『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

1999年9月創刊。≪阪神道路問題ネット≫交流誌のブログ版。『目次』のカテゴリーからの検索が便利。お知らせなども掲載。

『みちしるべ』**「ロシアのウクライナ侵略」から「パレスチナ」を思う**≪2022.秋季・冬季合併号 Vol.114≫

2023年03月30日 | 川西自然教室

「ロシアのウクライナ侵略」から
「パレスチナ」を思う

――欧米のダブルスタンダ-ドについて――

川西自然教室 田中廉

 2022年の最大の出来事は「ロシアのウクライナ侵略」だと思う。ウクライナ側にロシアの安全を脅かすような行動があったとしても、それを武力で抑え込もうとするのは許されるべきことではない。国連総会でロシア非難決議が大多数の賛成で採択された。日本をはじめ世界はウクライナに同情的である。

 ウクライナ関連のニュ-スを毎日のように見ていて、大きく引っかかるものがある。それは、パレスチナのことである。他国を軍事的に侵略して領土を広げているのは世界に2国である。それは、ロシアとイスラエルだ。ロシアとウクライナの関係は、イスラエルとパレスチナの関係とそっくり同じである。ロシア、イスラエルの両国に共通なのは、武力で領土を拡大し、そのことが国連総会で圧倒的多数で非難決議が採択されても、全然意に介さないことである。

 しかし、両者に大きな違いが2つある。一つは、ウクライナには西側諸国から大量の武器が供給され、アメリカでは一部兵器の在庫不足がささやかれるほどの軍事援助が行われ、現在ではウクライナの方が軍事的に優勢なほどである。一方、パレスチナ側には武器援助はなく、ガザ地域の手製のロケット弾程度で軍事力に圧倒的な差がある。二つ目は世論、特に西側の関心である。道義的にはイスラエルに正義はないので非難はするが、制裁はしない。つまり、言うだけである。ロシアにはありとあらゆる経済、政治面での制裁が行われているが、イスラエルには、無法を見ているだけである。

 パレスチナ側の抵抗は時にはテロと呼ばれるが、ウクライナ側の行動をテロというのはロシアだけである。このことを、西側諸国、西側メディアはほとんど問題としていない。これはいじめっ子と被害者、そして事なかれ主義の学校との関係にも似ている。いくら子供や家族(パレスチナ)が教師や学校(国連、欧米諸国)にいじめを訴えても、学校側はいじめっ子側(イスラエルと保護者のアメリカ)の反発を恐れ、事なかれ主義で済まそうとする。そしていじめは続き、ますますエスカレートする。

 イスラエルのいじめは多々あるが、一例は水である。気候変動のために気温が上昇しており、パレスチナ人はかつてないほどの深刻な水不足を経験している。ヨルダン川西岸地区の水源地の85%がイスラエル当局によって管理され、パレスチナ人は自分たちの水源地から取られている水を、高い価格でイスラエルから買うことを余儀なくされている。アムネスティー・インターナショナルによると、「西岸地区に住むパレスチナ人は、国際標準の1日100リットルに満たない、1日73リットルの水しか利用できていないが、イスラエルの市民は1日240リットルの水を利用している。ガザの住民は沿岸の帯水層から水を汲み出しているが、限度を超えて汚染も進んでいる。」イスラエルはガザに流れ込む水脈を、ガザの手前でくみ出し、ガザに行く地下水を減らしている。

 もう一例は住宅破壊である。「イスラエルの人権団体ベツェレムは、イスラエルが占領するヨルダン川西岸と東エルサレムで、2021年にイスラエル当局に破壊されたパレスチナ人住宅が295戸に上り、895人が住宅を失ったと発表した。2016年の366戸に次いで多く、2017年以降最多となった。イスラエル当局は『許可のない違法建築』として住宅破壊を正当化するが、パレスチナ人に建設許可を出すことはまれで、ベツェレムは『イスラエルのアパルトヘイト(人種隔離)政策がパレスチナの発展を妨げている』と非難した。ベツェレムによると、2017年には164戸、2019年以降は毎年270戸以上が破壊された。」(共同通信2021/1/5)

 イスラエル政府は合法的というが、そもそも法律自体が占領地からのパレスチナ人排除のためのものである。パレスチナ人がなけなしの金を費やし建築するのを見て見ぬふりをして、完成後軍が武力を背景に潰すいやらしさである。家と資金を失った家族には絶望と憎しみだけが残る。

 欧米、特に米国のパレスチナ問題に対する行動は明らかなダブルスタンダードである。朝日新聞の報道では、「今年12月にパレスチナ自治政府のアッバス議長は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が起きた今年、国際的な支援の重要さに注目が集まったと指摘。その一方でパレスチナの占領が黙認されている現状は、『国際法違反に対するダブルスタンダードだ。すべての国は、パレスチナ問題解決のために支援してほしい』と訴えた」とある。

 2018年、イスラエル国会(クネセト)は「基本法:ユダヤ人国家」を可決成立させ、「イスラエル国家がユダヤ人の民族国家であって、民族自決権はユダヤ人によってのみ専権的に行使される」旨を明らかにした。この結果、従来はヘブライ語と並んで公用語とされていたアラビア語はその地位を失い、ヘブライ語のみが国家公用語と規定され、また、ユダヤ人入植地の建設・発展は民族理念の具現化として、積極的に推進されることが明記された。

 イスラエル建国時の独立宣言では、「宗教、人種、性別に関わらず、すべての国民が平等な社会的、政治的権利」をもつとされたが、今やこの建国の理念を覆し、国際法違反とされている占領地での入植地拡大(領土侵略)をさらに推し進めようとしている。イスラエルの人口900万人のうち20%はパレスチナ系だが、以前も政府からの補助、就職、インフラ整備などで差別を受けてきたが、今後ますます追い詰められる可能性が高い。

 今年、西岸地区におけるパレスチナ人の死者は、国連が2005年に記録を開始してから最悪となった。

 私達が今やることは、「ウクライナとパレスチナは同じだ。パレスチナを忘れるな!!!」と叫び続けることである。小さく、微々たる力しかないが諦めないことは力であると信じ続けるしかない。

【投稿日 2022.12.29.】

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『みちしるべ』**名神湾岸連絡線における環境アセスメントの不備について**≪2022.秋季・冬季合併号 Vol.114≫

2023年03月30日 | 単独記事

名神湾岸連絡線における環境アセスメント
の不備について

     藤本千恵子

1 名神湾岸連絡線とは

 名神湾岸連絡線は名神高速道路の西宮ICと阪神高速5号湾岸線の西宮浜ランプを結ぶ、道路延長2.7kmの上下2車線の自動車専用道路です。県道今津東線の上に建設される高架構造の道路で、その総事業費は1,050億円とされています。

 西宮市は2009年に阪神高速5号湾岸線西伸部(六甲アイランド~駒栄)が都市計画決定したことにより、同5号湾岸線につながる市内の南北の道路である、札場筋線・今津東線・小曽根線の交通量が増加することを懸念し、2011年に名神湾岸連絡線の建設を県に要望したとされています。2018年の環境影響評価概要書(方法書)の説明会では名神と5号湾岸線だけを結ぶとされていました。しかし、2020年の環境影響評価準備書の説明会では突如、阪神高速3号神戸線の大阪方面とも接続されると説明を受け、住民から「話が違う!」との声が上がりました。とはいえ、地元自治会が黙っていることもあり大きな反対運動は起こらず、2021年3月に国による直轄事業として新規事業化が決定しました。


図1 大阪湾岸道路西伸部と名神湾岸連絡線

 現在、西宮IC側では住民団体の「名神湾岸連絡線を考える会」が反対運動をしており、西宮浜では用地買収となる企業が組織する「名神湾岸連絡会」が納得のゆく代替地の確保を求めています。

2 名神湾岸連絡線の環境アセスメント

 名神湾岸連絡線はその規模において環境アセスメント(環境影響評価)が必要な事業ではありませんが、ルートとして住宅地を通り、近隣には小中学校や福祉施設等が点在するため、兵庫県と西宮市は2017年度兵庫県幹線道路協議会において、環境アセスメントをするよう意見を付けました。

 これを受けて事業(予定)者である国交省近畿地方整備局兵庫国道事務所がアセスを行うこととなり、調査をパシフィックコンサルタント(株)に1億円あまりで委託し、準備書の作成を目的とした阪神地域道路環境調査業務として2019年から2020年まで行われました。

 住民説明会等では「本来ならアセスを必要としない規模の事業にアセスをした」という意味の「自主的な手続き」「自主的なアセス」という文言が事業(予定)者によって度々使われ、この「自主的な」という扱いが、後述する問題への対応を曖昧にかつ不誠実にした、と思われます。

3 概要書と準備書で道路の長さが違う

 阪神地域道路環境調査業務報告書を開示請求したところ、「予測・評価の範囲変更について」の項に、「準備書に記載する対象道路が、概要書掲載の都市計画対象道路事業実施区域に収まらないことが明らかになった。」と記載があるのを発見しました。つまり、概要書に対して準備書では計画道路が長くなったということです。

図2 アセス対象範囲の変化(実線は概要書,破線は準備書段階)

4 県のアセスと国のアセスの違い

 手続き段階で道路の長さが違うという問題について、兵庫県の条例と国の環境影響評価法を比較し表1にまとめました。

 パシフィックコンサルタント(株)は概要書の事業実施区域から100m以上離れた区域が新たに事業実施区域となることから、「環境影響評価法」の規定によると、概要書手続きの再実施の対象となる恐れがあると指摘しています。

5 兵庫県環境影響評価室の見解

 パシフィックコンサルタント(株)の指摘に対し、2017年7月に兵庫県環境影響評価室は以下のとおり見解を示しました。

  • 計画路線が、概要書に示していた実施区域からはみ出すことについては、県条例に準拠して実施されているものであるため、区域について不足かは判断つきかねる。
  • 影響予測・評価の範囲については、事業(予定)者が準備書において、計画路線を全て満たす範囲で予測・評価が行われるのであれば、県条例を満足したと言える。

 つまり、県は環境アセスの準備書段階では、長くなった道路に対して行われているので問題はないとしています。

6 準備書段階でも対象事業区域の修正は反映されず

アセスの不備について兵庫県担当者に聞き取り

 この件について2022年12月に「名神湾岸連絡線を考える会」が磯見恵子県会議員(共産)の紹介で県水大気課環境影響評価官らと面会しヒアリングを行いました。県の担当官は事前に渡されていた質問書に答える前に、「名神湾岸連絡線のアセスは自主的にやっているアセスである。」「2019年7月のやり取りの記録は見つからなかった。」と述べました。質問及び県の答えのやりとりは以下のとおりです。

 概要書(方法書)よりも準備書のときの方が道路が長くなったという認識でよいか。
 事実です。
 長くなった部分の地域が環境に著しい影響を及ぼすおそれがないと判断した根拠を示していただくとともに、知事が判断された年月日を伺う。
 県としては判断していない。
 2019年7月に兵庫県環境影響評価室が区域について不足かを正しく判断しなかった理由を伺う。
 判断がつきかねる。こちら(県)の方が判断するものではないと推測される。
 長くなった部分の地域が加わったことで事業の利害関係者として位置付ける全ての範囲(町名とその番地)を伺う。
 確認できかねる。
 長くなった地域の公表とその地域のアセスを求める。
 事業者である兵庫国道事務所にこれから伝える。

 この場においても、県は準備書段階の長くなった道路に対しアセスを行っているので、問題はないと主張しました。

準備書段階でも対象事業区域の修正は反映されず

 しかし、準備書においては、都市計画対象道路事業実施区域の約250mの範囲は事業により土地の形状の変更や工作物の新設、増設、ヤード等の設置が予想される範囲と記述されています。その範囲に入っているにも係わらず、調査されず予測範囲にも入らなかった町などが存在し、明らかにアセスの不備といえます。

 つまり、対象事業の範囲が事実上修正されているにもかかわらず、準備書段階での調査や予測は、概要書の範囲内でのみ行われ、その是非について科学的な検証は行われていないということになります。

 実質的にアセスに含まれなかった地域の住民等にとって、建設前の環境数値も供用後の事業者によるモニタリング数値も与えられないこととなり、実際にどれだけ被害が生じ、若しくは拡大したかを知ることができません。環境基準内におさまるはずであるからそれでよいと簡単に済ませるわけにはいかないところです。住民は10年以上にもわたる長い工事期間を控え、道路供用後には道路がなかったときよりも明らか大きな被害を受け続けることになります。

 西宮市は準備書段階で概要書と準備書で道路の長さが違うことを知らされていなかったと言い、結局県も国に必要なチェックや指摘を行わず「自主的なアセス」という文言で曖昧に済ませています。

 ここ西宮IC付近では大きな住民運動も起こらず、国のすることだからといって諦めムードが漂っていますが、関係住民に対する説明責任として後から対象範囲を拡げた理由を問い正していきたいと思います。


図3 準備書での予測地点の状況(NO2)
      ※対象事業範囲の変化は反映されていない

【投稿日 2023.1.23.】

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