ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ラトル&ベルリンフィル来日公演 ブラームス:交響曲第1番&第2番 

2008-11-29 | コンサートの感想
出張ウィーク継続中です。
今週は鹿児島~宮崎へ行ってきました。
鹿児島は、実に高校の修学旅行以来でしたが、予想をはるかに上回る大都会!
こんなに活気のある街だったっけ。
ほんと、驚きました。
一方、どこか素朴で温かな雰囲気が、訪れた人の心を和ませてくれます。
加えて、「地鶏」「さつま揚げ」「焼酎」・・・。
すっかり、この街のファンになりました。

さて、そんな九州出張前夜にサントリーホールで聴いたのが、ラトル&ベルリンフィルの来日公演。
少し遅くなりましたが、感想を。

<日時>2008年11月25日火)19:00開演
<会場>サントリーホール
<曲目>
■ブラームス:交響曲第1番 ハ短調 作品68
■ブラームス:交響曲第2番 ニ長調 作品73
<演奏>
■指 揮:サイモン・ラトル
■管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

「ラトルは、オーケストラを自然に開かせようとしている・・・」
私がこの日感じたイメージです。
妙な言い方で恐縮ですが、「ソムリエが、ワイン本来の魅力をできるだけ自然に開かせようとする」、そんなスタイルだと感じたのです。
もちろん、天下のベルリンフィルが、硬い状態のワインであるはずがありません。
しかし、ラトルは、ブラームスの音楽が本来持っている姿を、ベルリンフィルという最高の器を通して、ひたすら自然に開花させようとしていました。

ラトルは、オーケストラを力で従わせることも、ドライブすることもありません。
また、カリスマ性で金縛りにすることもしません。
ただただ、自然に音楽を引き出そうとしていました。
まず、右手で拍を刻むことが極めて少ない。
左手で表情を整えながら、目と呼吸で音楽を息づかせる。
強いて例えるなら、カルロス・クライバーの指揮ぶりに似ているでしょうか。
その結果、誰かに強制された痕跡がまったく残らない、まさしくオーケストラの自発性に富んだ音楽を聴くことができました。
でも、オーケストラのアンサンブル能力に少しでも不安がある場合は、この方法は危険でしょうね。
個々の奏者たちの抜群の技量と世界一の合奏能力を誇るベルリンフィルだからこそ、可能だったのかもしれません。

この日の弦は両翼配置でしたが、少し変わった両翼配置。
つまり、左から第1バイオリン、ビオラ、チェロ、第2バイオリン、そして第2バイオリンの後方にコントラバスというポジショニング。

前半の1番では、冒頭から毅然とした早めのテンポで上々のスタート。
しかし、途中、クラリネットが1小節早く飛び出してしまったときは、ラトルも奏者たちも、そして何よりも当人がさぞかし驚いたことでしょう。
私もどうなることかと、食い入るようにステージを見つめていました。
第2楽章では、今シーズン限りで退団する安永さんのソロが感涙もの。
深い情感を伴った演奏に心打たれました。
しかし、終楽章のラスト、ピュウ・アレグロの直前で、ここまで鉄壁のアンサンブルを聴かせてくれた弦に乱れが生じます。
弱音で駆け上がる16分音符を、あくまでもインテンポで弾ききろうとするグループと、クライマックスへ向けてほんの少しだけ粘ろうとするグループに別れてしまったのです。
「あわや空中分解か?」
しかし、かろうじて踏みとどまりました。
でも、危なかった・・・。

思い返してみると、この日ラトルとベルリンフィルの演奏には、大きな特徴がありました。
彼らの深い呼吸感は、私に大きな感銘を与えてくれたのですが、フレーズの終わりでディミヌエンドしたときに、決まってリタルダンドがかかるのです。
また、クライマックスの直前に、音量をがくんと落とす手法が多くみられました。
オペラ的と言ってもいいかもしれません。
しかし、その二つが重なった時に、稀にですが、鉄壁のアンサンブルに乱れが生じたように思います。
これは、ラトルがほとんど拍を刻まないことと無縁ではないでしょう。
この日、私はラトルの横顔がはっきり見える位置で聴いていましたが、ラトルの表情・呼吸から、「少し粘りたいんだろうなぁ」と思いつつも、「ステージにいればやはり迷ってしまうかも」と思う場面も何回かありました。

一方、ラトルのこのスタイルがズバリはまったのが、後半の2番。
これは素晴らしかった。
私が今までに聴いた最高のブラ2のひとつです。
全編を貫く瑞々しい歌、和音の動きに応じて陰影をつけながらデリケートに変化する響き、圧倒的なクライマックス、どれもこれもブラームスがイメージした通りの音楽だったと思います。
休符が「単なる無音」に終わらず、聴き手の息遣いを止めるほど意味深いものであったことも付け加えておきます。

前半だけで終わっていたら、きっと首をかしげながら帰ったことでしょう。
しかし、2番の素晴らしさは、前半のもやもやを見事に吹き飛ばしてくれました。
ラトルとベルリンフィルの「開花させる」スタイルは、歴史的な高みを目指してまだ発展途上なのかもしれません。
少し早すぎますが、次回彼らの演奏を聴くのが待ち遠しくなりました。
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ボジョレー・ヌーヴォー&サン=サーンス:バソンのためのソナタop.168 

2008-11-24 | CDの試聴記
最近、にわかに仕事が立て込んできました。
出張に加えて、飛び込みのコンサルも入ってきたりで、なかなか落ち着いて考える時間がありません。
こんなときこそ、チャンネルの切り替えが重要ですよね。

とかなんとか理由をつけつつ、先日解禁になったボジョレーをいただきました。
今年の銘柄は、フィリップ・パカレ。
パカレといえば、あのロマネコンティの醸造長のオファーを断り、独自の道を歩んでいることであまりにも有名ですが、彼のボジョレー・ヌーボーを飲んだのは今回が初めてです。
さて、そのお味は?
美味しい!
とにかく美味しい。
こんなフルーティで上品なボジョレーは、いままで飲んだことがありません。
あっという間に、ボトル1本空いてしまいました。
芳醇なワインもいいけど、このボジョレーは、何よりも幸せを運んでくれるような気がしました。

美味しいワインとくれば、やっぱり美味しい?音楽を聴きたくなります。
ボジョレー・ヌーヴォーとマリアージュする音楽といえば、やはりフランスもの。
少し迷って、サン=サーンスのバソンのためのソナタにしました。
先日、彼のクラリネットソナタをご紹介したところですが、このバソンのためのソナタも同じく晩年に作曲された作品で、文字通りの名品です。
曲を決めた後、いつもは「誰の演奏で聴こうか?」と迷うのですが、今日は一瞬たりとも迷うことなくモーリス・アラール盤に決めました。
それほどまでに、このアラールの演奏は飛びぬけています。

この甘く切ない表情。
ファゴットを聴きなれた耳には、信じられないような音色です。
うっかりすると、サックスに聴き違えるかも・・・
しかも、上品さも軽快さも併せ持っているのですから、恐れ入ります。
ピアノのダルコが、これまた水際立った演奏。
まずもって、この曲最高の名演と申せましょう。

しかし、このモーリス・アラールがジュネーブ国際コンクールで満場一致の第1位に輝いたのは、1949年のことです。
そして、そのとき第2位に入賞したのは、あの名手ポール・オンニュでした。
何とハイレベルなコンクール!
フランスの管楽器の輝かしい伝統は、こんなところにも現われているのですね。

サン=サーンス:バソンとピアノのためのソナタ op.168
<演奏>
■モーリス・アラール(バソン)
■アニー・ダルコ(ピアノ)
<録音>1975年
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「トリオ・ウィーン」コンサート in  川口

2008-11-08 | コンサートの感想
一昨日、ウィーンを中心に活躍するフォゥグ夫妻と、ウィーンフィルの首席フルート ウォルター・アウアーのトリオを聴いてきました。
会場は川口リリアホール。
川口駅からリリアホールへ向かって歩いて行くと、大変な人ごみです。
「えっ、そんなにこのトリオ人気があったの?」
首をかしげながらホールへ着くと、理由がわかりました。
1階のメインホールで、ほとんど同じ時間に神野美伽さんのコンサートがあったのです。
それにしても、すごい人の数と熱気・・・。
やはり演歌ファンは多いのですね。

4階の音楽ホールへ昇っていくと、いかにも室内楽コンサートらしい雰囲気。
妙に安心?して、開演を待ちました。
最初の曲は、ハイドンのピアノトリオ。
陽子・フォゥグさんのピアノが闊達で、全体をリードしていきます。
ベーゼンドルファーの音色が何とも魅力的。
フルートのアウアーもさすがに上手い。音色も輝かしいし、どのフレーズも生命力に溢れています。
気になったのは、陽子さんのご主人ヨァゲン・フォゥグのチェロ。
もちろん、彼の音色やアンサンブル能力の高さは、ウィーンフィルのチェリストであることの何よりの証ですが、惜しむらくは音が引っ込んでしまうのです。
素晴らしい演奏だけど、とにかく遠い!
ハイドンに限らず、すべての曲がそうでした。

この日の私の席は前から7列目のセンターという絶好のロケーションでしたから、聴いたポジションの問題ではないと思います。
絶対的な音量の問題なのか、音色の柔らかさの問題なのか・・・。
大袈裟に言うと、どの曲も「フルートとピアノのための協奏風ソナタ、チェロの伴奏付き」という印象がぬぐえきれませんでした。
バロックの音楽では、まだ通奏低音だと割り切ってしまえばいいのですが、フランセやメンデルスゾーンではそうはいきません。
とくにメンデルスゾーン(有名な1番のピアノトリオ。バイオリンをフルートで演奏した版)では、もっと、むせかえるようなロマンティシズムが欲しかった。
節度のある端正なスタイルに魅かれながらも、もっと心の叫びのようなものを聴きたかったというのが本音です。

ただ、このような書き方をすると、いかにも不出来なコンサートのように思われるかもしれませんが、室内楽コンサートとしては十分すぎる水準だったし、ウィーンの香りをたっぷり味わえただけでも幸せでした。
ちょっと我儘だったかもしれません。
それから、この日、最も鮮烈な印象を与えてくれたのは、やはりアウアーでした。
きらきらと輝くような才能に溢れた若きフルーティストは、これから、シュルツと並んでこの名門オーケストラの顔になっていくことでしょう。
また、これからの楽しみが増えました。

この日の運営で、ちょっと苦言を呈したいのは、楽章の合間に遅れてきた客を次々にホールに入れたこと。
前半は3曲もあったのだから、1曲終わってからでも十分でしょう。
大きく響く靴の音、座席に着くときの大きな雑音、着席時の話し声。
いずれも、コンサートの雰囲気を大きくぶち壊すものでした。
よく奏者たちが切れなかったものです。
京浜東北線が事故で遅延していたのでやむを得ない部分はありますが、開始時間を遅らせた上にこの運営は、決して褒められたものではありません。
今後、配慮いただきたいものです。

<日時>2008年11月6日(木)19:00開演
<開場>川口総合文化センターリリア 音楽ホール
<曲目>
■ハイドン:フルート、チェロ、ピアノのためのトリオ
■フランセ:フルート、チェロ、ピアノのためのトリオ
■テレマン:2本のフルートと通奏低音のためのトリオ
(休憩)
■メンデルスゾーン:ピアノトリオ
(アンコール)
■ディヒラー:ピアノトリオのための作品
<演奏>
■ピアノ:陽子・フォゥグ
■チェロ:ヨァゲン・フォゥグ
■フルート:ウォルター・アウアー
■フルート:横田美穂 (テレマンのみ)
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サン=サーンス:クラリネットとピアノのためのソナタ 変ホ長調 作品167

2008-11-05 | CDの試聴記
「ある秋の日、草原の陽だまりの中で、子供たちの遊ぶ姿を見ているような音楽。」

サン=サーンスのクラリネットソナタを初めて聴いたときの私の印象です。
この曲をまだ聴いたことがない方がいらっしゃったら、ぜひ第1楽章冒頭の1分間を聴いてみてください。
きっと分かっていただけると思います。
そして聴き進んでいくと、それが、どこかレトロな回想シーンのように感じられませんか?
それも、そのはず。
このソナタはサン=サーンスの最晩年(=死の年)の作品なのです。
この年、サン=サーンスは3曲の管楽器のためのソナタを書きました。
オーボエソナタ、バソンのためのソナタ、そしてこのクラリネットソナタです。
いずれも名曲として知られていますが、冒頭から忽ち聴き手を虜にしてしまうような自然で明るい雰囲気が共通しているでしょうか。

このクラリネットソナタは、一度聴いたら忘れられないくらい魅力的な表情で始まります。
そして、はしゃぎ回る子供の姿が見えてくるような第2楽章を経て、深い感動を呼ぶのは第3楽章のレント。
このピアノの強く重い低音は、いったい何だろう。
今までまったく見せなかった重苦しい表情。
そして、すぐにクラリネットも加わり、同じように低音域で強く何かを訴えます。
慟哭?
上方に向かって駆け上がるピアノのアルペッジョがクライマックスを築いたあと、今度は、クラリネットが音を高音域に上げて、淋しくも儚い調べを奏でます。
そのクラリネットが奏でるフレーズの最後の音を引き取るかのように静かに弾かれるピアノのアルペッジョ。
このアルペッジョが、震えるほどに美しい。

終楽章は、とても明るい音楽だけど、私には「手に届きそうで届かないものを求めて、懸命に駆けている」姿が思い浮かびます。
「生き生きとして・・・」というよりも、むしろ空虚な感じでしょうか。
そして、最後に第1楽章のテーマが戻ってきて、このソナタは静かに終わります。

このディスクで瑞々しい演奏を聴かせてくれるクラリネットの名手ポール・メイエは、このとき20代半ば。
この録音がデビュー盤だそうです。
エリック・ル・サージュとの息もぴったり。
素敵な名盤だと思います。

そういえば、来年2月に、このコンビの演奏を実際に聴くことができます。
デビュー録音から約20年の歳月を経て、はたしてどのように成熟した演奏を聴かせてくれるのでしょうか。
今から楽しみです。

<曲目>
■サン=サーンス:クラリネットとピアノのためのソナタ 変ホ長調 作品167
■ショーソン:アンダンテとアレグロ
■ドビュッシー:小品/ドビュッシー:ラプソディー 第1番
■ミヨー
 クラリネットとピアノのためのソナチネ 作品100
 クラリネットとピアノのためのデュオ・コンチェルタント 作品351
 カプリス 作品335a
■プーランク:クラリネットとピアノのためのソナタ
■オネゲル:クラリネットとピアノのためのソナチネ
<演奏>
ポール・メイエ(クラリネット)
エリック・ル・サージュ(ピアノ)
<録音>1991年4月23~25日 フランクフルト、フェステブルク教会

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山田一雄&N響 モーツァルト:交響曲第41番「ジュピター」

2008-11-02 | BS、CS、DVDの視聴記
たまりにたまったビデオやDVDの整理を始めているのですが、まる一日かかっても遅々として進みません。
それもそのはずです。
「これ、何が入っているんだっけ」、あるいは「どんな演奏だったかなぁ」と、すぐに脱線して「チェック」と称して見始めるものだから、当然ですよね。

しかし、この「脱線、ぶらりチェックの旅」も、なかなか良いものです。
なくなったと思っていた映像に出会ったり、改めて演奏の素晴らしさに心打たれたりで、あっという間に時間が過ぎていきます。

そんな中、再び出会った素敵な演奏(映像)が、山田一雄さんが指揮したジュピター。
ソースは、NHKで昔オンエアされたものを録画したビデオなのですが、聴きながら心洗われる思いがしました。
1990年11月のコンサートですから、マエストロ78歳のときの演奏ということになります。
しかし、何と瑞々しいんだろう。
これが80歳近い老人の音楽?
所謂ピリオド奏法とは対極のスタイルですが、まったく古臭さを感じさせません。
どのフレーズもしっかり響かせていきますが、とってつけたような作為的な表情が皆無で、すべての音に真実味が感じられます。
中庸を得たテンポ、弾力性をもったリズム、趣味のよさ、歌ごころ、凡そモーツァルトに必要とされるものが、山田さんの音楽の中にありました。
こんな素敵なジュピターには、そうそうお目にかかれないと思います。

山田さんといえば、大学生の頃に『指揮の技法』という本を通して、大変お世話になりました。
お世話になったといっても、直接お目にかかって指導を受けたわけではありません。
大学のマンドリンオーケストラの指揮をすることになって、「指揮?いったい、どうやって勉強するんだ・・・」と悩んだ挙句、山田先生の著書である『指揮の技法』を師としてやろうと決め、がむしゃらに読んだのです。
毎日毎日、文字通り読みふけりました。
半年くらいたつと、本は擦り切れてぼろぼろになってしまいましたが、その明快な表現のおかげで、何とか指揮の真似ごとができるようになりました。
その意味で、今でも心から感謝しています。
『指揮の技法』は、斎藤秀雄さんの有名な『指揮法教程』とともに、日本の誇るべき名著だと思います。

こんな風にしてこの名演奏と再会した私は、さっそくビデオからDVDにダビングしました。
これから、きっと私の宝物になることでしょう。

(データ)
モーツァルト:交響曲第41番ハ長調「ジュピター」
<演奏>
■指 揮:山田一雄
■管弦楽:NHK交響楽団
<録音>
■1990年11月26日
■サントリーホール
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