ETUDE

~美味しいお酒、香り高い珈琲、そして何よりも素敵な音楽。
これが、私(romani)の三種の神器です。~

ベルリンフィルの清水直子さんのこと(情熱大陸)

2006-01-30 | BS、CS、DVDの視聴記
つきさきほど、TBSの情熱大陸で清水直子さんのことをとりあげていました。
皆様ご承知の通り、清水さんはミュンヘンコンクールの一等賞にして日本人初のベルリンフィルの首席ヴィオラ奏者です。

昔、ミュンヘンコンクールで優勝したときの演奏を聴いて「凄い才能だな」と思っていたところ、何年かしてベルリンフィルの首席に就任というニュースを聞き、とても嬉しく感じたことを思い出しました。
今日もヒンデミットのソナタの一節を弾いていましたが、もの凄い緊張感と集中力。これが彼女の最大の特長だと思います。
ボスであるラトルもべた褒めでした。
面白かったのはそのときのラトルの言葉で、ヴィオラのことをワインに例えて次のように話していました。
・ヴァイオリンはラベル
・チェロはボトル
・ヴィオラは中身
まさに言い得て妙ですね。「ヴィオラのレベルを聴けば、オーケストラの水準が分かる」というのはちょっといい過ぎかもしれませんが、「内声部がリズムを作り、ハーモニーを作り、こくを作る」ことを考えると、私は真実だと思います。

また、番組では年末のジルベスターコンサートでとりあげた「フィガロの結婚」序曲を、清水さんのヴィオラの前にマイクを置いた録音で聴かせてくれましたが、ものすごく面白かった。あんなイメージで他のパートの音が聴こえていて、またあんなふうに弾いているんですね・・・。参考になりました。

ところで、清水さんは3年前にトルコ人のピアニストと結婚されていることも初めて知りましたが、とても素敵なご夫婦だと感じました。
清水さんはベルリンフィルの扇の要として今後ますます活躍して欲しい人材ですが、定期的に室内楽も聴かせて欲しいなあ。とくに夫妻で息のあった演奏を大いに期待したい。ただ、ヴィオラとピアノというのはちょっとレパートリーが少ないので、どんどん新しい曲も開拓していって欲しいと思います。

たった30分の放送でしたが、とっても素晴らしい番組でした。

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モーツァルトのお誕生日とバトン3題

2006-01-27 | その他
今日1月27日は、モーツァルト250歳のお誕生日です。
BSでも今「生誕250年まるごと入門・・・」という2時間番組をやっていて、私のご贔屓のピアニストである小菅優さんが、ちょうどk545のピアノソナタの第一楽章を生で弾いているところです。
いい雰囲気だなぁ。番組もとても面白いです。

さて、先週から3種類のバトンをいただいておりましたので、一挙にチャレンジしてみました。
結構悩んでしまいますね。

■欲望バトン(リベラ33さまから)
Q1 今やりたいこと
⇒温泉に2~3日仕事をいっさい忘れて、のんびり行ってみたい。

Q2 今欲しいもの
⇒ウィーンフィルの定期演奏会のチケット。(と、勿論実際に聴くこと)

Q3 現実的に考えて今買っても良いもの
⇒いっぱいありすぎて困ります。身近のものでいうとテンピュール枕かなぁ。

Q4 現実的に考えて欲しいし買えるけど買ってないもの
⇒ハイビジョンレコーダー。

Q5 今欲しい物で高くて買えそうにないもの
⇒心置きなく音楽が聴けるオーディオルーム。(これは夢ですね!)

Q6 タダで手に入れたいもの
⇒月並みですが、心身ともに「健康」。

Q7 恋人から貰いたいもの
⇒やっぱり誠実な気持ちでしょうか。人に与えられた時間は有限だから、一緒に素敵な時間を過ごしたい。

Q8 恋人にあげるとしたら
⇒Q7と同じですね。


■フードバトン(親父りゅうさまから)
Q1:好きな食べ物・料理を3つ挙げて下さい。
⇒鮨、豆腐料理、ラーメン

Q2:嫌いな食べ物・料理を3つ挙げて下さい。
⇒そば(嫌いというよりも、食物アレルギーなのです)、セロリ

Q3:得意な料理は何ですか?
⇒何も出来ないんです。ただ、唯一コーヒーにはこだわりがあります。
自分で豆を選び、自分で挽いて、愛情を持って淹れます。

Q4-1:今まで食べた中でもっとも高価だったものは何ですか?
⇒サバティーニ(青山)の夕食

Q4-2:機会があれば食べてみたいものは何ですか?
⇒極上の刺身(とくに大トロかなあ)

Q5:あなたにとって「食」とは何ですか?
⇒生きている証し。



■お酒バトン(よしさまから)
1:パソコンもしくは本棚に入ってる『酒』は?
(棚と冷蔵庫ですが、)
⇒「甕ん中」(芋焼酎)、缶ビール(バドワイザー、えびすビールほか)、缶酎ハイ(何種類か)

2:今、妄想してる『酒』は?
⇒モエ・エ・シャンドン(シャンパン)

3:最初に出逢った『酒』は?
⇒ビール(苦いだけでした)

4:特別な思い入れのある『酒』は??
⇒シャンパン(いつでもどんな料理にも合うし、またどんなときでも幸せになれる気がするから・・・)
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ショスタコーヴィチ 「24の前奏曲とフーガ」 op87

2006-01-24 | CDの試聴記
今日は、久しぶりにセミナーの講師で大阪出張です。
病み上がりのため、「話の途中で咳き込んだらどうしよう」とか自分でも心配していましたが、何とか無事に終了しました。
先週はいろいろな方に暖かいお見舞いのことばをいただき、心よりお礼申しあげます。
娘は大雪の21日(土)がセンター受験だったのですが、何とかインフルエンザにもかからず元気に試験を受けてくれました。一番ほっとしたのは、きっと私だと思います。まあ、結果は神のみぞ知るですが・・・。

さて、先週ダウンしてしまった関係で、セミナーのための準備時間が少し足りなかったこともあり、珍しく行きの新幹線では居眠りもせず仕事をしていました。
その間ずっと聴いていたのが、ショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」です。
演奏は初演者であるニコラーエワ。

<曲目>
■ショスタコーヴィチ 「24の前奏曲とフーガ」op87
<演奏>
■タチアーナ・ニコラーエワ(ピアノ)
<録音>1987年

この曲は、1950年7月、ショスタコーヴィチがバッハ没後200年記念祭に参加するためにライプツィヒに向かったおり、練習曲として着想されたといわれています。
しかし、その後ショスタコーヴィチは次のように語っています。
「最初は対位法音楽の技術的な習作のつもりだった。しかしその後構想を拡大し、バッハの平均率クラヴィア曲集に倣って、一定の形象的内容を持つ小品の対位法様式による一大曲集にすることにした」と。
名実ともショスタコーヴィチ最高のピアノ作品といわれているだけあって、さすがに聴き応え十分ですね。

私がとくに気に入っているのは、まず5番。
「千と千尋の神隠し」のテーマに少し雰囲気が似ている前奏曲、子供がいたずらをして鬼ごっこしているような可愛いフーガ。好きだなぁ、この曲。
それから6番、15番もいい曲ですよ。15番は、マーラーのスケルツォみたいな、独特の雰囲気があります。
そして16番。この曲は、この曲集の中でも最も美しい曲じゃないでしょうか。
前奏曲は、モンポウの「歌と踊り」をどこか想わせる古風な雰囲気で始まりますが、続く和声のなんとモダンなこと。たった3分間の小品ですが見事なパッサカリアです。フーガは、全編ピアニシモの指定という珍しい曲。幻想的な雰囲気が素敵です。

19番以降のラスト5曲は、いずれも名作と言って差し支えないでしょう。
なかでも22番はサティ風のモノローグが美しいし、23番は16番と並んで清楚な美しさが際立っています。そして最後を飾る24番は、その格調の高さがいやが上にもバッハとのコラボレーションを感じさせてくれます。

ニコラーエワには3組のディスクがあるようですが、この演奏は2回目のもの。
他の2組の演奏を聴いていないので比較はできませんが、この2回目の演奏はほんとに素晴らしい演奏です。
ショスタコーヴィチも今年はメモリアルイヤーなので、しっかり聴いていかなくちゃ。
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ムラヴィンスキー 『田園』『ワルキューレの騎行』ほか(1979年来日公演)

2006-01-20 | CDの試聴記
先週広島へ出張したあたりから少し体調は悪かったのですが、一昨日名古屋へ出張したときに「あっ、ちょっとやばい?」という状況に。
案の定38度前後の熱が出てきたので昨日医者に行ってみると、不覚にもインフルエンザとのご診断。インフルエンザにしては熱が高くないのでそのあたりを質問してみると、体力があるので少し軽めで済んでいるそうです。
いずれにしても今日までは体調に関わらず会社に行けないので、自宅待機です。薬が効いてきたのか熱も下がってきたので、ごそごそ起きだしてきてちょっとだけ音楽などを聴いております。

今日聴いたのは、ムラヴィンスキーの最後の来日公演となった1979年のライブ録音です。

<曲目>
■ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調『田園』
■ワーグナー:楽劇『トリスタンとイゾルデ』より 前奏曲と愛の死
■ワーグナー:楽劇『ジークフリート』より 森のささやき
■ワーグナー:楽劇『ワルキューレ』より ワルキューレの騎行
<演奏>
ムラヴィンスキー指揮
レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団
<録音>
1979年5月21日 東京文化会館

ここに収められている演奏は1979年5月21日のものですが、幸いなことに私はその1週間後の大阪のコンサートへ行っておりました。
このディスクによって、そのときの感動が鮮烈に甦ってきました。
なおこの録音は、正規のライブ録音ではなさそうで、FM音源でもありません。
荒っぽくいうと、「隠し撮り」に近いものだと思われます。
ただ、「隠し撮り」に近いものとしては、最良の音質でしょう。
さすがに最強音はひずんでいるし、マイク(?)に何かがぶつかるような雑音等もありますが、弱音部が生々しく録音されているところが幸運でした。

さて、まずは前半の「田園」。
ひとことでいうと、スタイリッシュな格調高い演奏です。ムラヴィンスキーは「田園」という標題音楽としてではなく「交響曲第6番」として捉えてるように感じます。その意味では、フリッツ・ライナーの「田園」に似ているかもしれません。
ただ正直に告白しますと、この「田園」については残念ながら実際のコンサートのときの記憶がほとんどないのです。もったいないなぁ。

後半はワーグナープロです。
こちらは、コンサートのときの様子をよく憶えています。
何故かその日は1階に空席があったので、後半だけ(決してやってはいけないことですが)1階中ほどの席で聴かせてもらったんですが、凄い演奏でした。
ただただ凄いとしかいいようのない演奏でした。

冒頭のトリスタンとイゾルデ。
神秘的でかつ透明感に満ちた、何て素晴らしい音楽だろう。
前奏曲から既に緊張と弛緩でめろめろになりそうです。どのフレーズでも、旋律線(この曲に本当に意味の旋律があるのか疑問ですが・・・)がくっきりと浮かび上がってくるのが印象的でした。ほの暗いところから徐々に光が差し込んで道を作っていくような、まさにそんな感じです。クライマックスの金管はまさしくロシアン・ブラスのサウンドですが、一方最後の部分のピアニシモは、息ができないくらいの物凄い緊張感を秘めていました。
続く愛の死は、さらに素晴らしい演奏です。中ほどでいったんクライマックスを築いた後、テンポをどんどん速めていき最後のクライマックスへ。その間、音楽はめくるめく官能の炎に身を焦がしながら、次第に高揚しつつ、のた打ち回ります。そして静かに「憧れのモティーフ」に導かれるようにエンディング。
最後のクライマックスへ到達するまでのなりふり構わない表現(録音で聴くフルトヴェングラー以上です!)、それでいて一糸乱れないアンサンブル、これこそ当時大学生であった私に鮮烈な一撃を与えた、あのムラヴィンスキー体験そのものでした。

しかし、何と言っても当夜の白眉は最後に待っていました。
忘れようにも忘れることが出来ない演奏、それがプログラムの最後を飾った「ワルキューレの騎行」です。
これは本当に凄かった。いくらそう言っても全然言葉がたりません。
ステージ上のオーケストラがこちらに向かっていっせいに襲い掛かってくるような、まさにそんな演奏だったのです。音が大きいとか、ダイナミックだとか、輝いているとかとは次元の違う音楽でした。
CDではその片鱗は窺えますが、さすがにコンサートのときの「あの音楽」とは別物です。どだい録音に入りきるようなものではなかったのですね。

ムラヴィンスキー最後の来日公演に幸運にも立ち会えた1人として、このCDのもつ意義は大きいです。
久しぶりに聴いて、何か元気が出てきたような気がします。

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楽劇「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲と愛の死(ビルギット・ニルソンを偲ぶ)

2006-01-16 | BS、CS、DVDの視聴記
不世出の名ソプラノであるビルギット・ニルソンが1月11日に亡くなりました。
ニルソンは20年以上前に既に引退していましたから、まさに伝説のイゾルデ歌手といえる訳ですが、私がワーグナーを聴き始めた頃は来る日も来る日も彼女の歌をレコードで聴いたものです。
そんなニルソンを偲びながら聴いたのが、このDVDです。

<曲目>
■ベートーヴェン:序曲「レオノーレ」第3番
■ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番
■ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲と愛の死
<演奏>
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ヴィルヘルム・バックハウス(P)
ビルギット・ニルソン(ソプラノ)
1962年5月31日、アン・デア・ウィーン劇場。(ウィーン芸術週間)

このメンバーを見てください。
クナッパーツブッシュ、ウィーンフィル、バックハウス、そしてニルソンですよ。
コンサートマスターはボスコフスキーとバリリ。とくにバリリの真剣な表情が忘れられません。
今、このメンバーでこんな演奏がきけるなら、ヨーロッパでもどこでも飛んで行っちゃいます。
ベートーベンの2曲も素晴らしい(特にコンチェルトのほうは掛け合いと反応が実に面白い!)のですが、何といっても白眉はトリスタン。

まずは前奏曲。
クナッパーツブッシュは座って指揮をしています。
特にしかめ面をするわけでもなく、淡々と例のトリスタン和音が始まります。
しかし、今以上に猛者ぞろいだったウィーンフィルの面々の表情が、ほんとに真剣そのもの。
フォルテでは靴を踏み鳴らしながら気持ちを込めていくクナ。
そして、いつ終わるともしれない長い長いクレッシェンド。LPでそしてCDでぞくぞくさせられたクナのあのクレッシェンドが、いま映像で見ることができるのです。
そしてクライマックスでは、クナがすくっと立ち上がります。ウィーンフィルも渾身の力で応えます。
その後、管楽器でひそやかにテーマが再現される直前、クナは口に人差し指をあてます。そのあとでテーマを奏でる神秘的な管楽器の表情の何と見事なこと!

そして「愛の死」。
ニルソンが静かに歌いだします。
「いかに優しくひそやかに彼が微笑むのかを・・・」
私がワーグナーに夢中になり始めた頃のあの声を、いま映像付で聴いています。
思わず鳥肌がたちました。
その後、ゆるやかに、ゆるやかに、うねりながら音楽は高揚していきます。
そして、いつの間にかクライマックスが到来します。
そのとき二ルソンは、「そのおおらかな息吹のもとで・・・」と歌います。
天から舞い降りてくるような包容力を持った声。
もう感無量としかいいようのない瞬間でした。

もうこんなタイプのソプラノは出てこないのではないかしら。
クナが演奏終了後、ニルソンと握手を交わした後、さっさと引き上げてしまうのはまたご愛嬌・・・。
まさに奇跡のような映像でした。
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ガヴリリュク(p)&セゲルスタム/読売日響 ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番他

2006-01-15 | コンサートの感想
今日は、今年最初の読響マチネーに行ってきました。
実は、仕事の関係でジャーナル投稿用に原稿を書かないといけないのに、なかなか進みません。ちょっとあせってきました。
それはさておき、今日のマチネ。
私にとって、忘れられないコンサートになりました。
それは、素晴らしいピアニストに出会ったから。
そのピアニストの名は、アレクサンダー・ガヴリリュク。

<日時>平成18年1月15日(日) 午後2時開演
<場所>東京芸術劇場(池袋)
<曲目>
■セゲルスタム: 交響曲第91番(世界初演)
■ラフマニノフ: ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 op.18
■シベリウス: 交響曲第5番 変ホ長調 op.82
<演奏>
■レイフ・セゲルスタム指揮
■読売日本交響楽団
■アレクサンダー・ガヴリリュク (ピアノ)

ガヴリリュクは、今まで私が良く知らなかっただけで、既にピアノ好きの人たちの間では評判のピアニストだったようです。
2000年の第4回浜松国際ピアノコンクールにおいて、史上最年少で審査員満場一致で第1位に輝き、審査委員長であった中村紘子さんをして「21世紀最高の16歳」と言わしめた逸材。
また、同年開催されたショパンコンクールとこの浜松国際ピアノコンクールの両方を観た人からは、「ショパンコンクールの最高位よりも浜松国際ピアノコンクールの優勝者のほうが良かった」とも言われたそうです。
プロフィールとサンプル演奏はこちらのページでどうぞ

ガヴリリュクのピアノを聴いてまず驚いたのは、「真のレガートの達人である」ということ。これだけ音の粒がそろっていて、滑らかに演奏できる人はそう多くないでしょう。ピアノという楽器は、その楽器の性格上、弦楽器や管楽器に比べて音を滑らかに繫げるという点で、どうしてもハンデがあります。
にもかかわらず、ガヴリリュクはそんなピアノという楽器を使って、見事なまでの「うた」を聴かせてくれました。ラフマニノフのあの美しい旋律が、これほどまでに私の心を捉えたことはありませんでした。
二つめの特長は、ガヴリリュクはスリリングまでに高度なテクニックを持っていますが、決してそれを見せびらかすことなく、自分が信じる音楽を実現することだけにその技術を使います。清潔なフレージングと自在なアーティキュレーションが、目に眩しいくらい。そこから生まれ出てくる音楽がなんと自然なことか。
この若さでこんなことが出来るなんて!
三つ目の特長は、透明感を持ちながらも音色が暖かいこと。
ロシア、ウクライナ出身のピアニストというと、私にとってはリヒテルやギレリスといった巨人たちのイメージが強いのですが、彼のスタイルはまったく逆ですね。
「透明感があって暖かい、さらに音楽が自然に語りだす」といえば、私の敬愛するヴェデルニコフと同じじゃないですか。
御贔屓のピアニストが、小菅優さんに続いてまたひとり誕生しました。

でも、全然これじゃコンサートのレビューになっていませんよね。
駆け足で振り返ってみます。
冒頭のセゲルスタム自作のシンフォニー。
交響曲とはいいながら完全な現代音楽です。
現代音楽それもはじめての作品を聴く時は、私は頭をからっぽにして、体の力を抜いて聴くようにしています。
構成は、フルオーケストラでピアノ2台、ハープ2台(ピアノ・ハープは両翼配置)、打楽器も見たことがないようなものもいっぱいありました。
こんな大規模にもかかわらず、何と指揮者なしで演奏するんですよ。
曲は、ベートーベンの「運命」の動機が最初に出てきますが、あとはいろいろな情景が次々と音になって現われてきます。そろそろ飽きてきたなあ(失礼!)と思った頃、コンマスのノーランが大きく弓を上げてエンディング。

続くラフマニノフのピアノコンチェルトは、さきほどガヴリリュクのことをさんざん書きましたが、私が聴いた中でのベストかもしれません。
第2楽章冒頭の管楽器の美しさ、第3楽章開始早々のオーケストラの凄いパワーと緊張感、そしてピアノ・オケ一体となった圧倒的なエンディング、ほんと素晴らしい演奏でした。

後半はシベリウスの5番。セゲルスタムお得意の曲で、読響ものりのりの演奏。
特に第3楽章のラストは圧巻でした。
それまで悠然と自然を謳歌するような雰囲気だったのですが、コーダにきてグィッグィッとテンポを上げ、まさに圧倒的なエンディング。最後は一発必中の決め方でした。
ホルンの鐘のようなフレーズも終始とても印象的!

素晴らしいコンサートでした。





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カルロス・クライバー&ウィーンフィルのモーツァルト交響曲第36番「リンツ」他

2006-01-13 | CDの試聴記
昨日から今日にかけては広島出張でした。
今日は13日の金曜日。こんな日に飛行機に乗るのは実を言うと怖かったのですが、無事羽田に着陸。
あー、良かった。

ところで、先日一大決心をして、エクセルでモーツァルトの全作品表を作ったんです。
曲を聴いた都度、そのエクセルシートに日付と演奏者等を書き入れています。
まだまだ先は遠いですが、これも楽しみのうちですね。

今日ご紹介するのは、モーツァルトの交響曲第36番「リンツ」。
皆さんはこの曲お好きですか?
「リンツ」はモーツァルトの後期のシンフォニーの中ではちょっと地味な曲ですよね。
でも、「さあ、立派なシンフォニーを聴くぞ!」なんて構えることなく、自然な気持ちで聴けるところに私はとても魅力を感じています。
ザルツブルクからの帰路立ち寄ったリンツで、わずか4日間で作曲されたというこの曲、全編一筆書きのような爽やかな感覚に満ちています。

今まで聴いた中では、クーベリックがバイエルン放送交響楽団と組んだ演奏、アーノンクールがロイヤルコンセルトヘボウと組んだ演奏が好きでした。名盤の誉れ高いベーム&ベルリンフィル盤も素晴らしいのですが、残念ながら終楽章が少し重い!
またこの曲の雰囲気を考えると、さぞかしウィーンフィルにぴったりの曲だと思うのですが、いつも素晴らしい演奏を聴かせてくれるケルテスも、ウィーンフィルとして初めての全集を作ったレヴァインも、また古いバーンスタイン盤も、それぞれ勿論素晴らしいところはあるのですが、逆にどうしても気になるところがあって私の琴線に触れないのです。
そんなときに聴いたのがこのカルロス・クライバー盤。

<曲目>
■モーツァルト:交響曲第36番ハ長調K425
■ブラームス:交響曲第2番
<演奏>
■カルロス・クライバー指揮
■ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
<録音>1988年3月20日 定期演奏会のライブ録音

これは素晴らしい名演です。
年末から何十回となく聴いてきましたが、聴くたびに新しい発見があります。
もうすっかり虜にされてしまいました。

第1楽章、アダージョで書かれた短い序奏で始まりますが、このたった19小節が凄いんです。
こんなに素晴らしい音楽だったのかと思わせるほど見事な演奏です。とくに4小節めからヴァイオリン→ファゴット→オーボエと引き継がれていくフレーズの表情は、もうたとえようもない美しさ。この序奏を聴いただけで、この演奏の素晴らしさを実感できます。続く主部のアレグロ・スピリトーゾは一転して、生気溢れる見事な表現。さすがカルロスです。

第2楽章、冒頭のメロディのなんと優美なこと。続く5小節目のfpも、なんともいえない絶妙の色気を感じさせてくれます。また22小節は、たった1音で翳りのある表情に変えてしまうモーツァルトの天才ぶりを実感できる箇所ですが、カルロス&ウィーンフィルは完璧に表現してみせます。
そして、リピートの後登場する「ド-レ-ミ-ファ-ソ-ラ♭-シ♭-ド-ド-レ♭」というなんでもない音階が、カルロスの手に掛かるとなぜこんなに印象に残るんだろう。他の演奏では感じられなかったことです。

そして、終楽章はこれしかないというテンポで、力まず、しなやかで、かつ弾力性に富んだ何とも見事な演奏が展開されています。とりわけ、対位法的に書かれた部分の見事さは、何度聴いても思わずにっこり頷いてしまいます。
ウィーンフィルのメンバーが、「カルロスのベートーベンはクレイジーだ」と話していたそうですが、このモーツァルトは弾いていてどう感じたのでしょうか?
是非聞いてみたいものです。

私は、この曲最高の名演だと信じて疑いません。
正規盤でリリースされていないのが何とも残念ですが、録音もとても良いです。
また入手しやすいという点では、同じコンビで1991年にウィーンで公開録画された演奏が、フィリップスからレーザーディスクやDVDとしてリリースされています。
カルロスの指揮振りがたっぷり堪能できることもあり、こちらもお薦めです。
演奏の傾向もよく似ていますよ。

ただ、2種類を比べると、私は1988年の定期演奏会のほうにより魅力を感じますが・・・。

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ケフェレックのバッハアルバム

2006-01-08 | CDの試聴記
最近暇を見つけては、オペラ等のレーザーディスクをDVDへせっせとダビングしています。
技術がどんどん発達していただくのはもちろん大歓迎なのですが、その間に集めた大切なソフトは一体どうしたらいいの?
レーザーディスクのプレーヤーは昨年修理をしたばかりなので、しばらくは大丈夫だと思っていますが、今後故障したらひょっとすると一巻の終わりになるかも・・・。
せっかく修理したのに、1年くらいあとになって急に寿命が尽きる、という苦い経験を何度かしているので、今のうちにDVDにダビングをしておこうと考えた次第です。
でも相当量のソフトがあるので、果たしていつ終わることやら・・・。また長い間かけてせっせと録画した大量のビデオテープ群は?いや、もっと深刻なのは、ハードが動くかどうかすら心配なVHDのソフト。
あー、もう悩ましい限り!考えるのも嫌になってきます。

こんなときは、やっぱりバッハ。
今日聴いたのは、パリ生まれの名花アンヌ・ケフェレックが初来日の時に録音したバッハのアルバムです。

J.S.バッハ作曲
■パルティータ第5番ト長調 BWV.8292
■パルティータ第2番ハ短調 BWV.826
■半音階幻想曲とフーガ ニ短調 BWV.903
<演奏>
 アンヌ・ケフェレック(p)
<録音>
 1975年11月11日&12日、世田谷区民会館

ほんと素敵な演奏。
彼女のバッハは初めて聴きましたが、すっかり魅了されました。
こんなに瑞々しいバッハはそうは聴けないでしょう。
冷たいレモンを口に含んだ時のような感覚、といえば何となく想像いただけるでしょうか。
パルティータ第5番の冒頭を聴いただけで、その特長はすぐに分かります。
テンポが実にいいのと、アーティキュレーションがどんなときでも適切なので、音楽が常に躍動感に溢れています。
パルティータ第2番の第一曲シンフォニアも、グラーヴェ部分で必要以上に劇的な表現はみせません。だからこそ、続くフーガが音楽として見事に息づいていくのでしょう。
サラバンドでは、もう少し切なくなるような緊張感にとんだ表現を私は好みますが、ケフェレックはここでも過度の表現をあえて避けているようにみえます。でも一見そっけなく弾かれているようで、かえって内に秘めた叙情性が自然に滲み出てくるから不思議なものですね。
終曲カプリッチョは、ポリフォニーの綾を見事に描ききった素晴らしい演奏。
最後の半音階的幻想曲は、ピアノという楽器の機能を存分に使って、文字通りファンタジックな名演奏。続くフーガも神秘的な主題の提示に始まり内的緊張感に満ちあふれていました。

さすがにグールドのような凄みを持った演奏ではありませんが、決してべたべたせず透明感があってかつ暖かい。
これって、私の理想のスタイルです。
それからこの録音で使用されたベーゼンドルファー・インペリアルの深みのある音色もたまらなく魅力的で、このケフェレックの名演奏に大きく貢献しています。
私の大切な1枚になりました。

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セゲルスタム&読売日響の「展覧会の絵」「新世界」

2006-01-07 | コンサートの感想
読響、今年も好調です。

今日は読売日響の名曲コンサートへ行ってきました。
私にとっても読売日響にとっても、今年最初のコンサートになります。
まだ新年の第一週ということもあり、晴れ着を着た女性の姿もちらほら。
昨年12月のマチネーコンサートが、息子の吹奏楽部の定期演奏会と重なってしまったので、その振り替えとして名曲コンサートのチケットを手配してもらいました。
本当は1月21日の定期演奏会(演目はマーラーの「復活」)に振り替えたかったのですが、あいにく満席で今日の名曲演奏会に決まった次第です。

<日時>1月7日(土) 午後6時開演
<場所> 東京芸術劇場
<曲目>
■ムソルグスキー=ラヴェル: 組曲〈展覧会の絵〉
■ドヴォルザーク: 交響曲第9番 op.95〈新世界から〉
■ドヴォルザーク: スラヴ舞曲op.72-2<アンコール>
<演奏>
レイフ・セゲルスタム指揮
読売日本交響楽団

冒頭に書かせていただいたとおり、読響は今年も好調でした。
ところで、みなさんは、セゲルスタムというとどんなイメージを持っておられますか?
「北欧系のレーベルからCDを出している指揮者、とんでもなくたくさんの交響曲を書いている作曲家・・・」、こんなイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。
セゲルスタムを実際にご覧になると、まずその風貌に誰しも驚かれると思います。
私も最初に読響マチネーで彼の指揮姿に接したときは、ほんと驚きました。
百数十キロはゆうにあろうかという巨体、長髪・ひげだらけの顔、この上に赤い服を着て帽子をかぶったらまさに「サンタ・クロース」そのもの。
(チラシの画像は縮小されてしまっているので分かりずらいと思いますが・・・)
しかし、そんなユーモラスな雰囲気とはうらはらに、セゲルスタムの指揮者としての力量は並々ならぬものがあります。
セゲルスタムは、身体に似合わず緻密な音楽を作る人で、一言で言うと非常に見通しのいい指揮をする人です。加えて、各パートの音量を押さえてバランスをとるタイプではなく、どのパートも鳴らしながらバランスをとっていくので、いい意味でオケの鳴りっぷりが抜群。したがって、聴いた後で絶対欲求不満に陥ることがありません。
指揮者として非常に重要な資質を備えている人だと、改めて感じました。

前半の「展覧会の絵」。
正直に告白すると、嫌いじゃないけど苦手なんです、この曲。
昔、大迫力だけど音が固まりになった「大団子」の演奏でこの曲を聴かされて以来、どうやら「とらうま」になっていたみたいです。
だから、我が家でこの曲がかかることは、めったにありません。
そんな状態でしたので、少し半身に構えて聴き始めました。
しかし、冒頭のトランペットソロの何と輝かしく爽快なこと!(ソロは長谷川潤さん?)
何となく「とらうま」が消えそうな予感が・・・。
その後のフォルテでも、音が団子にならず、よく分離して聴こえてきます。
今日は読響のブラスと打楽器群が圧倒的な演奏を聴かせてくれました。サックスのソロもうっとりするくらい見事!一方、強奏部分では、東京芸術劇場が割れるかと思ったくらいの凄いサウンド。それでも団子にならない!
素晴らしい演奏でした。
これで「とらうま」がきれいさっぱり無くなってくれるといいのですが・・・。

後半の「新世界から」。
こちらも、「展覧会の絵」と同様、読響の質の高いアンサンブルに支えられて圧倒的な演奏でした。
とくに第2楽章がよかったなあ。
私が「新世界」の実演で最も感銘を受けたのは、シャイーがロイヤルコンセルトヘボウと来日した時の演奏です。
そのときの第2楽章、ラストに近い部分で各弦楽器のソロだけになる箇所がありますが、息をするのもはばかられるくらいの凄い緊張感で金縛りにあったような感銘を受けました。
今日の読響も負けていません。むしろ音の溶け合いという意味では、読響のほうが上をいっていたかも・・・。
そのサウンドは、昨年も書きましたが既に一流の域に達しています。新年早々、素晴らしく充実した音楽を聴かせてもらいました。
来週は、同じセゲルスタムの指揮でシベリウスの5番他のマチネーコンサートです。
今年も読響から目を離せなくなりそう。
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ミトロプーロスのシューマン交響曲第2番

2006-01-04 | CDの試聴記
時間がゆったりと流れた3日間も終わり、今日からいつもどおり仕事です。
気分一新といきたいところですが、なかなかエンジンがかかりません。何よりテンションが上がらないのに閉口しました。
まあ、本番は明日からさ!

さて、今日ご紹介するのは少し珍しいCDです。
いつもお世話になっているリベラ33さんの記事を拝見して、今年はシューマンの没後150年だということを知りました。
それでシューマンの曲をということになったのですが、大好きな交響曲第2番に即決定。
あとは演奏ですが、これはサプライズの意味で珍しいディスクを。

■シューマン:交響曲第2番ハ長調 Op.61ほか
ディミトリ・ミトロプーロス指揮
ミネアポリス交響楽団
(録音:1940年12月3日、ミネアポリス)

ミトロプーロスが手兵のミネアポリス交響楽団を振ったものですが、意外に音はいいです。
第1楽章は、ちょっと危なっかしい感じ。ミトロプーロスのやりたいことに、オケがついていっていないような気がします。
第2楽章でやっと歯車がかみあってきます。圧巻はコーダ。あのセル&BPOライブや、クリーブランドOとのルガノライブを上回るものすごいテンポで疾走していきます。バイロイトの第九のコーダ並みといったら言い過ぎ?
第3楽章のアダージョは、文字通りすすり泣くような演奏。バーンスタインが目指したイメージに近いのではないかしら。私はこんな表現大好きです。
第4楽章もエネルギー感に満ちた力演。ただ、旋律は見事に歌われているのですが、伴奏の強拍のアクセントが少し目立つかなあ。
この演奏、少し荒っぽいところがあるし、何箇所か傷もあります。また当然音も古いので、ファーストチョイスにはちょっと推せませんが、この曲を何種類か聴いてこられた方にはとても面白いディスクだと思います。
ちなみに、彼は1954年のザルツブルク音楽祭でウィーンフィルと組んでこの曲を演奏しており、そのライブ録音も大変評判が良いようですが、私は残念ながらまだ聴けていません。



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ザルツブルク音楽祭の歌劇「椿姫」

2006-01-03 | BS、CS、DVDの視聴記
お正月は、時間がゆっくりと流れていきます。
普段の日はどうしても時間に追われる日が続いていたので、ほんとに幸せな気がします。
昨日は初詣に行きました。昼前から雨が降ってきたこともあり、例年は初詣客でごったがえす氷川神社も人が少なくきわめてスムーズ。待つことがきらいな関西流に言う「いらち」の私にとっては最高の初詣になりました。
引いたおみくじは「吉」。なかなかいい運勢だと勝手に喜んでいます。

さて、初詣のあとは、岩城宏之さんが2年連続で大晦日にひとりで振りきった「ベートーベンのシンフォニー全曲演奏会」の映像を、DVDに整理しながら観ていました。
72歳にして凄いエネルギー。もう負けそう。(いや、とっくに負けてますね・・・)
オケはN響のメンバーを中心とする有志で集まったスペシャルメンバーですが、岩城さんの元で弾きたい、年の終わりにベートーベンの音楽を演奏したい、そして聴衆に伝えたい、という気迫がひしひしと伝わってきて、妙に力んでいないだけ音楽が生き生きして素晴らしい演奏でした。
岩城さんを襲った多くの病魔のことを考えると、それを克服してこれだけの偉業をなしとげてくれたことにただただ敬意を表するのみです。とくに2番、8番といった偶数番号のシンフォニーがよかったなぁ。
「一日でベートーベンを全曲演奏するなんて、やっつけ仕事に決まってる」と一方的に非難した某有名評論家に、ほんと聞かせてやりたい!

そして夜は、楽しみにしていた2005年ザルツブルク音楽祭の「椿姫」をNHK Hiviで観ました。
なんと言ってもお目当ては、今をときめくソプラノ アンナ・ネトレプコ 。
ところで、このザルツブルク音楽祭の最大の目玉になった「椿姫」は、読響の月刊誌の10月号で山崎睦さんが書かれた記事によると相当スキャンダラスな話題があったようです。
要旨はざっと次のようなものです。
『この「椿姫」、人気が人気を呼び、最高席360ユーロ(約6万円)のチケットがブラックマーケットでは2500ユーロにまで高騰。
そして何とヒロイン アンナ・ネトレプコが妊娠5ヶ月?のため椿姫をキャンセルするという噂が夏前に出回った。そのため大量のチケットを扱う旅行業者が早々に底値で売り払ってしまった。その後デマだと分かって買い戻そうとすると、もう値段が数倍になっているという巧妙なトリックが仕掛けられていたようで、チケットの流通がますます混乱した。』
トマスハンプソンに関する話題もあったようですが、それは直接今回の「椿姫」と関係ないので割愛します。

さて、実際の舞台はどうだったのか。
冒頭、第一幕の神秘的な前奏曲が流れる中、夜会の雰囲気はまったくありません。
舞台中央には真っ赤なドレスを着たヴィオレッタ。舞台の端に老人の姿。この老人は後でわかりますがグランヴィル 医師です。全ての運命を知っている神(死神?)をイメージしているのでしょうか。非常に印象に残るシーンです。
そして舞台には大きな時計が設置されています。命の時間、束の間の幸福の時間、ヴィオレッタはいじらしいことに最後まで何度もこの時計の針を止めようとしていました。これも本当に印象的。
ヒロイン役のネトレプコは薄幸の美女というよりはむしろ妖艶。ほんと美人です。ゲオルギュウあたりと比べると、少し気の強いヴィオレッタのような気もしましたが、自分の気持ちに正直なヴィオレッタはほんとはこんなイメージだったのかもしれませんね。
オペラが進んでいくにしたがって、ネトレプコの一途なヴィオレッタにすっかり魅了されてしまいました。
アルフレード役のビリャソンは、まさにはまり役。歌そのものは最初少し硬い感じがしましたが、これもある意味でぼっちゃんキャラであることを考えると納得。声は素晴らしいです。

第二幕第一場は一番好きな部分ですが、すべてが素晴らしかった。ジェルモン役のハンプソンはまさに圧倒的。あまりに若々しく理知的なので「本当にアルフレードぼっちゃんのお父さん?」という気がするほど完璧な歌唱でした。
ネトレプコが切々と訴える情熱的なヴィオレッタにも、すっかりはまってしまいました。
第二場では、例の時計と神様としてのグランヴィル 医師が登場し、ヴィオレッタに残された時間を思い出させます。そして、真っ赤なドレスを脱いで真っ白なスリップ姿になったヴィオレッタが倒れこんで、そのまま第三幕へ。

第三幕の前奏曲が静かに流れるなか、またしても例の神様としてのグランヴィル 医師が登場。夜会に集まっていた人たちを静かに外へ出します。そのあと今度は医師として「具合はいかがですか」とたずねる場面の言葉の重みとあわせ、ルイージ・ローニの存在感の大きさに戦慄を覚えました。
もうそのあとは、どの場面もどの歌も感動的で、かわいそうなヴィオレッタの最後に思わず涙が出そうになりました。

やはり話題になっただけのことはありますね。
それから忘れてはならないのが、ウィーンフィルの素晴らしさ。もう言い尽くされていますが、本当に見事としかいいようがありません。たとえば、第二幕でヴィオレッタの歌に絡んでいくクラリネットの切なくなるような表情。もうこれだけで胸がいっぱいになります。
また、最後の聴衆の熱狂ぶりも大変なもので、もちろんスタンディンオベーション。舞台袖でカーテンコールを待つネトレプコたちの表情も見れて最高に面白かった。
ザルツブルク音楽祭のプレミエ公演をこれだけ素晴らしい映像でみれるなんて、かけがえのないお年玉をもらった気持ちです。


ヴェルディ:歌劇『椿姫』全曲
■歌手
 ヴィオレッタ : アンナ・ネトレプコ
 フローラ : ヘレン・シュナイダーマン
 アンニーナ : ダイアン・ピルチャー
 アルフレード : ロランド・ビリャソン
 ジェルモン : トマス・ハンプソン
 ガストン子爵 : サルヴァトーレ・コルデルラ
 ドゥフォール男爵 : ポール・ゲー
 ドビニー侯爵 : ヘルマン・ヴァレーン
 グランヴィル (医師) : ルイージ・ローニ
■演出 : ウィリー・デッカー
■演奏
 ウィーン国立歌劇場合唱団
 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
 指揮:カルロ・リッツィ
(2005年8月7日 ザルツブルク祝祭大劇場)


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新年おめでとうございます(モーツァルト:オーボエ四重奏曲)

2006-01-01 | CDの試聴記
明けましておめでとうございます。
いよいよ2006年が始まりました。
今年もどうぞよろしくお願い致します。

息子は昨夜から某神社のアルバイトに出かけ、つい先ほど帰ってきたところ。
また、娘は受験生なので、朝から予備校へ。
というわけで、新年のお雑煮は、妻と2人でいただきました。
でも、年が変わるというのは新たな気持ちになれるので、やっぱり良いですねぇ。
皆が健康で有意義な年になればと願っております。

さて、昨夜2005年の最後に選んで聴いたのはバッハでした。(正確には夜中の2時ごろだったので、既に新年になっておりましたが・・・)
曲は平均律クラヴィア曲集第1巻の後半で、リヒテルのいわゆるインスブルックライブです。入手が難しいとされるこのアルバムを、2004年の暮れに偶然CDショップでゲットできたことから、昨年は少し運気が向上したのかもしれません。
相変わらず素晴らしい演奏。とくに最後の24番の前奏曲とフーガは、神々しいとしか表現できません。

そして新年開始の音楽として選んだのは、モーツァルトイヤーに敬意を表して、彼の「オーボエ四重奏曲」です。
ホリガー盤にしようか少し迷ったのですが、結局私の大好きなオーボエ奏者であるシェレンベルガーを中心とするアンサンブルのディスクにしました。
何と明るく素敵な曲!
第1楽章冒頭から、まさに明るい太陽の陽射しが降り注いでくるような音楽。
新年の朝にピッタリです。
第2楽章で少しメランコリックな歌を奏でた後、第3楽章ではまたあの明るさが戻ってきます。
シェレンベルガーは素晴らしいテクニックを駆使しながら、上品さを決して失わず愉悦感にも不足しないという理想的な演奏を聴かせてくれています。

またこのディスクを選んだもう一つの理由は、「アダージョ ハ長調K580a」を聴きたかったからです。
この曲は未完の曲で、イングリッシュホルン以外の楽器編成も指示されていません。だから、演奏にあたっては未完の部分を補ってやるしかないのですが、このディスクできくこのアダージョは、本当に柔らかくってほのぼのとした雰囲気を感じさせてくれます。
そして、この曲の冒頭の旋律は、まさに名品「アヴェ・ヴェルム・コルプス」と同じなんです。テンポはアヴェ・ヴェルム・コルプスより少し速めですが、雰囲気は共通するところがありますね。
あまり知られていない曲かもしれませんが、一回聴いたらきっと大好きになっていただける音楽だと思います。

<曲目>
モーツァルト作曲
■オーボエ四重奏曲 ヘ長調 Kv370
■アダージョ ハ長調 Kv580a - イングリッシュ・ホルンとヴァイオリン、ヴィオラとチェロのための
■オーボエ五重奏曲 ハ短調 Kv406 (516b)
<演奏>
シェレンベルガー(オーボエ、イングリッシュホルン)
フィルハーモニア・クァルテット・ベルリン
<録音>1981年
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