暑い。本当に暑い。
昼間外に出ると、換気扇の反対側に立ったときのような嫌な熱風が迎えてくれる。
そして、今度は思いだしたようにバケツをひっくり返したような雷雨。
何かが確実におかしくなっている。
でも「おかしくなっている」ということを、自然に受け入れてしまう自分が怖い。
そのせいでもないと思うけど、我が家のリビングルームのエアコンも、昨夜突然ポタリポタリと大粒の汗をかくようになった。
もうこのエアコンも御齢19歳になるので仕方ないとは思ってみるものの、何とか治らないものか。
休日なので心配したが、幸い今日修理に来てもらうことができて、エアコンの大汗はおさまった。
でも修理屋さんによると、あと数年が寿命だそうだ。
ここまで頑張ってくれたのだから、何とか天寿をまっとうさせてあげたいなぁ。
さて、元気になったエアコンのおかげで、午後は珈琲を飲みながらじっくり音楽に浸ることができた。
今日聴いたのは、ハスキルのブラームスの室内楽。
ハスキルがソリストとしてだけではなく、稀代の室内楽の名手であったことは、いまさら書くまでもない。
とくにグリュミオーと組んだモーツァルトとベートーヴェンのソナタ集は、あまりにも有名だ。
でもブラームスの室内楽となると、1949年にコンサートホールソサエティに録音したこのピアノ五重奏曲以外に音源は残っていないのではないかしら。
ブラームスのピアノ五重奏曲というと、私には忘れられない思い出がある。
4年前の10月にサントリーホールで聴いたポリーニとブラッハーたちの演奏である。
その日は、前半がザビーネ・マイヤーたちのモーツァルトのクラリネット五重奏曲で、後半がポリーニを中心とするブラームスのクインテットというプログラムだった。
前半のモーツァルトが春を想わせる明るい暖色系の音楽であったのと対照的に、ポリーニたちが描いたブラームスの色は、ずばりブルー。それも、うっかり近づくと吸い込まれてしまいそうな深い青を基調にしたものだった。
このときほど、音楽を聴きながら「色」を感じたことはない。
ポリーニ、ブラッハー、クリスト、ブルネロといった当代きっての名人たちが思い描くブラームスとは、まさにこんな色だったのだろう。
でも、それがまたこの曲には実によく合っていた。
それに比べると、ハスキルたちのブラームスは、はるかに暖かい。
第一楽章の冒頭、16分音符を刻むハスキルのピアノが、なぜこんなに心地よく感じるんだろう。
リズムはしなやかな弾力性を持ち、ひとつひとつの音はあくまでも明瞭。でも決して冷たくない。
本当に不思議なピアニストだ。
そして、この演奏の白眉は第三楽章にある。
とりわけトリオの素晴らしさは、目頭が熱くなるほどだ。
チェロのリズミックな低音に支えられて、ハスキルのピアノが豊かに歌いあげる。
このヒューマンな暖かさは、まぎれもないハスキルの世界。
そして、ハスキルのピアノを引き継ぐヴァイオリンがこれまた素晴らしい。
このときのヴァイオリンはペーター・リバールだが、リバールといえばヴィンタートゥール交響楽団のコンサートマスターであり、名盤として知られるシェリングのバッハ協奏曲全集(一回目の録音)においても、見事な第2ソロヴァイオリンを聴かせてくれていた。
しかし、このブラームスでは、ハスキルに触発されてさらに輝いている。
彼のゆるやかなポルタメントを伴った魅惑的な歌いまわしを聴いて、心動かされない人はいないと思う。
あー、素晴らしいブラームス!
このディスクを聴いていても、ハスキルは決して前面にしゃしゃり出てこない。
しかし、彼女がいったんピアノを弾き出した途端に、周りの空気を瞬時に暖かく変えてしまうのだ。
たとえ、大胆に振る舞う場面があったとしても、その暖かい雰囲気は変わらない。
こんなハスキルと組んで演奏出来た人たちは、さぞかし幸せだったことだろう。
その幸福感は、いまディスクを通して私たちにも伝わってくる。
ブラームス:ピアノ五重奏曲ヘ短調 op.34
<演奏>
■クララ・ハスキル(ピアノ)
■ペーター・リバール(ヴァイオリン)
■クレメンス・ダヒンデン(ヴァイオリン)
■ハインツ・ヴィガンド(ヴィオラ)
■アントニオ・トゥシャ(チェロ)
<録音>1949年(チューリッヒ)
昼間外に出ると、換気扇の反対側に立ったときのような嫌な熱風が迎えてくれる。
そして、今度は思いだしたようにバケツをひっくり返したような雷雨。
何かが確実におかしくなっている。
でも「おかしくなっている」ということを、自然に受け入れてしまう自分が怖い。
そのせいでもないと思うけど、我が家のリビングルームのエアコンも、昨夜突然ポタリポタリと大粒の汗をかくようになった。
もうこのエアコンも御齢19歳になるので仕方ないとは思ってみるものの、何とか治らないものか。
休日なので心配したが、幸い今日修理に来てもらうことができて、エアコンの大汗はおさまった。
でも修理屋さんによると、あと数年が寿命だそうだ。
ここまで頑張ってくれたのだから、何とか天寿をまっとうさせてあげたいなぁ。
さて、元気になったエアコンのおかげで、午後は珈琲を飲みながらじっくり音楽に浸ることができた。
今日聴いたのは、ハスキルのブラームスの室内楽。
ハスキルがソリストとしてだけではなく、稀代の室内楽の名手であったことは、いまさら書くまでもない。
とくにグリュミオーと組んだモーツァルトとベートーヴェンのソナタ集は、あまりにも有名だ。
でもブラームスの室内楽となると、1949年にコンサートホールソサエティに録音したこのピアノ五重奏曲以外に音源は残っていないのではないかしら。
ブラームスのピアノ五重奏曲というと、私には忘れられない思い出がある。
4年前の10月にサントリーホールで聴いたポリーニとブラッハーたちの演奏である。
その日は、前半がザビーネ・マイヤーたちのモーツァルトのクラリネット五重奏曲で、後半がポリーニを中心とするブラームスのクインテットというプログラムだった。
前半のモーツァルトが春を想わせる明るい暖色系の音楽であったのと対照的に、ポリーニたちが描いたブラームスの色は、ずばりブルー。それも、うっかり近づくと吸い込まれてしまいそうな深い青を基調にしたものだった。
このときほど、音楽を聴きながら「色」を感じたことはない。
ポリーニ、ブラッハー、クリスト、ブルネロといった当代きっての名人たちが思い描くブラームスとは、まさにこんな色だったのだろう。
でも、それがまたこの曲には実によく合っていた。
それに比べると、ハスキルたちのブラームスは、はるかに暖かい。
第一楽章の冒頭、16分音符を刻むハスキルのピアノが、なぜこんなに心地よく感じるんだろう。
リズムはしなやかな弾力性を持ち、ひとつひとつの音はあくまでも明瞭。でも決して冷たくない。
本当に不思議なピアニストだ。
そして、この演奏の白眉は第三楽章にある。
とりわけトリオの素晴らしさは、目頭が熱くなるほどだ。
チェロのリズミックな低音に支えられて、ハスキルのピアノが豊かに歌いあげる。
このヒューマンな暖かさは、まぎれもないハスキルの世界。
そして、ハスキルのピアノを引き継ぐヴァイオリンがこれまた素晴らしい。
このときのヴァイオリンはペーター・リバールだが、リバールといえばヴィンタートゥール交響楽団のコンサートマスターであり、名盤として知られるシェリングのバッハ協奏曲全集(一回目の録音)においても、見事な第2ソロヴァイオリンを聴かせてくれていた。
しかし、このブラームスでは、ハスキルに触発されてさらに輝いている。
彼のゆるやかなポルタメントを伴った魅惑的な歌いまわしを聴いて、心動かされない人はいないと思う。
あー、素晴らしいブラームス!
このディスクを聴いていても、ハスキルは決して前面にしゃしゃり出てこない。
しかし、彼女がいったんピアノを弾き出した途端に、周りの空気を瞬時に暖かく変えてしまうのだ。
たとえ、大胆に振る舞う場面があったとしても、その暖かい雰囲気は変わらない。
こんなハスキルと組んで演奏出来た人たちは、さぞかし幸せだったことだろう。
その幸福感は、いまディスクを通して私たちにも伝わってくる。
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<演奏>
■クララ・ハスキル(ピアノ)
■ペーター・リバール(ヴァイオリン)
■クレメンス・ダヒンデン(ヴァイオリン)
■ハインツ・ヴィガンド(ヴィオラ)
■アントニオ・トゥシャ(チェロ)
<録音>1949年(チューリッヒ)