ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

2007年 私の聴いたコンサート ベスト10

2007-12-29 | コンサートの感想
今年、私の心に残ったコンサート&オペラのベスト10を選んでみました。
今年はドイツ系オペラの豊作の年。とくに、秋はヨーロッパの名門オペラ座が相次いで来日し、いずれも素晴らしいステージを観せてくれました。
断トツのトップは、バレンボイムの「トリスタン」。
次いで、チューリッヒの「ばらの騎士」、コルボのフォーレが続き、そのあとは順不同です。
しかし、昨年も感じましたが、10公演に絞るのは本当に難しいなぁ。
ドレスデンの「ばらの騎士」はチューリッヒと演目がダブるので泣く泣くカット、また、コバケンとアルブレヒトのマーラーの9番も同じ理由で選びませんでした。
ドレスデンの「サロメ」は、とりわけオーケストラの芳醇な音色に惹かれましたが、演出が気に入らなかったのでこれもカットしました。
メルベートのエリーザベトが出色だった新国立の「タンホイザー」、小菅さんのリスト、スクロヴァチェフスキのブラームスも忘れられない名演でした。

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☆ベルリン国立歌劇場 ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」
<日時>2007年10月17日(水)15:00~
<会場>NHKホール
<演奏>
■フランツ、マイヤー、パーペ、トレケルほか
■バレンボイム指揮 ベルリン・シュターツカペレ 同合唱団

今年のベスト1は、断然これ。
まさに当代随一のトリスタンでした。
私が今まで観たオペラの中でも、10年前の「バレンボイムのワルキューレ」、昨年ウィーンで観た「ムーティのフィガロ」とならんで、間違いなくベスト3に入ります。
パーペ演じるマルケ王の悲しみ、神々しいまでのマイヤーのイゾルデ、ホール全体を官能の渦に巻き込んだバレンボイムの統率力。
もう言葉はありません。
「愛の死」の感動的な場面と共に、決して忘れることはないでしょう。

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☆チューリッヒ歌劇場 リヒャルト・シュトラウス:「ばらの騎士」
<日時>2007年9月8日(土)14:00開演
<会場>Bunkamuraオーチャードホール
<演奏>
■シュテンメ、カサロヴァ、ハルテリウス、ムフほか
■ウェルザー=メスト指揮 チューリッヒ歌劇場管弦楽団 同合唱団

決して私に近づいてくれなかった「ばらの騎士」が、私のほうにやっと微笑んでくれた記念すべき公演。
この公演を機に、「ばらの騎士」は、私の大切なオペラになりました。
センス溢れるウェルザー=メストの指揮のもと、寄せ集めではなかなか実現しない緊密なアンサンブルが、このオペラの素晴らしさを教えてくれました。

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☆チューリッヒ歌劇場 ヴェルディ:「椿姫」
<日時>2007年9月1日(土)15:00開演
<会場>Bunkamuraオーチャードホール
<演奏>
■エヴァ・メイ、ベチャーラ、ヌッチほか
■ウェルザー=メスト指揮 チューリッヒ歌劇場管弦楽団 同合唱団

チューリッヒオペラを二演目とも選んだのは、それだけ魅力的だったから。
エヴァ=メイのヴィオレッタは、技術的にも安定しており、声質・容姿ともに
私の理想像。芸達者のヌッチのジェルモンも◎。
「ばらの騎士」同様、これだけ緊密なアンサンブルを聴かせられるというのは、やはり何度も上演を重ねてきた賜物だと思います。

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☆コルボ フォーレ:宗教曲集
<日時>2007年5月4日(金)
<会場>東京国際フォーラム
<曲目>
フォーレ作曲
■小ミサ曲
■ラシーヌの賛歌 作品11
フォーレ&メサジェ作曲
■ヴィレルヴィルの漁師たちのためのミサ曲 ほか
<演奏>
■アナ・キンタンシュ(S)
■ミシェル・コルボ指揮、ローザンヌ声楽アンサンブル、シンフォニア・ヴァルソヴィア

何回か上演されたレクイエムとは異なり、ラ・フォル・ジュルネの期間中、たった一回だけのプログラム。
このフォーレの珠玉のような作品を、こんなに素晴らしいコルボたちの演奏で聴くことは奇跡に近いかもしれません。
ラシーヌ賛歌はもちろん、小ミサ、メサジェとの共作のミサ曲等、もう聴きながら涙がとまりませんでした。

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☆コルボ フォーレ:レクイエム
<日時>2007年5月3日(木)
<会場>東京国際フォーラム
<曲目>
■フォーレ:レクイエム 作品48
<演奏>
■アナ・キンタンシュ(S)、ピーター・ハーヴィー(Br)
■ミシェル・コルボ指揮、ローザンヌ声楽アンサンブル、シンフォニア・ヴァルソヴィア

数あるレクイエムの中でも、最も清楚で美しい音楽、それがフォーレのレクイエムです。
その最美の音楽を、コルボが演奏する。
もう、祈るような気持ちで開演を待っていました。
MICKEYさん・ユリアヌスさんと一緒に聴きましたが、3人とも終演後言葉が出ません。
そのくらい、透明感に溢れ、かつ豊かな演奏でした。

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☆アレクサンダー・ガヴリリュク ピアノリサイタル
<日時>2007年12月1日(土) 18:00開演
<会場>東京オペラシティ コンサートホール  
<曲目>
■バッハ(ブゾーニ編):トッカータとフーガ二短調 BWV565
■ラフマニノフ:練習曲集「音の絵」op.39(全9曲)他

私のハナマル推薦のピアニスト。
ガヴリリュクは華麗な超絶技巧の持ち主ですが、真骨頂は、その素晴らしいテクニックがすべて「音楽を表現する」ことに使われていること。
これだけデリケートに、かつレガートに弾けるピアニストも少ないでしょう。
シューベルトのうた、ラフマニノフの詩的かつ華麗な表現、いずれも申し分ないレベルで聴かせてくれました。
この若さでこの完成度。早熟の天才にならないことを祈るばかりです。

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☆ナタリー・デセイ ソプラノリサイタル
<日時>2007年11月21日(水) 19:00 開演
<会場>東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
■ドニゼッティ:「ランメルモールのルチア」より 狂乱の場
■ヴェルディ:「椿姫」より“不思議だわ~そは彼の人か~花から花へ”
ほか
<演奏>
■ナタリー・デセイ(ソプラノ)
■サーシャ・レッケルト (ヴェロフォン)
■エヴェリーノ・ピド 指揮、東京フィルハーモニー交響楽団

待ちに待ったデセイのコンサート。
あいにく体調が良くなかったようですが、それでも歌いだすと、ステージはデセイの世界。
役になりきった歌唱の上手さは天才的です。
次回は、是非オペラの中で観てみたい。「椿姫」は近く海外で歌うそうですが、日本にも来ないかなぁ。
また、ルチアで優しく響いたヴェロフォンも印象的でした。

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☆バレンボイム マーラー交響曲第9番
<日時>2007年10月12日(金)7:00開演
<会場>サントリーホール
<演奏>
■指 揮:ダニエル・バレンボイム
■管弦楽:ベルリン・シュターツカペレ

同じメンバーのCDを聴いて、チケットをとったコンサート。
今年3回目のマラ9でしたが、バレンボイムが最も印象的でした。
終楽章に至るドラマが実に巧みに構築されていて、感銘を与えてくれました。
ラストで数十秒の沈黙を演出したこの日の聴衆にも、大きなブラヴォー!

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☆ケフェレック ピアノリサイタル
<日時>2007年5月3日(木)
<会場>東京国際フォーラム
<曲目>
ラヴェル作曲
■亡き王女のためのパヴァーヌ、鏡 ほか
<演奏>
■アンヌ・ケフェレック(p)

昨年のモーツァルトの演奏で、すっかり虜になってしまったケフェレック。
今年はラヴェルでしたが、とにかく音色が多彩。
ひとつの音色を使ったら、その余韻を聴き手に十分意識させておいて、次の色を使う。しかも微妙に音量を変化させてくる。
もう、最高にチャーミングなラヴェル!

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☆ブルネロ チェロリサイタル 
<日時>2007年2月14日(水) 19:00開演
<場所>東京文化会館 大ホール
<曲目>
■ブラームス:チェロ・ソナタ第1番 ホ短調 作品38
■シューマン:アダージョとアレグロ 変イ長調 作品70 ほか
<演奏>
■マリオ・ブルネロ(チェロ)
■アンドレア・ルケシーニ(ピアノ)

昨年、アバド&ルツェルンのブラームスのピアノ協奏曲で聴いたチェロソロがあまりに素晴らしかったので、何としてもリサイタルを聴きたかったブルネロ。
ブルネロのチェロは本当によく歌う。しかし、決して一線を踏み越えない。
バレンタインデーの、素敵なブラームス・シューマンでした。
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(オルフェオ盤)フルトヴェングラー バイロイトの第九

2007-12-25 | CDの試聴記
最近、天下の名盤であるバイロイトの第九を聴きながら、「かけがえのない貴重なモニュメントではあるが、じっくり聴くと、思った以上にあらが目立つ。完成度という点では、やはり寄せ集めのオーケストラというデメリットがあったのでは?」と、不遜な感覚が脳裏をよぎるようになりました。
そんな折、この新音源によるバイロイトの第九を聴いたのです。
このブログでバイロイトの第九を採りあげるのは、これが3回目。
従来のEMI音源による演奏と今回のオルフェオ盤(バイエルン放送による新音源)の比較は、レコ芸誌上でもかなり細かく指摘されているので、そのあたりには触れません。 このオルフェオ盤も、「当日の本番」、「当日のゲネプロ」、「当日の本番・ゲネプロの合成」のいずれかに違いありませんが、私たちが注意をはらうべきは、いずれのケースであっても、「その演奏が、音楽そのものを、どれだけ強いインパクトをもって伝えてくれるか」だと思います。

このオルフェオ盤を聴いて、私はホール全体の空気がとてもきれいになった感じがしました。
だからこそ、会場のノイズが、従来と明らかに違います。
咳の箇所も少し異なるようですが、咳払いの声がそれだけ生々しいのです。

第1楽章
この楽章のクライマックスである再現部の前にさしかかると、フルトヴェングラーは徐々にテンポを上げて高揚感を醸し出します。しかし、再現部に入る直前ではほんの少し手綱を緩め、堂々と冒頭主題を凱旋させます。
そして、直後にもう一度主題を表現する時は、一転してリズムに切れ味鋭いアクセントを入れ、みるみる緊張感を増していく。
聴きながら、私ははやくも鳥肌がたってきました。
これなんだ。
クライマックスだからといって、「それー 全軍突入!」ではなくて、一旦引き締めて音楽の威容を見せてから、ぐぐっとテンションをあげる。
これをやられると、聴き手は、もうフルトヴェングラーの作り出す時間と空間に身を任せるしかありません。
話は逸れますが、昨年、アバド&ルツェルン祝祭管のマーラーの6番をきいたときもそうだったのです。
途中からふっと空中に舞い上がってしまって、あとはアバドのなすがまま。
はっと気がついたら、終演後30秒にも及ぶ長い沈黙の中で、かつて経験したことのないような感動にうち震える自分がいたのです。
マーラーの音楽が凄いのか、アバドが凄いのか、いまだに分かりません。
1951年7月29日、このバイロイトの祝祭劇場に居合わせた人も、きっと同じような感覚を味わったのではないかしら。

第2楽章
内声部が実に明瞭に聞こえます。
そして力んでいない。
今までこの第九で感じなかった「軽やかさ」を感じました。
しかし、腕をリラックスさせて自由に羽ばたいていたかと思うと、次に3連符で追い込んでいく箇所にさしかかるや否や、今度は一転して脇を締め、たたみ掛けるような集中力をみせる。
この緊張と弛緩が交錯する彼の音楽の凄さ!
この演奏を聴いて、その奥義の一端を垣間見るような思いでした。

第3楽章
とにかく呼吸が深い。
一つ一つのフレーズをみると、少し濃い目の表情がつけられています。
しかし、それは、大きな流れの中で、ごく自然に行なわれています。
そして、どんなにゆったりと横に流れるような歌い方をしても、常にベースとなるリズムが心臓の拍動のように息づいているのです。
だからこそ、決してべたつかないし胸につかえない。
それでも、ホルンの音程の悪さはやはり気になるし、アンサンブルも完全とはいえない。
ただ、その技術上の問題点が気になりだした直後、決まって神々しいまでの表現で聴き手を魅了するのです。このあたりも、フルトヴェングラーの偉大さの証でしょう。
また、最後から2小節前に登場する16分音符のフレーズ。この何気ないフレーズを、こんなに心を込めて大切に演奏した例を、私はほかに知りません。

第4楽章
もう言い尽くされた感がありますが、歓喜の歌のテーマが低弦で出る直前の表現が本当に凄い。
直前のながいパウゼ(スコアにはありません!)では、聴衆は息をすることすら憚られたのではないでしょうか。
その聴衆の緊張感が、このCDでは実に良く分かります。
そして、聴こえるかどうかという弱音で、低弦楽器があのテーマを歌いだします。
この箇所のフルトヴェングラーマジックは、何度も何度も聴いて、私もよく知っているつもりだったのに、今回またしても感慨を新たにすることになりました。
ヴィオラ・ファゴットに続いてヴァイオリンが加わったあと、終盤に強烈にかけられるアッチェランドも、もうこれしかないというはまりかた。
まだ声楽は入ってこないけど、「このテーマをみんなでいったん共有しよう」と呼びかけるフルトヴェングラーの、いやベートーヴェンの熱い思いが、胸に迫ってきます。
そして、いよいよバリトンの登場。
エーデルマンは、今まで聴いた中で、最も落ち着いた表現に聞こえます。
また、ラスト近くのポコ・アダージョで聴かせる、ソリストたちの4重唱の美しさも特筆ものです。
とりわけシュワルツコップの気品のある歌唱には、もう言葉を失ってしまいそう。

「バイロイトの第九」の終楽章は、もはやコメント無用の世界ですが、EMI音源とは少し違うと思われる部分が何箇所かでてきます。
アラ・マルシアの直前、330小節のクレッシェンドがなくなっているのもそうだし、金管とくにトロンボーンの音が強めに響くことが特徴的です。
器楽だけのフーガが終わった直後のアンダンテ・マエストーソ。ここで聴くトロンボーンの音を「最後の審判を告げるラッパ」のように感じたのは、私だけでしょうか。
いずれにしても、総じてこのオルフェオ盤のほうが、EMI音源のディスクよりも私には好ましく感じました。
そして、なんといってもラストのプレスティッシモ。
この部分を聴くだけでも、このディスクは値打ちがあるかもしれない。
あの空中分解寸前のEMI音源に対して、スリリングな印象はそのままに、力強くフィニッシュするエンディングは、必ずや聴き手にあらたな感動を与えてくれることでしょう。

このバイロイトの第九は、誰が何と言おうと、やはり天下の名盤でした。
そして、少なくとも私にはこの1枚があれば、もう迷うことはなさそうです。

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下野竜也&読売日響/ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱付」

2007-12-23 | コンサートの感想
昨日、私にとって今年最後となるコンサートへ行ってきました。
演目は、読響マチネの第九。
指揮者は正指揮者の下野竜也さん。

<日時>2007年12月22日(土)午後2時開演
<会場>東京芸術劇場
<曲目>
■ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調op.125「合唱付」
<演奏>
■ソプラノ:林 正子
■メゾ・ソプラノ:坂本 朱
■テノール:中鉢 聡
■バリトン:宮本 益光
■指 揮:下野 竜也
■管弦楽:読売日本交響楽団
■合 唱:新国立劇場合唱団

下野さん&読響の第九といえば、 3年前にも聴いたことがありますが、そのときは、いろいろ考えさせれられる結果になりました。
さて、今回はどうだろうか。
期待と不安をもって聴きに行きました。

結論から言ってしまうと、◎。
3年前に感じた「一緒に呼吸できない」という息苦しさはなく、速めのテンポだけど音楽は豊かに響いていました。
下野さんに、前回感じられた「ある種の力み」がなくなったことと、オケが下野さんの音楽作りに共感していたことが、その理由だと思います。
しかし、この日の第九が素晴らしい演奏になった最大の要因は、オケを対抗配置にしたこと。
これは大きかった。
第1楽章から、第2ヴァイオリンとヴィオラといった内声部が実に鮮明に聴こえてきます。これはこの曲の場合大変重要なことで、対旋律がはっきりすることも勿論ですが、中間部のクライマックスでも32分音符の刻みが明瞭に聴こえてくるので、音楽に一本筋がとおった印象を与えてくれます。
これほど効果的だとは思いませんでした。
そして、終楽章。
「歓喜の歌」のテーマが、まずチェロとコントラバスによって、中央やや左から弱音で響いてきます。
次いで、中央やや右側からファゴット・ヴィオラがこれに加わり、最後に両翼からヴァイオリンも歌いだします。
つまり、ステージ中ほどで「あのテーマ」が自然に湧き出し、じわーっと、しかし徐々にはっきりした輪郭を伴って、ホール全体に広がっていくのです。
「ああ、こんな風な拡がり方を、ベートーヴェンはイメージしていたんだ」と私は確信しました。
ただ、最後のマエストーソのテンポには、3年前と同様に「おお・・・」という感じ。
通常ラストのプレスッティシモに備えて、思い切ってテンポを落とすところですが、速めのテンポで通してしまうのです。
スコアを見ると、テンポは(4分音符=60)ですから、このくらいの速さになってもおかしくありません。しかし、弦楽器は死に物狂いだろうな・・・。

ソリスト4名も、それぞれに好演。
最も印象に残ったのは、ソプラノの林さん。
ともすれば、絶叫に近い歌い方で、いったい何を歌っているのかさっぱり分からないようなソプラノもいますが、彼女の歌唱はまったく違いました。
声もよくとおるし、歌詞が明瞭にわかることが何より素晴らしかった。
バリトンの宮本さんは、張りのある素晴らしい声で歌ってくれましたが、少し力んでいたかなぁ。
聴衆に対して、自ら信じるところを語りかけるような歌い方でも良かったかもしれません。

それから、新国立劇場合唱団にもブラーヴォです。
10月に聴いたタンホイザーの合唱がとても良かったので、期待していましたが、まさに期待に違わず見事なコーラスでした。

というわけで、冒頭書いたように、一抹の不安を持って聴きにいった第九でしたが、心地よい感動を胸に、気持ちよく帰路につかせていただきました。

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小菅優 ピアノ・リサイタル

2007-12-10 | コンサートの感想
昨日、小菅優さんのピアノリサイタルへ行ってきました。
5月のラ・フォル・ジュルネで2回ばかり室内楽は聴いたのですが、小菅さんのソロは今年初めて。
夏の軽井沢で何としても聴くつもりだったのですが、日程があわず遂に師走になってしまいました。
大ファンだと公言しておきながら、年間1回もソロを聴かないなんて許されるはずもありませんから、まずはよかった・・・(笑)

<日時>2007年12月9日(日)15:00開演
<会場>彩の国さいたま芸術劇場 音楽ホール
<曲目>
■バッハ: インヴェンションとシンフォニア BWV772-801
■リスト: ピアノ・ソナタ ロ短調 S178
■リスト:ノクターン“夢のなかに” S207
(アンコール曲)
■ショパン: エチュード ハ短調 作品25-12
■ショパン:夜想曲第20番 嬰ハ短調 遺作 「レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ

前半はバッハ・後半はリストという、非常に主張のはっきりしたプログラミング。
12月に入ってコンサートツアー真っ最中の彼女ですが、この日のプログラムだけ少々違ったようです。
バッハの2声のインヴェンションを、三声のシンフォニアとあわせてコンサートで全曲演奏するなんて、小菅さんクラスのピアニストとしては珍しいことだと思います。
しかし、このインヴェンションとシンフォニアは、彼女が子供時代からバッハの素晴らしさに触れた原点ともいうべき作品だそうで、その思いは演奏からも伝わってきました。
豊かな響きに支えられたバッハで、小細工をしない真摯な演奏が、私にはとても好ましく感じました。
二声の後半(第11曲のト短調あたりから)、そしてシンフォニアがとくに良かったなぁ。
三声のシンフォニアを聴きながら、その奥に、ずっと平均律の響きを聴いていたような気がします。

さて、後半はリストのソナタ。
結論から言うと、素晴らしい技術と表現力で、見事なリストだったと思います。
全体の造型がしっかりしているので、ときに熱く燃えるような表現をしても、その部分だけが浮き上がってしまうことがありません。
弱音のはっと息をのむような美しさも、実に印象的。
最後に冒頭のテーマが戻ってくる少し前あたりから、私はぞくぞくしながら、全曲をダイジェストシーンのように回想し続けていました。
そして、最後の音が消え、一瞬の静寂の後、続けて“夢のなかに”が演奏されました。
プログラムをみたときは、そのまま「ロ短調ソナタ」で終わったほうが良いようにも思いましたが、これはこれで素晴らしい効果があったように思います。

アンコールはショパンの作品を2曲。
とく1曲目のエチュードが素晴らしかった。16歳時のCDとは随分違いました。
策を弄さない思い切りの良さと、情念の迸りのようなものが随所に感じられて、私は大変感銘を受けました。
ブラヴォーの声がかかっていましたが、当然でしょう。
終演後は、サイン会があると聞き、長い列に並んで恥ずかしながらCDにサインをしていただきました。

2週続けて、幸運にも、私が最も大きな期待を寄せている二人のピアニストの演奏を聴くことが出来ました。
いずれ劣らぬ逸材ですが、完成度ではガヴリリュク、今後どんな風に変貌を遂げるかという期待度で小菅さん、といった印象でしょうか。
10年後、2人のコンサートチケットは、きっと倍の値段になっていることでしょう。

ところで、この日は、いつもお世話になっている桜桃さんご夫妻もコンサートに来られていて、演奏の合間にはワイン片手に(いや違った!桜桃さんは、じっと我慢の珈琲で、まことに申し訳ありませんでした)、楽しくお話をさせていただきました。
また、是非次の機会も宜しくお願いいたします。
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アレクサンダー・ガヴリリュク ピアノ・リサイタル

2007-12-01 | コンサートの感想
アレクサンダー・ガヴリリュク。
私が、小菅優さんとともに、はなまるイチオシのピアニストです。
昨年、読響マチネーでラフマニノフのコンチェルトを聴いたのが最初ですが、そのとき既に「次の世代の最高のピアニストになる」という予感がしました。
今日、初めてソロのリサイタルを聴いて、その予感は確信に変わりました。

<日時>2007年12月1日(土) 18:00開演
<会場>東京オペラシティ コンサートホール  
<曲目>
■バッハ(ブゾーニ編):トッカータとフーガ二短調 BWV565
■モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17番ニ長調 K.576
■シューベルト:ピアノ・ソナタ第13番イ長調 op.120
■ラフマニノフ:練習曲集「音の絵」op.39(全9曲)
■モシュコフスキー:15の熟達の練習曲から第11番
■バラギレフ:東洋風幻想曲「イスラメイ」
(アンコール)
■スクリャービン:3つの小品op.1「エチュード」
■スクリャービン:エチュードop.8-12
■ショパン:幻想即興曲
■リムスキー=コルサコフ:くまんばちの飛行(シフラ編曲)
■フィリペンコ:トッカータ

前回聴いたときに印象に残ったのは、次の3点。
①「真のレガートの達人」だということ
②卓越した技術を持ちながら、技術は常に音楽に奉仕していること
③透明感を持った暖かい音色を持っていること

今日聴いても、その印象はまったく変わることはありませんでした。
しかし、驚くべき超絶技巧とともに、バッハからロシアものまで広範囲にわたる音楽を実に的確に描き分ける様式感の確かさには、脱帽するしかありませんね。
もうすでに完成されたピアニストといっても過言ではないでしょう。

前半は、バッハで始まりました。
ガヴリリュク自身気に入っているというブゾーニの編曲ですが、情感豊かにかつ格調高く奏でられたフーガはとくに見事。
どこか、リヒテルの平均律を思わせるバッハでした。
続くモーツァルトは、真珠のようなまろやかな音色とフレーズの柔らかさが印象的。
しかし、同じ柔らかさでも、シューベルトでは少し違った表情をみせます。
よりロマンティックで陰影に富んだ表現になるのです。そして何よりも、「うた」を強く感じさせてくれます。
とくに第2楽章では、まるでリートを聴いているかのような思いに駆られました。
やはり、彼の天才的なレガート技術と、弾力性をもったリズム感に負うところ大ですね。
シューベルトは、ガヴリリュクの資質から考えて、今後彼の十八番になるような気がします。

後半は、ロシアものが中心。
ラフマニノフは、前半のステージとはうって変わって、圧倒的な技術の冴えとスケールの大きさをストレートに見せつけてくれました。
裃を脱ぎ捨て、祭りの衣裳を身にまとったガヴリリュクも、やはり凄い!
絵画的練習曲の名のとおり、1曲1曲のイメージが伝わってくるような演奏でした。
弾力性に富んだバスの動きが鮮烈だった第1曲と、透明な抒情がたまらなく美しい第2曲、そしてドビュッシー風の響きが素敵だった第7曲、いずれも見事な出来栄えでしたが、とくに、第6曲は、まるで猛獣が咆哮し、俊敏な動きで獲物を追いかけるかのような表現だったなぁ。
イスラメイは、腕に覚えのあるロシア系ピアニストが好んで演奏しますが、この日のガヴリリュクの演奏は、その中でも一頭地を抜いたもの。
もう、拍手が鳴り止みません。
アンコールは5曲。
歌ってよし、超絶技巧を聴かせてもよし、もう圧倒的な演奏です。
疲れているはずなのに、笑顔で応える彼のプロ根性も大いに気に入りました。

後半の選曲と圧倒的な技巧の冴え、そして桁違いの表現力を見せつけられると、やはりホロヴィッツを意識しているのかと思わざるをえませんが、音色を含めたキャラクターは随分違うようにも感じます。
また、この日の演奏はテレビ(ビデオ?)収録されていましたので、いつかオンエアされることでしょう。

それにしても、メジャーレーベルのプロデューサーは、なぜガヴリリュクをスカウトしないんだろう。
早くしないと、きっと後悔しますよ・・・。


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