作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:松岡和子
演出・潤色・美術:串田和美
出演:串田和美 藤木孝 大森博史 松村武 湯川ひな 近藤隼 武居卓 細川貴司 草光純太 深沢豊 坂本慶介 飯塚直 尾引浩志 万里紗 下地尚子
【あらすじ】
突然の嵐。ナポリ王アロンゾーたちを乗せた船は操縦不能となり、船客たちは死を覚悟する。だが、その嵐はプロスペローが魔術によって引き起こしたものだった。プロスペローは、かつてミラノ大公だったが、魔術や学問に熱中するあまり、政治を疎かにしていた。野心家のアントーニオはアロンゾーと組み、彼と幼い娘ミランダを追放した。復讐心に駆られたプロスペローは、嵐を起こし彼らを島に引き寄せたのだ。しかし、岸に打ち上げられ一命をとりとめたアロンゾーの息子ファーディナンドはミランダと一目で恋に落ちる。そして、島の別の場所に流れ着いたアロンゾーは、息子が海の藻屑になったものと思い、嘆き悲しむ。嵐により手繰り寄せられた人々が孤島で一堂に集う時、一体何が起こるのか…
K.テンペスト 2017年のKAATチケットをとっていたものの、義父の不幸で行けなかった公演でした。今回は東京芸術劇場で!なんだか胸がいっぱいになります。
「これは海で溺死したものたちの遥かな夢である。
海底に漂ったものたちの、懺悔に近い想いである。
砂となって海辺にうち上げられ、また引いていった骨のかけらたちの、悔恨と願いである。
われわれは、たとえ無自覚であっても、何万億の死者たちの聞こえない声に包まれている。
そして遠い未来の、ほとんど宇宙そのもののような命の根源の聞こえない声に導かれている。と、今この瞬間にしか生きていると自覚できないわれわれは、ぼんやり想う。
そして、音楽が生まれ、物語が生まれ、演劇が生まれる。
400年前のイングランドでも、そして現在でも。」串田和美
小劇場、シアターイーストの中に入ると、まんなかのスペースが板のようなもので四角に区切られ、中央にはテーブル。役者さんたちが観客を座席に誘導したり、お茶をいれてくれたりしています。その周りにも椅子が並べられていますが、既にいっぱいだったので(自由席)一段上がった席へ。ここにも役者さんがいろいろと話しかけてくれます。「昔は一握りのスパイスが奴隷10人と交換されたこともあるんです。」とか、「池袋は町にスパイスの香りがしますけど、カレーのおいしいとこ知りません?」などなど 役者さんのご家族がいるのを見つけるてご挨拶している姿も。とにかく客席と役者さんの距離が近い近い
藤木孝さんが私の後方を見て「あ!」という表情で会釈されていたので振り向くと、新感線のいのうえひでのり氏。役者の香りのするお客さんも多数。
開演すると、そこは本当に幻想的な世界。難破する船のシーンから始まり、追放され島に流れ着いたミラノ大公プロスペローと娘のミランダが向かい合って座っていますが、そこにいる役者全員がプロスペローとミランダの台詞を重奏のように話し始めます。ものすごく不思議な世界。前述の串田氏の言葉がよみがえります。海の底に漂う者たちの遥かな夢、記憶の重なり合い。そうか、ここにいる人々は既にこの世の人ではないのか。
不思議なハーモニーも効果音も、みな役者たちが奏でます。役者さんたちの感性が全開。身体能力も全開。ものすごく心地よい、優しい世界でした。プロスペローをはじめ、みんなが若いミランダを優しく見守ります。ミランダがナポリの王子ファーディナンドと結婚の許しを受けるとき、父プロスペローは娘を優しく抱き寄せ、「私の貴重な宝を君に贈る。どんなほめ言葉もこの子には追いつけない」と語りかけます。なんと素敵
最後には自分を陥れた者たちもみな許し、幸福感に満ちたラスト。まるで自分の夢の中で物語が繰り広げられているような不思議な感覚でした。
今日、心に響いた言葉
プロスペロー「自由なんて面倒で心細いもの」
本当にそうかもしれない。
いつまでもここにいたいと思える心地良い空間
昨日はハムレット、今日はテンペストなんか幸せ
次のシェイクスピアはプレイハウスでの「お気に召すまま」です