ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ムーティ&ウィーン国立歌劇場 来日公演 「コシ・ファン・トゥッテ」

2008-10-31 | オペラの感想
ムーティ&ウィーン国立歌劇場の最終回のコジを観てきました。
少し遅くなりましたが、そのときの感想を。

<日時>2008年10月27日(月) 6:30p.m. 開演
<会場>東京文化会館
<出演> 
■フィオルディリージ:バルバラ・フリットリ
■ドラベッラ:アンゲリカ・キルヒシュラーガー
■グリエルモ:イルデブランド・ダルカンジェロ
■フェッランド:ミヒャエル・シャーデ
■デスピーナ:ラウラ・タトゥレスク
■ドン・アルフォンソ:ナターレ・デ・カローリス

■指揮:リッカルド・ムーティ
■演出:ロベルト・デ・シモーネ
■ウィーン国立歌劇場管弦楽団
■ウィーン国立歌劇場合唱団

ずいぶん聴いてきたつもりのオペラだけど、実際の舞台に接するのはこの日が初めてです。
何カ月も前から、指折り数えて開演の日を待ちました。
期待が膨らみすぎて胸が潰れそうだったけど、終演後は、胸だけじゃなくて、それこそ身体中に感動が沁みわたりました。
私が聴きたかった理想のコジがそこにあったのです。

ムーティとウィーンのシュターツオーパー。
それだけでも、最高のコジが約束されているはずでした。
しかも歌手は、フリットリ、キルヒシュラーガー、ダルカンジェロ、シャーデとくれば、興奮するなというのが不思議なくらいです。
今年2月にウィーンで同じムーティの指揮、シモーネの演出でコジが上演されましたが、そのときからはフェッランドがフランチェスコ・メリからシャーデに変わっています。
まさに、当代最高のキャストといっても過言ではないでしょう。

このオペラは、ストーリーだけ追っかけると、はっきり言って矛盾だらけの茶番劇。(そこが魅力でもあるのですが・・・)
ところが、モーツァルトが魔法の粉を振りかけると、もうかけがえのない最高の音楽になってしまうのですから不思議なものです。
しかし、このオペラは難しい。そして怖い。
まず、登場人物が最初から最後まで6人しかいませんし、その6人すべてが粒揃いでないといけません。
誰か一人でも穴があると、あっという間に全体のバランスが崩れて、その穴だけがやけに気になって、オペラを楽しむどころではなくなってしまうからです。
また、全編ジョークの塊のようなオペラですが、少しでも媚びを売ろうとした瞬間に、聴き手はさっと醒めてしまいます。
だから歌手たちも、ひたすら大真面目に歌い、演じてもらう必要があります。
これら2つの条件を満たした時に、初めて「コシ・ファン・トゥッテ」というオペラは本来の魅力的な姿を現してくれるのだと思います。

この日の上演は、これらの要素を完全に満たしていました。
いや、そんな月並みな表現ではとても言い表せないなぁ。
ムーティのタクトが一閃するたびに、血の通った人生模様が舞台で次々と繰り広げられるのです。
歌手たちが真剣に演じてくれるからこそ、聴き手はつい笑ってしまいます。
しかし次の瞬間には、恋人に対する複雑な想いに心を馳せて、思わずもらい泣き・・・。
まさしく、この繰り返しでした。
そして、喜怒哀楽をものの見事に描写するモーツァルトの音楽のとびきりの美しさ。
モーツァルトだけがもつ「泣き笑い」の真髄を、とことん堪能させてもらいました。

歌手では、やはりフリットリ。
以前に比べると少しふっくらした感じもしましたが、あのミルキーボイスは健在。
舞台での存在感は格別で、フィオルディリージの芯の強さと優しさを見事に表現してくれました。「岩のように・・・」のアリアも、2幕のロンド「許して恋人よ」もともに素晴らしかった。コロラトューラの技巧もすぐれている上に、弱音が本当に綺麗。女王様感覚がないのもコジにはうってつけでしょう。

ダルカンジェロは、私のお気に入りのバリトンで、当代最高のフィガロ歌いだと確信していますが、今回のグリエルモもやはり抜群。
オペラグラスを通してみたその表情の豊かさと、張りのある歌唱には思わずうっとり。

シャーデが歌う1幕のフェッランドのアリア「いとしき人の愛のそよ風は」も、印象に残りました。
とくにリピートした後の弱音は、鳥肌が立つくらい美しかった。

うれしい発見だったのがキルヒシュラーガー。
ウィーン中で愛されているメゾは、やはりチャーミング。
私にとって、まさに理想のドラベッラでした。
しかし、私がうれしい発見と申し上げたのは、第2幕で新しい恋に揺れ動く姉に向かって歌うアリア「恋は心を盗む」を聴きながら、エディト・マティスの面影をみたからです。
何度も書いてきましたが、マティスは私の最も愛するソプラノです。
キルヒシュラーガーの歌い方、声、そして表情に、マティスとの多くの共通点を感じました。
マティスのもつ安定感にはまだ及びませんが、何よりも雰囲気が似てる。
これから絶対彼女を応援していこうと、心に決めました。

ひとりひとりの歌唱も上記のとおり素晴らしかったのですが、今回のコジで最も感動したのはアンサンブルの素晴らしさ。
とても全部を紹介できませんが、たとえば第1幕で出征の直前に歌われる5重唱「毎日手紙を書いて」。
何て柔らかくて優しい音楽だろう。
そして、船が出て行ったあとの3重唱「風よ穏やかに・・・」。
これはモーツァルトの書いた最も美しい音楽の一つだと思いますが、聴きながら心の中がこのときほど暖かくなったことはありません。

そして、何といってもウィーンフィルの素晴らしさ。
その魅惑的な音色、豊かだけど決して重くならない低音をベースにした独特の響き、もう溜息をつくばかりです。
オペラというものを知り尽くしたオケというのは、どんな主役にも負けなくらい重要なのですね。
些細な傷ができても、あっという間に治してしまう名医のような力。
歌手とともに音楽の中で語りあう表現力の高さ。
当たり前と言われればそれまでですが、この日もいやというほど思い知らされました。
たとえば、2幕でドラベッラが陥落したことを知った後、失意のフェッランドが歌うアリアの中間部。
そっと彼を励ますように奏でられる木管の何という優しさ。思わず目頭が熱くなりました。
また、コジでは、ブン・チャチャチャという8分音符の単純な伴奏音型が随所にでてきますが、彼らは何気なく弾いているにもかかわらず、それが実に音楽的。
やはり世界一のオーケストラです。

それから、書き忘れるところでした。
通奏低音のフォルテピアノが、もう抜群に良かったのです。
この絶妙の呼吸感が、どれだけオペラ全体をリードしてくれたか計り知れません。
ムーティも全幅の信頼を寄せていたことでしょう。

まだまだ書きたいことは沢山ありますが、いったんこれくらいにしておきます。
また、終演後の上野のギネスまで一緒にお付き合いいただいたユリアヌスさんにも、改めて感謝を申し上げたいと思います。
感動が2倍になったかも・・・(笑)

2年前にウィーンで味わうことのできた最高のフィガロ。
そして、いま東京で体験できた最高のコジ。
きっと一生忘れないでしょう。
マエストロ・ムーティ、ウィーンフィル、フリットリを始めとする最高の歌手のみなさん、本当にありがとう。
至福の3時間でした。




コメント (12)   トラックバック (2)

ハイドン:交響曲第73番ニ長調「狩」

2008-10-18 | CDの試聴記
素敵なハイドンに出会いました。
リベラ・クラシカの演奏するハイドンの「狩」です。

<曲目>
■モーツァルト:交響曲第33番変ロ長調K.319
■モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番ニ短調K.466
■モーツァルト:ピアノ協奏曲第12番イ長調K.414第2楽章(アンコール)
■ハイドン:交響曲第73番ニ長調Hob.I-73「狩」
■ハイドン:交響曲第62番ニ長調Hob.I-62第2楽章(アンコール)
<演奏>
■スタンリー・ホーホランド(フォルテピアノ)
■鈴木秀美(指揮)
■オーケストラ・リベラ・クラシカ
<録音>2006年10月21日 浜離宮朝日ホール(ライヴ)


この交響曲を最初に聴かせてもらったのは、惜しまれつつ一昨年末に閉店した音楽バーのアインザッツでした。
マスターとリベラさんに、「これはいい曲ですよ」と二人して強烈に洗脳されてしまったこともあり、その時以来、私のお気に入りの一曲になっています。(笑)

普段アダムフィッシャーの全集で聴くことが多かったのですが、今回聴いたリベラ・クラシカの演奏にはすっかり魅了されてしまいました。
第1楽章冒頭のアダージョから、何も変ったことはしていないのに、まるで森林浴をしているときのような爽やかな空気がリビングルームに満ちてきます。
主部のアレグロに入ると、その爽やかな空気感はそのままに、弾むようなリズムがまことに心地よい。
抜群のテンポと見事な呼吸が、こんな素敵な表現を可能にしているんでしょうね。
第2楽章は、すでに10年後の「驚愕」の緩徐楽章を先取りしているような雰囲気がありますが、彼らの演奏にはそれらの表現に不可欠なユーモアのセンスにもこと欠きません。

そして、「狩」というニックネームの由来になったフィナーレ。
自作のオペラ「報いられたまこと」の序曲からの転用だそうですが、実に豪快、そして爽やか。
8分の6拍子の沸き立つようなリズムにのって、ホルンが豪快に吠えます。
しかし、まったく荒っぽさがありません。
聴いてる私も、思わず口ずさみたくなるような演奏。
ライブでこの演奏を聴いた人がうらやましいなぁ。
こんな素敵な演奏を、日本のオーケストラが成し遂げてくれたことに、大きな誇りを感じます。
来年は、ハイドンの没後200年のメモリアルイヤー。
シンフォニーやカルテットの全曲演奏会等も、きっと企画されることでしょう。
今から楽しみです。

P.S
いま、この2枚組のCDが、何故か1000円で販売されていますよ。
私も目を疑いながら、すぐにゲットしました。
1枚目のモーツァルトも、本当に素晴らしい演奏です。
コメント (9)

ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団 in 横浜

2008-10-14 | コンサートの感想
ずいぶん日が経ってしまいましたが、10月3日は結婚記念日でした。
今年は「素敵な音楽と美味しい食事&夜景」と勝手に題して、一日遅れではありましたが、プチ・リッチな気分で横浜へ行ってきました。
昼間にコンサートを聴いて、早めにディナーを。そして大観覧車で夜景を楽しんだあとはホテルでのんびりしようという目論見です。
8月の草津温泉が徹底して雨に祟られたこともあって、内心ひやひやしていましたが、今回は絶好のお天気。
食事も夜景も最高でした。
少々大袈裟ですが、いのちの洗濯ができたような気がします。
妻にも多少は喜んでもらえたかなぁ。

食事や夜景で書きたいこともたくさんあるのですが、一応音楽ブログなので、コンサートの感想を。
この日聴いたのは、ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団。
上原彩子さんと川久保賜紀さんという、今をときめく女流奏者との共演も楽しみです。

<日時>2008年10月4日(土) 14:00開演
<会場>横浜みなとみらいホール 大ホール
<曲目>
■グリーグ:「ペール・ギュント」第1組曲
■グリーグ:ピアノ協奏曲
■シベリウス:悲しきワルツ
■シベリウス:バイオリン協奏曲
(アンコール)
■グリーグ:抒情小品集より「アリエッタ」
■バッハ:無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番より「ブーレ」
<演奏者>
■ピアノ:上原彩子
■バイオリン:川久保賜紀
■指 揮:クリスチャン・ヤルヴィ
■管弦楽:ウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団

オーケストラについては、まずまずという印象でした。
ウィーンフィルを聴いた直後だったせいもあるのでしょうが、「この楽団ならでは」という個性は若干乏しかったように思います。
それでも、ソロチェロが抜群に上手かったし、管もときにぞくっとするような美しさを聴かせてくれました。
クリスチャン・ヤルヴィの指揮も手堅い内容でしたが、どうしても気に入らなかったのがエンディング。
私の感覚よりも、きまって1~2秒早く響きをとめてしまうのです。
録音ではそれでもいいと思うのですが、ホールで聴くときは、もう少し余韻を楽しみたい・・・。
それだけが残念でした。

一方、コンチェルトは、お二人の個性がよく出ていて、とても興味深く聴かせてもらいました。
上原さんの演奏は、清潔な音楽作りの中に、ダイナミックな躍動感も感じられて、とても素晴らしかった。
じっくり考え抜いて演奏する人だと思うのですが、出てくる音はとても鮮度が高い。
実に説得力のあるグリーグを聴かせてくれました。

コンサートのとりをつとめた川久保さんは、楽器の違いもありますが、上原さんとは随分個性が違います。
彼女のコンチェルトといえば、ブルッフの1番を読響できいたことがあるのですが、その時は「歌わせ方に一種独特の個性があって、それがとても魅力的。ただ誤解を恐れずにいえば、まるで演歌みたいなブルッフ!」と感じました。
さて、シベリウスはどうだったか。
ブルッフで「演歌みたい」と感じたことは、まさに確信に変わりました。
もちろん「こぶしをきかせて・・・」なんて品のないことはしません。
しかし、低重心で旋律を徹底的に歌わせるのです。
だからこそ、リズミックな箇所が余計際立つ結果になります。
これが、シベリウスではぴったりはまりました。
とくに第2楽章からフィナーレにかけてが素晴らしかった。
このオケが、この日一番の充実した音を出してくれたことも頷けます。

この若い二つの才能は、楽器の違いを超えて、今後ますます大きな存在となっていくでしょう。
楽しみに見守りたいと思います。
コメント (4)

ライナー・ホーネック&読響 モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番・第5番「トルコ風」ほか

2008-10-12 | コンサートの感想
今日は読響マチネーの日。
《R.ホーネック・モーツァルト協奏曲シリーズⅢ》と銘打たれたコンサートでしたが、モーツァルトのコンチェルトを前後半に1曲ずつ配し、それぞれラヴェルと組み合わせたちょっとお洒落なプログラム。
昨年から始まったライナー・ホーネックのモーツァルト協奏曲シリーズも、今回の2曲でいよいよ完結です。
過去2回が私の琴線に触れる素敵な演奏だったので、今回も大いに期待してホールへ向かいました。

何度も同じことをいうのは気が引けるけど、本当に素敵なウィーン風のモーツァルト。
どうしたら、あんなやわらかい音が出るのだろう。
聴き手を震えるような感動に導くというよりも、確実に幸せにしてくれるタイプのヴァイオリンです。
しかし、媚びることなく、自分の信じるスタイルで人に幸せを運ぶことは容易ではありません。
やはりウィーンフィルのコンサートマスターとしての経験が大きいのでしょうね。
そういえば、9月にウィーンフィルの来日公演でキュッヘルと並んでコンマス席に座っていた時のホーネックは、紛れもなくウィーンフィルの顔でした。

<日時>2008年10月12日(日) 14:00開演
<会場>東京芸術劇場
<曲目>
《R.ホーネック・モーツァルト協奏曲シリーズIII 》
■ラヴェル/古風なメヌエット
■モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第1番
(休憩)
■モーツァルト/ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」
■ラヴェル/「ダフニスとクロエ」第2組曲
<演奏>
■ヴァイオリン:ライナー・ホーネック
■指 揮:下野竜也
■管弦楽:読売日本交響楽団

今日のモーツァルト2曲では、とくに後半の「トルコ風」が良かった。
「トルコ風」では、前半やや硬かったオーケストラの響きが明らかに変わりました。
・曲の違い?
・奏者たちの気持ちの問題?
・ホール内の空気がエージングによって円やかになった?
それらの合わせ技のような気もしますが、とにかく「トルコ風」では冒頭からオケがとても瑞々しい響きで、私を魅了してくれたのです。
少し長めにフェルマータをとったあと、ホーネックのソロが入ってきます。
柔らかくて、何とも味わい深い音。
ライナー・ホーネックのヴァイオリンは、フレーズを美しく表現するだけではなく、弾むようなリズム感も大きな特長です。
この日の「トルコ風」では、その美質が最高に活かされていました。
終楽章がロンド形式(ABA-C-ABA)で書かれていることが、これほどありがたいと思ったことはありません。
だって、こんなに素敵なロンド主題(上記Aの部分)を都合4回も聴けるのですから・・・。
素晴らしいモーツァルトを堪能させてくれました。

また、この日面白かったのは、ライナー・ホーネックが読響ソロ・コンサートマスターのデヴィッド・ノーランをかなり意識していたこと。
コンマスのほうをほとんど見ないソリストも結構いますから、とくに印象に残りました。
でも考えてみたら、ノーランはテンシュテットの信認も厚かったロンドンフィルの名コンサートマスターだったわけですから、92年からウィーンフィルのコンサートマスターを務めているホーネックにとっても既知の間柄。
この日の名演は、二人の偉大なコンサートマスターどうしの信頼感によるところ大だったかもしれません。

あまり書くスペースがなくなってしまいましたが、ラヴェルではダフニスが素晴らしかった。
色彩感にあふれていて、決めどころのたたみかけるような表現は迫力十分。
最初の古風なメヌエットが、やや重い演奏だったので心配していましたが、スカッとした気分でホールを後にすることができました。
コメント

ハーゲン弦楽四重奏団 at 浜離宮朝日ホール

2008-10-03 | コンサートの感想
9月30日に聴いたハーゲンカルテットの感想を。
現代の代表的な名カルテットである彼らの演奏を聴くのは、実に7年ぶりです。
前回2001年の時は、ベルク「抒情組曲」&ベートーヴェンの13番変ロ長調というプロでした。
今回は、モーツァルトとドボルザークというオーソドックスな感触をもった曲を最初と最後に持ってきて、真ん中には一筋縄ではいかないラヴェルを配しています。
この日の席は、2列めのほぼセンター。
室内楽のまろやかな響きという点では少し前すぎるかもしれませんが、音楽をアクティヴに聴こうとする場合はうってつけの席だと思います。
また、奏者の呼吸を肌で感じることができるので、私には大変好ましい席でした。

<日時>2008年9月30日(火)19:00開演
<会場>浜離宮朝日ホール
<曲目>
■モーツアルト:弦楽四重奏曲第16番 変ホ長調 K.428
■ラヴェル:弦楽四重奏曲 ヘ長調
■ドボルザーク:弦楽四重奏曲第14番 変イ長調 Op.105
(アンコール)
■ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第11番「セリオーソ」から第1楽章
<演奏>
ハーゲン弦楽四重奏団
■ルーカス・ハーゲン(第1バイオリン)
■ライナー・シュミット(第2バイオリン)
■ヴェロニカ・ハーゲン(ビオラ)
■クレメンス・ハーゲン(チェロ)

モーツァルトもドボルザークももちろん良かったのですが、とくに面白く聴かせてもらったのが、さきほど「一筋縄ではいかない」と申し上げたラヴェル。
春のやわらかな光を感じさせる幸福感に満ちた第1楽章冒頭から、絶えず音楽は変化していきます。
緊張感を増しながら、いざクライマックスだと思って気合いを入れた瞬間に、ふわりと体をかわされて地面に落されてしまう。
そんなことを何度か繰り返しているうちに、いつの間にか最初のテーマが現われ、「あー、最初に戻った」と思って安心していると、今度は違う景色を見せられている。
この楽章は、こんなパターンの連続です。
まさにラヴェル・マジックと呼びたくなるような音楽ですが、ハーゲンカルテットは、このあたりの表現が実に上手い。
第2楽章の、ピチカートの弾けるような勢いと中間部の気だるい雰囲気の対比も、これまた絶妙。
濃密で沈み込むような歌が深く心に残る第3楽章を経て、終楽章はまさに圧倒的なテクニックで一気呵成にゴールまで突っ走ってくれました。
ブラーヴォ、ブラーヴォ!
緊密なアンサンブルと研ぎ澄まされた感性、そしてたぐい稀なを色彩感覚をもった彼らにとって、まさにぴったりの音楽だったのでしょう。

このカルテットは、ルーカスとクレメンスが逞しい骨格を作り、ヴェロニカとライナー・シュミットが微妙な色調の変化を与えながら、独特の緊張感をもった生気あふれる音楽を作り上げるところに特色があります。
造形感覚の高さも特筆ものでしょう。
この日は、とくにヴェロニカ・ハーゲンのヴィオラが、アンサンブルにしなやかさと瑞々しい情感をもたらしていて、大きな感銘を受けました。
ハーゲンカルテットは、メンバー全員が40歳代ということですから、今後まだまだ年代物のワインのように熟成していくことでしょう。
5年後、10年後にどのような変貌を遂げているか、本当に楽しみです。

コメント (4)   トラックバック (1)