日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

携帯電話ビジネスに押し寄せる新たな荒波

2008-03-04 | 経営
三菱電機が携帯電話製造から撤退とのニュース。サンヨー電機に続く撤退報道に、携帯電話ビジネスも新局面に入ったとの感を強くしました。

そもそも携帯電話の一般普及は90年代後半から急速に伸び、わずか10年あまりの間に、我々日本人にとって必要不可欠な「生活必需家電」になってきました。よく言われることですが、初期はまずもって携帯をより多くの人に持ってもらうことを主眼に、役人系の“頭のイイ”人たちが知恵を絞った販売スキームで、「0円携帯」などを積極的に展開し、アッという間に子供から年寄りまでが普通に手にする「通信機」となったのです。

その“考えられた”スキームというのが、「機器の通信会社一括買い上げ」→「販売支援金による機種の値下げ」→「通信費での支援金部分の回収」、という異様なビジネスモデルです。しかも、機器にはSIMロックという日本独自のロックをかけて、海外製造の機器は国内では使えないという仕様を貫いて来たのです。いわば市場原理に沿わない寡占販売モデルと鎖国商売を続けてきた訳です。

幕府の利益のみを最大化する江戸時代の徳川家にも近いこのやり方は、時代を問わずおのずと限界があるはずです。市場原理に沿わないことは、特定の者の利益を不当に守る施策に他ならず、鎖国商売はいくら国内の電波が海外に届かないからと言って、今の世の中でそうそう長く続けられるものではないハズです。いずれにしても、グローバル・スタンダードに合わないこれらのやり方は、早晩終焉に向かう運命にある訳です。

そんな中まず崩れたのが、販売方法。携帯電話の将来を考える識者の諮問委員会(正式名称は忘れました)の進言により、支援金を前提とした販売方法が見直され、携帯価格は高くなるも、通信費は安くなるという方式をドコモが取り入れました。これは大成功で、割賦販売をセットすることで「0円携帯」と同じ効果を生み出し、一気にドコモ復活の狼煙をあげたのです。利用者も自分が何に金を払っているのか、不透明感が減って「見える化」がすすんだことを好感したのではないかと思います。

大問題なのは携帯メーカーです。割賦購入期間の基本は2年なので、今後皆購入機種を最低2年は使うようになり、私をはじめとした新らし物好きの「1年買換組」がグッと減ることが予想されます。そうなれば、全体の販売台数減少の傾向は免れ得ない状況で、「負け組メーカー」はドコモ等通信会社からオーダーされる高性能新機種の開発コストの回収もままならず、赤字事業化は必至の展開です。

さらに追い討ちをかけそうなのが、早晩解禁になるであろうSIMロック解除の問題。これが実施されれば、世界の大手メーカー、ノキア、モトローラ、サムソンのビッグ3をはじめ、世界の携帯メーカーが一斉に国内市場に攻め込んでくるでしょう。ノキアの販売台数は、国内トップのシャープの10倍以上ですから、「負け組メーカー」はひとたまりもない訳です。

今回のサンヨー、三菱電機の相次ぐ携帯分野撤退は、グローバル・スタンダード化の波に押された、至極当然の流れであった訳です。このように、携帯電話の新たな波の洗礼を受けたのは、まずメーカーでした。そして次なる波は、販売店に押し寄せると思われます。新たな販売形式が徐々に変化をもたらしつつ、「SIMロック解除」→「海外携帯の家電的販売による価格破壊」→「一括買上方式の終焉」→「販売店の再編」、といった流れが待ち受けているという想像は容易にできるからです。

そもそも、この市場原理無視の異様な販売スキームやルールを作ったのは、役人文化どっぷりの元“官系”企業のNTT、KDDとそのお友だち官僚たちの謀議です。旧国鉄、旧電電、旧専売のような“既得権ビジネス”大好きの彼らが、新たな既得権を作り出し展開した携帯電話ビジネス。“官系”の誘いに乗って結局最後にババを引かされるのは、いつも顔色うかがいの“下請け”民間企業たちなのです。