日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

ビルボード・ライブの戦略を分析する

2007-09-11 | マーケティング
ブログの初回にも少し触れましたが、六本木の東京ミッドタウンのエンターテイメント施設として8月に「BILLBOARD LIVE TOKYO」がオープンしました。

先週の金曜日にTBSのNEWS23「金曜夜間便」とかいうコーナーで、“新しいライブハウスの形”みたいな取り上げ方をしておりましたが、ピーター・バラカン氏がレポーターを務めていた割には、「鮪のステーキ」を嬉しそうにほお張っていたのが印象に残ったぐらいで、突込みがかなり弱かったのが残念でした。そこで、私なりに思うところを・・・。

「BILLBOARD LIVE TOKYO」の新しさは、何といっても全米ヒットチャート誌「BILLBOARD」全盛時代のチャートアクションアーティストを中心とした生演奏を、お酒を飲みながら見せようというところにあります。

これまでの国内のライブハウスはといえば、若手バンドの登竜門的存在として客層も若者中心といった感じが多かったと思います。お酒を飲みながらとか食事をしながらというよりは、ギュウギュウ&ムンムンのオールスタンディング状態で、タテノリの一体感を楽しむみたいな感じじゃないでしょうか(オジサン大関は、最近の若者向けライブハウスを知らないので、ほとんど想像の世界ですが)?

ポピュラーやロックミュージックの歴史も40年を越え、その創生期である60~70年代に若者として音楽を楽しんだ世代は、生活は安定しつつも、「マンネリ化する家庭生活」や「先が見えて自身保守的になり、つまらなくなりつつある仕事の世界」にどっぷりと漬かっています。「BBL」はそんな彼らを、マーケティング的に言えば自身の輝かしく若かりし日々との連動感のもと「非日常性=“ハレ”」の戦略で引き込もうというものだと思います。

そもそも音楽の生体験(ライブ)は、レコードやCDとは違う「ハレの演出」であり、若者がそこに集まるのも日常と隔離された世界での一種のエネルギー発散を目的としているケースが多いように思います。
「中高年にも、同じニーズはあるんじゃねぇ?ストレスは確実に若者より多いんだし。適度に金もあるからハコさえあればきっと来るって」。運営会社の阪神コンテンツリンクと企画の代理店スタッフたちはそう考えたに違いないですね。

でも、そんなハコを作ってもどうやって“オジ&オバ向け”を彼らに認知させるか、どうやってそのコンセプトを伝えるか、が最大の難問だったと思います。
若者と違って、文化的なアンテナは低い、情報網も限られてる、となればハコのコンセプトを表現できるネーミングに勝負をかけるのが、一番のポイントだったわけです。

そこで出てくるのが、60~70年代のポピュラー&ロックファンにとっては特別な存在である「ビルボード」というキーワード!なぜって、ラジオ関東湯川れい子女史の「全米トップ40」は、米国ビルボード誌の最新チャート(実は1週遅れだったのですが)を毎週紹介する人気番組で、とにかく洋楽情報が少ない当時は、音楽フリークたちのバイブル的存在でしたから。ちなみに80年代の洋楽フリークのバイブルは、「ビルボード」&「全米TOP40」ではなくて、「ベスト・ヒットUSA」&「小林克也」に移っていくわけです。ライブからMTV時代への移行でもありますね。これはこれで30代後半から40代前半を捕まえるマーケティング戦略材料としては、今後十分使えるネタだと思います。

話を戻して、
阪神さんいいところに目をつけましたね。
そう、検討段階では英米のライブハウスと提携してその名前を冠につける方法も候補になったはずですが(JAZZ系の「ブルーノート」はまさにそのやり方)、仮に「マーキー東京」「ボトムライン東京」「トゥルバドゥール東京」等のネーミングだったら、私のようなコアなファンはゾクゾクさせられるものがありますが、一般的なオジ&オバにはピンと来なかったんじゃないでしょうか?それと特定の色が付きすぎて、かえってマニアックなイメージになるリスクもあったと思います。

そんな訳で、60~70年代を洋楽とともに過ごしたオジ&オバは、「BBLオープン!」のニュースを聞き、何よりもまず「ビルボード」の響きに思わず「何?何?」と身を乗り出したと思います。かく言う私もそのひとり。その意味では、米ビルボード誌との提携って発想は、とりあえずここまでは大正解であったのではないでしょうか。
しかもオープニングが、70年代アメリカポピュラー音楽の“ある特徴的な部分”を象徴するスティーリー・ダンですから、私などはもうブッ飛びでしたね。「信じられない!あのアーティストのライブがキャパ300のハコで見れる!」。当時買えなかったギブソン印やフェンダー印の楽器に大枚をはたく“大人”たちにとっては、あの頃につながれる“ハレ体験のドリーム・チケット”を手に入れるのに金額はたいした問題ではないハズ。なぜなら、それは一般のコンサートチケットとは完全に別の商品との認識ができる訳ですから。

今後の課題は、狙い通りのオープニングを飾れた今「ビルボード・ライブ」のコンセプトをさらに後付けでどう強くイメージさせていけるか、でしょう。それは新たな「ビルボード・ライブ」ブランドの確立につながる大切なことです。これはもう、単純にどれだけ60~70年代洋楽フリークをうならせるアーティストを呼べるかにかかっていると言っていいと思います。

3万円でも5万円でも、“目玉”を呼べれば定員300のハコなら数回は確実に埋まるでしょう。今の東京の大人たちの懐は意外に深いです。大人たちが価値を認めえるものは、高くとも必ず売れていく時代です。
ポール・サイモン、ニール・ヤング、ジェームス・テイラー、フリートウッド・マック、サンタナ・・・、エアロスミスのアンプラなんかも見てみたいですね。ストーンズのクラブライブなんてのは、さすがに1席=50万円でも無理ですかね。まぁ、でもこれくらいの大物を3か月~半年に1回の目玉で呼べるようなら、かなり先行きは明るいですが・・・。

“こけら落とし”の大物スティーリー・ダンの後は、アール・クルーやらラリー・カールトンなど、「青山ブルーノート東京」との棲み分けが明確じゃないプログラムが続いていて、好き嫌いはともかく個人的には早くも少々不安な感じですが・・・。こちらは「ビルボード」ブランドらしく、頼みますよ。

阪神コンテンツリンクさん、よろしく。応援してます。

BILLBOARD LIVE TOKYO ホームページ
http://www.billboard-live.com/#/1/1/


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