日本一“熱い街”熊谷の社長日記

組織論の立場から企業の“あるべき”と“やってはいけない”を考える企業アナリスト~大関暁夫の言いっぱなしダイアリー~

マーケットの信頼をも失墜させる、反社会的勢力への利益供与事件

2008-03-06 | ニュース雑感
東証2部上場不動産業スルガ・コーポレーションの暴力団関係企業への利益供与の一件は、「今時なぜ?」と思わざるを得ない、本当に情けない事件です。

概要はこうです。不動産物件の地上げ交渉を代理させていた企業が、実は暴力団系企業で、5物件で約数十億円が流れていたというのですから、一件あたり実に10億円前後の反社会的勢力への利益供与。これを犯罪と言わず何と言えるのでしょう。

97年第一勧業銀行(現みずほ銀行)の総会屋への資金与事件で大量の逮捕者とトップの自殺を招くなど社会問題化以降、“闇社会”にからむ世のコンプライアンス意識は急速に高まり、反社会的勢力との関係断絶は企業経営にとって一番犯してはいけない、細心の注意をはらって守るべき最重要課題となりました。

どんなに小さな「虚偽」、「隠蔽」、「改ざん」なども、コンプライアンスの観点から企業の経営姿勢を問われるという厳しいこの時代に、反社会的勢力への利益供与という子供でも分かる明確なコンプライアンス違反行為が、上場企業で未だに行われていたと言う事実は、あまりにショッキングなニュースであると言わざるを得ません。

その筋の方々は、「最初は優しく近づいて」→「力になりますの言葉に乗せられて」→「頼もうものならアリ地獄」→「相手の弱みにつけ込んで、徹底的にしゃぶりつくす」というのが常套手段です。そのあたりの暴力団のシノギ(カセギを生む仕事)の手口については、「ヤクザの実践心理術(ワニ文庫)」をはじめとしたいくつかの本に詳しく語られておりますが、まぁ見事と言うか、心理学を巧みに利用した交渉術で脅したりすかしたり、よく考えられたモノであることは事実です。

そうは言っても、企業側に「スキ」がなければ、奴らとて近づいては来ないわけです。すなわち、その筋の連中を引き寄せる社風や組織風土があって初めて「獲物」となる訳で、その意味では当然未然防止は可能な問題であるのです。

そして、ここまで事が大きくなる前に、必ず止める手立てもまたあったはずです。仮に一部の実権者が突っ走ったとしても、コンプラ違反はどんなことをしても止めるという企業の倫理観が幹部社員間に浸透していれば、暴走を止めることもできたのではないかと思えてなりません。

地方の中小企業では、未だに地元ヤクザへの「ミカジメ代」として、利益供与が堂々と行われている例もあるとは聞いてはいます。それでさえ、今の時代は問題視されはじめてます。今回の事件、世界の投資家が注目する東証上場企業が起こしたあってはならない不祥事であり、日本の証券市場の信頼さえも揺らがしかねない大きな事件であると、個人的には思っています。

企業のサイズを問わず、反社会的勢力への利益供与や付き合いに関しては、自社においてその存在を知ったらば、たとえその当事者がトップであろうとも、勇気を持って進言し「止める」、「やめさせる」、「思いとどまらせる」勇気をもって臨んで欲しいと思います。気がつきながら見過ごすことは、他のどんな問題にも増して確実に会社を腐らせ、最後には退場を命ぜられる運命に陥ってしまうのです。

スルガ・コーポレーションは、以前自分が在籍した銀行の地盤の地元企業であり、少なからず個人的には親しみを感じている企業でもあります。今回の事件の全容を早期に解明し、小手先の善後策ではなく“本当のコンプライアンス精神”を根付かせる組織風土改革を急ぎ、真に“再生”して欲しいと思います。