松浦武四郎が晩年暮らした邸宅には「一畳敷」なる書斎があった。
骨董収集を趣味とし、日本をくまなく歩いた武四郎は各地に友人がいた。
その友人たちに当地の神社仏閣で使用された古材を送ってもらい建材といういわば部品として用いた。
こうしたアイデアを持ちうる才覚も大したものであり、なおそれが実現できるというのも武四郎ならではといえる。
一畳敷は武四郎の死後、その遺志によれば焼却されるものであったが、遺族が遺言を無視して残した。
紀州徳川家のものとなって移築された後、中島飛行場の敷地内に移され、飛行場をキャンパスとした国際基督教大学の管理となって現在に到る。
今日は大学祭ということで一般公開される。
事前に郵送で申し込み、抽選で当たったという訳だ。
昨年は武四郎の本の執筆をしていたが気づくのが遅く、申込み時期を過ぎてしまった。
だから一年越の見学である。
バスで調布駅から大学に行く。
一畳敷は泰山荘という中島飛行機の経営者が引き継いだ茶室の一部を成している。
結構奥まった場所にありたどり着くのに時間がかかった。
受付を済ませて一同、ツアーとして出発。
私としては一畳敷にしか興味がない。
ほっておいてもらうのが一番いいのだがそうもいかず、わずか1分ほどで追い立てられてしまった。
しかし、湯浅八郎記念館の博物館に一畳敷がかなりの精度で復元されていて、こちらは内部に入ることができた。
畳一畳の周囲を建具が囲み、南側が開放できるようになっている。
武四郎はここで多くの時間を過ごした。
寝転がると龍の天井絵がみえる構図。
身長180cmの我が身には少々狭いが、武四郎は150cm足らず。
かつてその時代時代の人が愛でた古材に囲まれ、送ってくれた親友との日々を思い出しながら過ごす隠居の日々。
理想の老後といえるだろう。
武四郎の「終活」はこれだけではなく、涅槃図を作らせ大台ヶ原登山道を整備した。
我が人生の残りをどう過ごすか改めて考えたりした。