ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

アレクサンダー・ガヴリリュク ピアノ・リサイタル (6/11) @東京オペラシティ   

2011-06-12 | コンサートの感想
未曾有の大震災から昨日で3か月。
もう3か月と感じるか、ようやく3か月と感じるか、それは人によって様々だと思う。
しかし、地震~津波~原発と、まるで神の怒りにふれたかのような波状攻撃の爪痕は、3か月経っても全く癒えることがないことだけは事実だ。
被害に遭われた方々に対し、通り一遍の言葉は何の意味も持たないかもしれないけど、それでも同じ日本人として「共に前を向いて、頑張っていきましょう」とだけ申し上げたい。

私自身も、この3か月いろいろなことがあって、なかなかブログを書く気になれなかった。
でも、音楽から心が離れたことはただの一時もなかったし、ますます音楽の存在感の大きさを感じるようになっている。
その間、私はテレビの映像で、メータの「第九」を聴き、ドミンゴの歌を聴いた。
何一つ珍しいことはしていないにもかかわらず、私たちにとってすっかり年中行事になりかけていた偉大な「第九」から、かつて聴いたことのないような深い感動を与えてくれたメータ。
そして、この大変な時期に約束通り来日し、あの暖かな歌唱で魅了してくれたドミンゴ。
ドミンゴが愛情込めて歌ってくれた「ふるさと」を聴いて、私は涙が止まらなかった。
彼らの演奏を聴きながら強く感じたのは(いや彼らの演奏に限らず、この3か月間ずっと感じてきたことだけど)、やはり人が感動するのは、理屈や技術ではないということ。
人間としての器の大きさ、何を感じどのように訴えたいのかという真摯な気持ち、これこそが人を感動させるのではないだろうか。
音楽も例外ではないと思う。
特に、今の日本のような誰も経験したことがないような状況においては、マニュアルなんてものはそもそも通用しない。
生身の人間としての力だけが問われているように思えてならない。

さて、そんな中、昨日は大好きなピアニストであるガヴリリュクのリサイタルを聴きに、新宿へ出かけた。
<日時>2011年6月11日(土) 19時開演
<会場>東京オペラシティ コンサートホール
<曲目>
■ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第14番「月光」
■ショパン:幻想即興曲
■ショパン:2つのノクターン 作品48
■ショパン:スケルツォ第1番
■ラフマニノフ:楽興の時 作品16
■プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第7番「戦争ソナタ」
(アンコール)
■スクリャービン:練習曲第9番
■フィリペンコ:トッカータ
■ショパン:練習曲 作品10-6
■リスト(ホロヴィッツ編):ラコッツィ行進曲
■ラフマニノフ(コチシュ編):ヴォカリーズ

舞台に登場したガヴリリュクは、相変わらず笑顔が素敵な好青年だった。
最初のプロは月光。
抑制の効いた暗い音色で始まる。最高音に達して音量的には頂点に達しても、その陰りを持った音色は変わらない。
第2楽章で、徐々に光が差し込むような明るさを表現して見せた後、終曲へ。
終曲のデモーニッシュな表現力と躍動感はガヴリリュクならではだろう。
一方、続くショパンでは、いささかダイナミックすぎるような気がしたが、その意味でスケルツォ第一番が素晴らしかった。

後半はラフマニノフとプロコフィエフ。
こんなレパートリーを弾かせると、自家薬籠中のものといった風情で、彼は語りたいことをすべて表現し尽くす。
やはりロシアものになると、彼も燃えるのですね。

そして、お待ちかねのアンコール。
彼のコンサートで聴衆が最も熱狂するのが、実はアンコールだ。
この日の5曲も、圧巻の演奏だった。
しかしどの曲も一筋縄ではいかない。
たとえば、あの美しいラフマニノフのヴォカリーズも、音の数が少し多いと思っていたら、コチシュ編曲だとか。
やってくれるなぁ(笑)

ガヴリリュクは一たびスイッチが入ると、レーシングカーに乗ってフルスピードでアウトバーンを疾走するような快感で、聴衆を痺れさせる。
しかし、それだけではない。
たとえば、フルスピードで疾走しながら、ちらちらと舞う雪の情景もしっかりと描写しようとするのがガヴリリュクの流儀だ。
ロシアンスタイルを基本にしながら、知的なコントロールを効かせ、万人を納得させるスタイルこそ彼の真骨頂のはず。
ガヴリリュクの場合、優等生スタイルなんぞはとっくの昔に卒業しているし、この日はむしろ逆の方向に振れ過ぎて、大道芸のように感じてしまう瞬間もないわけではなかった。
この紙一重が難しい。
自分のスタイルを徹底的に磨き上げて、また素晴らしい演奏を聴かせてほしいと思う。
10年後・20年後には、文字通りトップランナーになっていなければいけない人なのだから。
ガヴリリュクさん、次回の演奏も今から心待ちにしていますよ。
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