ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

【追悼 レオンハルト】 バッハ:マタイ受難曲BWV244

2012-01-19 | CDの試聴記
レオンハルトが亡くなった。
享年83歳。
彼が遺してくれた数多くの素晴らしいディスクを通して、私はバッハの音楽の楽しさ、美しさ、そして奥深さを学ばせてもらった。
リヒターの求心的な演奏があまりに厳しく感じるときに、レオンハルトの演奏を聴くと不思議に心が和んだものだ。
平均律を始めとする一連の鍵盤楽曲も、私はレオンハルトの演奏でその魅力を知った。
リュート用の作品をチェンバロで弾いたディスクも強く印象に残っている。
ギターでは「ここは難所だから・・・」と勝手に諦めて楽をしてしまう箇所が、実は音楽的に重要な意味を持っていたことをレオンハルトの演奏から教わり、必死で練習したことが懐かしく思い出される。

そんな大恩人であるレオンハルトを偲んで、いったいどんな曲を聴けばいいんだろう。
いろいろ悩んだ挙句、いったん「ゴールドベルク変奏曲」にしようと決めた。しかし、それからもう一度考え直した。
1曲選ぶとなると、やはりマタイしかない。
そう考えて3枚組のこのマタイのディスクを引っ張り出し、CDプレーヤーにかけてみる。
久しぶりにこの名盤を聴いてみて、私は本当に心洗われる思いがした。
レオンハルトのマタイには、モダン楽器だとかピリオド楽器だとかの次元を超えた、内面から滲みだしてくる大切な何かがある。
とくにヴィーラント・クイケンのヴィオラ・ダ・ガンバが強い印象を残す「甘き十字架」以降、終曲の合唱に至るまでの崇高な美しさは、涙なしには聴けない。
決して大げさに語ることなく、バッハの音楽を真摯に忠実に再現することに徹した演奏というのは、かくもピュアで人の心に響くのだと改めて教えられた。
あの感動的な「まことにこの人は神の子だったのだ」という場面も、劇的な起伏を避け、どちらかというと淡々とした表現だ。
しかし、だからこそ、その言葉が天からの声のように響いてくる。

いま、きっと彼は天国で敬愛するバッハに手厚いもてなしを受けていることだろう。
ひょっとしたら、映画でバッハ役を演じたことなども話題になっているのだろうか。
大バッハのしかめっ面ではないとびきりの笑顔が思い浮かぶ。

レオンハルト様、本当にありがとうございました。
そして、これからは心ゆくまでバッハたちと語り合ってください。
私はあなたが遺してくれた宝物を、大切に聴き続けていきます。

☆J.S.バッハ:マタイ受難曲BWV244
<演奏>
 クリストフ・プレガルディエン(テノール:福音史家)
 マックス・ファン・エグモント(バス)
 クリスティアン・フリークナー(ボーイ・ソプラノ)
 マキシミリアン・キーナー(ボーイ・ソプラノ)
 ルネ・ヤーコプス(カウンターテノール)
 デイヴィッド・コーディア(カウンターテノール)
 マルクス・シェーファー(テノール)
 ジョン・エルウィス(テノール)
 クラウス・メルテンス(バス)
 ペーター・リカ(バス)
 ラ・プティット・バンド男声合唱団
 テルツ少年合唱団
 ラ・プティット・バンド(シギスヴァルト・クイケン指揮)
 グスタフ・レオンハルト(総指揮)
<録音>:1989年3月
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パク・キュヒ ギター・リサイタル  (BSプレミアム:クラシック倶楽部)

2012-01-15 | BS、CS、DVDの視聴記
一昨日は13日の金曜日。
今年最初の月から「13日の金曜日」というのも少々気になっていたが、大きな事件もなく一安心。
そしてこの日、野田内閣も新しくなったが、くだらない失言等で貴重な時間と金を無駄にしないように、とにかく本気でやってください。
望むのは、ただそれだけです。

さて、この週末、録画しておいた番組をチェックしていて、私は画面に釘づけになった。
私をそれほどまでに驚かせてくれたのは、韓国生まれのパク・キュヒさん。
1985年生まれというから、まだ20代の若い女流ギタリストだけど、とにかく物凄い才能だ。
ブローウェルのソナタやリョベートの変奏曲等の難曲を軽々と弾きこなす技術の高さ、紡ぎだす音色の類まれな美しさ、トレモロの飛びっきりの美しさ等、個別に美質を挙げるだけならいくつでも出てくる。
しかし、彼女の凄さは、それらの美質がすべて音楽の表現のために使われていることだ。

最近のギター界の事情に対して少々疎くなってしまったので、彼女の活躍ぶりをあまり知らなかった。
オンエアされたのは昨年2月に東京で行われたコンサートの模様だったが、最初のスカルラッティから、その豊かで暖かい音楽性に私はすっかり魅了されてしまった。、
妙な言い方で恐縮だけど、「ギターでスカルラッティを上手に弾いてますよ」という感じが全くしないのだ。
楽器の存在を感じさせないというか、スカルラッティの音楽だけが空間に響いていた。
生のコンサートでは、時としてこのような現象が起こり、聴衆に大きな感動を与えてくれるのだけど、画面を通してこのような気持ちにさせてくれることは滅多にない。
その後弾かれたブローウェルのソナタも、実に生き生きと表現で、聴いていて嬉しくなった。
初演者であるジュリアン・ブリームの、骨格のはっきりした確信に満ちた名演とは随分スタイルが異なるが、彼女の自然で大らかな演奏は格別の魅力を感じさせる。
そして、この日の白眉は、バリオスの名作「森に夢見る」、そしてアンコールで弾かれた「アランブラ宮殿の思い出」。
いずれも情感豊かに歌い上げられていて、本当に心に沁みるような演奏だった。

この人の技術的にみた一番の長所は、脱力がほぼ完全に出来ていることだろう。
それが左手と右手のバランスの良さにつながり、右手を自由にコントロールできるからこそ、あの美しいタッチが生まれるのだと思う。
使用していた楽器は、ヘッドの形からおそらくフランスの名工フレドリッシュのものだと思うが、この名器との相性も抜群。
擦弦楽器(ヴァイオリン等)と聴き間違えるような大きなフレージングで、音楽を表情豊かに表現できるパクさん。
これからが本当に楽しみだ。
今度東京でコンサートがあれば、そのときは必ず行きますね。

☆パク・キュヒ ギター・リサイタル
<日時> 2011年2月10日(木)
<会場> 東京・武蔵野市民文化会館
<曲目>
■スカルラッティ(パク・キュヒ編曲)
・ソナタ ニ短調 K.32
・ソナタ イ長調 K.322
■リョベート:ソルの主題による変奏曲
■ブローウェル:ソナタ
■タレガ:椿姫の主題による幻想曲
■バリオス:森に夢みる
(アンコール)
■タレガ:アランブラ宮殿の思い出

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バッハ:ゴルトベルク変奏曲 by ペライア(p)

2012-01-11 | CDの試聴記
寒い!
一日中どんよりとした曇り空で、夕方にはきっちり小雨模様に・・・。
まさに天気予報通りの一日だった。

こんな日は、お気に入りの焼酎を片手に、晴れやかな音楽を聴くに限る。
モーツァルト? メンデルスゾーン?
いやー、ちょっと違うなぁ。
今日の気分はバッハだ。
そうだ、ゴルトベルク変奏曲にしよう。
そんなわけで、ペライアのゴルトベルク変奏曲を聴いた。

ヘンデルとスカルラッティのアルバムでもそうだったが、この人のバロック音楽は、とにかく典雅で瑞々しい。
そして弾力性に富んでいる。
ゴルトべルク変奏曲でも、その特徴はまったく同じだ。
冒頭のアリアが、ひたすら美しい。
このアリアの部分だけをエンドレスにしておけば、確かに不眠治療にも使えるだろう。
しかし変奏が始まると、音楽は俄かに生気を帯び始める。
第一変奏で特に印象に残るのはバスの闊達さだ。
リズミックで鮮やかで、しかも必要以上に出しゃばらない。
そんな理想的なバスの動きに支えられて、高音部も実に優雅に舞っている。装飾音のセンスの良さも特筆ものだ。
続く各変奏でも、それぞれのバリエーションの性格が見事なまでに描き分けられていることに感心させられる。
また耳を澄ませば、いたるところに愛らしい旋律が見え隠れしているのが良くわかって、その意味でも大変面白い。
そして、一連のドラマが終わって再びアリアに戻ってきたとき、私の心の中は見事なまでに晴れ上がっていた。
素晴らしいバッハだ。
ピアノで弾かれたゴルトベルク変奏曲の中でも、屈指の名演ではないだろうか。

ペライアは昨年せっかく来日してくれたのに、聴き損ねてしまった。
次回は何としても実演で聴きたいと思う。


■バッハ:ゴルトベルク変奏曲
<演奏>マレイ・ペライア(P)
<録音>2000年7月
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小菅優レクチャーコンサート 「謝肉祭と神の祝福」

2012-01-09 | コンサートの感想
今日は三連休最後の日。
今年初めてとなるコンサートを聴いてきた。
小菅優さんの「謝肉祭と神の祝福」と題したレクチャーコンサートだ。

「『祝祭と音楽』という大きなテーマが与えられていたので、前半は人間の祝宴、後半は悪魔の宴、最後に神の祝福というイメージで曲を選びました。ただ(自分自身は)クリスマスはドイツで鴨の丸焼きを食べ、お正月は日本でお節料理を食べたので、お腹いっぱいです」というユーモアたっぷりの小菅さんの話から始まった。

小菅さんの大ファンであることにかけては人後に落ちないつもりの私だが、何がそれほど私を魅了するのだろう。
プログラムに書かれていたのは、「高度なテクニック、美しい音色、若々しい感性、深い楽曲理解・・・」というフレーズ。
確かにそのとおりだ。
でもそれだけじゃない。一番の特長は、その音楽へのひたむきさと、まるで全ての音に生命の息吹が吹きこまれているかのような瑞々しさを持っていることだと思う。
だから、彼女の演奏を聴くと、聴き手はどんな場合でも、心躍るような晴れやかな幸福感に浸ることができる。
そして、今日小菅さんの演奏を聴きながら、もうひとつ感じたことがあった。
それは、バスの表現力の見事さだ。
といっても、ロシア系のピアニストにみられるような、ホールを震撼させるような強靭な打鍵からくるものとは全く違う。
むしろ柔らかな質感を持ったバスなんだけど、どんな場合でもしっかりハーモニーを支えながら、一方できっちりと自身の存在感を主張するといった類のバスなのだ。
音色的にもバスだけが遊離して異彩を放つようなことは決してないので、音楽はどちらかというと暖色系の響きの中で表現される。
私には、それが大変心地よく聴こえた。

さて、今日の演奏の中でとくに素晴らしかったのは、最後に弾かれたリストの「孤独の中の神の祝福」。
小菅さん自身の言葉を借りると、
「若い時から難曲のリストの作品をたくさん弾きすぎたせいかもしれませんが、一時リストから心が離れかけたことがあります。そんなときに後期の作品群を知り、またリストに魅かれるようになりました。」
大体こんな内容だったと思う。
バッハの平均律の後という抜群のロケーションもあったが、リストを聴いてこれほど敬虔な気持ちにさせられたことは殆んどなかった。蓋し秀演と言うべき演奏。
その他の曲についても簡単に触れておきたい。

☆シューマン:「謝肉祭」
演奏の前に、オイゼビウスの表現に共通項があるということで、「ダヴィッド同盟舞曲集」から第14番を聴かせてくれた。
スフィンクスは楽譜通りの暗号めいた音型で演奏。
全編を通して躍動感に溢れた見事な演奏だったけど、どんなに速い部分にさしかかっても絶対滑ったような表現に陥らないのは、彼女の大きな美徳の一つ。

☆リスト:「メフィストワルツ第1番」
圧倒的に弾ききってくれた。でも悪魔のワルツなんだから、もっとえげつない表現でも良かったかもしれない。しかし、えげつない表現にならないところが、小菅さんの良さか・・・

☆バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻より第5番ニ長調
ニ長調が祝典的な表現に適しているということを、クリスマスオラトリオ、メサイアのハレルヤ等の例を示しながら説明してくれた。
楽譜を見ながらの演奏ではあったが、とても格調高いバッハだった。

いろいろ書かせてもらったが、新年早々素晴らしい演奏を聴かせてもらうことができて、今年はいい年になる予感がしてきた。
小菅さん、本当にありがとう。
また次回を楽しみにしています。

☆小菅優レクチャーコンサート 
<日時>2012年1月9日(月・祝) 14:00開演
<会場>東京文化会館 小ホール
<曲目>
■シューマン:謝肉祭「4つの音符による面白い情景」op.9
■リスト:メフィスト・ワルツ第1番
■バッハ:平均律クラヴィア曲集第2巻より第5番ニ長調
■リスト:「詩的で宗教的な調べ」より第3番「孤独の中の神の祝福」
(アンコール)
■シューマン(リスト編曲)「献呈」
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ブラームス:弦楽五重奏曲第1番ヘ長調 by アマデウス弦楽四重奏団ほか

2012-01-07 | CDの試聴記
木曜日から出張で大阪に来ている。
今年はお正月を大阪で過ごしたので、4日は東京に出社したが、ずっと大阪にいるような感じがする。
昨日デリケートな税務案件も無事に解決し、久しぶりに開放感をもった週末を迎えることができた。
いま、実家で珈琲を淹れながら、ブラームスを聴いている。
選んだ曲は、弦楽五重奏曲の第一番。
傑作と言われる六重奏とカルテットに挟まれて、幾分日陰の立場に置かれているが、私はこの曲が大好きだ。
ふくよかで明るい曲想は、いつ聴いても癒される。
とくに冬の朝に聴くこのクインテットは格別だと思う。

昨年震災のときに、避難所暮らしを経て、奇跡的に自宅に帰り着いた翌朝、無性に聴きたくなったのがこの曲だった。
当時家の中は目茶苦茶になっており、CDは散乱、スピーカーから音を出すなんてことは全く叶わなかった。でも、なぜかこの曲の第一楽章の旋律が何十回も私の頭の中を駆けめぐって離れなかった。
しかし、その後スピーカーから何とか音が出せるようになっても、こんどは肝心のディスクが見あたらない。ようやく聴けるようになったのは、7月になってからだった。
そんな経緯もあったので、スピーカーからこの曲が流れてきたときの嬉しさは、今も忘れられない。
そして、今日改めて聴いてみて、やはり魅力的な音楽だと思った。
アマデウスカルテットたちの演奏も申し分ない。
LP時代に好きだったベルリンフィルハーモニーのメンバーたちの演奏(PH盤)と並んで、ともに私の大切な宝物である。

ブラームス作曲
■弦楽五重奏曲第1番ヘ長調op. 88
■弦楽五重奏曲第2番ト長調op.111
<演奏>
アマデウス弦楽四重奏団, アロノヴィッツ(ヴィオラ)

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謹賀新年 シューベルト:ピアノソナタ第13番イ長調 D.664 by ワルター・クリーン

2012-01-01 | CDの試聴記
新年おめでとうございます。

向こう100年語り継がれるであろう2011年も終わりを告げ、2012年がスタートした。
年が変わったからといって、状況が劇的に好転するはずもない。
しかし、何かが変わるはずだ。いや変えなくてはいけない。
そんな思いで今年最初の音楽として選んだのは、シューベルトのイ長調のピアノソナタ。

この曲には思い出がある。
社会人一年生のときのことだ。
新人にしては大きな案件を担当させてもらい意気込んでいた私は、初訪でお客様にけんもほろろに追い返され、さすがに落ち込んでいた。
そんな私に、クラシック好きの上司が「シューベルトのピアノソナタって聴いたことあるか?とても素敵だぞ。」と言って薦めてくれたのがこのイ長調のソナタだった。
早速その日のうちにレコード店に駆け込み、独身寮に持ち帰って聴いてみた。
確かケンプ盤だったと思うが、一回聴いただけで大好きになった。
それ以来、私にとって大切な曲であり続けている。

いまは実家に帰省しているので、ケンプ盤を聴くわけにはいかないが、ipodでワルター・クリーンの演奏を聴くことができた。
何と優しいピアノだろう。
しかも、その優しさを聴き手に押し付けてこない。
本当に素敵なシューベルトだと思う。
このクリーンのような姿勢で、日々過ごせれば、何かが変わるような気がする。

シューベルト:・ピアノ・ソナタ第13番イ長調 D.664
(演奏) ワルター・クリーン(P)
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