けふは夏の日のをはり。 もう秋の日のはじめ。
僕はボオドレエルの「秋の唄」の最後の行を愛する。
だれのために? 昨日は夏だった。 今、秋だ
不思議なひびきが 出発のやうに鳴りわたる。
蜂蜜のやうな、澄んだ、おだやかな陽ざしのなかに
子供らは樹に攀(ヨ)ぢる。鳶が輪を描いてゐる高い空。
そこには、砂のやうな巻雲が、さらさらとながれてゐる。
地の上にも、光とかげとが美しい。花はしづかに溢れてゐる。
けふは夏の日のをはり。 もう秋の日のはじめ。
水戸部アサイ宛 1938年9月4日付 軽井沢 (第五信より抜粋)
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写真は 昭和十三年の水戸部アサイ
青春のある時期、こんなに激しく純粋な時間を生きてしまった一人の少女。
道造が婚約者と目された水戸部アサイに送った書簡は、全部で十五通。封書十四、 はがき一。 第一信1938.8.10、第十五信1938.12.3が全てである。
(「立原道造・愛の手紙」 小川和佑より引用)
1938(昭和13)年春頃から 1939年(昭14)3月29日までの凝縮された、なんと透明な時間… 彼女の、それからの人生の重さ、哀しさ… 手紙の升目を埋める小さな癖のある文字がやわらかい。
第十五信、希望を持っていた道造のアサイ宛、 これが最後の手紙。
その結びはつぎのように終わる。
では、 着いたら また…
十二月三日朝 道造
アサイ様
(けふは久しぶりに ワイシャツを着て… ネクタイをしめた)
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この記事を書き上げるまさにその時 Oさんからお手紙が届きました。美術展のご案内やら道造記念館のお知らせなど、うれしいプレゼントをありがとうございました。
いつも思うことは一緒ですね。
立原道造記念館で 2005.7.1 - 9.25 夏季企画展を開催中です
「立原道造が綴った真情 美しい書簡に託して」