扶桑往来記

神社仏閣、城跡などの訪問記

御台場クルーズ

2010年08月28日 | 街道・史跡

今年は猛暑である。
家の中はそれほどではないものの一歩外へ出ればここは中東かというほどに暑い。

なかなか物見遊山の気分にもならないのだが家人の誘いで日の出埠頭から出る「シンフォニー」のサンセットクルーズに参加した。
せっかくなのでこの夏初の浴衣に下駄である。
桟橋で乗船までの間、あちこち眺めていると建設中の東京スカイツリーがみえた。

船は東京湾を行く。
日の出埠頭を出た船はレインボーブリッジをくぐりお台場海浜公園と中央防波堤の間を行き、舞浜を遠く左舷に見つつ面舵を取り東京灯標を回って戻ってくる。
約120分のクルーズである。

船はいい。どんな船でも機能美がある。私にとって最高の船とは世界最大の主砲を持った「大和」であるのだが例え客船であろうが海の上を行くということそのものがいい。

「シンフォニー」は総トン数1084t、全長70メートルとある。
軍艦というくくりと比較すれば小さい。
帝国海軍の駆逐艦、「雪風」は排水量2000トン、全長118.5メートルであるから半分くらいの大きさであろうか。
私が実際に間近で眺めた最大の船はニューヨーク港にある空母イントレビットで排水量27000トン、全長約250メートル。
そうなると乗ってみても船という感覚はない。

出航は16:20であるからまだ陽は高い。
東京湾クルーズというものは歴史好きからすれば「マシュー・ペリー」となろう。
「お台場」自体、ペリーが来なければ名づけられることはなかった。要するに攘夷のための砲台である。
幕末の台場の面影は日の出から出航後、すぐに見えてくる。
レインボーブリッジをくぐれば橋脚の側に第三台場がこぢんまりと浮かんでいる。

嘉永6年(1853)、米国海軍ペリー帝国が浦賀に来航し「来年また来るから返事を用意せよ」と告げて去ると幕府は江戸湾に砲台造営を行うべく着手した。
幕府は当初、横須賀ー富津の東京湾が最も狭い浦賀水道のあたりに砲台島を計画したらしいが1年では無理とのことで江戸湾の最も深い、江戸城の全面だけをカバーすることにした。
海岸砲台も加え当初12基が計画され、ペリーが去った翌月には着工しているから素早い。
海を埋め立てて大砲を設置する訳だから大量の用土、石材などがいる。
土は高輪方面から運び、石は相模や伊豆から切り出されたものを用いた。
陸上の城は街道を睨み敵の侵攻を阻むように縄張りされる。
台場は江戸湾の水深を計算し、水深が深いところを大型軍艦が通るであろう事を想定し横から十字砲火を浴びせるように配置された。
こういうところでは日本人の器用さ、几帳面さが出ているのではないか。
ペリーが再来航した折には第一・第二・第三台場が完成したらしい。
完成したのは第七台場までで八番以降は未着工。
とにかくペリーが来るというイベントには間に合わせたところが幕府の意地をみてもよかろう。
品川海岸に設置された台場には佐賀藩で国産されたカノン砲が据えられた。

ペリーは予告通り来訪し、威嚇のためか品川沖まで侵入した。
ところが欧米の要塞とは比較の対象外であったとしても砲台が並ぶ様をみて引き返し横浜に投錨する。

ペリー艦隊との交戦は回避され、すぐに日米和親条約が締結されたため台場が使用されることはなかった。
明治維新の後、東京と名を改めた首都の玄関に侵略の脅威はなく、台場は次第に民間にも払い下げられるようになり主に埋立地の橋頭堡として転用されていった。
わずかに第三と第六の台場のみが大正13年に国の史跡名勝天然記念物に仮指定され補修され残された。
今、目の前を過ぎていく第三台場がそれである。
低い石垣を波が洗っている。気をつけてみなければ通り過ぎてしまいそうなほどか弱い。
少なくとも要塞には見えない。

レインボーブリッジという昭和の高度成長日本を象徴するような巨大建造物の陰に隠れるように浮かぶ第三台場の背後には第六台場がある。ここはお台場公園と陸続きにされ、歩いて行ける。

レインボーブリッジを後に羽田に向かっていくと巨大倉庫群とガントリークレーンが並ぶ。
想像している以上に大きく壮観、スターウォーズに出てきそうな機械獣のようでもある。
頭上には羽田に降りていく航空機がパスしていく。

東京湾、歴史回想としてはペリーが台場を前に回頭していった様を思い浮かべて終わる。

後は人間がのどかな内海を埋め立てては築いていった人口都市を眺めて行く。
圧巻は建設途中の臨海大橋、もう少しで両岸から伸びた橋脚がつながりそうである。
こうしてみると東京湾は狭い。千葉方面は完全に視界に入っている。
地図で見ると琵琶湖をもう一回り太らせたくらいの大きさが東京湾である。

北にスカイツリー、西に東京タワーと昭和と平成の塔がはるかにみえる。
驚いたのは富士山が夕焼けに照らされて頭を出している。
クルーによると、8月のこの時期に富士がみえるのは珍しいという。

食事をすっかり忘れてデッキで海風にあたっていたらもう日の出に戻ってきてしまった。

とかく九州や東北といった鄙に興味が行ってしまうこの頃ではあるが足元の関東に目を向けるのもいい。

 

Photo
「シンフォニー、クラシカ」
 
 
Photo_6
出航後、すぐにレインボーブリッジ、足元にあるのが第三台場
 

Photo_2
第三台場全景
 

Photo_3
台場の周囲は切石を用いた石垣で固められている
 

Photo_4
建設中のスカイツリー
 

Photo_5
臨海大橋
 

Photo_7
ガントリークレーン
 

Photo_8
夕焼けの富士山




YouTube: tokyowan