イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

希望無き者

2007-03-08 17:56:17 | テレビ番組

日頃、TV番組についてこのブログに書くときは、記事タイトルに、観ていて記憶に残った名セリフや、主題歌の一節、象徴的な固有名詞などをなるべく入れたいなと思っているのですが、『華麗なる一族』に関しては、ちょっと参りました。

このドラマを集約するような名ゼリフが、第8話終了段階でひとつも心に残ってこないのです。

このドラマ、何がいちばんイヤだと言って、演出に節度がないことです。中盤最大のカタストロフであるはずの7話の高炉爆発炎上、夜半自邸から駆けつけた鉄平、あろうことか炎に包まれんとする現場の足元まで、メットなしの(木村拓哉さんの登録商標たる)襟足前髪を風になびかせ、私服、徒歩でタッタッ来て、炎上中の二階見上げて「ゲンさん!」なんて手をメガホンにして声かけてやんの。んでまた「ケガ人おらんか、早よせぇ」って仕切ってたゲンさんが「おぉ!」なんて手上げて返事したりなんかして。「若、こんなもんで高炉建設あきらめたらあかんデ、わかったな!」→鉄平思わずウルッ→ゲンさん「ワカーー、大丈夫や、ここはワイに任しとき!」胸叩いて満面の笑顔→構内に消えたところでドーン爆発…もうね、いまどき、漫画だってこんだけベタになりようがないってぐらいベタ。

ベタというより、セリフ、言葉数が過剰でしょう。そこらじゅう火ボーボー燃えてるのに、コーロケンセツがどったらこったら喋べくって、笑顔と涙でエール交換してる自体漫画っぽいし、ゲンさんを誰が演ってると思います?日本で五本の指に入る目ヂカラ男・六平直政さんですよ。もったいないにもほどがある。

もっとずっと遠く離れた場所から、矢も盾も堪らんという感じで鉄平が叫び、叫喚と轟音の中耳ざとく聞きつけたゲンさんが、櫓の上から目ヂカラ一発で“安心せい”“アンタはアンタの仕事をせえ”“ワイはこの仕事場を愛してるから、ここに命賭けたる”等が入り混じった万感の想いを、夜の闇の中、炎に浮かび上がる煤まみれの表情と、抑えた手振りだけで表現する演技をさせ、そこだけをカメラがグッグッと徐々に迫ってアップで抜いたら、数十倍胸に迫る名場面にもなり、この回で出番終了の六平さんの、役者人生の代表作にまでなる可能性もあったのに、何であんな、ちんまりした距離感で、でれでれ説明的な芝居に作っちゃうかなぁ。

資材搬入に着手した頃は、鉄平を青二才呼ばわりして小馬鹿にしていたゲンさんが、次第に高炉建設にかける情熱にほだされて“若のために一肌脱いだる、汗かいたる”という同朋意識をはぐくんでいく過程をせっかく丁寧に描いたのに、あらかた無駄になってしまった。

しかも、ある部分ではこんな具合にコッテコテな演出が、別の要所ではおそろしく、放っぽり投げたみたいに杜撰だったりもするのです。7話のこの高炉爆発も、高台の自邸の庭で鉄平が妻・早苗としんみり語り合った後、邸内に戻ろうとしたところで一発目の爆音を聞く、振り返ると港の対岸から火の手が!鉄平走り出す!…でCMに入ってしまう。民放のドラマだからCMの本数、合計時間は決まっている。それは視聴者も了解済みですが、よりにもよって『悲劇の高炉爆発』とサブタイトリングした話において、ここに入れる編集は神経を疑います。

6話、阪神銀行から阪神特殊鋼に出向中の銭高専務(西村雅彦さん)が大介の頭取室を訪れ、高炉建設支援融資だったはずの20億が見せかけ融資だったことを知らされる場面もそう。「それでは高利の金を借りなければならなくなります」と焦った銭高は、鉄平が突貫工事で6月までに高炉完成、銑鉄自社供給を目指していることをもらしてしまい、同席した融資部長でもある銀平が、

「これで父さんのアキレス腱は兄さんになった。6月までに高炉が完成しなければ父さんの勝ち、完成すれば大同銀行も手に入らず、逆に上位行の標的になって父さんの負けです」

…と身もフタもない客観的展望を述べる。

「まぁ鉄平がどう足掻こうが、6月までに高炉は完成しない。建つ筈がない」

…と非情にうそぶく大介。

ここで銭高の表情を、どうしてアップで拾わないのか。銭高は大介の命を受けて阪神特殊鋼に財務担当役員として出向していますが、同時に鉄平にとっても腹心の金庫番なのです。ライン上の上司たる大介からは、陰に陽に鉄平を窮地に追い込む舵取りを要求され、かと言って鉄平始め、一員として粉骨砕身してきた阪神特殊鋼のブランドや従業員たちの信頼を反故にするのもしのびない。高炉事故と会社破綻の危機、9話以降の父子骨肉相食む訴訟の局面において、『白い巨塔』の柳原医局員に匹敵する厳しい立場に立たされる、重要な人物です。大介の残酷な打算を目の前に披瀝されて、何を考えたか、何を感じたか、なぜワンカット映し出さないのでしょう。ましてや、演じる西村雅彦さんは、『振り返れば奴がいる』の平賀医師役でもある意味、鍵を握った、こういう“組織人間の悲劇”を体現する板挟み役を日本一得意とする俳優さんです。またしても、もったいないオバケが出そう。

ベタ過ぎ、説明過剰、逆に放っぽり投げ、杜撰。どっちにしても、観ている客、視聴者のドラマやキャラを読解する能力、想像力を、えらく低いところに見積もって作っている感じ。これが、スタジオセットや道具類の豪華さとはうらはらに、観ていて「…チッ」「あーあ」とやりきれなくさせる原因になっています。

こうなったら、ラストで大介が頭取室を出て、夜の歩道へ歩き出したところを、銭高に背後からズブッ!て刺してもらうしかないか?番組違っちゃいますが、て言うかパクリになりますが、いっそそのほうが爽快感はあるかも。

そんなこんなで、今日の記事タイトルは、「コレ流しときゃ切なくなるだろ、ホレ」みたいな、気の毒な使われ方をしているイーグルスの名曲のタイトルを意訳してみました。

コメント
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