日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

「もしも高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎夏海」

2010-05-17 | ブックレビュー
★「もしも高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら/岩崎夏海(ダイヤモンド社1600円)」

以前、少し触れましたが最近あちこちの本屋さんで平積みになっている話題本です。何より、表紙のイラストが少女漫画っぽくて、趣味の善し悪しは別としてビジネス書コーナーでは圧倒的に目を引くわけです。まぁでもこの本をカバーなしで電車で読むのは勇気がいると感じるサラリーマンのおじさん方も、けっこう多いかもしれません。私は全然気にならないですけどね…。

この本を一言で言い表すと、ビジネス小説です。高校野球の女子マネージャーが「マネージャー」→「マネジメント」という短絡的発想からドラッカーの『マネジメント』を購入して、その難しさに耐えつつ自分の野球チーム改革に役立て、やる気のないチームを甲子園出場にまで押し上げていくというある種のサクセス・ストーリーなのです。この手の手法はけっこう古くからあるのですが(「マンガで読む○○」とかもけっこうこの類です)、“経営の神様”ドラッカーを高校野球のチーム改革になぞられてその基本を伝えようというのは、かなりの冒険であると思います。マーケティング、イノベーション、人事等について、ドラッカーの理論をうまく野球チームの管理の中に落とし込んで、ストーリーを展開させていくわけですから。ドラッカーという硬いテーマと野球、やはりなかなかピタッと融合するまでには至っていませんが、よくできた部類ではないでしょうか。

私が感心させたれたのは、「マーケティング」の実践としての部員との個別面談によるコミュニケーションの円滑化と、ドラッカー理論のキーワードでもある「イノベーション=既存のモノはすべて陳腐化する」を、「ノーバント・ノーボール作戦」で実践に移させるくだりです。「コミュニケーション」は組織においては血液であるわけですが、その重要性を「マーケティング」の本質としてとらえることと並行して見せている点が秀逸でした。一方の「イノベーション」のくだりでは、具現化が難しいコンセプトを「送りバント」と「ボールを打たせる投球術」を陳腐化するモノと位置づけて、「送りバントをしない」「ボール球を打たせようとする無駄な投球をしない」という戦略で変革を起こさせるという流れになっており、このあたりは著者の苦労の跡がうがわれます。

著者は放送作家とはいえ職業作家ではないので、小説としての文章の運びの甘さやストーリー的に展開が読みやすくやや安っぽいのが物足りなくはありますが、ドラッカーのどの理論をいかに料理してみせるのかは予想を超えた展開がほとんどであり、それなりにおもしろく読まさせていただきました。ドラッカーの入門書には全くなり得ませんが、ドラッカーに関心を持つキッカケぐらいにはなるのではないでしょうか。あくまで息抜き本ですので、本当にドラッカーを学びたい人にはお勧めしません。悪くはありませんが、このコーナーではビジネス書の棚に並んでいる本という評価をせざるをえず、10点満点で6点が精一杯かなと思います。

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