日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

首相のイメージ戦略「光と影」

2007-09-12 | ニュース雑感
安倍晋三首相が突然辞任しました。小泉政権を受けて政権発足から1年を直前に控えての辞任は、意外な短命政権であったと言わざるを得ないでしょう。

今回の辞任の要因については、相次ぐ大臣の不祥事など諸々のトラブルが重なってのものとの見方が一般的な理解ですが、マーケティング的に見た場合、安倍首相にはイメージ戦略上の致命的な失敗があったように思えます。

そもそも、小泉政権は一見無骨そうに見えて、実は周到に計算されたイメージ戦略に支えられ、長期間にわたる高支持率を維持してきたと見ています。
政界のイメージ戦略に関しては、選挙戦に向けた各政党のイメージ戦略策定をはじめ、政党および政治家がマーケティングのプロたちから調査に基づいた戦略的指南を受けるのは、近年では当たり前のこととなっています。
参考までに、政治における新時代のイメージ戦略のはじまりは、55年体制の崩壊と共に生まれた「細川内閣」での、首相の定例会見における新スタイル導入(今では懐かしいプロンプター活用)や閣議前マスコミ写真撮影時の“ガーデン・ティータイム”の導入などであったように思います。

さて小泉政権は、「自民党をぶっ壊す」「反対勢力」「刺客」等の言葉も巧みに操りながら、国民が潜在的に待ち望んでいた「牽引力・改革力のある首相」のイメージを作り上げ、実際の功績以上にことを成し遂げていたかのような印象を国民に植え付け、長期にわたる高い内閣支持率を確保してきました。

田中真紀子の「登用→更迭」に代表される「決断と対応の早さ」や、靖国参拝や郵政民営化に代表されるある種の「頑固さ」も、そのイメージづくりにはいい方向に貢献をしていたと考えられます。その意味では、計算以上の結果をもたらした典型的な「好循環」の事例でもありました。

そんな小泉政権にあって安倍晋三氏は、ややもすると“過激な”イメージになりがちな政権の緩和材的役割として官房長官に任命され、そのソフトな風貌や語り口から、女性有権者の支持を集め次期首相候補に一気に浮上した形でありました。

すなわち、「鋭角的」「直線的」な小泉政権のなかにあってこそ、その「温厚」で「ソフト」なイメージが最大限に発揮されていたのだと、就任前の段階で気がつくべきであったのかもしれません。

安倍首相とそのブレーンたちは、就任直後から「小泉政権と同じやり方や同じイメージでいけば、必ずや比較劣後に陥り支持率の低下は免れ得ない」と考え、全く別の「小泉にないもの」を意識したイメージづくりに専念しました。

ひとつの実例としては、「小泉にないもの」の代表として意識したのが「妻」「夫婦愛」であり、それを必要以上に強調する施策として、外遊時の飛行場タラップにおける“立ち位置”まで固定した「手つなぎパフフォーマンス」を展開したのでした。
また、首相の著書である「美しい国へ」は、中身はともかく、そのタイトル自体が「温厚」で「ソフト」な首相のイメージを定着させるための有力な戦略のひとつでもありました。

安倍首相にとって、誤算だったのは確かに相次ぐ不祥事だったでしょう。
不祥事が出ても「毅然とした態度をとった」と印象付けられる小泉首相に対して、不祥事が出るたびに必要以上に「優柔普段」「決断力欠如」との印象を与え(確かにかなりな優柔不断ではありましたが・・・)悪循環にはまった安倍首相。その都度、必要以上に支持率を押し下げていったのは、良かれと思った“脱小泉”イメージ戦略が裏目に出たことも大きかったのではないか、と思います。

小泉政権の「鋭角的」「直線的」なイメージ戦略は、裏目に出た場合「独善的」「暴走」との印象に転化されやすくなります。その緩和剤が当時の安倍晋三官房長官であったのです。
安倍政権の「温厚」「ソフト」なイメージ戦略は、裏目に出れば先に言ったように「優柔不断」「決断力欠如」であり、やはり早い時期に小泉政権とは逆の緩和剤的人物の重要ポスト起用が必要であったではないでしょうか。
政権末期に、歯に衣着せぬ論客の桝添要一参議院議員を厚生労働大臣に起用し、国民注目の社保庁問題に対処させたことで、久々に若干なりとも内閣支持率が回復したことからも、緩和剤的人物の実効性は明らかであると言えるでしょう。
今となっては、遅きに失したとしか言いようのないことではありますが・・・。

さて、目下の世間の注目は次期首相のイスに誰が座るのかという問題。
誰が座るのかはともかくとして、安倍政権のイメージ戦略失敗により難しさを増す「ポスト小泉イメージ」づくりを、新首相となる人がマーケティング・ブレーンたちとともにどのように作り上げていくのか、私の関心はもっぱらそこにあります。


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2 コメント

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祝。 (わ。)
2007-09-13 00:36:32
やってきました。
おにさんが、とうとう"コンサルト兼実業家の社長"ですか。昔から、自営向きだ何だと言われていましたが、ついに。
自己紹介を読んで、その前の銀行支店長のイスにどんな顔で座っていたのか、一度見てみたかった気がしましたよ。
熊谷には行ったことはないけれど、"熱い"街はおにさんに合っているんでしょうね。
まずは、事業とプログの順調な出立に祝杯。
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また来てね (OZEKI)
2007-09-13 09:45:52
「わ。」さん、ご来訪ありがとうございます。

どうもマネジメントが好きみたいで、あれこれ口出ししても動かなかった会社を辞めて、自分の口出しを役立ててくれる会社にかかわったり、理論実践の場として事業をはじめてみたりしました。

やるだけでなく、いろいろ言いたくもある私にとって、「ブログ」はかっこうのメッセージスペースですね。言いたい事を書き溜めつつ、整理して次に活かしていければと思っています。

よかったら、時々のぞいてください。
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