出演:仲代達矢 徳永えり 大滝秀治 菅井きん 小林薫 田中裕子 淡島千景
香川照之 戸田菜穂 柄本明 美保純 ほか
足の不自由な元漁師の忠男(仲代達矢)と仕事を失った18歳の孫娘・春(徳永えり)は、忠男の生活の面倒を見てもらおうと疎遠だった親類縁者を訪ね歩く旅に出る。親族との気まずい再会を経るうちに、忠男はこれまで避けてきた過去と向き合わざるを得なくなる。そんな祖父の葛藤(かっとう)を間近に見ていた春にも、ある感情が芽生えていく。
出だしから、憤った表情の老人が家を飛び出し、後を追いかける孫娘のシーンにどきりとさせられます。不自由な足どりの祖父、がに股で歩く孫娘。この2人の後姿が最後まで印象的な映画でした。祖父は孫娘の負担にならないようにと親戚を頼りますが、それぞれの事情も感情もあってままならない。疲れ果て、万策尽きて路上で嘆きわめく祖父、罵倒する孫娘。どうしようもないけれど、こういうことってきっとあるだろうと思わされます。でも、振り向きたくもない過去と向き合い、そのたびに期待を裏切られ、それでもただ孫娘のために不自由な足で歩き続ける祖父の姿と、自分もあいまいな過去にけりをつけ、前に進まなくてはならないと決心する孫娘が切ないです。
意外な優しさに出会って思わず涙する老人の目がじわっと潤んでいくシーン、閉店まぎわの食堂で蕎麦を食べながら孫娘の亡き母の若い日のエピソードを語るシーンが素晴らしかったです。私にとっての仲代達矢さんのイメージは「平清盛」なのですが(トシがばればれ)これからはこの老人になるかも。頑固でわがままで、融通のきかない、でも、限りなく優しいおじいちゃん。「これからは、ずうっとおじいちゃんといる。」と決心した孫娘の言葉に、とまどいながらも安らぎを覚える老人。。。でも、別れはあっさりとやってきます。
実は先週、地方に住む93歳の伯父が亡くなりました。子どもの頃はよくこの伯父の家に遊びに行って、いとこたちと竹の子を掘ったり山菜をとったり、バーベキューをしてもらったりしてたくさん可愛がってもらいました。牧場をやっていた伯父は70歳を超えても浅黒く身軽で、野山を駆け回るようなとても素敵な人でした。伯母は「私がこの人に惚れたんだよ。」と。亡くなる前の日には自宅で散髪をし、入浴して夕飯を済ませ、「おやすみ」と床に入って翌朝冷たくなっていたそうです。きれいで本当に眠っているような死に顔でした。 そんな伯父と、この老人の静かな表情が重なって見え、思わず涙が出てしまいました。