『みちしるべ』 by 阪神間道路問題ネットワーク

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『みちしるべ』**リニア中央新幹線と電気自動車と原発**<2012.3. Vol.72>

2012年03月01日 | 神崎敏則

リニア中央新幹線と電気自動車と原発

神崎敏則

にわかに進められているリニア中央新幹線

 「さいなら原発尼崎住民の会」のメーリングリストの中でWさんは、リニア中央新幹線建設が原発存続・推進を前提としてにわかに進められようとしていると警鐘を鳴らした。

 「脱原発をすすめる会かながわ」のホームページによれば、………

  1. 川崎市、横浜市、東京都町田市、稲城市で、リニア中央新幹線の工事が、3 年後から始まること、
  2. 地下約40mに設置されるが、地上にも5.1kmおきに巨大な立杭と通気施設がつくられ、通気施設からは、騒音・強い電磁波等の影響が考えられること、
  3. 原発がなければ運用は厳しい、とJR東海が明言していること、リニアの消費電力は、東京~名古屋27万kW、東京~大阪74万kWが見込まれる(国土交通省による)が、10月現在、東電中電あわせて7500万kWしか電力が作られていないという。説明会で「原発がなくてもリニア運用できるのか」という質問に対して「今の電力ではまかなえない。電力会社にはもっと頑張ってもらわないと厳しい」と、建設部担当部長がはっきり答えた。また、ドイツのリニアを例に具体的に試算した場合は、544万kW、つまり原発5基分の電力となる。また、JR東海会長は、5月に産経新聞で「リスクを承知のうえで、それ(原発)を克服・制御する国民的な覚悟が必要である(中略)原発継続しか日本の活路はない」と語っていること、

………と概略を説明している。

 重厚長大型の公共事業にいつまでもしがみついていく政界、官界、それにゼネコンや、製鉄業界、セメント業界、産業電機業界などの醜悪さが滲み出ているようで、嫌悪感を感じてしまう。けれども、脱原発を実現するためにもリニア中央新幹線建設にも反対していこうというWさんの提起には、正直なところ精神的にも物理的にも余裕を保てそうにないので、応えることができなかった(今でも申し訳ないとは思うが、それでもやっぱり無理な気がする)。

電気自動車と原発問題

 いま電気自動車が注目されているそうだ。電気自動車の日産「リーフ」が他車に大差をつけて「日本カー・オブ・ザ・イヤー」に選定された。しかし、自動車交通問題でおなじみの上岡直見氏は、電気自動車の普及は原発存続へ地ならしをするビジネスモデルであると断言する。「日本中で電気が足りないと騒いでいるときに、なぜさらに電気を必要とする電気自動車が、経産省の強力なバックアップで推進されているのか。電気自動車を推進する経産省の委員会等には原発推進学者が顔を並べている。常識を働かせておかしいと思わないのだろうか」と、憤懣やるかたないようだ。

 一方で、電気自動車は今や再生可能エネルギーとの親和性が強い、との主張もあるらしい。昨年から尼崎市の理事(尼崎市の場合は、市長1人、副市長2人、理事1人の4人が市の中枢部を担っているらしい・・・全然知らなかった)になった福嶋氏は、「尼崎版グリーンニューディールの基本的な考え方」の中で、改造電気自動車の開発や普及に連携する事業を紹介している。尼崎市内の中小企業でも既存の自動車のエンジンを外して電気自動車に改造し、しかもナンバープレートを取得するのは難しくないようだ。

 確かに太陽光発電や風力発電など再生可能エネルギーの普及には、蓄電池が欠かすことはできないし、その蓄電池機能として電気自動車に搭載しているバッテリーを活用することは理にかなっている。しかし、電気自動車の普及がそのまま脱原発に直結するのだろうか。

 そもそも太陽光発電や風力発電は、天候に左右され、不安定な電力だ。これで全供給電力の一定割合以上を賄おうとすれは、電力の流れを供給側からと需要側からとの双方から制御し、最適化する次世代電力ネットワーク=スマートグリッドが不可欠になる。そうでなければ、再生可能エネルギーシステムが最大に供給できる電力と最小にしか供給できない電力(=0)との差し引き分を、常に予備の発電設備や蓄電池設備をスタンバイさせておかなければならないことになる。

 だから現状のままでは、再生可能エネルギーシステムによる給電が増えれば増えるほど、予備用の発電設備や蓄電池の容量が増えていく。

 このスマートグリッドの開発がいま日本企業でも、どんどん進められているようだが、そこには、三菱や日立や東芝の原子力メーカーがしのぎを削っている。

 日立のホームページから本文と説明図を転載しよう。

 今後、風力発電や太陽光発電など、天候に左右される自然エネルギーの導入が進む一方、電気自動車の普及など新たな電力需要の増加が予想されます。スマートグリッドなら、それらをITでコントロールし、原子力などの従来エネルギーに加え自然エネルギーも上手に活用することでCO2の排出抑制に貢献できます。

 残念ながらと言うべきか、やはりと言うべきか、本文にも図にもしっかりと原発が書き込まれている。また三菱電機は、2010年から尼崎工場でも実証実験をおこない、4000kWの太陽光パネルと500kWの蓄電池を装備してきた。この4月には、「実験装置から生み出される最大50kWの電力を用い、三菱自動車名古屋製作所内にある生産本館の電力変動低減(変動幅180kWの33%低減を目標)」とする実験を1年おこない有効性を確認すると公表した。スマートグリッドの開発に前のめりだ。

 さて、「尼崎版グリーンニューディールの基本的な考え方について」の中には、経済産業省が作成したスマートグリッドの説明図をそのまま転載している。それが下図だ。

 残念ながら、この図でも原発が組み込まれているが、それは、尼崎市の意図したものではないと受け止めたい。そのうえで、尼崎市は脱原発へ進むことを宣言していただきたい。

 大飯3号4号原発の再稼働問題に揺れる福井県は、地元住民から「福井県は国から『新幹線の敦賀延伸と中部縦貫道路の一部区間の認可』のお土産を貰ってしまった」と非難を浴びている

 尼崎市は脱原発なのか原発推進なのか、表立っては問われてはいない。しかし、福井に立地する原発が発電する消費地であることは間違いない。市として、脱原発を宣言する意味は大きいし、改造電気自動車の開発普及はそのためのものだと「尼崎版ニューディール」で表明していただきたい。

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