日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

“進化”を続ける日本企業のマネジメント・スキル

2009-07-03 | ブックレビュー
昔懐かしい「マッキンゼー式世界最強の仕事術」が文庫で出ているのを見つけ(とは言っても文庫初版は06年刊のようです)、思わず衝動買いしてしまいました。

★「マッキンゼー式世界最強の仕事術(イーサンMラジエル著ソフトバンク文庫660円)」

この本はもともと01年にハードカバーで出版されたもので、今回は文庫化による廉価版出版です。01年当時はけっこう話題になった記憶はありますが、文庫化されるぐらいですから売れ行きもかなり良かったということなのでしょう。もうひとつ、私の記憶。01年当時は比較的マイナーな出版社(英治出版)から地味な装丁で出されていたと思います。それがまた米国大手コンサルティング・ファームの秘密のノウハウを、こっそり教える禁断の書のイメージでもあり何とはなくワクワクさせられたものです。

さて、中身は“世界のマッキンゼー”で勤務経験の著者が、マッキンゼーの思想、スタイル、教育等に関して、一般のビジネスマンにも役に立つような切り口で書き連ねたものです。MECEの考え方、問題解決アプローチ、インタビュー・ノウハウ、プレゼン手法、チャート作成、コミュニケーション戦略等について、具体例をひきながら説明しています。こう記すと、「な~んだ、今よくあるカリスマ・コンサルタント本じゃん」と思う方も多いかもしれません。ちょっと待ってくださいよ、忘れちゃいけないのはこの本が出たのは、今から8年も前のことであるということ。勝間和代も小宮一慶も細谷功も世に出るはるか前のお話です。でありながら、今彼らが執筆している売れ筋“コンルタント本”の大半が、この本がネタ本なのではと思うほど近しい内容なのです。

つまり流れを逆に見てみると、今「コンサルタント本」がバカ売れする時代になったことで、便乗商売的にこの本が文庫再発されたというのが正しい解釈であるようです。今回の出版元はと言えば、商魂たくましいソフトバンクですし、さもありなんですよね。10年近くも昔の本ですから、今読むとやや食い足りなさも感じさせますし(例えば「フレームワーク思考」などは、当時はまだ“門外不出”であったのか、ほとんど触れられていません)、今の「コンサルタント本」の方がはるかに実践的で中身も濃いのかもしれませんが、「原点」を知る意味ではなかなか興味深い書籍であります。余計な加工を施されていない“原石”であるという観点でみれば、至ってオリジナルな世界的コンサルティング・ファームの精神を学ぶことができる、なかなかの良書であると思います(マッキンゼー出身の“大前研一氏的”「問題解決法」の根っこが垣間見れたりもします)。

また、内容そのものをひとつひとつ見てみると、今の時代にはもはや“目から鱗”的お話はほとんどないに等しいのですが、その事実はむしろ、専門ノウハウの一般への伝播による“進化”の早さを感じさせたりもするのです。これは先の“カリスマ・コンサルタント”たちの、精力的な執筆活動の成果であると言ってもいいでしょう。8年前には経営者にとってもビジネスマンにとっても、目新しくある意味興味津々に受け止められたマッキンゼー・スタイルが、今や日本のビジネス・パーソンにとってはごく普通のマネジメント・スキルとして受け止められる時代になった訳ですから。大変な“進化”です。

01年と言えば日本が金融危機から這い上がる最中の、ある意味最も企業にマネジメント・スキルに対する吸収力のある時代でもありました。戦後の高度成長が敗戦からの再建パワーのなし得た産物であったように、日本企業は逆境を乗り越えるたびに必死に新しいノウハウを身につけスキル・アップしてきた訳です。翻って今は、昨年来の“100年に一度の大不況”からの回復局面にあり、ある意味01年当時以上に、日本企業のマネジメントには吸収力が期待できる時期でもあります。今後さらに8~10年の後には、「ブルーオーシャン戦略」など今はまだ目新しい外来の経営戦略が、ごくごく普通のマネジメント・スキルになっているのかもしれません。8年前に書かれたマッキンゼーのノウハウ本を、今改めて読んでみて、そんな事を感じた次第です。

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