言葉の魔術師、井上ひさしさんと演出の魔術師、蜷川幸雄さんのコラボレーション。古田新太さん、田中裕子さん、段田安則さん、壤晴彦さん、梅沢昌代さん、六平直政さん・・、これだけの役者さんが揃ったら、面白くないわけがありません。
悪行の限りを尽くし、殺しを重ね、その度にのし上がっていく盲目の杉の市が、盲人の最高位、検校になる直前に囚われ、盲目の学者で検校の塙保己一と松平定信の思惑によって残忍な処刑に導かれるというのが大筋。
舞台となる地方には盲人の名前のついた池があり、盲人が足を滑らしたり身を投げたりしたという言い伝えがあるが、それは嘘で、実は施しを嫌った晴眼者が彼らを突き落とし、溺れさせたというエピソードも恐ろしかったです。舞台袖で語るのは盲太夫、壤晴彦さん。この方凄い!「ひばり」でも、異端審判官として重厚な語りを聞かせてくれましたが、今回は舞台袖に出ずっぱりで長い物語を語る語る語る。
主役の杉の市、古田さんも長い「早物語」を語り、大きな拍手をもらっていました。本当に力のある役者でないと、この作品はなりたたないでしょうね。女性陣も梅沢さん、田中さんが凄みのある演技。田中さんは、殺しても殺しても生き返り、最後は本当に殺されるのですが、犯人が杉の市だと誰もが気づくやり方で死んでゆく。これは、こわいです。怨念とでも言うべきか。それにしても田中さん、美しいこと!きわどいシーンも数々あれど、本当に妖艶でした。
杉の市は、松平定信と塙保己一が企てた「世の中を正常にするための『祭り』としての処刑」の対象に選ばれるわけです。「人は、祭りの時には全てを忘れて無礼講で楽しむ。それがあるからこそ、日常に戻った時、つつましやかで懸命な生活態度を保つことができる。」保己一は、その「祭り」としての処刑を演出するために、物凄いことを提案します。「三段切り。」そして、処刑直前に蕎麦を食べさせる。吊るした状態で腰を切り落とすと、バランスを崩した上半身は重い頭が下になる。次に首を落とすと、食道から逆流した蕎麦が血に染まり・・・うげーーーー
「保己一。お前というやつは、残忍じゃのう。」松平定信
(松田洋治君、大人になったね!子役の時から注目してましたよ!)
と、いうわけで、一番苦手なホラー系ラストでは目を覆うばかりでしたが、役者さんたちのうまさに脱帽でした。井上さんらしい韻を踏んだ言葉遊び歌もふんだんにあり、舞台両脇の電光掲示板には歌詞がでていました。同行した姉は、「かねはあね、いつもやさしい実の姉」というのに反応してました。私は、「金は羽、すぐにどこかに飛んでゆく」に激しく同意。やはり井上ひさしさんは、日本のシェイクスピアですね。蜷川さんが演出したがったわけだ。カーテンコールには、蜷川さんも登場。
客席には、コリオレイナス、唐沢寿明さんのお姿がありました。驚くほど小顔で素敵な方でした。