温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

ひとっ風呂浴びに3日登山 高天原温泉 その6(帰路・大東新道を経て薬師沢へ)

2013年11月23日 | 富山県
「ひとっ風呂浴びに3日登山 高天原温泉 その5(高天原温泉)」の続編です

冗長に書き綴ってしまったため、今回は7回に分けて記事をアップしております。




【5:30 高天原山荘・朝食】
夜間の寒さで何度か目を覚ましてしまったが、寝坊すること無く5時前に起床し、ひと通り準備を済ませてから5:30に朝食をいただく。夕食も朝食も5時半だから覚えやすい。温かいお茶とお味噌汁がありがたかった。



【6:02 高天原山荘・出発】
6時前後に宿泊していた登山者が次々に出発してゆくので、付和雷同というわけじゃないが、私も同じタイミングで山荘を経つことにした。


 
小屋の前に広がる高天原の湿原は、霜で真っ白になっていた。気象庁のデータによれば同日(9月中旬)同時刻の富山市街は19.5℃であったから、同じ県内でも市街と山奥では大違いだ。


 
【6:48 高天原峠・大東新道の始点】
坂道を登っていたら体が熱く、汗も噴き出し始めたので、峠で5分ほど休憩しながら上着を脱いだ。前日は雲ノ平から転がるように急坂を下ってこの峠に辿り着いたが、この日は雲ノ平ではなく、薬師沢方面へショートカットする大東新道へ進む。



峠の丁字路からしばらくは鬱蒼とした樹林の中を歩く。登山の素人である私にとって、今回の山行における最大の不安がこの大東新道であった。この道はとても険しいことで知られており、危険箇所もあって、特に黒部川の「上の廊下」を辿る区間では、川が増水すると通行できなくなってしまうらしい。実際にこの年は死亡事故が発生している。もしどうしても自分の技量に合わない困難箇所があれば、途中で引き返さなければならない。無事に道を踏破できるだろうか。


 
峠から10分ほど歩いたところで、本格的な下り勾配が始まる。途中には、下半分の踏み桟が欠けている中途半端なハシゴがあったり、大木が倒れて横たわっていたりと、結構ワイルドな箇所が連続するのだが、そんな中を滑らないように注意しながら、急勾配を転がるようにして一気に下る。


 
【7:21 道標通過】
これから下ってゆく黒部川の谷底が、木々の間からチラチラと見え隠れするのだが、そこまでは相当な標高差があり、まだまだその差を下らねばいけないかと思うと気が重くなる。登山というものは、登りは体力勝負であるが、下りは技術と精神力を要するわけで、そのいずれもが未熟な私は、こうした急な下りが不得手なのだ。


 
 
【7:34 E沢】
大東新道ではAからEまで5つの沢(谷)を越えてゆくのだが、まず眼前に現れたのは最も東を流れるE沢であった。沢の手前でハシゴやロープがあるが、沢の水量は少なく、特に危険箇所もないので、容易にクリアできた。ただ、進むべき方向を示す○印が、この付近では若干わかりにくいかもしれない。


 
沢を越えると登り返して尾根を越え、再び森林の中を下ってゆく。B沢を越えるまでは、この繰り返しである。


 
森の中を下っていたら、俄然視界がひらけて、峻厳な絶壁と谷が現れた。D沢であろう。足元に咲く「ウルトラ怪獣大百科」に登場しそうな形状をしている花は言わずもがなチョウジギク。


 
【7:50 D沢】
ハシゴを下りてD沢を下る。ハシゴ直下に沢が流れているんだから恐れ入る。沢を渡る前後箇所は、湿ったザレ場になっていて、とても滑りやすい。慎重に歩みを進める。


 
道沿いにはトリカブトなど小さいながらも鮮やかな植物たちが、景色に彩りを加えていた。
大東新道は昭和20年代まで操業していた高天原の鉱山で採掘されたモリブデンを運ぶ道だったそうだが、こんな険しい道を、鉱物を背負って歩荷さんが往来していたとはにわかに信じがたい。


 

【8:10 C沢】
C沢の前後も滑りやすい。この付近で薬師沢方向からやってきた登山者とすれ違う。この登山者曰く、B沢の渡渉では、石がとても滑りやすくて靴を濡らしてしまったが、この道の危険箇所とされる岩をへつって歩く箇所はむしろ面白かった、とのことだった。危険箇所が面白い。その一言を聞いて、抱いていた心配が少し軽くなった。


 
8:30頃に無名の沢を渡渉。谷と尾根が連続する入り組んだ地形に合わせ、地図上では鋸刃状にジグザグに描かれるような道を歩きながら斜面を下ってゆくうちに、徐々に視界がひらけて深い谷が見えてきた。おそらくB沢の谷なのだが、そこまではかなりの距離があり、しかも高低差もある。あそこまで急降下するのかと考えたら憂鬱になってしまったのだが、道は尾根に沿う形で遠回りしながらも勾配を緩和させながら降下していってくれたので、下りが下手な私でも問題なく歩くことができた。


 
【8:45 B沢】
とはいえ、沢に近づくに連れてハシゴやロープが連続するようになり、勾配も急になって滑りやすい坂が断続した。特に沢直前の急坂がとてもスリッピーで気を使った。いや、ここで滑っても大した怪我は負わないだろうけれども、私のハートはガラス細工のように情けないほど脆いので、精神的なダメージが大きいから滑りたくないのだ。
B沢ではいきなり渡渉せず、まずは沢にそって下へ下る。


 
B沢の右岸を赤ペンキのマークに従って下りてゆき、矢印のところで渡渉する。意外と水量が多く、先ほどすれ違った登山者が教えてくれたように、私もちょっと靴を濡らしてしまった。渡渉したら、今度は沢の左岸に沿って下り、そのまま沢と黒部川の合流地点を目指す。


 
【9:00 B沢出合】
高天原峠から2時間10分で黒部渓谷の谷底まで下りきった。ここでB沢は黒部川と合流する。ここから薬師沢までは黒部川の「上の廊下」を上流に向かって遡る川原歩きの区間となる。「上の廊下」は沢登りをする人にとっては有名だが、B沢出合から薬師沢までの区間は、増水していなければ一般登山者でも歩くことができる。まずは赤ペンキで丸いマークが書かれている三角岩の左の隙間を通り抜ける。ひたすらゴロゴロとした岩の川原を歩くので、普通の登山道とは勝手が違って、岩の上を飛んだり、よじ登ったりと、まるでアスレチックのようだ。


 
続いて、割れ目に赤い丸がマークされている岩が現れた。この隙間に体を入れ、両腕の腕力でグイっと体を押し上げて岩を乗り越える。



川原には線路か鉄骨か、はたまた登山道のハシゴの残骸か、赤く錆びた鉄が岩の間に埋もれていた。


 
足元に川水が流れる石の上を歩いて、ハシゴで岩の上を乗り越える。確かにこの区間は水際ギリギリを歩くので、増水時は川に入らないと前へ進めないだろう。この日は天気が良かったから問題なしだ。このようにB沢からA沢の間にはハシゴや鎖が連続しており、それらによって眼前に立ちはだかる渓谷の岩や崖をひとつずつ越えてゆくのだ。


 
大東新道で最大のハイライトへとやって来た。ここでは渓谷の崖が川に迫っており、岩に括りつけられた鎖につかまりながら岩をへつって行くのだ。


 
鎖をしっかり握って、足元に踏場となる切れ込みを見つけながら、慎重に崖を横へ這ってゆく。なるほど、雨が降ったら確かに怖いかもしれないが、この日は川の水量が低く、しかも岩も乾燥していたので、恰もアスレチックのアトラクションのような感覚で、当初抱いていた恐怖心はどこへやら、滑ることなく難なく通過できた。先ほどすれ違った登山者はこの区間を「面白かった」と語っていたが、私もその感想に同感だ。


 

【9:20 A沢出合】
A沢は黒部川と合流する箇所には明るくて開放的な河原が広がっていた。このA沢を越えたら、もう危険箇所は無く、後はこの川原を遡るだけである。清々しい空気と清冽な黒部川の水にうっとりし、危険箇所をクリアできた喜びも相俟り、気分がこの上なく爽快だったので、ここで陽の光を浴びながら10分ほど岩の上に寝転がった。


 
引き続き岩を乗り越えて川原を遡る。


 
A沢から薬師沢までの間では、所々で川から離れてちょっと高巻く区間がある。たとえば上画像の箇所がその好例であり、川沿いに進もうとするとその方向には×が記されているので、山の中へ迂回してゆくのである。昨日、薬師沢小屋のおじさんに大東新道について注意点を伺ったところ、「×に気づかずそのまま川原を進んじゃうと、川にドボンだよ」と教えてくれたのだが、おそらくこの箇所を示していたものと思われる。


 
茂みの中へ迂回したり、また川原に戻ったり・・・


 
ハシゴで高巻いたり、またまた川原に戻ったり・・・を繰り返しながら、無心になって前進していたら、やがて(10:20頃)に赤い吊り橋が見え、そして対岸の前方に小屋の姿も目に入ってきた。


 
昨日早朝に通った雲ノ平への分岐に辿り着き、そして吊り橋を渡って…



【10:35 薬師沢小屋】
今回の行程で最大の難所と思われた大東新道を踏破して、無事「薬師沢小屋」まで戻ってこられた。
ここまで来たならば、あとは前々日来た道を辿って戻れば良いだけだ。


その7へ続く
コメント (4)
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