イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

相棒吸ったな

2008-11-08 00:43:29 | CM

高齢家族にデジタル放送番組表予約録画の優秀さ(野球後ズレによる延長キャッチ)を初めて思い知らせた『相棒season73話『沈黙のカナリア』。

12話が、1話で2週使った、SPの良くも悪しくも遊びの多いゆったり叙述だったせいもあり、再生一度めではえらく駆け足で詰め込んだ話という印象でした。

右京さんも亀ちゃんも、二世議員・後藤(大沢健さん)の血筋や最近のマスコミ人気ぶりに関してなど、いつになく説明台詞が饒舌だったような。さほど高テンションとも思えない場面で、これだけクチカズの多い右京さんもあまり見ない気がする。脚本・徳永富彦さんが『相棒』シリーズ初参戦なので、右京&亀の関係性、角田課長(山西惇さん)の「ヒマか?」、捜一伊丹(川原和久さん)の「トクメイガカリの亀山ァ~」などのお約束をこなすのに若干忙しかったかも。

それにしても前週、旧友の妻に悲報を伝えるつらい役目を買って出て、遠くサルウィン(地図ではバングラデシュとミャンマーの間ぐらい)まで飛んだ亀ちゃん、あっさり帰国してお土産も見当たりませんが。確かにそんなお気楽な渡航じゃなかったけどね。

炭鉱事故で父を失い、坑内禁止の煙草で事故の原因を作ったとカネで汚名を買わされ、炭住近隣のバッシングに苦しんだ母は自殺。その遺児である松岡京介(眞島秀和さん)は父議員の右腕たる秘書として会社の保安責任もみ消しに奔走していた中村(ウルザード/ブレイジェル磯部勉さん)への復讐を誓って、二世の大学の後輩だった縁で公設秘書に。自分がそうなるかもしれなかったワーキングプアたちを偽装派遣求人サイトで募り、議員会館内事務所に爆弾を持ち込ませて、仇と狙う中村殺害に成功、二世議員に容疑をかけさせるところまではうまくいったけれど、雇った実行犯に渡した事務所の平面図がずばり二世議員事務所の間取りと同じものだったことから「彼を雇った主犯は、この事務所の平面図を議員会館の標準と思っている=事務所内部に主犯」と右京さんに目星をつけられて結局逃げ切れなかった。

「復讐のための人生はあなたにとって満足のいくものでしたか?」と右京さんは松岡に問いましたが、「そのエネルギーを復讐に費やすより、政治家のブレーンとして、貧しさの痛みを知る者として活かしたら」とは言わなかった。学校から帰宅すると炭住の梁に首を吊ってこと切れていた母親に、泣きながら縋ったときの重さや冷たさを肌で味わった少年に、“復讐心よりもっと有意義な前向きな方向に生きるべきだった”とは右京さんならずともとても言えるものではないでしょう。松岡が大学まで進学し、政治サークルでかつて父の死を買わせた議員の二世と知己になるまでの資金も、実は中村が母親に「ご主人の死にざまをこれで売って下さい」と土下座して提供していた金だったはず。

「(煙草失火の汚名を着せられ坑内爆発事故の原因にされた)親父も、この男(=雇われ実行犯のワーキングプア種田)も、弱いから利用されたんです、弱い人間は生きてても死んでも同じです」「僕は(中村及び雇った実行犯種田謀殺を)後悔してませんよ、僕の人生は、復讐のためだけにありましたから」と松岡。しかし公設秘書として中村への復讐の機会を窺って5年、当の中村は思いのほか穏やかで器の大きい人物で、気がつけば中村に評価されれば誇らしく思い、中村に師事したのは復讐のためだという目的を忘れそうになる自分がいた。

復讐とは、1人の人間の一面、一時期の一行動・一言動だけをとことん見つめ、他の明るい面や温かい部分に目を瞑って憎悪を維持することであって、ある意味自分という人間の感性・他人への共感性を“少しずつ死なせて行く”過程でもある。まだ若い松岡にとって、どれだけの人生のエネルギーが復讐の名のもとに無に、負に費やされたことでしょう。だから右京さんは、疑問は呈しても詰問はしなかったのです。

そして中村は、松岡がかつて自分が死に様を買った労災坑夫の遺児であることを承知で「運命かもしれない」と秘書採用を二世議員に進言していた。知っていたなら松岡に「そうだったのか、キミとお母さんには本当に申し訳ない事をした、大学を出て立派な志高い青年に成長してくれて、こんなに嬉しい事はない」「政治の道を志してこうして同じ職場に来てくれたのも縁だ、罪滅ぼしと思って君を議員のパートナーに育ててあげたい、苦しい体験を糧に、いつか政治家を目指すならその力にもなろう」と中村のほうから打ち明け申し出てくれれば、松岡は復讐心から自由になれ、裕福に育った後藤二世どころではない、有能で人心を惹きつけ得る政治家も望めたかもしれない。

“復讐”という暗く孤独な心理、行為の重さ、裏返しの空しさ。1話でここまで鋭く描き切る脚本を見せつけられると、今日7日に29話を数えた『愛讐のロメラ』が如何に同じモチーフを物語として料理できず、コントロールできていないかがわかる。東海昼枠への愛着と期待から、何だかんだでウォッチし続けていましたが、これだけドラマ制作上の力量に歴然と差がつくと、こちらはそろそろ見切る潮時かも。

前述の通りやや駆け足ピッチなエピソードではありましたが、見せ場は惜しみなし。実行犯の足跡を追いネットカフェに到達した右京さんがティーバッグを上下させる場面は、軽いお宝映像でしょう。あれだけ紅茶にはこだわる右京さんが何ゆえティーバッグ?と思ったら、レーザープリンタのにじみ実験のためだった。それなら色の付かない別のドリンクのほうがいいのに、やっぱり、あれば紅茶頼んじゃうのが右京さん。

実行犯種田がネカフェにUSBメモリー残して行ったとわかれば、即端末につないで読み出しできるのはやっぱり捜一トリオではヤング芹沢くん(山中崇史さん)だけだったり。イタミンの亀ちゃんいたぶりフレーズの中でも「このスッポン山~!」はおニューではないかな。亀と言えばスッポンもありだけど、“吸いついたら離れない”ってちょっとリスペクトも入ってたような。

政策秘書中村に対し、公設秘書松岡が仕掛けた爆殺事件と知れれば、後藤二世の政治生命も風前の灯でしょう。政界入り前は大麻取引の交友があり、中村による論文原稿代筆なくしてははなからワープアへの共感や使命感も持たない、ただの頭空っぽアホぼん二世とバレた後藤。ここらの先行きを暗示して明示はせず終わるのも、アイロニカルでビターなCrime doesn’t pay.の後味をこそ得意とする『相棒』シリーズの魅力です。

いつも瞠目なゲスト俳優さんの中では、東海昼ドラ『紅の紋章』『花衣夢衣』も記憶に新しい眞島さんのほかにも、現放送中『ロメラ』に併行してまたも愛児を遺し自殺する役の立原麻衣さん。

ネットで雇われた実行犯その2・高本には大人計画の顔田顔彦さん、『仮面ライダー剣(ブレイド)』で竹財輝之助さんをどやしつけていた(劇場版『剣』では倍返しされていた)編集長。Season4の『殺人ヒーター』だったか村杉蝉之介さん、近藤公園さんも重要な役で出演していたし、大人計画との相性はいいですね『相棒』。

二世議員役大沢さんは、もう10年以上前になりますか、第一生命のCM“新鮮組”で、パロディ沖田総司に扮していましたな。「あの若者ひとりに寄ってたかって、多勢に無勢ではないか!」とサッカーのゴール前に突撃するヴァージョンは笑ったな。発足したばかりのJリーグがまだブームの頃でした。

欲を言えばエピソードタイトル『沈黙のカナリア』が若干こなれが悪かったか。所謂炭坑カナリア、“強者の利のため犠牲にされる弱者”の象徴でしょうが、ラストに右京さんの説明だけで引き合いに出され、なんだか取って付けた様。どこかで本物のカナリアがモチーフに出ていれば、比喩としてきれいだったのですが。

コメント
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