にゲルギエフの手によって改訂されたものでした。
最大の違いは、リムスキー=コルサコフ&グラズノフ版の第1幕が、ゲルギエフ版ではそっくり最後の第4幕に来ます。
こうなると、さすがに随分印象が変わりますね。

さて、この日、ゲルギエフは例の爪楊枝みたいな指揮棒ではなく、普通の長さのものを使っていました。
そして、まずオケの音を聴いて驚きました。実に多彩で表情豊かなのです。弦は良く歌うし、輝かしいブラスと炸裂するティンパニはとにかく強烈!
昨秋ヨーロッパの名門歌劇場をたて続けに聴いてしまったので、正直比べてはいけないかなと思っていたところ、どうしてどうして・・・。
恐れ入りました。
舞台そのものも、派手さはないけど、オペラの特徴をとてもよく引き出したと思います。第1幕で本物の馬が2頭登場してきたのには少々驚きましたが・・・(笑)

この日のハイライトは、やはり「だったん人の踊り」。
バレエ団のプリンシパルが登場したダンスも素晴らしかったし、音楽の高揚感も抜群でした。
でも、私が見ていて興味深かったのは、ゲルギエフの指揮。音楽がどんどん熱を帯びながら高揚していくにつれて、逆に指揮の動きが小さくなっていくのです。
これは見ものでした。あのコンパクトな棒さばきで、あれだけのクライマックスを作れるわけですから、何かゲルギエフの指揮の秘密の一端を垣間見たような気がします。
それともう一つ。
「だったん人の踊り」をオペラの展開の中でみると、「あー綺麗だ。素晴らしい迫力!」だけではなく、音楽そのものが俄かに生命を宿したかのように感じるのです。
この踊りは、敵将ながらイーゴリ公に尊敬と敬愛の念をもっていたコンチャーク汗が、囚われの身となったイーゴリ公を励まそうとして贈ったプレゼントでした。
しかし、誇り高いイーゴリ公が、捕虜となっている自らの境遇で祖国のことを思い描きながら、コンチャーク汗のもてなしをどういう気持ちで受けとめたのか。
おそらく複雑な心中だったことでしょう。そう考えると、あのエキゾチックなメロディが、ますます心に迫ってくるのです。

マリインスキー劇場の公演は、合唱も素晴らしかったし、歌手達もいわゆるビッグネームはいませんが、総じてレベルの高い歌唱を聴かせてくれました。
ただ、イーゴリ公の妻ヤロスラーヴナだけは、声質も歌い方もあまりに私のイメージとかけ離れており、コメントを差し控えます。

また、「イーゴリ公」とは全然関係ありませんが、昨秋「バレンボイムのトリスタン」を同じNHKホールのこの席で観れたら、どんなに素晴らしかったでしょうか・・・。
この日のオペラを観ながら、ふと思ってしまいました。

<日時>2008年2月2日(土) 18:00開演
<会場>NHKホール
<出演>
■イーゴリ公:セルゲイ・ムルザーエフ
■ヤロスラーヴナ:ラリーサ・ゴゴレフスカヤ
■ウラジーミル:エフゲニー・アキーモフ
■ガリツキー公:アレクセイ・タノヴィツキー
■コンチャーク汗:セルゲイ・アレクサーシキン
■コンチャコーヴナ:ナターリア・エフスタフィーエワ
ほか
<演奏>
■指 揮:ワレリー・ゲルギエフ
■管弦楽:マリインスキー劇場管弦楽団
■合 唱:マリインスキー合唱団
<演出>
■エフゲニー・ソコヴニン
コメント (2)
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