日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

経営のトリセツ22  ~ 社長は直接語るべし

2008-03-14 | 経営
社長のコミュニケーションの続きです。前回、大切なことを言い忘れました。

本題の前に「権限委譲」関するおさらいです。
以前にもお話したように、企業が組織としてより一層の力を発揮するには、トップ(=社長)の「責任と権限の委譲」が不可欠です。トップがすべての決裁権を握り、新規事業の計画から身の回りの備品の購入まですべてをひとりで決裁していたのでは、組織の動きが悪くなるでしょうし、何よりも一番高コストなトップ自身の仕事が非効率になってしまいます。小さなこと、簡単な事から権限の委譲を始めることは、組織を大きくして企業を発展させていくためには不可欠なことであると言えるのです。

では、何でもかんでも「委譲」する事がいいのかと言うと、必ずしもそうではありません。金額である程度はかれるもの、例えば購買とか集会、交際関係とかは、「予算枠設定」と「実行報告」を義務付けながらの段階的決裁権委譲が可能です。他方、金額で目安がはかれないものは、注意が必要です。

そんな中でも一番権限委譲をしない方がいいのが、コミュニケーションの領域です。「コミュニケーションの権限委譲って何?」と思われるかもしれませんが、具体的に言うと、「彼に○○するように指示しておいて」「アイツによく注意しておけ!」とかの発言。トップと指示される人との間に別の人が入る、伝言の類の物言いです。もちろん、組織内ですべての部下に直接モノを言いなさいと言っているのではありません(組織が大きくなればそんなことは不可能ですから)。自分が、モノを直接伝えるべき幹部だけでなくより下の者に対しても、事が直接伝えるべき重要ミッションや大成果に対する賞賛などのケースでは、他人任せはいけません。

私はコミュニケーションこそ、組織運営において一番大切な経営ツールであると思っています。その一番大切な経営ツールを、自らが伝えるべきときに直接使わず他人任せにしてしまうのは、トップとして失格であるということです。

命令でも誉め言葉でも、トップが直接本人に伝えるのと、他人経由で伝わるのでは、随分受け手側の印象が違うと思います。例えば命令の場合、「伝えておけ!」と他人経由で伝えれば、トップの意思が正確に伝わらないばかりか、代理で伝えた人間がトップの代理をしたばかっかりに、やけに偉そうにしているように思われたり、トップの信頼を得ているように思われたりして、あらぬ誤解や不協和音を組織内もたらしたりするものです。逆に褒め言葉の場合でも、他人を介して伝えられたら、いまひとつ喜びも薄いものになってしまいますよね。特によくあるダメなケースは、言いにくいこと(特に重要な指導や叱責)を自分で伝えずに、他人経由にしてしまうことです。これではいろいろな弊害が組織内に生まれてしまいます。

このように、トップの何気ない発言の“人任せ”は、実は予期せぬ思惑や混乱を招いたりするのです。トップ(=社長)は、自分のコミュニケーションの重さや存在感を、何をもってもまず認識をしなくてはいけません。トップの言葉には言ってみれば、“トップ・オーラ”が出ているのです。トップの責任において言うべきことは、いい話であろうと悪い話であろうと、絶対に人任せにしてはいけないと思うのです。

特に悪い話は下から上にも上がりにくいのと同じで、誰もが口にしたくないものです。でも、悪い話は事が重大であればあるほど、トップ自身が他人経由にせず直接叱責し指導しないことには、「臭い物にはフタ」状態となって、改善や再発防止は徹底できないのです。この点はぜひとも肝に銘じて欲しいものです。