別所沼に、 「ヒアシンスハウスの会」 代表の 新しい作品が生まれた。
「刻を駆ける」
北原立木 (西田書店)
自らの身命をなげうって 義のために生きるという人が、 現代にどれほどいるだろうか―――。
本書は、江戸時代の
上州のある村を舞台に、自然災害に苦しみ、重税に喘ぐ貧困の村を救おうとした、 一人の男の物語である。
村落共同体とは何か、家族とは何か、さらに人間とは何かを考えさせられる 秀逸な作品といえる。
高橋 千劔破チハヤ
(作家 日本ペンクラブ常任理事)
新ジャンルに挑む作品、 背景は江戸時代を借りているが、 現代に重ねてみる。 今の世にこれほどの人がいるだろうか。
既刊
「ゴキブリインニューヨーク」 西田書店
戦いの渦中のアメリカに置き去りにされた日本生まれのゴキブリ。彼の平和の行進は続くのか? 「フード・パイオニア」……果たして、火鍋子の鉄鍋は人の肉を煮たのか。 ビートにのった諧謔がつらぬく北原ワールド。
「指の先から花がこぼれる」…… 金筋二本の駅長帽の父。花ざかりの上野のお山。不条理…。アイコは踊る。 ぼくも踊る。 不条理を描く掌篇集。
発想もユニーク、 展開も面白くあっという間に読み終えた。 なぜゴキブリと一緒にニューヨークか。 他作品も不思議な世界だ。 シュールな匂い。
「タマ子」 新風舎
月のエネルギーで成長しつづけるタマ子。生物なのか、非生物なのか…それとも?白いとばかり思っていた巨大なタマゴ型のタマ子がピンク色に染まっている。桜並木を通りかかったからだろうか。降りしきる桜の花びらがたちまちタマ子を飾り、花ダルマになるのを僕は、深い夢の中で見ていた。
北原 立木
さいたま文芸家協会事務局長。 文芸同人誌「孤帆コハン」主宰。 著書、小説「異物」(埼玉文芸賞)、 「青いリンゴの譜」(埼玉文学賞)など。 総合人間学研究所理事、 日本ペンクラブ会員。
-☆-
「沼のほとり文芸賞」 原稿締め切りは 9月30日です。 この地に文芸が花開く。
写真 「夢のひろがり 別所沼・ヒアシンスハウス」
「沼のほとり文芸賞」 作品集 (エッセイ・詩・短歌・俳句) 力作揃いです。
-☆-
ガイドをしながら 「季語」のはなし。 近頃、 蜩の声を聴かない、 この辺りにはもういないのでは。 蜩という字さえ忘れた と。 蔵書を丹念に取り出しては眺めていた年配の男性は
「現代っ子には ますます分かりませんね。 習慣も、 ものも消えていますから」
今まで 誰しも、 ふつうに解した情緒。 歳時記をたどれるのは限られた人だけか。 古典落語も伝わらない。 いまに文学も理解されなくなる… と嘆く。
みんな、 杞憂であればいい。 窓の下では、ちちろが綴れさせ~ と逸らせた。
みどりが心を潤し、 水辺に時を忘れる。 清々しい木の香が胸に充ちて、 きょうもリフレッシュできた。 立原道造の風信子荘が、 これから沼に咲くであろう盛んな花々を見守っている。