~あの殺人犯は 私かもしれない~
というコピーと、赤ちゃんを抱っこした柴崎コウさんの瞳にひきこまれ、WOWWOWの連続ドラマW「坂の途中の家」第1回を観ました。
裁判員の通知を受け取り、補充裁判員となった子育て中の専業主婦の里沙子が、わが子を虐待死させた女性の裁判に参加する中で、この女性の人生と自分の現在を重ね合わせていくというあらすじ。
いや、引き込まれました。まじめに、一生懸命に家事も子育てもする専業主婦。家の中は綺麗に整頓され、子どもには優しく接する母でもある里沙子。でも、わずがな期間でも裁判員として日中の時間を裁判所に通わなければならなくなり、普段とは全く違う様々をこなさなければならない中で、次第にいろいろなことに気づいていく様がリアルでした。
心配なんだろうけど「自分の能力を超えたことなんか断ればいいじゃん」と軽く言い、ストレスからビールの量を増やせば「アル中じゃないの?」と真顔で言い放つ夫。
子どもを預かってくれるのはありがたいけど、子育てにいちいち口を出す姑。その姑と結託してるらしい夫。
大変なとこは全部里沙子が引き受けているのにえらそうな夫。子どもの成長を比較され、自分の子が遅れているんじゃないかと焦る自分。
いろんなことが同じように被告の女性を追いつめたんじゃないかと考えます。
特に、ぐずって何をしても言うことをきかないわが子をちょっと懲らしめようとした現場を、偶然通りかかった夫に見咎められ、「信じられない!いつもそんなことやってるの!?虐待じゃないか!」と罵倒される場面はつらかったです。「いつもじゃないの。ちょっと懲らしめようとしただけ。見えるとこにちょっと隠れておどかそうとしただけ」と言えば「パチンコ屋で子どもを連れ去られた親も、きっと同じように思ったんだろうな」と。そしてそれを実家にばらす夫。サイテー そんなことがあったことを責められるのではなく、かえって心配するようなことをあっちの実家から言われるなんて、逃げ場ないじゃないですか。
・・・・・そんな第1話を見てしまったので、もうこの先どうなるのか気になって気になって翌朝本屋に走り、またもや一気読み 今回は504ページ。結構なボリュームでした。
でももうもう、本当にリアルです。優しく、妻と娘のために頑張って働いてくれる夫は、実は自分でも意識しているかどうかわからないながら、自分と妻にしかわからない方法でおだやかに、じわじわと妻を馬鹿にし、おとしめ、能無し呼ばわりし、「お前は馬鹿なんだから、俺がいなくちゃ生きていけないんだから、俺の母親みたいに立派な子育てなんかできっこないんだから。。言うこときいてりゃいいんだから」的な言葉で追い詰めるんんです。
私、これって自分が能力ない男の常套手段だと思っちゃうんですよ。素直に専業主婦やっちゃってる妻をおとしめることで優越感に浸る馬鹿夫。しかも自分でそのことに気づいてないからなおたち悪いです。もう、ぶっとばしてやりたい
子どもを殺してしまった被告女性も、一見派手好きでネグレクトっぽいという証言があったり、実は実家ともうまくいっていなくて孤立していたとか、夫がこともあろうに元カノに子育て下手な妻について相談してたとか、姑がしょっちゅう来ては子育てについてガミガミ言ってたとか、子育てに悩む母にしか実感を持てないような悩みを抱えていたということが証言の中から浮かび上がってきます。そうなるともう、彼女としては感情移入しまくりになるわけですね。
初めての子育てって、本当にわからないことだらけで、不安で不安でしかたないものなんですよ。私も忘れもしない長女の一ヶ月検診の夜に一晩中夜泣きれて。自分も泣きたくなりましたから。何したって泣き止んでくれないんだから。考えてみれば長女にしたって、生まれた病院を退院後、初めて一ヶ月検診で外出したんだから、新生児ながら興奮したに違いないのに。まったくよく泣く子だったな
でも、夫もうるさいとは言わなかったし、ご近所の方から「赤ちゃんの声がうるさいなんて、誰も思わないわよ」と言ってもらえたことで本当に安心できたのを、今でも感謝しています。「今は本当に大変で泣きたい時もあるだろうし、人に迷惑かけるかもしれないけど、それはほんの一時のことだからね。」という言葉もありがたくて涙が出ました。
我が家はがっつり共働きにつき、仕事中は保育園にお任せすることができたのもラッキーでした。朝夕は戦争だったけれど。それでも仕事続けて良かったと思います。子どもたちもなんとかちゃんと成長したし。
この作品の主人公も被告女性も、きっとすごくまじめに向き合おうとするタイプだったんだと思います。あ、だから子殺しを許すわけにはいかないけれど。大変さをわかる。自分のこととして小さな失敗を責めない。大丈夫、自信もっていいよ、と誰かが背中を押してくれたら、そんなことにはならなかったのでしょうね、きっと。
ドラマの方は、小説よりもちょっと盛って、他の裁判員さんや裁判官さんのエピソードも加わっているようです。
里沙子役の柴崎コウさんも好演ですが、被告役の水野美紀さんのすっぴん、呆然自失の中にも、証人席に投げる視線の鋭さが胸を突きます。小説は読了しましたが、このドラマは最後までガン見します