地球散歩

地球は広いようで狭い。言葉は違うようで似ている。人生は長いようで短い。一度しかない人生面白おかしく歩いてしまおう。

2009-04-22 00:00:00 | ペルシャ語

بهار(バハール)

春分の日の新年を境に始まるイランの春。街路樹が新芽を吹き始め、雪解け水が山から降りてくる。スモモやアーモンドの花弁の白が際立つ。その繊細で可憐な白は、日差しの強い真っ青な空よりも、いっそどんよりと垂れ込めた曇り空に似合うのではないか、イランに来てそう感じるようになった。春先はこの国で、最も降水量の多い季節でもある。

遺跡を囲むように生える黄色の野の花。地中海の春の風景画のイメージは、がチュニジアで感じ、さらさがギリシャで体験したものと、私が頭の中で描くものも同じ色合いだ。それは、歴史的建造物と自然が優しく溶け合った風景。しかし、イランの春はそれとはちょっと違っていて、花いっぱいの光景に変わりはないものの、どちらかというと、美しく造られた庭園の造形美なのだ。
イランの自然は厳しい。極度に乾燥した荒野で花が咲く風景は殆ど目にすることができない。野の花が咲き乱れる風景を見るには、それなりの場所へ行かなければならない。雨の多いカスピ海沿岸を除けば、標高2500メートル以上の山の中など。その、人の気配もまばらな険しい地は、春真っ盛り、ケシや野生のチューリップの赤い絨緞で埋め尽くされる。

さて、イランの新年の記事で、新年から13日目の行事「スィーズダ・べダル」について記した。この日、人々はこぞってピクニックへ出かける。それは、この日家の中にいることが不吉だとされているからだ。春先でまだ寒い時季であるにも関わらず、公園や川原はピクニックに訪れた人々でいっぱいになる。新年から2ヶ月間ほどは、草花も美しく、イランで最も過ごしやすい季節でもあり、元来アウトドア好きであるイラン人のピクニック熱は、いつにも増して高まるようだ。

驚くべきは、彼らがピクニックをする場所。公園や野原は普通だが、車で高速道路を走っていると、道路脇で絨緞を広げてお茶や軽食を摂っている人々の姿をよく目にする。また、新年の旅行シーズン中、公共の交通機関を使わず自家用車で旅に出る人が多いイランでは、駐車場が非常に込み合うのだが、その車で溢れた駐車場のほんの少し空いたスペースで、ビニールシートならぬ、絨緞を広げ始める人たちがいる。そしてピクニックにつきものなのは、一人用の小さなテント。イランでは家族全員が一緒に入るテントよりも、一人一人別々のテントを用意するのが主流のようで、大人用の大きなテントから子ども用の小さなテントまで、そこかしこに色とりどりのオブジェが出来上がっている。
また先日イスタンブルを訪れた際、市内の公園で、多くのイラン人がピクニックをしている姿を見かけた。イラン人がヴィザ無しで入れる唯一の国トルコは、春先、イラン人の観光客で賑わう。故郷を離れても、しっかり自分たちの習慣を守っているところが微笑ましい。

季節が進み、日差しが強くなってくると、昼間の時間を避け夜のピクニックを楽しむ人たちの姿も増えてくる。春真っ盛り、薔薇が咲き乱れる美しいイスラーム庭園で、華麗にライトアップされたエスファハーンの広大な広場で、夜のモスクを眺めながら気ままにお茶を楽しむ人たちの姿は印象的であった。

イランの春。それは春分の新年と共に始まり、日々濃くなる緑と呼応するかのようなイラン人の心の高揚感を、肌で感じる日々である。(m)

イランのピクニック事情を知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
http://ethno-mania.at.webry.info/200806/article_4.html

*ハムシーンが吹けば春も終わり・サハラの春 ボッティチェリの「春」・イタリア 春は希望と共に・英語 復活祭は春の始まり・ギリシャの春 こちらもギリシャの春 

お茶を持ってピクニックへ出かけよう!野原へ?はたまた高速道路沿いへ??
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10 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
理想 (オルサ)
2009-04-22 01:10:36
ピクニック、この言葉から「平和」をイメージします。当然の事ながら、戦争中にはピクニックはおろか外出することさえ危険ですし、戦争中でなくとも、心が平和でなければピクニックに出かけようという気持ちさえ起きません。たとえそれが風習だったとしても。

私の場合、最近では「外出する」というと、目的地が真っ先に頭にあって、食事をしに行くにしても、お店に行くのが目的になってしまっています。気が置けない人たちと、風景のよい所へピクニックに出かけたくなってきました。理想は、ヨーロッパの映画などに出てくるように、大きなバスケットに食事やワインなどを入れて、さらに本も一緒に持って出かけ、丸一日過ごす、です。
オルサさん (mitra)
2009-04-22 17:58:30
「ピクニック」。なんだかこの言葉自体にも、朗らかで陽気な、そしてオルサさんがおっしゃるよう、平和のイメージが染み付いている気がしますね。イ・イ戦争中、人々はどうしていたんだろうと思います。
目的地ではなく、そこに至る「線」や、何気ないブラブラ散歩を楽しむには、それなりの環境が必要なのかなとも思いますが、要は心がけ次第なのでしょうか。東京などに住んでいると、いろいろ誘惑も用事も多いので、目的地へ一直線となりがちですが。
ああ、わかります!映画に出てくるヨーロッパの休日の風景。叢に寝転がって本を読みながらワインをちびちび(私は飲めませんが・笑)、優雅で至福の時ですね。オルサさんのブログからは、その優雅さがいつも伝わってきますが。
Unknown (タヌ子)
2009-04-23 18:27:55
クロアチアも果樹の梨や林檎、プラムの白い花が美しい季節です。
アーモンドは一足先に終わってしまったようです。
この白い花々を見ると、春を実感しますね。
人知れず咲く山の野の花、その美しさを堪能できるのは鳥たちだけなのでしょうか。
ピクニック、楽しい響きですね。
万国共通後となっているピクニック、語源はなんなのだろうと思って調べてみました。
語源はフランス語で『piquer』=摘む+nic『価値の無いもの』(現在のつづりはpique-nique)。
皆がそれぞれ持ち寄った軽食(或いはワイン)を分け合うと言う意味だったと書いてありました。
ピクニックと言うと、マネの『草上の昼食』を思い出しますが、ネクタイまで締めている男性の横で、何故女性だけが裸なのか・・・といつも理解に苦しんでしまいます(笑)
イランのピクニック、どんなものがペルシャの絨毯の上に並んでいるのか、一度見てみたいです。
ピクニック (yokocan21)
2009-04-24 03:53:55
おぉ、やっぱりイランもピクニックが盛んなのですね!
大きな街では、水道やトイレもあるピクニック場があって便利なんですけど、田舎にはそんなものはないんで、地べたです。キリム敷いて~。しかも、バべキューセットは勿論、お鍋からやかん、食器に至るまで台所がそのまんま移動してきたようなんですよ。もうね、遊牧民魂ここにあり!って感じです。
そうそう、道路脇でバーベキューする家族連れも、よく見かけます。排気ガスで煙たくないんでしょうか。
それにしても、旅先でもピクニックをするイラン人って、それがないと生きていけないんでしょうね。(爆)
暖かくなってくると、私もそろそろピクニックしたくなってきます。トルコ人化しております。
ピクニック♪ (マーク)
2009-04-24 19:05:21
その高速道路のわきでじゅうたんを広げ、駐車場でテントをたてている・・・。
ところかわれば、ピクニックの様相も違うようで、すごく面白いです(^^;

というか、初めてみたらビックリ!

でも、やっぱり、どこへ行っても、春はピクニックなんですね♪
タヌ子さん (mitra)
2009-04-24 20:39:32
>人知れず咲く山の野の花、その美しさを堪能できるのは鳥たちだけなのでしょうか。
この文章から、とても美しいイメージが頭に浮かんできました。今、窓の外では鶯が啼き続けているのですが、その音と野山のイメージが相俟って、ますます美しい風景が浮かんできます。
ピクニックの語源、フランス語だったのですね。「摘む」という単語と「価値のないもの」という単語の組み合わせ。不思議な感じもしましたが、よく考えてみると「ピクニック」のイメージに合っているのかも。調べて頂いてありがとうございました!
>マネの『草上の昼食』を思い出しますが、ネクタイまで締めている男性の横で、何故女性だけが裸なのか・・・といつも理解に苦しんでしまいます(笑)
なるほど!あの絵は、確かに不思議ですね。
神話的女性の裸体とフランスの習俗が巧みに組み合わされていて秀逸だという印象でしか見ていませんでしたが、あの暗い画面の中で女性の肌がやたらに明るく輝いている(笑)のも変な感じがしますね~。
ところで、ペルシャ絨緞の上には残念ながらワインは並びませんが、お茶、ハンバーグ風のキャバーブやパン、ピクルス類などがよくピクニックに持参されるものです。いつかピクニックの写真も載せられるといいですが・・・
yokocanさん (mitra)
2009-04-24 20:45:46
わ~、やっぱりトルコ人とイラン人って似てますね!yokocanさんがトルコ人について書かれていること、そのままイラン人にも当てはまります。
イランでも台所ごとの移動という言葉があてはまり、ガスボンベ持参で道端でキャバーブを焼いている姿をよく目にしますよ!「遊牧民魂ここにあり」・・・まさに!(笑)
彼らのピクニックの感覚の違いに、例えば映画に出てくる西洋人貴族の旅の風景(スーツケースを何個ももって。あるいは家財道具も船に積み込んで)という習慣の不思議さと同じような驚きを最初は感じましたが、今はそれが普通の事のような気がしてしまって。
yokocanさんはすっかりトルコ人化されてるんですね(笑)。いつかイスタンブルで一緒にピクニックしてください!
マークさん (mitra)
2009-04-24 20:48:31
最初見たときは驚きの連続だったことも、今はあまり不思議感・新鮮味もなくなり、ひょっとして(yokocanさんではないけれど)、私もイラン人化しているのでは?と驚愕します(笑)。
道路脇のBBQは、大気汚染の酷さを考えると、簡便してほしいですけどね~。
ここ数日、わりあい天気も安定していて、爽やかで穏やかな日々が続いています。こういう時はやっぱり公園にでも出かけたくなりますね。
イランの人たちも (yuu)
2009-04-26 21:13:56
ピクニックなのですね~。
それにしても、道路脇でもOKというのはすごいですね。狭い国だとは思えないのですが^^;;;(笑)
こちらも暖かくなり、わたしも公園に出かけたいです。GWになったら出かけよ~♪
yuuさん (mitra)
2009-04-27 06:09:56
イランのピクニックはどこでもありなのです。
・・・というより、どこかの目的地へ向かう道すがら、ランチの時間が移動の時間に重なると。絨緞を広げてランチタイム!といった感じなのかも。しかし、どこへ行くときにも準備万端な彼らには、yokocanさんではないですが「遊牧民魂」を感じずにいられません。
GW、今年は長いんですよね?ピクニックにぜひ出かけてください!(雪国の春の訪れは遅いのかな・・・)

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