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心に映りゆくよしなしごと書きとめどころ

桜吹雪の花かげに  花嫁姿のお姉様

2009-03-20 03:02:57 | 音楽を聴く
 前回、「影」について述べましたが、そのとき何か「ん?」と引っかかるものがありました。
 なにやらこれに関連したようなしないようなことで、何かが気になって仕方がないのです。
 床についてからそれに思い当たりました。
 気づいてみれば他愛ないことです。
 私が好きだった、そして今も好きで、最近滅多に聴かないけれど、聴いたらたぶん胸に迫るような歌があったのです。
 それは懐かしい童謡です。
 その名もずばり、「花かげ」、つまり、「影」からの連想なのでした。

 

 歌詞もメロディも叙情的で素敵なのですが、曲は子供の歌には数少ない短調で書かれていて、大人の鑑賞にも耐えることが出来ます。

 「花かげ」  曲:豊田義一  詞:大村主計(かずえ)

   十五夜お月さま ひとりぼち
   桜吹雪の 花かげに
   花嫁すがたの おねえさま
   俥*にゆられて ゆきました

   十五夜お月さま 見てたでしょう
   桜吹雪の 花かげに
   花嫁すがたの ねえさまと
   お別れおしんで 泣きました

   十五夜お月さま ひとりぼち
   桜吹雪の 花かげに
   遠いお里の おねえさま
   わたしはひとりに なりました


  *この「くるま」は人力車のこと

 

 この歌は、1931(昭6)年にレコード化され、A面は同じ作曲者、作詞者による「繪日傘」で、この「花かげ」はB面でした。
 最初のレコーディングの際に誰が歌ったのかは調べても分かりませんでしたが、私が聴いたのは川田三姉妹の長女、川田正子さんが戦後まもなく歌ったものだったと思います。

 川田正子さんといえばいろいろな歌を歌っていますが、代表作は「みかんの花咲く丘」だろうと思います。
 この歌は、大人にとっては並木路子さんの「りんごの歌」が戦後を象徴したように、私たち子供にとっては戦意高揚の歌から解放され、まさに戦後を告げる叙情歌だったのです。
 この歌も大好きなのですが、それにもまして「花かげ」には私なりの深い思い入れがあるのです。

      
      このイラストは二木紘三さんのページから引用しました

 それは、私が生後すぐに母を亡くし、養子に出されたことに関連します。
 そのとき、私には二つ年上の姉がいたのですが、その姉は別のところに養女に出され、その消息はず~っと私の知るところではありませんでした。
 そんな状況であればこそ、会ったこともない姉の面影をあれこれ想像しながら、この歌に強く惹かれたのでした。
 三番の「遠いお里の おねえさま わたしはひとりに なりました」で、いつも私の感傷は頂点に達するのでした。

 姉と再会(私にとっては初対面同然でしたが)したのは、私が40歳を過ぎてからでした。
 会うことが出来て良かったと思ういい姉でした。
 住まいが遠い為、頻繁な行き来こそ出来ませんが、むろんそれ以後、付き合いはあります。

 

 そんなわけで、この歌は40年以上にわたって姉と私とを繋いでいてくれたのでした。
 まもなく「桜吹雪の 花かげ」の季を迎えます。
 この時期、月や花を見ると、私はこの歌を胸の内で何度も反芻するのです。
 そして、この歌に胸キュンとなったかつての自分を思い、新たに胸キュンとなるのです。馬鹿ですね。
 
 私にこの歌を聴かせてくれた川田正子さんは、2006年に他界されたそうです。
 あの透明感のある声で聴いた数々の歌、とりわけここに書いた「花かげ」は、私の生涯の歌となりました。
 川田正子さん、ありがとう。






コメント (2)
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