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森羅万象 ~ 歩く印象派

大雪山系遭難 「出発、無謀だった」…生存者証言

2009年07月18日 06時42分46秒 | 山関係のニュース(報道されたもの)
登山者が遭難したトムラウシ山(手前)と美瑛岳(後方ほぼ真後ろ。雲で覆われている)=北海道で2009年7月17日午後1時42分、本社(毎日新聞)機から三村政司撮影

7月17日21時55分配信 毎日新聞より

北海道大雪山系トムラウシ山と美瑛岳の遭難は2パーティー、1個人の計10人の死亡が確認され夏山としては過去に例がない大規模遭難となった。夏でも水が凍るといわれる大雪山系で、助かった男性は「寒くて死にそうだった」と振り返る。悪天候の中で予定を強行した判断に疑問を呈する声も上がる中、大雪山をよく知る地元の山岳関係者ですら「これほどの事故は記憶にない」とうめいた。

◇下山中ちりぢりに

 「午前4時36分、道警ヘリが男女2人を発見」「ヘリに収容、女性は心肺停止、男性は意識不明」--。

 遭難の一報から12時間余りが経過した17日午前4時40分。前日の暴風雨が静まったトムラウシ山登山口(新得町)の現地対策本部では、無線から切迫した声が次々と流れた。「これはダメかもしれない」。救助隊を指揮する西十勝消防組合の幹部がつぶやいた。

 約10分後、無線で伝えられた男女2人のうち、女性を収容したヘリが登山口の空き地に着陸。ヤッケを着て、フードを頭からスッポリとかぶった女性が道警の機動隊員に抱きかかえられて降ろされ、待機していた救急車へ。両足はダラリと垂れ下がり、目は閉じたまま。顔は血の気がなく、真っ白だった。

 続いて別のヘリが、登山道で救助した女性を乗せて着陸。女性は報道陣のカメラの放列を避けるように小走りで道警が用意したワゴン車に乗り込んだ。

 大雪山系は標高2000メートル級が続く。1500メートルを超えると大きな木は生えないため、強風が吹くと遮るものがない。今回のツアー客も強い風雨にさらされ、体感温度が一気に低下したとみられる。救助に出動した新得山岳会の小西則幸事務局長は「大雪山系では夏でも水が凍るほど気温が下がり、しっかりとした装備が必要。テントを持たず、山小屋を利用する縦走では小屋の設置場所が限られているため、どうしても行程に無理が生じる。こうしたことに悪天候が重なり、事故を招いてしまったのではないか」と推測する。

 悪天候の中で登山に踏み切ったガイドの判断ミスを指摘する声も上がった。午前4時半ごろに下山したツアー客の戸田新介さん(65)=愛知県清須市=はヒサゴ沼避難小屋を出発する時、風が強いと感じたといい、「ガイドは出発すると判断したが、無謀だと思った」と話す。遭難時の様子については、「ガイド1人が付き添って下山を始めたが、ペースが速すぎてちりぢりになってしまった」という。

 一方、美瑛岳では午前6時半、1人の遺体がヘリで収容された。その後、下山した女性は「とにかく寒かった」とぽつり。「後はガイドに聞いてください」と言うと無言だった。

 ◇遺体安置所で悲しみの対面

 トムラウシ山で死亡した9人の遺体が安置された北海道新得町の町民体育館では17日、遺族が続々と訪れ、変わり果てた身内の姿に対面した。

 午後7時過ぎには、死亡した3人の遺族7人を乗せたバスが到着。登山ツアーを企画したアミューズトラベルの松下政市社長が「かかる事態を引き起こし誠に申し訳ありません」と陳謝したが、遺族はみんな無言のまま、悲しみをこらえていた様子だったという。【金子淳】

 ◇亡くなった方々

 《トムラウシ山》川角夏江さん(68)=名古屋市▽味田久子さん(62)=同▽木村隆さん(66)=同▽竹内多美子さん(69)=愛知県弥富市▽岡恵子さん(64)=岡山県倉敷市▽市川ひさ子さん(59)=浜松市▽植原鈴子さん(62)=広島市(以上ツアー客)▽吉川寛さん(61)=広島県廿日市市(ガイド)

 《美瑛岳》尾上あつ子さん(64)=兵庫県姫路市(ツアー客)

 ◇下山した方々

 《トムラウシ山》長田良子(おさだりょうこ)さん(68)=仙台市▽真鍋記余子(まなべきよこ)さん(55)=浜松市▽戸田新介さん(65)=愛知県清須市▽野首(のくび)功さん(69)=岐阜市▽亀田通行さん(64)=広島市▽前田和子さん(64)=同▽石原大子(もとこ)さん(61)=同▽斐品(ひしな)真次さん(61)=山口県岩国市(以上ツアー客)▽多田学央(たかお)さん(32)=札幌市北区▽松本仁さん(38)=愛知県一宮市(以上ガイド)

 《美瑛岳》浦野ひろ子さん(62)=埼玉県草加市▽大西倫子(のりこ)さん(55)=兵庫県姫路市(以上ツアー客)▽小市匠さん(34)=茨城県つくば市▽小坂吏(こさかし)亮さん(32)=北海道▽白石淳也さん(27)=札幌市(以上ガイド)


7月17日15時55分配信 産経新聞
山“牙”中高年が次々 大雪山系遭難 救助女性「仲間冷たくなった」

 「駄目だった。(一緒に下山した仲間は)冷たくなった」。北海道・大雪山系で相次いだ遭難事故。17日朝、下山した女性はうつむき加減で語った。中高年の登山ブームが広がるなか、人気スポットの北の夏山で起きた惨事。引き返すことはできなかったのか。ガイドの判断は適切だったか。専門家からは「夏山でも低体温症になることがある。きちんとした備えがあったのか」といった声もあがっている。

 トムラウシ山のツアーの19人は、東京都千代田区の旅行会社「アミューズトラベル」が企画し8道県の登山客15人と旅行会社関係者4人が参加しており、大半が50~60代だった。このうち、トムラウシ山中を歩いているところを救助された女性が早朝、ふもとの山荘で取材に応じた。

 女性は悪天候を物語るように、泥だらけのズボン姿。「歩ける人だけ歩いて下山してきた。もう1人(行動を共にしていた人が)いたが、歩けなくなったのでビバークした」と終始うつむきながら、落ち込んだ様子で話した。

 16日朝、山頂の手前で休憩を取っていた遭難パーティーを目撃した別のパーティーの男性会社員(66)=静岡県=は「体調の悪そうな人はいなかった。装備もしっかりしていて初心者には見えなかった」と驚きを隠さない。当時の天候については「風は稜線(りようせん)に出るとひどくなった。構えないと歩けないほどだった」。

 一方、無事が確認された愛知県清須市の戸田新介さん(65)の姉(75)=岐阜県瑞穂市=は「無事でよかった」と安堵(あんど)する一方「たくさんの犠牲者にはお気の毒で胸が痛む」と話した。

 また、美瑛岳のツアーを主催した茨城県つくば市の「オフィスコンパス」によると、ツアーの6人は埼玉県や兵庫県から来た50~60代の女性客3人と男性ガイド3人で、16日から3泊4日で十勝岳など大雪山系を縦走する予定だった。死亡した女性以外の5人は17日未明までに救助された。

 美瑛岳から無事下山した兵庫県姫路市の大西倫子さん(55)は「とにかく寒かった」とひと言。ポーター役だった白石淳也さんは「十勝岳を過ぎると、風が強くなり、みんなひどく寒がった。徐々に動きが鈍くなり、動けなくなった」と話していた。



大雪山系遭難 無理な行程が引き金…中高年ら寒さ感知遅れ

7月18日0時52分配信 毎日新聞

一度に10人が命を落とした大雪山系の遭難事故。夏山でなぜこれだけの死者が出たのか。登山や救助関係者からは、ガイドの判断ミスとともに、装備の不十分さや、中高年にとっては無理な日程が犠牲を拡大させたとの指摘が出ている。遭難した16日に何が起きていたのか--。

 トムラウシ山で遭難した18人が避難小屋を出発したのは、16日午前5時半ごろ。当時、避難小屋にいた静岡県の男性(66)は「雨と風で体感気温は相当低く、リュックカバーが風で吹き飛ばされ、岩にしがみついて四つんばいで歩くような状態だった」と過酷な気象状況を振り返る。

 18人の中には出発を不安視する人もおり、午前11時ごろ、その不安が現実となる。山頂付近で女性客が動けなくなった。女性客はガイドとともに現場に残り、16人は下山を続けたが、約1時間後、別の女性客も意識不明に。その後も、ガイドのペースについていけず、脱落する人が相次いだという。

 10人の死因は、強風や雨で急速に体温が低下する低体温症による凍死とみられる。帯広測候所によると、トムラウシ山頂では当時、雲がかかり、雨が降っていたとみられる。日中の気温は8~10度とされ、風速は20~25メートルと台風並みだったとみられる。札幌医科大の山蔭道明医師は「真冬日の雨風の中を歩くようなものだったろう」と指摘する。

 高齢者にとって低体温症は危険だ。若い人よりも寒さや暑さへの感度が鈍いため、今回のように「寒い」と気づいた時には手遅れで、動けない状態に陥ってしまうことがある。

 体温が35度以下になると、低体温症となり、震えが始まる。33~32度になると動けなくなり、30度以下で意識がなくなるとされる。山蔭医師は「雨風のなかを強行せず、体温・体力を回復させてから先へ進む必要があったのではないか」と指摘する。

 一方、ヘリで遭難者の救助にあたった陸上自衛隊の2等陸尉(32)によると、死亡した人の中には、薄い雨ガッパに長袖シャツ、スラックス姿や、持ってきた予備の服を体に巻き付けたまま倒れている人もいたという。

 救助活動にも参加した地元の「新得山岳会」の小西則幸事務局長は「軽装のほか、無理な行程が事故を招いたのではないか」と疑問を投げかける。パーティーは4泊5日の日程。小西事務局長は「事故のあったコースはベテランでも体力的にきつく、できればもう1泊追加することが望ましい」と指摘する。

 アミューズトラベルの松下政市社長によると、各ツアーには内容ごとに体力度・技術度での参加基準を設置。今回の体力度は、6段階で上から2番目の「四つ星(やや健脚)」、技術度5段階中は3番目の「二つ星(やや難しい)」だった。防寒具や登山靴、レインウエアなどのリストを手渡し、各自でそろえてもらうのが登山ツアーの参加条件という。

 だが、軽装の参加者がいたことについて、松下社長は「ガイドが装備品のチェックをしたかどうか今はわからない」と言葉を濁した。【吉井理記、和田浩幸、山田泰雄】



配信元:産経新聞
2009/07/17 13:05
「気温低く、残雪多い傾向」 北海道勤労者山岳連盟の安田治会長

 北海道勤労者山岳連盟の安田治会長の話 今年の北海道の山は7月にしては気温が低く、残雪も多い傾向にある。特にトムラウシ山は平らな場所が多く、強風をしのぎにくい。風雨の中で行動し、低体温症になったのではないか。誰かが動けなくなった場合、そこで一晩明かすだけの装備があるかどうかが、生死を分ける。替えの下着やセーター、飲み物を温める固形燃料などを持っていたのかどうか。ツアーの場合も、ガイドが登山客一人一人の登山経験や装備をきちんとチェックすることが重要だ。


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4 コメント

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記事 (さいのめ)
2009-07-18 13:17:58
記事を読みながら、日本のいまの経済を重ね合わせてしまいました。ガイドがしっかりしていたら、パーティーが結束してバラバラになっていなかったら、備えや装備をきちんとしていたら・・・経済ばかりか政治も混迷するニッポンの象徴的な事故のような気がしました。
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なぜ、ガイドは強行したのか? (>さいのめ様        ZERO)
2009-07-20 09:12:47
  こういう旅行企画の際、(宿泊や便の手配は)事前の団体予約がほとんど。つまり往復の航空便の変更が不可能ということ。とどのつまりは「予備日」を設けることも困難です。

山の天候や登山者の健康状態に合わせて日程を変更する余裕はないと見たほうがよいでしょう。

一方、ガイドの多くは契約とか請負という形で、悪天候を理由に登山を中止すると、次から仕事が入らなくなるという事情がからんでいて、かなり無理を強いられ、警察や会社への連絡もぎりぎりまで行いません。

10年ほど前、私が冬の天城山山行に誘われたときがそうでした。40名ほどのツアー客にガイドは一人(女性)。

  登りはじめから急激な寒波が来襲、激しい降雪に見舞われ、列はちりじりとなり、客のうち6名ほどが、バス出発の16時になっても戻って来ず、2時間を経過の後、天城トンネル付近で、全員見つかり事なきを得ましたが、その際もガイドは右往左往するばかりで、会社に電話しては指示を仰ぐだけで、警察へ連絡しようとはしませんでした。私を含め何人かが警察への連絡をするよう話しましたが聞き入れません。
彼女はかなり悩んだと思いますが、自分と会社の関係を優先し、戻ってこないツアー客の安全確保を二の次においてしまったように私には思えました。

業を煮やした私を含め何人かで、「捜索隊」を結成し、トンネル付近で件の6人を「発見」した次第です。(これとて二次遭難の恐れがありましたが)






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同感 (マサルチャン)
2009-07-23 10:19:15
18~20の予定で 飯豊 を計画。 天気予測で1日ずらして

川入から 入山。 1日中 風雨のなか 切合小屋に 着きま

した。 まるで  トムラウシ  かとも。  風が温かいため

若松あたりで  晴天でも 山につき上がって雨がどんどん

生まれるんだ、と実感しました。  んで、  有名ツアー・

会社主催の 30人ほどの団体さんと一緒の小屋でのはなし。

花をじっくり  観る余裕なんてないです。  列からはなれられないんですから、。   

と口々に。  こっちは  花の写真家  とじっくりの  山

行きで  判らないと  その場で  話を聞けるし、、、。

お手軽、  から  組織作り  に  すこしは  重きを

置くことと思える。
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飯豊ですか (>マサルチャン     ZERO)
2009-07-26 02:26:01
映像期待しています!
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