扶桑往来記

神社仏閣、城跡などの訪問記

縄文のメッセージ -国宝土偶展-

2010年02月10日 | アート・文化

上野の国立博物館で開催されている「国宝土偶展」に行った。

土偶とは縄文文化のひとつの象徴である。
縄文時代という日本の歴史の中でかなり長期間にわたるこの時期はまだ謎が深い。
13000年前といわれるそのスタート時期は想像を超えるし、日本の歴史は6世紀に入ってにわかに精密になってくることもあって時間軸がつかみにくい。

縄文文化にむろん文字はない。偶さか土の中から出てくる物体のみがわずかずつを語る。
珍しく音声ガイドを借りてみた。展示室はひとつだけ。
日本の国宝土偶は3つしかない。今回それがそろう。
土偶とは何か、まだ解明されてはいないようであるが、おそらく呪術とはかかわりがあるだろう。
単なる美術品ではなさそうだ。
縄文文化の華に私の好きな火焔型土器がある。
これも単なる日用品ではない。
土偶と共に人間の内なる情念がみえる。

実際にみると土偶はイメージしていたよりも小さい。
最大級で全高40cmというからウチにあるクマのぬいぐるみほどでしかない。
ここが後年の埴輪と違うところである。ようするにハンディであるということだ。

国宝土偶の3つをみる。
まず、「中空土偶」、これは頭身といいパーツのデフォルメ度合いといい人間の形を残す。
函館で発見された。日本の仲間としては歴史の浅い北海道初の国宝である。

次に「合掌土偶」、俗にいう体育座りをした上で手を合わせる。八戸で出た。
最も人間っぽい。
中空土偶と共に縄文後期の作らしい。後期になると人間らしくなるということか。

そして「縄文のヴィーナス」、長野県茅野市にあった。
目に特徴があり目尻を上げた直線で表現する。
臀部が著しく大きくこれは解説によると「出っ尻」というらしい。
もう少しネーミングの妙があってもよさそうかと思うが尻を盛大にデフォルメする。
尻と共に乳房、妊娠した腹部が土偶の特徴である。
土偶とはすべて女なのだ。
土偶全て地母神であるから「縄文のイシス」の方がふさわしいかもしれない。

土偶を四方からながめてみる。どこか違和感があって自分の中に入ってこない。
仏教美術に毒されたのか私につながるなにものかがみえてこない。
しかし、これら縄文の巧が情念を絞り出して造形したであろう人形は美術品として耐えうることはわかる。
身体のバランスにせよ、目鼻口の切り方にせよ破綻寸前の絶妙といえるだろう。

顔がハート型のもの、ガンダムシリーズのモビルスーツ意匠に影響を与えたといわれてもそのまま信じてしまいそうな「仮面土偶」、エジプトやメソポタミア文明の遺跡と並べても違和感はなさそうだ。

青森県の亀ヶ岡遺跡で発見されたおそらく日本で最も有名であろう「遮光器土偶」も置いてある。
日本人なら子供でも知っているだろう。
薄目をあけたゴーグル状の巨大な目玉はイヌイットが雪原で目を守るために使う遮光器との関連があると思っていたが、最近学界では関連なしということになっているらしい。
この遮光器土偶、よくよくみると鼻も口も乳房もある。
明らかにこれも人間ではあるが後の日本文化のどこにも結びつきにくい。

縄文文化の遺跡は東北で多く見つかる。
これを縄文文化の粋が東日本にありと考えてよいのか。
西日本は文化の上書きが早かった。
九州や瀬戸内の都市の下に西の縄文文化が埋もれているのかもしれない。
土偶にせよ三内丸山遺跡にせよ今日まだ残る東北=辺境という歴史観に対するアンチテーゼであることは否めまい。

東北に旅した折のおどろおどろした形而上の気分が呼び覚まされる。
この高まりは大事にしたい。


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