ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ドゥダメル&ウィーンフィル 来日公演(9/25) @サントリーホール

2014-09-29 | コンサートの感想

朝夕、めっきり涼しくなってきた。
そして、自宅近くでは、金木犀の香りも漂い始めた。
もう、秋の気配が感じられる。
そんな中、25日の木曜日に、ウィーンフィルの来日公演を聴かせてもらった。

ウィーンフィルは、世界中で私が最も敬愛するオーケストラ。
2005年10月にムーティが振る来日公演を初めて生で聴いてからというもの、私はすっかりウィーンフィルの虜になった。
もちろんLPやCDのディスクを通して、ウィーンフィルの素晴らしさは知っていた。いや知っていたつもりだった。
しかし、ウィーンフィルが奏でるモーツァルトのクラリネット協奏曲をサントリーホールで聴いたときの感動は、今も忘れることができない。
もちろんペーター・シュミードルのクラリネットも、ウィーンフィルの絶妙のアンサンブルも絶品だった。
しかし、第一楽章冒頭のトントントントンと淡々と伴奏を刻む弦楽器の音に、私は言葉では言えないくらいの衝撃を受けたのだ。
それは羽毛のように柔らかく、重さをまったく感じないサウンドでありながら、モーツァルトの音楽が必要とするリズムはものの見事に表現されていたから。
こんな音、こんな音楽は、いまだかつて聴いたことがなかった。

その時以来、ウィーンフィルは私の心の中で絶対的なアイドルになり、それ以降の来日公演は、かかさず聴いてきた。
しかし、今年の公演は、パソコンの不調という信じられないようなアクシデントがあって、チケットが取れなかった。
痛恨の極みではあったが、「今回は、さすがに縁がなかったと諦めよう。今まで幸運すぎたのだ。それにドゥダメルは若いし、また聴く機会はあるだろう」と強引に自分自身に言い聞かせていた。
そんな折、ずっと視聴しているクラシカジャパンの視聴者プレゼントでウィーンフィル来日公演の招待券のプレゼントがあることを知り、100%だめだろうと思いつつ申し込んだところ、何と奇跡的に当選した。
信じられないことが起こると、人間はよく頬っぺたをつねるというが、今回私は送られてきたチケットを見てもまだ信じられなくて、本当に頬っぺたをつねってみた。
そこで初めて本当に当選したことを実感。次の瞬間小躍りしたのは言うまでもない。こんなこともあるのですね。
クラシカさんには、心からお礼を申し上げます。



<日時>2014年9月25日(木) 19:00 開演
<会場>サントリーホール(大ホール)
<曲目>
■R.シュトラウス: 交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』 op.30
■シベリウス: 交響曲第2番 ニ長調 op.43
<演奏>
■指揮:グスターボ・ドゥダメル
■出演:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(アンコール)
■J.シュトラウス
・アンネン・ポルカ 
・ポルカ『雷鳴と稲妻』

前置きが長くなったが、そんな奇跡的な経緯で聴くことのできたコンサートだったので、私は特別の感慨を持ちながら、開演を待った。
やがて、会場の照明が暗くなりステージが明るくなる。
その後、いつもの光景であるが、コンマスのキュッヒルを先頭にメンバーがステージに登場してきた。
この日のもう一人のコンマスはシュトイデだ。またキュッヒルとともに今シーズン限りで退団するヴィオラの名手コルも、ヴィオラのサブの席に座る。
コンサートの前半は、「ツァラトストラはかく語りき」。
冒頭部分「日の出」はオーディオのデモンストレーションでもよく使われるが、当たり前のことだけど彼らの演奏に、こけおどし的な要素は微塵もない。
絹のような音色、そして豊かな拡がりを持ちながら少しも重さを感じさせないバス。
世界中でウィーンフィルだけが奏でることができるただ一つのサウンドは、この日も健在だった。
パレットの色はとんでもなく多いが、全てが有機的に結びついている。
よく言われることだが、全編まさに歌のないオペラを観ているかのようだった。
「日の出」の後、しばらくして登場する「信仰のテーマ」のなんと美しいことか。
こんなとろけるような表現ができるのは、ウィーンフィルだけだ。
第二部では、なぜか歌劇「サロメ」の中で、サロメがヨカナーンを呼び出すときのシーンが頭をよぎる。
リヒャルト・シュトラウスの爛熟した雰囲気を存分に表現しつくして、前半は終わった。
後半の、シベリウスは、さらに名演。
エネルギーの迸りも強烈で、このオーケストラが本気になったときの凄さをまざまざと感じさせてくれた。

さて、この日タクトを振ったのは、ベネズエラの俊英グスターボ・ドュダメル。
正直に告白すると、「ドゥダメルか。確かに大変な才能だと思うけど、単に才気煥発というか早熟の天才じゃないの」とある種の偏見を持っていた。
しかし、この日の音楽を聴いて、まったくの誤りであることに気づかされる。

まず第一に、彼はまさしく自然流の達人だった。
よく聴くと、「あっ、やってるな」と思う箇所も散見される。しかし、その表現は説得力があり違和感は皆無。大きな流れの中で、極めて自然に表現されていた。

それから二つ目の特徴は、見事としか言いようのない呼吸感の素晴らしさ。
私は、ライブで演奏を聴くときに、できるだけ演奏家と呼吸を合わせて音楽を楽しみたいと思うタイプ。
オケの楽器は何一つ演奏できない私であるが、この日のドゥダメルの指揮であれば、楽器の一つを手に取って気持ちよく演奏に参加できそうな気がした(実際に、そんなことができる筈もありません。でもそんな錯覚を覚えるほど、自然な呼吸感だったということです。)

三つ目の特徴は、全体の見通しが極めて明確であること。
たとえば、シベリウスの第一楽章。聴き手をフィンランドの大地へ誘うような魅力的な描写をしながら、そこにはすでに終楽章のイメージが感じられる。
個々のフレーズはこれしかないという見事な表現を行いながら、決して全体を見失うことはない。

そして、何よりも、音楽に生気を与えることができることが、彼の最高の特徴だろう。
私がムーティを敬愛する理由は、まさにそれだ。
今回私が感じたドゥダメルの美質が最も顕著に表れるのは、ひょっとするとオペラかもしれない。
昨年のスカラ座の公演は聴きそびれたが、次回来日するときは是非とも聴いてみたい。

まだまだ、ドゥダメルは若い。
だから、今回あえてマエストロという言葉は使わない。
しかし、近い将来、彼は必ずや音楽界を席巻することだろう。
また、聴く楽しみが増えた。

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小菅優ピアノ・リサイタル (9/13) @さいたま芸術劇場

2014-09-15 | コンサートの感想

一昨日から昨日にかけて、息子夫婦が孫娘を連れて遊びに来てくれた。
孫娘は、3月30日生まれだから、今月末でちょうど半年になる。
生まれたときは、まさに春の嵐が吹き荒れていた。初めて孫娘を見たときは、小さくて痛々しくて、これで本当に大きくなるのだろうかと、随分心配した。でも、彼女は両親の愛情を一杯もらって、すくすく成長してくれた。今や、家族中の太陽のような存在だ。この子の笑顔を見れるなら、どんなことがあっても我慢できると思う。
こんなことを言うと、やっぱり爺バカかなぁ(笑)。

さて、一昨日は、孫娘が来る前に、地元さいたま市で小菅優さんのコンサートを聴いた。
小菅さんのピアノを聴くのは、5月のラ・フォル・ジュルネ以来。
あの時聴いたベートーヴェンは素晴らしかった。今回もプログラムに入っているワルトシュタインをメインに据えたプロで、非常にスケールの大きな音楽を聴かせてくれたが、一方、規模の小さいソナタでは微妙なニュアンスに富んだ表現で魅了してくれた。
この日は、小菅さんが「どの曲も今私が一番弾きたい曲です」というプログラム。期待して、開演を待った。

冒頭のバッハは、テルデックのバッハ全集で聴いたときはほとんど印象に残らなかったが、小菅さんの手にかかるとなかなか聴かせどころも多く、いい作品だと思った。この曲は、チェンバロよりもピアノの方が合うかも。
前半のメインはワルトシュタイン。5月に聴いたときよりも、さらに情念の迸りをより強く感じた。ただ第2楽章から第3楽章へ移る時の神秘的な雰囲気をもう少し感じさせてくれたら、個人的には最高だったかもしれない。

後半は、武満徹の「雨の樹素描」から始まった。
この曲は、初めて聴いたときから大好きな曲。大江健三郎の短編「頭のいい雨の木」からヒントを得たと言われるが、所謂ゲンダイ音楽とは一線を画するとても美しい音楽だ。小菅さんは、椅子に座った後、なかなか弾きださない。その「無」の時間というか空間が、すでにこの音楽を立派に表現している。続く10年後に書かれた「素描Ⅱ」ともども、きわめて美しい表現だった。
この日の白眉は、続くリストの2作品。最初の「エステ荘の噴水」は、武満さんの作品と「水」つながりなのだろうか。弱音の美しさも抜群で見事な演奏。
そして、さらによかったのは、バラード第2番。凄みのある低音、中世の寺院の鐘を思わせる響き、強烈なパッションとそれと交錯するかのように現れる夢見るような美しい歌。この難曲を小菅さんは余すところなく魅力的に描いて見せた。いやはや凄い表現力だ。
それに比べると、最後の「イゾルデの愛の死」は大変な力演だったが、あのイゾルデが舞台で歌うアリアとははっきり言って別物。ただ、最後の音が消えて10秒、いや20秒以上だっただろうか、あの沈黙の時間を共有できた素晴らしい聴衆には、大きなブラーヴォ。
ベルリン国立歌劇場の来日公演で、ワルトラウト・マイヤーの神々しいまでの名唱を心無い拍手でぶち壊わしにされた経験があるだけに、この日さいたま芸術劇場に来られた聴衆の集中力には感謝してもしきれない。

小菅さんのピアノを初めて聴いたのは、もう10年以上前になるだろうか。
確か読響とのベートーヴェンのコンチェルトだった。
その時に感じた「このピアニストは、絶対大物になる」という予感は、年を重ねるごとに確信に変わるつつある。
毎年、小菅さんのピアノを聴くことは、私にとって大きな楽しみのひとつだ。
終演後、サイン会で小菅さんに感謝の言葉をかけたかったけど、この日ばかりは孫娘の魅力に負けてしまい断念。
次回も、楽しみにしています。 

<日時>2014年9月13日(土) 15:00開演
<会場>彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
<演奏>小菅 優
<曲目>
・J. S. バッハ:イタリア風のアリアと変奏 BWV 989
・ベートーヴェン:ソナタ第21番 ハ長調 作品53 「ワルトシュタイン」
・武満 徹:雨の樹 素描
・武満 徹:雨の樹 素描II -オリヴィエ・メシアンの追憶に-
・リスト:《巡礼の年 第3年》より 〈エステ荘の噴水〉
・リスト:バラード第2番 ロ短調
・ワーグナー(リスト編曲):イゾルデの愛の死

(アンコール)
・ショパン:24のプレリュード 作品28より
 第11番 ロ長調 、第15番 変ニ長調〈雨だれ〉

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