ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ヒラリー・ハーン  バイオリンリサイタル イン 東京

2009-01-21 | コンサートの感想
「ヒラリーは、何と自然に音楽と対峙しているんだろう!」
これが、15日にヒラリー・ハーンのリサイタルを聴いた後の正直な実感でした。
ヒラリー・ハーンは、決して音楽を自分のほうに引き寄せて演奏しようとはしない。
いかなる曲であろうとも、自分から音楽のほうに歩み寄って、作品に敬意をこめて弾いていました。
しかし、どの作品からも共通して聴こえてきた温かく透明なテクスチュアは、やはり紛れもないヒラリーの刻印。

この日聴かせてくれた2曲のイザイの無伴奏は、その何よりの証左だったと思います。
この難曲に対してまったく身構えることなく、淡々と弾き進めているようにみえて、はっと気がつくとそのフォルムの美しさと響きの鮮烈さに圧倒され、思わず襟を正してしまう、まさにそんな演奏でした。
すでに彼女は、現代最高のイザイ弾きのひとりかもしれません。

ピアノ伴奏をともなった作品では、この日3曲も採りあげた同郷の作曲家アイヴズの独特のユーモアと人懐っこさ、リズムの切れと鮮やかな色彩感が眩しかったバルトークが、強く印象に残っています。
ただ、この日ピアノ伴奏をつとめたリシッツァは、その豊かな表現力で魅了してくれましたが、微妙にヒラリーのスタイルとは異なっていたように思いました。
少し繊細感が不足しているのかなぁ。
誤解を恐れずにいえば、ピアノが響き過ぎている印象で、まるでピアノコンチェルトのような感覚で弾いているように感じたのです。
ヒラリーお気に入りのピアニストですから、相性が悪いはずもありませんが、この日私は最後まで若干の違和感を持って聴いておりました。

というわけで、今回私は幸運にも2夜に亘ってヒラリーの至芸に接することができたのですが、最も感銘を受けたのは、やはりバッハとイザイということになります。
ちょっと言葉にならないくらいの衝撃でした。
驚くほどの透明感を保ちながら、冷やかな感触が皆無であるという、まったく稀有な音楽体験。
このような僥倖にめぐりあえたことに、ただただ感謝です。
いつの日か、バッハとイザイの無伴奏の全曲演奏会なんて、日本でやってくれないかなぁ。
またまた夢見る日々が続きそうです。

<日時>2008年1月15日(木)19時開演
<会場>東京オペラシティコンサートホール
<曲目>
■イザイ:無伴奏バイオリン・ソナタ第4番
■アイヴズ:バイオリン・ソナタ第4番「キャンプの集いの子どもの日」
■ブラームス:ハンガリー舞曲集より
■アイヴズ:バイオリン・ソナタ第2番
■イザイ:無伴奏バイオリン・ソナタ第6番
■イザイ:子どもの夢
■アイヴズ:バイオリン・ソナタ第1番
■バルトーク:ルーマニア民族舞曲より
(アンコール)
■パガニーニ:カンタービレ
<演奏>
■バイオリン:ヒラリー・ハーン
■ピアノ:ヴァレンティー・リシッツァ

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ベルリン・フィル八重奏団 イン 東京

2009-01-18 | コンサートの感想
今年の仕事始めから約2週間が経過しました。
例年であれば、そろそろこのあたりからエンジンをかけだすのですが、今年はもう戦闘モードで走っています。
やはり、昨年来の経済危機およびそれに起因する環境変化がその主たる背景ですが、こんなときこそ、とにかく広い視野を持つことが最も重要になってきます。
登場人物(=関係のありそうな人&もの)をすべてステージに上げて、その影響範囲を冷静に見極める必要があるのではないでしょうか。
もし登場人物を見落としたり、こちらからの一方的な考え方で判断すると、とんでもない落とし穴にはまってしまう可能性があるので、「ベクトルは常に相手から自分。発想を逆に・・・」と、つねに肝に銘じておりますが、なかなか実行は難しいですね。(汗)

さて、そんな状況ではありますが、「柔軟な発想にはモードチェンジが必要だから・・・」と勝手な理屈をつけて、先週もコンサートを聴きに行きました。
ひとつは、ベルリン・フィル八重奏団の室内楽、もうひとつはヒラリー・ハーンのリサイタルです。

まず、ベルリン・フィル八重奏団の室内楽の感想から。
この日のプログラムを、そして超一流の奏者たちの名前を見て、私は心に決めました。
「今日は頭をからっぽにして、思い切りリラックスして楽しませてもらおう」
もし、モーツァルトのホルン五重奏曲がクラリネット五重奏曲だったら、あるいはシューベルトのピアノ五重奏がシューマンのそれだったら、きっと体内のセンシティブゲージを最大にして聴いたことでしょう。
しかし、この日はセンシティブゲージは抑えめに、リラックスゲージを最大にして所謂エンジョイモードで聴かせてもらいました。
これが、まさに正解!
堅苦しさの微塵も感じられない雰囲気の中、名人たちの至芸を心ゆくまで堪能することができました。
たとえば、ホルンのバボラーク。
この人、なんでこんなに愉しく、軽々と吹けるんだろう。
モーツァルトの3楽章あたりは難所がいくつかあるはずですが、苦労の跡など全くみえません。
包み込むような大らかな雰囲気、暖かさも相まって、まさに最高に愉しいモーツァルト!
弾き終わった直後の大きなブラヴォーも頷けます。
それにしても、昨年草津やベルリンフィルの来日公演で圧倒的な妙技を披露してくれたシュテファン・ドール、そしてこのバボラークという当代の2大名手をソロホルンに擁するベルリンフィルって、本当に何と贅沢なオーケストラなんだろう。

また、ミュンヘンフィルのコンサートマスターを長く務めたナストゥリカのリーダーシップ、フックスのとろけるような音色、コントラバスのライネの豊かな響き、もうあげていくときりがありません。
何よりもステージの名人たちが、「アンサンブルってこんなに楽しいんだよ。曲も最高だし、皆さんも楽しんで聴いてくださいね」と語りかけているようで、それが何よりも嬉しかった。
アンコールは、新年にふさわしく、「ラデツキー行進曲」。
この日はオペラシティでは一列しかないステージ後方のP席で聴きましたが、会員割引もあって、チケット代はなんと2,700円。
こんな楽しいコンサートが、こんな値段で聴けるとは・・・。
なんだか、思いがけないお年玉をもらったような気分でした。

P.S
15日に聴いたヒラリー・ハーンの素晴らしいコンサートの感想は、次回書きます。

<日時>2009年1月13日(火) 19:00開演
<会場>東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
■モーツァルト:ホルン五重奏曲 変ホ長調 K.407(ホルン:ラデク・バボラーク)
■シューベルト:ピアノ五重奏曲「ます」イ長調 作品114(ピアノ:清水和音)
■シューベルト:八重奏曲 ヘ長調 作品166
(アンコール)
■ヨハン・シュトラウス父:ラデツキー行進曲
<演奏>
ベルリン・フィル八重奏団
■第1バイオリン:ローレンツ・ナストゥリカ
■第2バイオリン:ペーター・ブレム
■ビオラ:ヴィルフリート・シュトレーレ
■チェロ:クリストフ・イゲルブリンク
■コントラバス:エスコ・ライネ
■クラリネット:ヴェンツェル・フックス
■ホルン:ラデク・バボラーク
■ファゴット:ベンツェ・ボガーニ
■ピアノ:清水和音

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下野竜也&読響 メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」(改訂版)ほか

2009-01-12 | コンサートの感想
今年最初の読響マチネーを聴いてきました。

<日時>2009年1月10日(土) 14:00開演
<会場> 東京芸術劇場
<曲目>
《メンデルスゾーン生誕200年記念》
■メンデルスゾーン:トランペット序曲
■メンデルスゾーン:バイオリン協奏曲
■メンデルスゾーン:交響曲第4番「イタリア」(1833/1834稿)
(アンコール)
■バッハ:無伴奏バイオリンソナタ第2番から アンダンテ
■メンデルスゾーン:交響曲第5番「宗教改革」から第3楽章
<演奏>
■指 揮:下野竜也
■管弦楽:読売日本交響楽団
■バイオリン:小野明子

今年は、メンデルスゾーンの生誕200年のメモリアルイヤー。
この日のプログラムもその一環でしょう。
前半のメインはバイオリン協奏曲。
ソロは小野明子さん。
初めて聴かせてもらいましたが、温かな音楽を奏でる人ですね。
肉声に近い響きが、気持ちを和ませてくれます。
ときに、ぎりぎりと締め付けられるような気持ちにさせられることもあるメンコンですが、小野さんの演奏は私の琴線に触れました。
きっと、室内楽でも味のある演奏を聴かせてくれることでしょう。
アンコールでは、バッハのアンダンテを弾いてくれました。
この曲は、奇しくも先日のコンサートで、ヒラリー・ハーンの超名演を聴いたばかりでしたから、さすがに同じというわけにはいきませんが、小野さんの誠実な演奏は心に染みました。
また、聴いてみたいバイオリニストです。


後半は、交響曲第4番「イタリア」。
珍しく改訂版を用いての演奏でした。
改訂版というと、ガーディナーがウィーンフィルと組んで録音したCDを持っていますが、実演で聴けるとは思わなかった。
改訂版では、2楽章以降が、ひとひねりしてあります。
メロディラインの最後が変わっていたり、オブリガードが違っていたりしますが、最も異なっているのは終楽章サルタレロでしょう。
一気呵成に進む緊張感は、改訂版のほうがより鮮烈に感じられます。

この日、下野さんは、とにかく内声部をはっきり表現すること、そしてリズムの弾力性に細心の注意をはらっていました。
その結果、普段は塊としてしかきこえてこない箇所も、生き生きと血が通った音楽として私に迫ってきたのです。
これでこそ、「イタリア」。
いままで私は、正直なところ、下野さんの音楽とあまり相性が良いとはいえませんでしたが、こんな充実した響きを聴くと印象が変わりそうです。
素晴らしいメンデルスゾーンでした。

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ヒラリー・ハーン コラボレートコンサート イン 東京

2009-01-12 | コンサートの感想
ヒラリー・ハーン。
いま、私が最も好きなバイオリニストです。
今年最初に聴いたコンサートは、幸運にも、そのヒラリー・ハーンのコンサートでした。
この日は、シンガーソングライターのジョシュ・リッターとのコラボレートコンサート。
このコラボレーションにかけるヒラリーの思いは相当強いようで、本文の最後に彼女自身の言葉を載せましたので、ご参照ください。

<日時>2009年1月7日(水) 19時開演
<会場>東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
■リッター
・ウィングス
・フォーク・ブラッドバス
・ポッターズ・ウィール
・キャスリーン
・ザ・テンプテーション・オブ・アダム
・ザ・ラスト・ローズ・オブ・サマー
■エルンスト:「夏の名残りのばら(庭の千草)」の主題による変奏曲 (ハーン)
■リッター (ハーン&リッターのデュオ)
・ガール・イン・ザ・ウォー
・シン・ブルー・フレーム
**休憩**
■バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番 イ短調 BWV1003
■エルンスト:シューベルト「魔王」による奇想曲 作品26
■リッター:ジ・オーク・ツリー・キング
■イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第5番 ト長調 作品27-5 (ハーン)
**アンコール**
■パガニーニ:カンタービレ (ハーン&リッターのデュオ)
<演奏>
■ヒラリー・ハーン (バイオリン)
■ジョシュ・リッター(歌、ギター)

プログラムを最初にみたときは、ジョイントと言わずに、全曲ヒラリーの演奏で聴きたいと正直思いました。
でも、彼女が選んだジョシュ・リッターとは、はたしてどんなミュージシャンなんだろう。
興味しんしんで開演を待ちます。
大きな拍手に迎えられて二人でステージに登場したあと、ヒラリーの可愛らしい日本語のあいさつでコンサートが始まりました。

ジョシュ・リッターは、感受性に恵まれた見るからに誠実そうな好青年で、フォークギターを爪弾きながら歌う曲にもそれがよく現われていました。
デリケートな和音の使い方に特色があって、自然に醸しだされる抒情性は、確かにボブ・ディランと相通ずるものがあるかもしれませんね。

さて、お待ちかねのヒラリー・ハーンの出番は、前半のエルンストの「夏の名残りのばら」変奏曲。
この難曲を、こんなに簡単に弾けるものだろうか。
後半の「魔王」もそうでしたが、単に軽々と弾くだけではなく、憎らしいほどのニュアンスを湛えながら聴かせるのです。
ほんとに恐れ入りました。

しかし、この日最も感銘を受けたのは、後半冒頭に弾かれたバッハです。
たとえば、あの長大なフーガ。
さりげなく弾きだされた主題が、自然な呼吸とバランス感を保ちつつ、徐々に姿を変えながら、いつの間にか見事な大聖堂となってその偉容を見せる。
歌に満ちたとか、音色が美しいとか、求心力のある表現だとか、そんな単純な形容詞で彼女の演奏を表現することはできません。
それらをみんな飲み込んだ上で、とにかくすべてが自然なのです。
そして、出来上がった音楽は、類をみないほど透明で瑞々しい。
続くアンダンテも驚くべき演奏。
敬虔な表情で奏でられる旋律と、それを支えるバスの何と見事なこと!
とくにバスは、まるで心臓の拍動のように、弾力をもちながらリズムを刻んでいきます。
そして、バスがあの美しい旋律と一体となった時に、もう比類ない深遠な世界に導いてくれました。

私も、数多くの無伴奏を聴いてきましたが、第2番のソナタでこんなに感動したことは初めてです。
デビューアルバムでバッハの無伴奏を選び、バッハが最も身近な作曲家だというヒラリー・ハーン。
いつの日か、きっと宝物のような無伴奏の全曲録音をしてくれることでしょう。

そして、最後を飾ったイザイにも触れておかなくてはいけません。
彼女の師であるブロツキーはイザイの最後の弟子と言われていますから、ヒラリー自身も語っているように、イザイはやはり特別な作曲家のようです。
しかし、だからと言って、気負いなどは微塵も感じさせません。
この日の5番も、前回のコンサートで聴いた1番と同様に、芯の強さを感じさせながらも、実に自然に音を紡いでいきます。
まるで、「私、この音楽大好きなんです。皆さんも素敵だと思いませんか?」と聴衆に語りかけているかのようでした。
15日のコンサートでは、さらに4番と6番を聴くことができます。
どんな演奏を聴かせてくれるんだろう。
今からワクワクしています。

鳴りやまない拍手に応えて、アンコールとして、パガニーニのカンタービレを弾いてくれました。
フォークギターで相方を務めたジョシュ・リッターが、「この曲は難しい音がたくさんあって緊張しています。上手く弾けるといいのですが・・・」と言いながら聴かせてくれましたが、どうしてどうして。
温かくて素敵なアンサンブルでした。

15日には、同じ東京オペラシティで、再びヒラリー・ハーンの演奏を聴くことができます。
はたして今度はどんな演奏を聴かせてくれるのか、ますます楽しみになってきました。


■ジョシュ・リッターとのコラボレーションについて(by ヒラリー・ハーン)
「さて、ファンの皆さん、ここから先は私とジョシュの間にあるジャンルの違いという先入観を、頭の中から追い出してください。そして、純粋に音楽だけに耳を傾け、私たちが奏でる曲に乗っていっしょに旅に出かけてください。私はこのプロジェクトが実現する運びになって、本当に嬉しく、またとても感謝しているのです。ジョシュと私が創り出せる、最も質が高く最も純粋な音楽を提供するイベントに、参加できるのですから。でも、間違わないでください。このコラボレーションで中心となるのは私たち演奏者ではありません。今回は音楽そのものがスポットライトを浴びる番なのです。私たちは、ただショーに参加しているだけですから。」

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バッハ カンタータ第190番「主に向かいて新しき歌を歌え」

2009-01-02 | その他
新年 おめでとうございます

年末年始、超特急で両方の実家に帰っていたので、新年のご挨拶が遅くなってしまいました。
まだ初詣にも行っていないのですが、心身ともに健康な一年が送れれば、これに優ることはありません。
そんな思いもあって、年初最初に聴いた音楽(帰省中だったので、ipodでの鑑賞でしたが・・・)は、バッハのカンタータ第190番。

この曲は、バッハがライプチヒ時代に書いた新年用のカンタータですが、華やかさと敬虔な美しさの両方の魅力をもった素敵な音楽です。
第1曲の弾むようなリズムと後半のアレルヤを聴くだけで、新年の晴れやかさが自然に体に溢れてきます。
そして、第5曲のデュエットの美しさ。
年の初めに、このカンタータを選んで良かったと思いました。

それから、もうひとつ。
このカンタータの第2曲の歌詞は、現在の社会情勢にあまりにぴったり。
私はクリスチャンではありませんが、心に残ります。
大村恵美子さんの訳でご紹介します。

<第2曲>
(前略)

(バス)
新たの年にも
み恵みと 顧(かえり)みをば
われらに 与えたまえ
神に 感謝せん

(テノール)
み慈しみ
過ぎし日にも あまねく
禍(わざわい) 病(やまい)
戦(いくさ)より 守りぬ
われら 歌わん

(アルト)
み父の まこと
終りなく
日々 新たに 注がる
わが 主よ
されば われら
み前に いでて
いのちの かぎり
ほめ歌を ささぐ
神に 感謝せん



本年もどうぞよろしくお願いいたします。







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